有識者に聞く自治体最前線の現状と課題:
システム標準化とその先にあるDXの姿②

前回の和歌山市様のインタビューに続き、システム標準化とその先の未来像について、標準化を始め地方自治体に対し幅広くアドバイザー業務を展開されている有限責任監査法人トーマツ、里村様にお話を伺いました。

さまざまな自治体様を支援される中で、自治体における行政運営、デジタル化についてどのような現状認識と課題感をお持ちでしょうか。
Interview

 現状、自治体に対しては特別区などを中心に標準化関係の支援や、標準化・DXなども含めた情報システム全般のアドバイザー業務を実施している。所管課への伴走型支援以外にも、所管課を含めた全庁PMOとして入ることもあれば、情報システム課に対するアドバイザーで入る立ち位置のこともある。
 課題としては大きく3点を認識している。ひとつめは情報システム部門のナレッジの問題。ローテーション・人事異動により、ナレッジが承継されず、スキルも蓄積されない。具体的には、全体調整・ベンダーとのコミュニケーションといったソフトスキルや、自治体にとって最適なシステムを実装していくための業務理解が必要だと思っており、ITベンダーやコンサルティングファームへの委託範囲にかかわらず、この部分は自治体職員にとって必須になると考える。
 2点目としては、デジタル化が進んでいる中で必要とされる知識・スキルが高度化、複雑化、専門化している点。自治体としては内製化を進めたいという意向が強い場合もある中で、1点目の課題と関連して、なかなか実行することが難しいという実態がある。
 3点目はコストコントロールの問題。2点目と関連して、自分たちで(事業者から提示される)見積の精査が難しくなっている。情報システムの形態がクラウド中心になってくると、「内容がよくわからない」、「なんでこんなにかかるの」、といったコストに関する不安感・課題感が多く聞かれる。

特に、標準化・ガバメントクラウドに関する課題感については如何でしょうか。
※画像をクリックすると、大きく表示されます

 ガバメントクラウドに移行する中で運用管理者が乱立し、これをどうまとめていくかという課題を感じている。
 それぞれのシステムに紐づく運用管理者は、当然それぞれのシステムしか管理しない。システムにはオンプレ形態もあれば、クラウド形態もあり、さらにクラウド内もマルチクラウドになっており、これを統合的に俯瞰するような運用機能、全体調整・全体最適を進める機能が必要となる。現状ではガバメントクラウドへのリフト&シフトに手一杯な状況なので、ここまで踏み込んで考えられている自治体は少ないが、実際にシステムが稼働しはじめると、例えば障害対応やログの一元的な管理などの複数の局面でこうした課題がより顕在化してくるのではないかと思う。先行している自治体はこの機能・体制についての検討に着手しており、当法人のような外部に委託する部分や、内製化する部分の切り分け、タスク精査を進めている。
 そのほか、全システムがガバメントクラウドに移行するまでの過渡期の対応や、標準化対象外システムについて標準化システム含めた共通基盤を介してどうデータ連携していくかといった点や、システム全体としての品質面に課題を感じている。標準化対象全システム=自治体の主要システム全入れ替えというのは、大規模民営化や企業合併に匹敵するなかなか前例のない大プロジェクトだと考えており、ベンダー間の連携、総合テストなどが上手くいくのか、無事切り替えができるのか大きな不安がある。


標準化・ガバメントクラウドの先にある、行政運営の姿・デジタル化の展望についてお考えをお聞かせください。
Interview

 まず自治体職員側の展望として、SaaS形態の進展やそれによるベンダーロックインからの解放、そして標準化による データ活用、データ連携、EBPM(データに基づく政策立案)が進むのではないかという点。次にセキュリティ。通常、セキュリティと利便性は相反する(セキュリティを高めれば利便性は低下する)ものだが、ガバメントクラウドの 仕組みは両者のいいとこどりを目指しているものだと思う。最後にAI活用。いま多くの自治体もAIに取り組み始めているが、 正確性の問題などで苦労している実態がある。ガバメントクラウドにデータが集まってくれば、AIの活用余地が広がると 思うし、先ほどのEBPMにもつながってくると思う。特に審査業務や異常検知の分野でAIは効果を発揮するのではないか。

 住民側のメリットで言うと、マイナンバーの活用がもっと広がってくると思う。子育て、お悔やみなどのワンストップサービスが あるが、こういったものが更に広がっていく素地ができていく。
 こうしたものを実現するために当法人としては、マイナンバー利活用の企画構想以外にも職員の皆様に対する教育・ 研修、意識改革や、定量的効果・投資対効果に関する情報整理などの支援を行っているところである。

上記展望の中で弊社(クラウドベンダー)は(他のCSPと比較して)どのように見えていらっしゃいますでしょうか。
また弊社に対して期待することはどのようなことでしょうか。

 OCIのコスト、セキュリティついて知れば知るほど、その強みに対して認知と活用が進んでいないと思う。その原因のひとつとして 情報提供・発信があると思っていて、他のCSPと比較してインターネット上にOCIに関する情報が非常に少ない点や書籍が 少ない点、資格取得の際のUI/UXがわかりにくい点の改善を期待したい。
 昨今データ主権やソブリンクラウドなどの議論が注目される中で、機密情報を扱うクラウド基盤の実現可能性が一番高いのが オラクルだと考えている。 私共のクライアントでも機密性の高い情報やそもそも日本国としての非常に重要な情報を取り扱う ところがあり、そういったクライアントに対してオラクルの専用リージョン*などの仕組みは柔軟に取り入れたら良いのではないか と思っている。データの置き場所について選択肢が広がることにより、クライアントの業務やビジネスにおける最適化がより一層 促進されるのではないかと思う。

 *OCIパブリック・クラウドのアジリティ、スケーラビリティ、および経済性をお客様のデータセンター内で実装・提供するもの

里村 亮(さとむら りょう)氏
有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 マネジャー
これまでの長年のコンサルティング経験から、現在はデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進によるクライアントの変革を支援する。特に、中央省庁や地方自治体、独立行政法人などのパブリックセクターにおいて、業務改革(BPR)の支援、システム化基本構想の策定、情報システムの調達支援、システム開発工程の管理、PMO業務など、幅広いシステム開発・導入に関するアドバイザリー業務を得意としている。近年は、クラウドテクノロジーを活用したシステムのクラウドリフト・シフトにも注力。クラウドの側面からもクライアントの変革をサポートし、デジタル時代に適応した組織づくりに貢献している。

有限責任監査法人トーマツ
デロイトネットワークのメンバーであり、デロイト トーマツ グループの中核を担う監査法人である。全国約30都市に拠点を構え、約3,100名の公認会計士を含む7,800名以上の専門家を擁している。「経済社会の公正を守り、率先してその発展に貢献する」という経営理念を第一に掲げ、監査・保証業務およびリスクアドバイザリーを提供するプロフェッショナルファームとして知られている。

インタビュアー:

高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター
新海 高士/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部