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ITの活用は元来、企業や自治体、そして個人における課題の克服や理想の実現のために役立てられてきた。それは、データが巨大化し、発生の頻度が上がり、データが多様化した現在においても変わらない。ビッグデータの活用にあたり、データを加工・見える化・解析するだけでなく、視点を変えて「データを集める仕組み」を工夫し、「データを使ってアクションを仕組み化」した事例を紹介する。San Francisco Municipal Transportation Agency(サンフランシスコ市営交通局。以下SFMTA)は、ビッグデータ分析の前後にあるデータ収集とアクションの仕組み化のイノベーションに挑戦した。
SFMTAでは、2010年に「SFpark」というパイロット・プロジェクトを開始した。これは、サンフランシスコの路上にある全28,800のメーター式駐車スペースのうちの7,000箇所や、20の市営駐車場のうち15の駐車場(12,250台収容)から、市民が簡単に駐車スペースを探せるようになることを目指したプロジェクトである。
この取り組みの背景には、以下の課題があった。
・渋滞
路肩の駐車スペースが満車の場合、既に駐車されている車の横に駐車(二重駐車)されることもある。その結果渋滞が起こり、時に救急車や消防車、パトカーなどの緊急車両の走行が阻害されていた。さらに、駐車スペースを探す車両と、通行人や自転車との接触事故も起きていた。
・温室効果ガス排出
渋滞に巻き込まれた車両だけでなく、駐車スペースを探すために徘徊する車両からの排気ガスは「余計な」ものと捉えられていた。
・車やバイクの代替移動手段
Muni(San Francisco Municipal Railway: サンフランシスコ市営鉄道の通称)が運営するバス、メトロ、ケーブルカーなどの効果的な運営が必要とされていた。特に、バスなど道路を走行する車両の平均速度は時速20キロメートルを下回るほどであった。渋滞を解消するためには、自家用車ユーザーを公共交通機関に誘導することも必要であると考えられていた。
SFparkプロジェクトでは、データ収集のために革新的な技術を取り入れたことが重要なポイントである。データの取得だけでなく、施策の立案・評価にも活かすことができた。運輸に関する研究・調査の参考になるだけでなく、転じて製造業での生産現場や、流通業での店舗内動線分析にも転用できるものと考えられる。
以下は、SFparkプロジェクトで取得したデータである。
これらのデータは、そのデータ発生場所が分かる形で取得された。そのため、場所を軸にそれぞれのデータの相関を探ることでより洗練された分析が可能となり、地図上に表現して可視化することができた。
さらに、場所と時間それぞれについて様々な粒度(細かさ)で集計するために、以下のような階層を定義した。
〈場所〉
駐車スペース < ブロックの一面 < ブロック < エリア < 地区 < 市
〈時間〉
秒 < 分 < 時 < 日 < 週 < 月 < 四半期 < 年
SFparkプロジェクトにおけるデータ収集面でのイノベーションのひとつが、駐車スペースに設置されたセンサーである。データはその後の分析や活用にとって重要であるため、3つの機能について基準を規定し、基準通りに動作しているかの検証に労力を割いた。
ビッグデータ分析については、その分析手法や可視化の表現手法に関心が寄せられているが、実際にデータを活用する際には、こうした地道な作業によって「データが信頼に足るものである」という確証が重要であると思い知らされる。
収集したデータの分析、そしてモバイルやWebによる情報発信を通じて、SFparkプロジェクトでは課題の解決に取り組んだ。
・駐車料金の「Demand-Response(需要応答)化」
従来、駐車料金は「1時間○○ドル」という設定を地域ごとに設定されていた。ダウンタウンでは1時間3.5ドル、郊外は1時間2ドルといったこの設定は、単にSFMTAの予算計画に沿って定義されていた。
SFparkプロジェクトでは、地区をより細かいブロックに区切り、前月の曜日別時間帯別の利用度をもとに、一日の中でも幾つかの時間帯に分けて一時間当たりの料金を設定した。さらに、ブロック内でイベントが催される日は混雑が容易に予想できるため、料金を上げて混雑を回避することも可能とした。
この料金設定においては、「ブロックごとに最低1台の空き駐車スペースがある」ように過去の実績データを分析した。こうして、以下の基準を設定した。
・利用率が80-100%の場合、1時間あたり25セント値上げする。
・利用率が60-80%の場合、変更しない。
・利用率が30-60%の場合、1時間あたり25セント値下げする。
・利用率が0-30%の場合、1時間あたり50セント値下げする。
この取り組みにより、32%の駐車場で25セント値上げし、31%の駐車場で25セントまたは50セント値下げし、37%の駐車場は値段を変更しなかった。
・モバイルやWebによる情報発信
駐車料金の情報は、SFparkサイト(文末にリンクあり)やモバイルで照合できる。
これはドライバーが駐車場を探すのに役立つだけではなく、自家用車以外の公共交通手段の利用を促すことも意図している。さらに、サイトでは駐車料金の履歴データのダウンロードが可能である。
SFparkプロジェクトでは、パイロット対象エリアにおいて、冒頭に述べた課題(渋滞緩和、温室効果ガス排出削減、車やバイクの代替移動手段への誘導)の解決を実現した。さらに、評価を通して、当初の目的に加え副次的な効果が認められた。
・駐車違反が減少した
・混雑解消の結果アクセスが容易になり、商業施設に活気がもたらされた
・公的機関であるため当初目標にしてはいなかったが、SFMTAの財政が改善した
本稿では、「データの収集に新たなテクノロジーを導入すること」、「データの品質に確証を得るために足を使うこと」、そして「課題を定義して解決する手段を実行すること」に重きを置いた事例を紹介した。
また、結びとして、当初定義した課題の他に副次的な効果が発見できたことを紹介した。重要な点は、取り組みに際し綿密な企画をすべきということではなく、PDCAを回して評価をすることであると考える。