日本オラクル特集記事

情報活用の高度化が雌雄を決する

 

 

オラクル・チームUSAが手繰り寄せた「アメリカズカップ」の勝利

1851年から続く国際ヨットレース「第34回アメリカズカップ」が2013年9月にサンフランシスコ湾にて開催された。「アメリカズカップ」は優勝杯をめぐり、参加国の威信をかけて1対1で競われる。「第34回アメリカズカップ」は挑戦艇決定シリーズを勝ち抜いたエミレーツ・チーム・ニュージーランドとオラクル・チームUSAによる対戦となり、オラクル・チームUSAが1勝8敗という不利な状況から大逆転で栄冠を手にした。勝負が時の運に左右されることは否めないが、この大逆転劇の裏に周到な準備と、確かな戦略・戦術があったことも事実だ。この準備と戦略・戦術を支えたものが多種多様な情報、つまりビッグデータであった。

20~30%向上した艇のパフォーマンス

艇のデザインは、艇のパフォーマンスに大きく影響する。オラクル・チームUSA艇のデザインには、練習走行中に艇から収集されたありとあらゆる情報が活かされた。

艇の各所には300個以上のセンサーが取り付けられている。このセンサーからマスト(帆柱)、ハル(艇体)、セイル(帆)にかかる圧力、さまざまなパースで生じる荷重、乗組員が加えた調整効果など、艇全体で3,000を超える情報を毎秒取得し、艇のパフォーマンスを把握した。また艇に搭載されたカメラから、動画、毎秒取得する静止画も情報として取得し利用された。

 練習走行一回で取得される情報量は、センサーから生成されるデータが1~2ギガバイト、イメージデータ(動画、静止画)が150~200ギガバイトに上る。練習走行は一日に60~70回実施されるため、艇から収集される一日分の情報は相当量に上った。こうした情報は「Oracle Exadata」上で分析、加工されて設計チームにフィードバックされ、艇の設計に活かされた。


また、戦略・戦術立案に利用された情報は艇からの情報に限らない。過去のレース情報、80ギガバイト分の気象情報など様々な情報を組み合わせ、艇のコース取り戦術などにも役立てられた。こうした取り組みの結果、この艇の速度は20~30%向上した。データをさほど活用していなかった以前の大会での速度向上は、これよりもはるかに小さなものだった。

戦略と現場力の相乗効果が勝利の鍵

艇の操作は乗組員に委ねられる。どんなに小さなミスであっても、競争相手の艇に数百メートルの先行を許す結果を招くことになる。極限の環境におかれた乗組員の安全を確保しつつ、艇上のオペレーションを継続的に最適化することが重要だ。

チーム・オラクルUSAでは、乗組員が身に着けるウェアにもセンサーを仕組み、乗組員の心拍数、呼吸数、体温などの情報を収集し乗組員の疲労度をリアルタイムに監視していた。

例えば艇上で長い距離を移動することを要する操作が求められた際に、各乗組員の疲労度をチェックし誰にその操作を担わせるのが最適かの意思決定をリアルタイムに実施していた。つまり、艇上の複数乗組員で構成されるチーム全体のパフォーマンスが常に最大化されるよう努められていたのだ。

乗組員への意思疎通、情報提供はスキッパー(艇長)からの音声通信のみならず、伴走艇に乗船した4人のパフォーマンスチームから乗組員が手首に装着したPDA(携帯情報端末)を通して行われた。風速、帆にかかる圧力など、都度変化する状況をリアルタイムに捕捉し、直感的に理解できる形式で乗組員に提供された情報は、最も効率的な走行ルートの選択、艇の操縦の最適化などに活かされた。


重要な点は、いかに優れた戦略であっても、将来起こり得る全ての事象を加味することはできないことだ。

事前の想定と何が異なっているのか、何が機能して何が機能していないのか、こうした実態をつぶさに把握できるのは艇の間近にいる伴走艇に陣取ったパフォーマンスチームに他ならない。乗組員の視点で風や海面の状況を把握し、気象分析の面では次の数秒、数分、数時間に何が起こるかを予測した上で、彼らに情報を直接提供した。つまり優れたアイデア、戦術が艇の間近で創出されていたわけだ。

一方、乗組員の主観的な印象を実際のデータと照らし合わせることで、実際に何が起きているのかを乗組員が理解しやすくなるという利点もある。今までの経験、肌感覚に捕らわれることなく、効率的に限られた時間のなかで走行に磨きをかけることを可能としたのだ。

かくしてオラクル・チームUSAはアメリカズカップを防衛することに成功した。

アメリカズカップにみる情報活用のポイント

第34回アメリカズカップにおいてオラクル・チームUSAが取り入れた情報(ビッグデータ)活用は大きく4つのポイントにまとめられる。

(1)情報と情報を紐付けて、新たな知見を得る。
艇から得られた情報と気象情報を組み合わせ、効率的なコースを導き出した。
(2)誰もが直感的に理解できる形式で情報を提供する。
乗組員が瞬時に状況を判断できるよう、見やすい情報をPDA上に表示した。
(3)リアルタイムに情報を捕捉・分析し、打ち手が効く機会を逃さなかった。
艇上のセンサーからリアルタイムに得た情報を艇の操作に活かした。
(4)オペレーションを担当する前線からのフィードバックを活かした。
伴走艇上のメンバーが艇を取り巻く状況を把握し、戦術の微調整を行った。

今回はポイント(1)に絞り、企業経営におけるビッグデータ活用の勘所に触れて結びとしたい(他のポイントに関しては次回以降に譲る)。

グローバルを見渡すとビッグデータを活用して収益力、競争力の創出に成功している企業は数多く存在する。そうした企業の多くは、現状のビジネス課題を解決するための手段として地道に情報活用を高度化させ、その連続性の上に現在の姿を築きあげている。

ビッグデータを活用したところで、一足飛びに“ありたき姿”を実現したケースは多くない。何故ならビッグデータは単なる素材でしかなく、それを活用するに必要な人材、組織、社内プロセス、社内文化の整備が追い付かないからだ。ある一つの業務課題に絞って、情報活用の高度化に取り組むのも良い手段だと考える。

最後に、某海外大手食品メーカー(以後、A社)の取り組みを簡単にご紹介したい。このお客様には情報(定量的)と情報(定性的)とを繋ぎあわせ可視化、分析を可能にする製品「Oracle Endeca Information Discovery」をご利用頂いている。

A社では販売予測の正確性に問題を抱えていた。レポートで上がってくる好調な販売成績とは裏腹に、お客様との接点に近い営業から上がってくる声は芳しく無いこともしばしばあった。つまりレポート上の数字の裏に隠れている要因が把握できていなかったのだ。

そこでA社は取引先である複数の流通業各社からPOSデータ(B-to-C)を購入し、自社の売上情報(B-to-B)、商品情報、取引先情報などに加え、定性的な情報としてアンケート情報とつないで可視化、分析を試みた。すると、ある地域では、実施した値下げプロモーションがお客様からさしたる評価を得ておらず、売り上げの向上にも寄与していないことが判明したのだ。こうした情報を元にA社はプロモーション施策を地域ごとに修正、効果測定を繰り返すことで、販売予測と実績の誤差を2ポイント改善することに成功し、またプロモーションの投資対効果も向上した。

首藤 聡一郎(しゅとう そういちろう)
日本オラクル株式会社
戦略ビジネス推進部
ディレクター / エバンジェリスト

1999年日本オラクルに入社。セールス・エンジニア、ミドルウェア製品営業、ミドルウェア製品のビジネス推進を経て、 2013年6月よりテクノロジー製品を横断したビジネス開発/推進に従事。