日本オラクル特集記事

POCO

日本企業が
ITを「ビジネスモデル構築」に
活用する転換期

ジャーナリスト
大河原 克行



これまで、どちらかというと業務効率改善など内向きの効果に期待が集中していた日本企業のIT活用。今、クラウドの波によってそれが大きく変わろうとしている。コスト低減だけにとどまらない、ビジネスモデルの構築に貢献するIT活用とはどんなものなのだろうか。

2015年7月8日、東京・紀尾井町のホテルニューオータニで開催された「IT Japan 2015~デジタル経営革新の幕開け」(主催・日経BP社)は、カイゼンにとどまらない爆発的な競争力強化につながるIT活用がテーマにされた。それは、IoTを始めとする新しいデジタルテクノロジーで新たなニーズに応えるビジネスモデルを構築することにつながる。同イベントに多くの来場者が訪れたのは、おそらく、「ITによる攻め経営」の糸口をつかみたいという背景があるからではないだろうか。

会場で渡された分厚いパンフレットには、さまざまな企業の登壇者の講演概要が記されており、内容はほとんどビジネスイノベーションに関するものだ。それらを眺めていた時、筆者は、数年前のある調査を思い出した。2013年、一般社団法人 電子情報技術産業協会(以下、JEITA)による「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」という調査の内容である。

同調査によると、IT投資が極めて重要とする企業は、米国では75.3%に達したのに対し、日本では15.7%にとどまっていることが明らかになった。また、ITを活用した経営に対する期待としては、日本は「業務効率化、コスト削減」がトップであるのに対し、米国では「製品・サービス開発」や「ビジネスモデル変革」などとなっていたのである。

このほか、同調査では、今後のITに期待する効果について日本企業が「市場環境の変化に対する迅速な対応」や「意思決定の迅速化」「新規顧客の獲得」「顧客の嗜好やニーズの把握」などを挙げていることを紹介し、ITを活用して外部に働きかける傾向が見られていると指摘していた。

こうしたことを考えると、今回のイベントで紹介されたさまざまな取り組みは、日本企業が「ITと経営」「ビジネスとIT」という側面で大きな転換点を迎えていることを示すものだと感じた。

IT経営の舵取りに大きな影響を及ぼす「クラウド」

これからのIT経営に大きな影響を及ぼすのは、クラウドとモバイルである。内部の業務効率だけでなく外部に働きかけるIT活用を実現する上で、クラウド活用なしでは不可能だ。また、モバイルファーストの動きに対応できなければ、顧客の嗜好やニーズを把握し、市場環境の変化に対する迅速な対応をすることは難しい。さらに、これからIoTの技術を活用し、数千、数万のデバイスからの情報をリアルタイムで分析していくにもクラウドは不可欠なシステムインフラとなる。

昨今、グローバルでビジネスモデルの変更が取り組まれるようになった。それは、市場の大きな変化が影響している。製品やサービスの利用者、消費者がイニシアティブを握るようになった。製品やサービスの提供者は、彼らの嗜好、意見を無視できなくなっている。逆に、利用者、消費者のニーズを的確にくみ取ることで、大きな成長が期待できる。そうした時代だからこそ、あらゆるビジネスで顧客接点となるモバイルデバイスの活用が重視され、ソーシャルネットワークが注目されるわけである。そして、大量のデータの分析能力も問われるようになった。

問題は、さまざまなクラウドパワーを利用していかに素早くビジネスニーズに応えるシステムを構築するかだ。プライベート、パブリック双方のクラウドシステムを利用するハイブリッド環境が常識化しつつある今、クラウドをどう制御し、効率的に活用しながら新たなビジネスモデルを構築するかが喫緊の課題となっている。

調査会社IDCによれば、国内プライベートクラウド市場は、29.7%の年間成長率で推移し、2018年の市場規模は2013年比3.7倍の1兆6,026億円になると予測している。また、同パブリッククラウド市場では、2019年の市場規模が、2014年比3.0倍の5,337億円に達すると予測している。

このように高い成長率を示すクラウド市場だが、多くの企業ユーザーは、シンプルにクラウドを活用しビジネスニーズに素早く応える体制を構築したいと考えている。クラウドは、オンプレミスで構築されていた企業内のサーバ群を仮想化させ集約し、システム運用コスト低減させる取り組みから、注目され始めた。しかし、現在、ハイブリッドクラウド環境が多くの企業で導入され、逆に運用負荷が高まり、効率的な利用方法の模索が始まっている。

クラウドナンバーワンを目指すオラクルの動き

こうした企業ユーザーのニーズをITベンダー各社も敏感に感じ取り、さまざまな施策を提供している。冒頭に紹介したイベントで取締役代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏が講演した日本オラクルもそんな企業の1つだろう。

オラクルは、2014年9月に、米サンフランシスコで開催された同社最大のイベント「Oracle OpenWorld San Francisco 2014」の基調講演で、6万人の来場者を前に、創業者であるラリー・エリソンCTOと、マーク・ハードCEOの2人が、相次いでクラウドナンバーワンを目指すと宣言。クラウドサービスのラインアップを一気に拡大し、グローバル戦略として、クラウド事業の本格拡大に乗り出すことを示した。また、日本オラクルも2014年4月に社長に就任した杉原氏が、社長就任会見において、東京オリンピック/パラリンピックが開催される2020年までに、日本オラクルがクラウドナンバーワンになることを標榜している。

オラクルは、エンタープライズ向けのミドルウェアを含めたさまざまなソフトウェアを提供するとともに、システムとして事前に構築された製品として導入できるというメリットを追求した垂直統合型製品である「Engineered Systems」を提供し、SPARCプロセッサの開発やJavaの利用用途拡大のための施策などを次々と打ち出している。その上で、Oracle ERP Cloud、Oracle Service Cloud、といったクラウドサービスを稼働させている。

シンプルなIT活用のための見取り図とは

オラクルがクラウドに対する傾斜を一気に加速させたのは、2014年のことだ。その動きは、ユーザー企業がクラウド導入後、その活用方法に悩み始めたころと連動しているかのように見える。

杉原氏は講演の中で、「POCO」という言葉を繰り返し聴衆に訴えていた。これは、「The Power of Cloud By Oracle(クラウドのちから)」を意味する。そして「いまは、『データベースといえばオラクル』だが、2020年には、『クラウドといえばオラクル』と言われるようになりたい」と宣言した。

「あらゆる領域の製品や技術を自分たちですべてを持ち、しかも、それらの多くがナンバーワン製品となっている。しっかりとしたテクノロジーを持ち、それをクラウドサービスとして提供できるのはオラクルだけだ。ミッションクリティカルに対応したクラウドサービスを提供することができる」と杉原氏は語る。

「かつてのITシステムは、何千万円も投資して、1年以上をかけて構築していた。だが、いまでは10万円からスタートでき、しかも1日でシステム構築ができ、悪ければ、すぐにキャンセルできる。ITがビジネスに対して、より身近に使えるようになっている」という杉原氏のコメントからも分かる通り、シンプルなIT活用のためにはクラウドの“チカラ”は欠かせないのだ。

複雑な仕組みをシンプルに迅速にサービス化する

安い費用で、短時間でシステムを構築し、不要になれば利用を停止する、という利用方法は、以前から「ITのサービス化」という名前で語られてきた。しかし、数十万人のユーザーが利用するシステムを、セキュリティを確保した上でサービス化させることは、これまで難しい課題だった。

しかし、さまざまなITベンダーがクラウドを利用したソリューションを開発し、ユーザー企業が独自のサービスを短時間で低コストに提供する環境が整ってきている。冒頭に記した「カイゼンにとどまらない爆発的な競争力強化」は絵に描いた餅ではなくなりつつあるといえるだろう。

そこで試されるのは、各企業の果敢な挑戦だ。特に、企業のIT部門はビジネス部門からの要請に受け身的に対応するのではなく、独自のビジネスモデルの構築に貢献する施策を打ち出していくことがますます求められてくるだろう。

大河原克行
IT業界専門紙の編集長を務めた後、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、Web媒体などで活躍中。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(アスキー新書)などがある。