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企業の潜在的なニーズを広い目で察知し、自社が保有する多様な製品や技術を上手くマッチングさせられれば、新規商談に発展する可能性は大きく広がる。この狙いのもと、浜松ホトニクスが取り組んだのが、マーケティング・オートメーションだ。同社はなぜ、デジタルマーケティングを強化したのか。そこには多くの製造業が抱える課題と、その課題を突破しなければならない理由があった。
「ものづくりのまち」と知られる浜松市にあって、「光」にまつわる研究と製品で世界に誇る高い技術力を持つのが浜松ホトニクスだ。
素粒子「ニュートリノ」を観測するとともに、さらにそれに質量があることを証明し、東京大学特別栄誉教授の小柴昌俊氏と東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章氏の2人のノーベル賞につながる画期的な発見を支えた、素粒子観測装置「カミオカンデ」と「スーパーカミオカンデ」。そこで重要な役割を担ってきた「20インチ光電子増倍管」を開発したメーカーと言えば、お分かりの方も多いだろう。
また同社の製品はヒッグス粒子の発見や、つくば市の高エネルギー加速器研究機構(KEK)の実験にも関わっており、4つのノーベル賞受賞研究に寄与している。
そして現在、同社は「光電子増倍管、イメージ機器および光源」「光半導体素子」「画像処理装置・計測装置」の三つの分野を中心に事業を展開するほか、「光」そのものを解き明かしていく基礎研究・応用研究、将来のレーザー核融合発電の実現まで見据えた高出力半導体レーザーおよび関連技術開発にも注力している。
例えば医療分野であれば、全身用および歯科用CTスキャナー、PET診断装置、血液やDNAなどの検体検査装置向けのセンサー。意外なところでは、自動車の衝突を回避する衝突防止システム用レーザーや距離センサーなどでも同社の製品が使われているという。
これらの製品は突出した技術力が求められるのに加え、市場として見た場合は“ニッチ”な領域での勝負となる。 そこにビジネスの難しさがある。同社の営業本部 副本部長と国内統括部長を兼務する取締役の鳥山尚史氏は、「私たちが手がける光関連の事業は、“逆ピラミッド型”で産業が構成されているのです」と語る。
一般的に製造業は、完成品メーカーを頂点としたピラミッド構造で産業が構成されている。親会社が提示するデザインや機能に最適化された部品を、すそ野の広い系列メーカーが開発・製造するといったイメージだ。
これにして浜松ホトニクスのビジネスは、光の技術を生かしたセンサー、光源といった“モノ”がまずありきとなる。これらのモノを利用し、モジュールや機器、最終的なシステムを作るメーカーなどが上に積み重なっていく。ボトムからトップにいくにつれて、どんどん産業規模が広がっていくのである。
こうした光産業にあって、浜松ホトニクスが他社にない強みを発揮し続けている理由は、多様かつニッチなニーズに応えられるモノを手広く用意していることに他ならない。「技術シーズ(製品化の可能性のある技術)に基づいて開発したものの、実際にどんな機器やシステムで使われるのか、いつになったら日の目を見るのか、自分たちにも分からないような製品が社内にはゴロゴロ転がっています」と鳥山氏は言う。
そんな浜松ホトニクスの収益の90%以上を占めているのが、十数年から何十年といった長期にわたるB2Bのリピーターとの取引である。とはいえ、それだけに依存していたのでは、将来に向けた展望を描くことはできない。あらゆる企業と同様に新規顧客の獲得は、同社にとっても重要な経営課題となっている。
浜松ホトニクスの新規顧客獲得では、汎用品のような拡販戦略は成り立たない。
では、どうするか。「世の中には優れたアイデアを持ちながら、それを実現する技術のあてがなく、ブレークスルーを実現できずにいる企業がたくさんあります。そうした企業の潜在的なニーズを広い目で察知し、私たちが保有する多様な製品や技術を上手くマッチングできれば、商談に発展する可能性は大きく広がります」と鳥山氏は言う。
そこで浜松ホトニクスが踏み出したのが、マーケティング・オートメーションへのチャレンジである。同社の情報ネットワーク室 主任部員である河西良浩氏は、その狙いを次のように語る。
「特に重視したのは、検討に値するお客様のAttention(注意)やInterest(関心)を、どれだけ多く集められるかです。仮に10万件のお客様の行動履歴を収集し、そこから自動的なスクリーニングによって100件のリードジェネレーションを行えたならば、営業担当者は確度の高い効率的なアクションを起こせます。高度に磨かれた“センス”が要求されるとともに、人海戦術ではとても対応しきれないこうした前段階のマーケティングを、ITを活用することで前進させたいと考えました」
浜松ホトニクスでは、新規顧客との重要な接点として展示会を位置づけており、そこで収集した名刺情報を活用するイベント管理システムを導入していた。
このシステムは展示会での利用では問題なかったが、既存のSFA(営業支援システム)との連携が不完全だったことで、顧客情報を別々に管理せざるを得なかった。そのため、マーケティング・オートメーションに取り組むには、システムの入れ替えが必要だった。
この課題解決を模索する中で目にとまったのが、オラクルのマーケティング活動を支援するクラウド「Oracle Marketing Cloud」である。特別な開発や追加ソフトの導入を行うことなく既存のSFAとシームレスに連携できるメリットに加え、選定の決め手となったのはスコアリングやプロファイラーといった機能だ。同社の営業本部 主任部員である児玉裕信氏は次のように語る。
「お客様がどんなイベントに参加し、どのコンテンツに関心を示されたか、個々の行動に点数を付け、スクリーニングの判断基準としています。そうした場面でオラクルのOracle Marketing Cloudは、事業部ごと、製品カテゴリごとといった、視点の異なるマルチのスコアリングを行うことが可能です。また、プロファイラー機能を活用することで、あるお客様がどんなイベントやメール、Webページに大きく反応しているのかを一目で確認することができます。これなら狙いどおりのマーケティング・オートメーションを実践できると直感しました」
こうして2015年10月に稼働を開始したOracle Marketing Cloudは、最適なスコアリングを試行錯誤しながらトライアルを進めている段階にある。
「まずは日本のお客様のニーズに弊社の技術シーズをマッチングさせ、確かな実績を築いていくことが大切です」と鳥山氏。その成果をもって、次のステップとしては欧米版、中国版、アジア版など、システムのグローバル展開を図っていく計画だ。