日本オラクル特集記事

デジタル戦略を推進する「渋谷系」のノリとは?

-ITR 社長 内山氏に聞く

前回は、企業がデジタル・イノベーションを進めるためには小さくてもいいので専用の予算を確保し、短いサイクルでデジタル化のためのプロジェクトを回す必要があるとの話を企業のIT戦略アドバイザーであるITRの代表取締役社長 内山悟志氏から伺った。今回は、企業がデジタル・イノベーションを進めるためにはどのような人材が必要であり、また具体的にどのようなことに取り組めばいいのかについても話を聞いた。

“エンタープライズ渋谷系エンジニア”とは
――ところでこのデジタル・イノベーションには、誰が取り組むべきでしょう?

(内山氏)多くの場合、IT部門の人たちがデジタル・イノベーションに取り組みます。とはいえIT部門メンバーのマインドが、従来のままではなかなかうまくいきません。IT部門のすべての人が新しいマインドを持つ必要はありませんが、1割ほどは新しいマインドを持つ人材が必要になります。
従来通りバグを100%出さないというマインドのメンバーしかいなければ、デジタル・イノベーションのために新たなIT部門を作る必要もあるかもしれません。

私の感覚では既存メンバーの2割くらいがマインドを変えSoE(System of Engagement)領域にシフトできると、イノベーションが動き出します。つまり2割くらいの人に、SoEのための新たなミッションを与えるのです。この2割くらいの人たちを「エンタープライズ渋谷系エンジニア」と呼んでいます。新しいことに対し「これは難しそうだ」と否定的になるのではなく、「おっ、これは面白そうだと」と捉える人で、自社にその人材を確保できなければパートナーに頼ることになるでしょう。

こういった人たちは、しっかりドキュメントを作ってから開発するのではなく、まずはプロトタイプを作るところから始めます。とはいえ、プロトタイプの段階が終わりいざ本番となれば、システムはミッションクリティカルになり、信頼性が高くセキュアな仕組みが求められる。そういったことを、エンタープライズ渋谷系エンジニアは理解できなければなりません。

IT部門の既存メンバーの2割がマインドを変えデジタル領域にシフトできるとイノベーションが動き出すと語る内山氏

たとえば最初は簡易なクラウドサービスで、オープンソースを使いどんどん仕組みを作っていく。しばらくすると、サイロ化したシステムがクラウド上にたくさんできて収拾がつかなくなる。そこでIT部門に相談し、IT部門からはばりばりのアーキテクトがイノベーションチームに異動、IT運用のルールなどエンタープライズITで必要なものを何から何まで用意し交通整理するなんてことも。だったら最初から、エンタープライズITを意識しておくべきとも言えますが、最初からがちがちで自由度がないとイノベーションが起きません。

イノベーションを起こせる人材は、年齢や経験はあまり関係ありません。とはいえSoR(System of Record)を一通り経験した人が、SoEにシフトすべきです。SoRの経験があれば、どうなると収拾がつかなくなるかを想像できます。SoEのための人材を新たに採用する方法もありますが、SoRで経験した人をSoEに動かす動きを積極的に進めるほうがいいでしょう。

データ活用に苦慮する日本企業
――デジタル・イノベーションを起こすには、具体的には何をすることになるのでしょうか?

(内山氏)デジタル・イノベーションは、最終的にはデータ活用です。AIや機械学習も、データを付加価値にサービスとして売るための手段です。データを分析し他社に対する優位性を得るのも同様です。そもそも、IT課題として挙げられるものの多くは、データ活用に関連付けられます。

企業内にデータがばらばらに存在する度合いやデータ品質がどうなっているかで、データ活用の難易度は変わります。日本企業のITシステムの多くは、増築に増築を重ねて作られているものが多く、データを統合し品質を上げるところに大きな手間がかかります。これが新興国だと過去のしがらみがなく、一気にデータ活用が進むこともあります。日本では、データをとりあえずデータウェアハウスなりに入れておこうとなり、そこからなかなか活用の域に行けません。

データをオープン化する世界的な動きは待ったなし
――クラウドの価値はデータにあるとの話も耳にします。クラウドを使うことで、データ活用は進みますか?

(内山氏)クラウドに載せることで、データ利用の可能性が大きく広がるのは間違いありません。これがクラウドを利用する価値だとも言えます。さらにクラウドに載せると、いつでもどこからでも利用できる別の大きな価値も生み出します。さらにクラウドを活用することで、開発スピードも上がります。企業がデータの価値を提供するプラットフォーマーを目指すならば、当然ながらデータが鍵になります。ノウハウや知見がデータとしてクラウドに溜まる。それが企業の新たな武器になるのです。

たとえばクックパッドは、食に関する検索がもっとも行われるサービスを展開しています。クックパッドでは、ユーザーが検索した結果が価値あるデータとなり、それがビジネスで新たな価値となるのです。Uberも同様です。彼らはたとえばサンフランシスコのどこにどのような建物があり、誰がいつどこでピザを買ったかといったデータをすでに持っています。そういったデータを研究者にオープンにしましたが、やがては自分たちの新たなビジネスで直接活用するようになるはずです。

データは何段階かのステップを経て価値が上がります。価値を得るための最初のステップが、クラウドに載せることです。何年か後には、価値あるデータを交換する市場ができるでしょう。人々のバイタルデータを集めるなど、すでにそういった動きがあります。この市場においてデータを提供する立場にならなければ、その企業は市場からデータを買う立場に甘んじるかもしれません。日本政府の個人情報保護法の改正なども、ある意味こういった動きを予測した結果でしょう。データをオープン化する世界的な動きは待ったなしです。これからは価値あるデータをやり取りすることで、新しい経済圏を作っていくことになります。

企業はまずデータの価値を、自分たちの顧客に還元します。ユーザー動向のデータで平均値などを出すだけでも、付加価値になります。こういったことは、クラウド事業者などはすぐにでもできます。そして、他業界やこれまでとは異なる顧客に新たな価値を提供し、エコシステムを築いていくのです。社会インフラ系のビジネスを行っている企業は、こういったことをすでにシビアに捉えています。

これからは価値あるデータを持っている企業が、勝利するでしょう。オラクルでは、すでにマーケティング業務などで活用する「Data as a Service」を提供していますが、このようにIT企業もいずれはデータを提供する、社会インフラ企業になるのかもしれません。

最終的には本番運用を視野に入れた信頼性の高いITインフラが必要に
――データから価値を得るために、どのようなクラウドサービス、データベースを選べばいいのでしょうか?

(内山氏)デジタル・イノベーションに取り組む最初の段階では、クラウドもデータベースも何を選んでもかまいません。とはいえ本番ビジネスに入る際には、しっかりと見極める必要があります。最初はオープンソースを使い、素早くPoC(Proof Of Concept:概念実証)なりを回せることが重要です。そこから本番へと移行する際には信頼性、セキュリティ、パフォーマンスといったことが重要となります。それらすべてを揃えたサービスは、オラクルのようなエンタープライズITをよく知る企業が揃えてくれるでしょう。

そうであれば、最初からオラクルでと言うかもしれません。とはいえここは決めつけるのではなく、選択肢を多くしたほうがイノベーションは進みます。その時になし崩し的に進めるのではなく、本番を見据えたルール作りなどをあらかじめ考えておく必要があります。これを怠ると、情報漏洩などで一瞬にしてすべてが崩れ去ることもあり得ます。デジタル・イノベーションを進めるには最初は渋谷系のノリでOKですが、本番時にはエンタープライズ系の要素が必要になることを、忘れてはなりません。