日本オラクル特集記事

FinTechは日本において破壊的イノベーションではない

日本オラクルは、金融とデジタル技術が融合するFinTechに関するイベント「Oracle FinTech Innovation Forum」を開催した。オープニングセッションでは、SBI大学院大学 経営管理研究科 特任教授の沖田貴史氏が国内外のFinTech最新動向を解説したほか、日本オラクルによるFinTechサービスを実現するIT基盤についてのプレゼンテーションも行われた。これらのセッションの模様をレポートしたい。

FinTechの本質は“金融分野へのパワーシフトの波及”

FinTechの先駆けとも言えるCyberCashの日本法人立ち上げに参加し、2005年からベリトランス株式会社の代表取締役を務めるなど、黎明期からFinTechの最前線で活躍してきたのが沖田貴史氏である。現在はSBI大学院大学の特任教授や金融審議委員の専門委員等として活動する沖田氏は、FinTechの本質が「パワーシフトの波が金融分野にやってきたこと」にあると説明した。

「インターネットの普及で、情報の非対称性が格段に小さくなり、利用者主権が進む『パワーシフト』が起こりました。この波が金融分野へも波及したことがFinTechの本質にあると考えています。ただ金融業にはさまざまな規制があるため、これまでパワーシフトの波は決済や証券といったところで留まっていました。しかし現在は、その波が金融業界全体に及ぼうとしている。だからこそ、FinTechという言葉が非常に注目を集めているのではないでしょうか」

米国、中国におけるFinTechの現状

続けて沖田氏は、米国におけるFinTechの現状を解説する。まず「Silicon Valley is Coming」というJPモルガン・チェース会長のジェームズ・ダイモン氏の言葉を引用し、ネット企業が金融分野に進出している現状を指摘、その背景にはネットベンチャーのエコシステムがあると説明した。

「FinTechを象徴する企業として、ブームの火付け役であるSquareや、コリソン兄弟が2010年に立ち上げたstripeなどがあります。特にstripeはCEOであるパトリック・コリソン氏が21歳という若さで立ち上げた会社であるにもかかわらず、すごく早い段階でSequoiaやKPCBといったベンチャーキャピタルから多額の資金を調達しました。その背景にあるのは、イグジットへの期待です。AppleやFacebook、Googleといった企業が金融分野に参入している。すると、ベンチャーキャピタルの立場からは、金融期間だけでなく、彼らが大きなイグジットをしてくれるんじゃないかと考えているわけです」

中国もFinTech企業の台頭が目立つ国だろう。リーダー的存在として決済サービスを提供するAlipayがあるほか、TencentはチャットサービスであるWeChatに送金機能を付加して提供している。このような状況を踏まえ、沖田氏は「彼らはどんどんイノベーションを起こしています。中国の金融はようやく自由化されたばかりですが、その自由化を超えたところにFinTech企業があり、市場を牽引している面白い例です」と話した。

さらに沖田氏は、東南アジアやアフリカでの事例にも言及した。これらの地域では銀行口座を持たない割合が高く、特にサハラ以南のアフリカでは約80%の人が銀行口座を持たない「unbanked」であるとされている。ただ、このような人々にも携帯電話やスマートフォンは普及していることを利用し、展開されているサービスが「M-pesa」である。これは携帯電話のSMS(Short Message Service)を利用したモバイル送金サービスであり、銀行口座を持っていなくても使える特徴を持つ。沖田氏は「我々が目指そうとしているソリューションを、銀行口座という概念も知らない人たちが使っている」と説明し、注目すべき事例だと述べた。

遠くない将来に新しい金融ソリューションが生まれる

日本については「既存サービスを打ち破る破壊的イノベーションではなく、既存の金融機関が利便性向上や生産性向上のためにFinTechを利用する、斬新的イノベーションが多い」と話した上で、「世界がクラウド化している中で、グローバリゼーションは避けられない」と指摘、さらに「それほど遠くない未来に、新しい金融ソリューションが生まれてくるのではないかと信じています」と続けた。

最後に、沖田氏が紹介したのは「Agile」と「Serendipity」という2つの言葉である。前者はチャールズ・ダーウィンが発したという「もっとも強いものが生き残るのではなく、もっとも賢いものが生き延びるのでもない。唯一生き残るのは、変化できるものである」を表している。Serendipityは「何かを発見する能力/偶然やひらめき、幸運をつかみ取る」といった意味を持つ言葉である。「幸運を捕まえるには、つねにアンテナを立てておく、あるいは準備しておくことが大切ではないでしょうか」と話し、沖田氏は講演を締めくくった。

FinTechデータを活用した、機械学習による顧客分析の実現

その後、日本オラクルの担当者による「FinTechサービスを実現するIT基盤」と題したセッションが展開された。その模様をダイジェストで紹介したい。

ITを活用した新たな金融サービスを提供する上で、欠かせないのが既存の金融機関が持つシステムとの連携である。たとえば銀行口座やクレジットカードの利用状況などへFinTech企業のアプリケーション側からアクセスできれば、容易に複数の口座情報をひとつのアプリで一元的に閲覧することが可能となる。

この際に必要となるのがAPI(Application Programming Interface)で、その提供は金融機関にとっても顧客の新たなデータを取得できるチャンスになる。こうして得られたデータを機械学習によって分析することで、新規顧客の開拓やリスク管理の新たな手法の確立につながる可能性があるからだ。その具体例としては、金融機関が持つMCIF(Marketing Customer Information File)に、APIの提供によって得られたデータを結合し、データ分析に活用するという流れが考えられる。この分析によって特定のサービスに対する購入意欲が高い顧客を絞り込むといったことができれば、効率的なマーケティング活動を実現できるだろう。

API公開で必要になる管理基盤の姿

APIの提供については英国において金融機関が提供するAPIの標準化が進められるなど、グローバル全体で取り組みが進みつつある。このAPIを実際に公開することを考える際には、総合的に管理するための基盤が必要だ。API管理基盤に求められる要件としては、公開方法やアクセス管理、認証と認可、攻撃への対処、利用状況の監視、そして公開範囲の制限、可視性といったものが挙げられる。これらの仕組みを備えるAPI管理基盤があれば、API提供のハードルを下げられるのではないだろうか。

API公開は、セキュリティを十分に考慮する必要がある。ユーザーを特定し、どのようにアクセス権限を与えるかを適切に行わなければ、金融機関への信用低下につながる可能性がある。また、データを保護するためには、「多層防御」の考え方も重要だ。何か1つのセキュリティ製品でデータを守るのではなく、さまざまなソリューションを組み合わせてセキュリティを強化していく。その中で組み合わせておきたいのがデータベースセキュリティである。守るべき対象がデータであれば、それを格納しているデータベース側でセキュリティ対策を実施するのは自然な考え方だろう。

日本オラクルでは、FinTechで重要となる機械学習やデータ分析、セキュリティソリューションを提供しているほか、API管理基盤についても今後提供する予定である。FinTechへの対応を検討しているのであれば、ぜひ相談していただきたい。