日本オラクル特集記事

3年に1度、世界から100万人が集う「芸術の島」が育むIoTの成功モデル

瀬戸内海で創出される新たなモビリティ事業

ジャーナリスト
大河原 克行

「瀬戸内国際芸術祭 2016」の開催地のひとつである香川県小豆郡土庄町豊島(てしま)。人口約1,000名、周囲20kmの島で、電動二輪車を活用したパーソナルモビリティのレンタルサービス事業が、2016年3月26日からスタートした。ソフトバンクとPSソリューションズが開始した「瀬戸内カレン」がそれである。

ソフトバンクが取り組む「Internet of Things」(IoT:モノのインターネット)の一形態であり、移動体、モビリティに特化した「Internet of Moving Things」事業の第1弾。乗りものには本田技研工業の電動二輪車「Honda EV-neo(イーブイ・ネオ)」を使用する。豊島に来島した観光客が島をめぐる移動手段として利用できるほか、走行中の車両から位置情報やバッテリーの充電状況などを取得し、島内でのサービス向上などに活用する取り組みだ。

芸術の島を電動二輪車で周遊

豊島は、瀬戸内海の東部に位置し、小豆島の西側3.7㎞の海上にある。香川県高松港からフェリーを使えば、約35分で上陸できる。自然が豊かな「瀬戸内海国立公園」に含まれ、縄文時代の遺跡が点在し、棚田が広がる風景は、日本の原風景ともいえるものだ。

また、芸術にも力を注いでおり、豊島美術館には全世界から観光客が訪れるほか、2016年3月から開催されている現代芸術の祭典「瀬戸内国際芸術祭 2016」の会場のひとつにもなっている。

“3年に1度”のトリエンナーレ形式で開催されている同芸術祭は、今年も春(2016年3月20日~4月17日)に続いて、夏(2016年7月18日~9月4日)と秋(2016年10月8日~11月6日)に分けて、それぞれ開催される。これも国内外からの観光客の来島を後押ししている。

ソフトバンクは、3年前に開催された「瀬戸内国際芸術祭 2013」においても、土庄町、ベネッセホールディングスと共同で、2人乗り電気自動車を活用した実証実験を行った経緯がある。

今回の「瀬戸内カレン」はこうした実績を生かしながら、よりパーソナルな移動ができる電動二輪車を使用。さらに、日本オラクルが協力することにより、IoTを活用した取り組みへと進化させた。

レンタルサービスの事業運営は、ソフトバンクグループのPSソリューションズ(http://www.pssol.co.jp)が行い、13台の電動二輪車を使用。1日3,800円で利用でき、専用ホームページ(http://www.setouchi-karen.com)から、事前に予約および決済を行うことが可能。貸し出しは、フェリーが発着する豊島家浦港近くの貸出返却拠点で行う。

モビリティとエネルギーの融合サービス

瀬戸内カレンの仕組みは、次の通りだ。
13台の電動二輪車には、いくつかのセンサーと、ソフトバンクのLTE網につながる車載機を搭載。これにより、位置情報などを5秒ごとに送信し、その情報をもとに、動きを可視化することができる。

電動二輪車の運転状況は、中央管制センターで監視。仮に、急発進や急ブレーキ、コースアウトなどといった運転状況がわかると、運転が適正に行われていないことを自動で検知し、利用者に連絡するといったことが可能だ。

さらに、豊島と高松港を結ぶフェリーの出発時間が近づいていることを、利用者の位置情報をもとに事前に知らせたり、観光客の走行ルートのデータを蓄積することで、観光サービスに生かしたりといったといったことも想定している。将来的には、蓄積したデータをもとに、機械学習を用いて、観光客からの質問に適切な回答をするといったことも考えている。

電動二輪車の充電インフラには、ソフトバンクが開発した充電・認証システム「ユビ電」を活用。独自の個体認識技術を採用していることから、充電用のプラグを挿すだけで、電動二輪車の個体識別番号を読み取って利用者を認証し特定する。クラウドと連携することで、誰が、いつ、どこで、どれだけ充電したかを把握することができるという。

現在、充電が可能なのは豊島家浦港だけだが、今後は島内に充電場所を設置し、利用者が島内で自由に使える環境を提供する。「ユビ電」は使う電気の種類を選ぶことも可能だ。グリーン電力証書※を活用することで、香川県の太陽光発電による自然再生エネルギーで充電をまかなう事を可能にしている。
※グリーン電力証書とは、再生可能エネルギーによって発電された電力の環境付加価値を、取引可能な証書に(=証券化)したもの。

「島という区切られた環境のなかで、エネルギーを作り、それを利用するという完結型の仕組みを作ることができる。モビリティとエネルギーを組み合わせた新たな提案になる」(ソフトバンク IT統括 ITサービス本部 CPS事業推進室・山口典男室長)

全周20kmという豊島の大きさは、電動二輪車が一度の充電で走行可能な距離を想定すると、最適な規模だという。これも豊島で事業を行う理由のひとつとなっている。

わずか3日間でIoTサービス基盤を構築

瀬戸内カレンのIoTサービス提供基盤には、オラクルのクラウドサービスである「Oracle Cloud Platform」を採用している。

具体的には、「Oracle Internet of Things Cloud Service」のほか、「Oracle Database Cloud Service」、「Oracle Java Cloud Service」の各製品群を活用する。これにより、電動二輪車とリアルタイムに連携して、車両情報や位置情報などを収集し、分析する。

日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括の本多充執行役員は、「Oracle Internet of Things Cloud Serviceが提供する包括的な機能を活用することで、短期間にサービス基盤を構築できるのが特徴。今回の瀬戸内カレンでは、わずか3日間でサービス基盤を構築できた。これには社内でも驚きの声があった」と語る。

Oracle Internet of Things Cloud Serviceは、コネクテッド・デバイスからのデータを受信し、分析、連携するためのエンタープライズIoTプラットフォームであり、あらゆるデバイスとセキュアな接続および管理ができる。

これによって、瀬戸内カレンでは位置情報をもとにした利用者へのリアルタイムなサービス提案や、利用域外への走行に対する警告など、パーソナルモビリティの利便性向上と監視サービス環境を容易かつ柔軟に実現することが可能となった。今後はさらなるサービスの拡張や、データ収集領域の拡大、分析内容の高度化などにあわせて、サービス向上につなげていくことになる。

成功モデルを日本、そして世界へ展開

瀬戸内カレンの取り組みは、実証実験ではなく「事業」として運営している点が特徴だ。そのため、時限的な制約もなく、地元からの要望がある限り、継続的にサービスを提供していくことになる。

だが、レンタルする電動二輪車の数が13台と限定していることもあり、大きなビジネスに発展するとは考えていない。既存のレンタサイクルやレンタカー事業、バスなどと共存するとともに、個人が自分で移動するためのパーソナルモビリティとして、既存事業を補完するサービスと位置づけている。

「まずは、この仕組みが事業として成り立つことを証明するのが大切。それができれば、パッケージサービスとして、大気汚染や環境問題を抱える国内外の都市などを対象に、移動体通信網とつながるパーソナルモビリティ交通インフラとして展開することができる」(ソフトバンクの山口室長)と見込む。

新興国では、環境汚染などの問題もあり、世界遺産などの一部観光エリアでは、電気自動車以外の進入を制限するといった動きもある。そうした地域に対しても、提案できるソリューションになるというわけだ。

 「『豊島のような仕組みを導入したい』という声がでるようになれば、この事業は成功したといえる」(ソフトバンクの山口室長)

ソフトバンクでは、この取り組みを第1弾として、日本全国、あるいは世界各国へと展開していくことを次の目標に設定している。

瀬戸内カレンは、パーソナルモビリティビジネスの創出に向けた試金石であるとともに、観光サービスの充実や環境問題への対応、そして世界展開を視野に入れた取り組みとなっている。

大河原克行
IT業界専門紙の編集長を務めた後、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、パソコン誌、Web媒体などで活躍中。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(アスキー新書)などがある。