日本オラクル特集記事

驚くような新機能は必要?
確実に企業ニーズを
取り込むクラウドとは

ITジャーナリスト
谷川 耕一

 

●始まりはSaaS、そしてミドルウェア、PaaSが必要になった

クラウドという言葉は今やIT業界ばかりではなく、世の中にかなり広く普及している。そんなクラウドの始まりはSalesforce.comやNetSuiteなどが始めたSaaS(Software as a Service)が最初だった、と指摘するのは米国サンフランシスコで開催された「Oracle OpenWorld 2015」の基調講演に登場したオラクルの会長 兼 CTO ラリー・エリソン氏だ。「当時は、クラウドという言葉はまだ存在しなかった」とラリー。

Salesforce.comの創業者でCEOのマーク・ベニオフ氏、そしてNetSuiteの創業者でCTOのエバン・ゴールドバーグ氏。彼らがそれぞれにSaaSのサービスを始めるきっかけを作ったのは、何を隠そうこのラリーだ。そしてSalesforceやNetSuiteがSaaSのサービスを始めると、ラリー自身もオラクルのアプリケーション製品群をクラウド化しなければとの考えに至る。アプリケーション製品をクラウド化するには、たんにそれらをクラウドに乗せるだけではダメだ。すべてをクラウド用に書き換える必要があったとラリーは言う。その結果として生まれたのが「Oracle Fusion Applications」だ。

アプリケーションを書き換えている中で、新たなミドルウェアも必要だと気付く。ならばとそれもオラクルでは新たに作ることとなり、生まれたのが「Oracle Fusion Middleware」だ。Fusion Applicationsを世に出すための開発は、当初想定よりも苦労することに。そのため、本格的にSaaSが実現するまでにはそれなりに時間もかかってしまう。それもまた、オラクルの本格的なクラウド市場参入を遅らせた原因の1つであろう。

Fusion Applicationsが完成しSaaSでの提供が始まり、それと並行してオラクルでは各業界で評価の高いSaaSを買収などで手に入れる。まずはこれらのSaaSの展開が、オラクルのクラウドビジネスの始まりだ。徐々にSaaSを拡大していくと「SaaSをコンフィグレーション以上にカスタマイズをしたいと考える顧客もいる」とラリー。この顧客の要求に応えるために、オラクルではデータベースやJavaのPaaS(Platform as a Service)を提供することになったのだ。

●PaaSをやったらIaaSも必要だった

PaaSでカスタマイズ要求に応えたオラクルだが、顧客のクラウドへのさらなるニーズがあった。それが、既存のオラクル製品以外のシステムやアプリケーションなども、同じクラウドで動かしたいと言うものだ。そうなると必要になったのがIaaS(Infrastructure as a Service)だった。「SaaSに真剣に取り組もうとするとインフラが必要だった」とラリーは言う。

IaaSに関しては、10年ほど前からAmazon Web Services(AWS)がAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)を提供し、マーケットリーダーとなっている。彼らはEC2というIaaSから始まり、ストレージサービス、さらには開発ツールや管理ツール、ワークフローやセキュリティ機能など、今ではPaaS的なサービスも数多く提供するようになった。とはいえ、今のところはSaaSのマーケットには参入していない。

「クラウドのインフラサービスの領域では、AWSの名前を良く耳にする。Googleの名前を聞くのは時々。でもIBMの名前はほとんど見かけない。オラクルにとってかつてのライバルだったIBMやSAPは、クラウドのビジネスでは気にかける必要のないベンダーになった」(ラリー)

オラクルは、前述したような過程を経てSaaS、PaaS、IaaSの、すべてのレイヤーでクラウドのサービスを展開している。これこそがオラクルのクラウドビジネスの強みだ。「クラウドの全層でサービス展開しているのは、Microsoftとオラクルだけだ」とラリーは主張。そして、さらなるオラクルの強みとしては、クラウド上で展開しているアプリケーションの幅がかなり広いことも挙げた。

さらにクラウドでエンタープライズ顧客の要望に応えるには、共通する設計の目標、思想がいるともラリーは言う。そして、クラウドでは低価格であることも重要だとも。この場合の低価格は、導入時の価格や月々の利用料が安いだけではない。クラウドを利用する上での、トータルコストをいかに下げるかが重要だと指摘する。

「性能はコストと表裏一体なものだ。コストパフォーマンス、つまり費用対性能で考える必要がある。ピーク時の処理に対する能力をどのように提供できるかが鍵となる」(ラリー)

ラリーは、遅れて参入したIaaSについても、AWSと同等か「高度なコンピューティングの領域ではオラクルのほうがさらに安いものを提供できるだろう」と強気だ。とはいえ、ラリーが言う低コストの考えは、前述したようにトータルのコストだ。「クラウドベンダーに払うコストだけで見るのではなく、クラウドを使うためにかかるすべてのコストの観点で見ていく必要がある」と改めて指摘する。

トータルなコストを下げるための1つの方法が自動化だ。自動化することで耐障害性の高いシステムが出来上がり、さらには人的なミスも防ぐことができる。こういったことが、最終的にはコストにも影響するわけだ。

●セキュリティ機能は常にオンで

ラリーが今回の基調講演でもう1つ強く主張したのが、クラウドのセキュリティ面だ。「セキュリティ、これが1番上にくるものだ」と。これまでクラウドのサービスがセキュリティを無視してきたわけではない。とはいえ当初はクラウドにあまり重要なものが置かれていなかった。なので、結果的にセキュリティにそれほど重きが置かれなかった。それが今では、どんどん重要な情報がクラウドに置かれるようになってきた。

そんな中、せっかくオラクルの製品を使っていても、ユーザーによってはセキュリティ機能をオンにしていないことがあるとラリーは指摘する。そこから「そもそもセキュリティ機能にオン、オフのスイッチがあることが問題だ。セキュリティ機能は常にオンでなければならない。これについては、製品を提供している我々自身の考え方も変える必要がある」と気づいたとラリー。

セキュリティ機能は常にオンで顧客は何もしないほうがいい。たとえばデータベースが稼働しているのならば、格納されているデータは常に暗号化されるようにするのも1つだ。こういったことを実現するために、オラクルでは新たにセキュリティ機能をプッシュダウン方式で提供するとのこと。さらにセキュリティ機能をよりハードウェアに近いところに置くようにもする。そのためにオラクルでは、たとえば暗号化機能をCPUに実装している。ハードウェアの上にセキュリティ機能を実装すれば、それを利用するデータベースはもちろんハードウェアのすぐ上で動くOSもセキュアにしやすくなるとラリーは主張する。

●確実に企業ニーズを取り込んだクラウド

ラリーの基調講演では、CTOの役割として「Oracle Database 12c Release 2」などの新機能についても紹介した。それら新機能の多くが、製品をクラウド上で安全かつ快適に使うためのものだ。興味深い機能も多いが、驚くような新機能というわけでもない。驚かないのは、エンタープライズ用途でデータベースやアプリケーションサーバーをクラウド化するために必要な機能性を、着実に高めているからとも言える。なので突飛な機能ではなく、企業が必要な機能を確実に取り込んでいるわけだ。

今回のラリーの基調講演は、新たなクラウドの世界で訪れる未来や夢を語るよりは、企業がどうビジネスのためにクラウドを利用したら良いかを説くようなものだった。これは企業ニーズを取り込むのがうまいオラクルならではのアプローチであり、今後ヒタヒタとSaaSを核に企業向けのクラウドビジネスを拡大する気配を感じさせられた。

●12月8日・9日に「Oracle Cloud Days Tokyo」を開催

「Oracle OpenWorld 2015」のエッセンスとともに、2日間にわたり7つのサミットを通じて「クラウドによるあたらしい変革のチカラ」を体感できるイベント「Oracle Cloud Days Tokyo」を開催予定。詳しくはこちら

谷川 耕一
フリーランス・ITジャーナリスト。有限会社タルク・アイティー 代表取締役社長、ブレインハーツ株式会社 取締役。IT業界を少し違った視点から俯瞰するブログ「むささびの視点」が好評。