Edgar F. Codd(1923-2003)
リレーショナル・データベースの父を偲ぶ

Jeff Spicer: ORACLE MAGAZINE編集主幹

Tedの愛称で知られたEdgar F. Coddは、誰もが「才気あふれる人」と言う人物でした。彼の業績のなかに、1970年代初頭のデータ管理のリレーショナル・モデルの開発がありました。これは、大量のビジネス・データを格納し操作するための完璧であり洗練された理論でした。Coddの設計に基づいて構築されたリレーショナル・データベースは、今日のビジネスの基盤を形成しています。このリレーショナル・データベースを使って、銀行は資本の流れを管理し、小売業者は在庫レベルを監視し、人事部門は従業員のアカウントを管理しています。図書館や病院や政府は何百万という記録をリレーショナル・データベースに格納しており、事実上、程度の差こそあれ世界中のほとんどすべてのビジネスでリレーショナル・データベースが使用されています。さらに、Coddが自分の理論を発表して以来30年の間に、リレーショナル・データベースは年間約1兆64億円もの産業になりました。

生い立ち

Coddは、1923年に英国ドーセット州ポートランドの大家族に生まれました。彼はオックスフォード大学で数学と化学を専攻し、第二次世界大戦中は英国空軍に従軍しました。その後、Coddはニューヨークに向かい、IBMで数学的なプログラマーの地位に着きました。Coddの最初のプロジェクトは、ダウンタウンのオフィスビルの2フロアを占拠すると言われた順序選択式電子計算機(SSEC:Selective Sequence Electronic Calculator)の構築を支援することでした。

1960年代半ばにミシガン大学でコンピュータ・サイエンスの博士号を取得した後、Coddはカリフォルニア州サンノゼにあるIBMの開発ラボに移り、そこでデータ管理のリレーショナル・モデルに取り組みました。それは、数学に大きく依存するモデルでした。

データベースの改善

初期のコンピュータは、ビジネスの広範な用途に対応するために非常に大きくて高価なものでした。1960年代になると、費用効果が高くなって、民間企業でも広く採用されるようになり、ビジネス専用の規格と言語が開発されました。これらのなかに、データ処理のための2つのモデル(階層型モデルと関連ネットワークモデル)がありました。

階層型モデルでは、メインのレコードが最上位の階層にあり、それに続く種類のレコードがその下位に分岐し、データ・レコードは階層内で相互に関連しています。ネットワーク・モデルでは、1つの階層内のレコードのセットが次の上位層の2つの異なる階層に属することが可能です。どちらのモデルの場合も、情報を処理するクエリを書くにはデータ自体のナビゲーション構造に対する深い理解が必要であり、通常は、専門のプログラマーに複雑な作業が委ねられました。

Coddは新しいソリューションを提案しました。1970年に画期的な技術論文「A Relational Model of Data for Large Shared Data Banks(大規模共有データバンク用データのリレーショナル・モデル)」にまとめられた一連のレポートのなかで、Coddは「データはハードウェアから独立して格納されるべきであり、プログラマーは非手続き型言語を使ってデータにアクセスすべきだ。」と提案しました。Coddのソリューションでもっとも重要な点は、データが階層構造に格納されるのではなく、行と列で構成される単純なテーブル構造に格納され、この構造では、同種のデータの列がテーブルを互いに関係付ける点です。Coddの考え方では、データベースのユーザーやアプリケーションは、データをクエリするためにデータの構造を知る必要はありません。この論文を発表してすぐに、Coddはより詳細なガイドラインを発表し、リレーショナル・データベースを作成するための12の原則を発表しました(この原則は、1990年代後半には、何百にも増えました)。

Coddの理論が発表された後、それらの理論はすぐにはIBMに採用されませんでした。IBMは、IMSと呼ばれる階層型データベース・システムに多額の投資をしてきており、Coddのアイデアをどう発展させていくかを解明する作業は他の会社や起業家に委ねられました。そのなかで主役となったのが、 Larry Ellisonで、彼はEd OatesおよびBob Minerと共に、1977年に世界初の商業用リレーショナル・データベース管理システムを提供し、そのプロセスのなかで、後にオラクル・コーポレーションとなる会社を立ち上げました。その後の経過は、データベースの歴史にあるとおりです。

しかし、Coddにとって、歴史はそこで止まりませんでした。Coddは、1980年代の初めもIBMに留まりましたが、同時に長年の協力者Chris Dateと共にコンサルティング会社を立ち上げ、データの正規化、分析、およびデータ・モデリングなどの課題に関する研究と論文の発表を2003年初めの死に至るまで続けました。

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本記事は、「ORACLE MAGAZINE」の記事を翻訳したものです。

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