「Ask Tom」のトム・カイト氏に聞く、
クラウド時代を生き抜くデータベース技術者とは?
第1回 クラウドで何が変化したのか?

トム・カイトは、オラクルの社員であり、データベース技術者のための人気Q&Aサイト「Ask Tom」を主宰するデータベース技術者だ。そのトム・カイトに、データベース技術者が「クラウド」というITの大きな変革期にどう備えるべきかを聞いた。
今回トム・カイトは、彼自身の捉えるクラウドの本質について語る。(編集部)
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■クラウド時代をどう捉えているか?
img_pickup_101013.jpg――Oracle OpenWorldのキーノートスピーチで ラリー・エリソンがたびたび触れていたように、現在のシステムはソフトウェアとハードウェアという2つの要素が個々に存在するだけでなく、例えば 「Oracle Exadata」のように互いの技術が密接に結びついた製品が登場してきている。さらにはソフトウェアとハードウェアという枠を超えたクラウドという概念 が新たにクローズアップされつつある。オラクル自身もこのクラウドへの取り組みを強化している最中だが、トム・カイト自身は、クラウド時代をどう捉えてい るか?

トム・カイト:
クラウドとはつまり、誰かがデータベースをホスティングし、そこにデータを入れ、開発者がそれをサービスとして利用することだ。私が1987年に学生 だった頃、実はこれと似た状況があった。メインフレーム上で動くデータベースを複数の学生で共有し、私自身も1ユーザとしてそのデータベースを利用してい た。ネットワークプロトコルやユーザインタフェースは当然現在とは大きく異なっているが、中央集中型コンピューティングという観点では、非常に似ていたと 思う。
しかし、メインフレームと、Amazon.comなどの今日の新しいサービスでは、形態は大きく異なっている。メインフレーム上で動くアプリケーション は「自社内」を対象としているのに対し、今日のクラウドは同じ中央集中型コンピューティングではあるものの、データセンターは外部にあり、誰かが別のユー ザに対してサービスを提供しているからだ。

――システムアーキテクチャとしては、以前の中央集中型コンピューティングと似ているということだが、いまや自社内向けのクラウドを構築する事例もある。この場合の相違点はなにか?

トム・カイト:
一部の企業ではこうしたクラウドを自社内で稼働させているが、そのプロトコルは独自のものではなく、業界標準のものだ。スタートアップ企業などがクラウ ドを利用して、外部のデータセンターとデータのやり取りを行っているプロトコルと同じだ。これが20~30年前の状況と最も大きく異なる点である。私はこ の現状に大変満足している。なぜなら、管理が以前に比べてより容易になっているからだ。

――業界標準のプロトコルを使用していること。それによって、管理性が向上している点が相違点でかつメリットということだが、一方でクラウドの問題点はなにか?

トム・カイト:
こうした新しい出来事にはいつも「ところが」といった問題がつきまとう。クラウドでは第3者がユーザのデータを保持することで、そこにはセキュリティや プライバシーの問題が起こる。例えばグーグルだ。グーグルはあらゆる種類の分散したデータを1ヶ所に集め、ユーザの動向を知る新たなデータを生み出してい る。検索数やページ閲覧数、ユーザの日々の作業動向など、個々のデータだけでは情報の断片に過ぎないが、このデータをより多くのユーザを対象に集めること で、いままで見えなかったものが見えてくる。そして、その情報はグーグルに蓄積されることになる。
そのため、企業によっては、内部に自ら構築したクラウドにデータを保持し、こうした問題を回避しているわけだ。想像してほしい、財務データや競合となる データが外部の第3者の手にあったらどうだろうか? 競争に必要なデータを自ら保持しようというのがこうした企業の考えだ。
こうしたセキュリティ問題は「Cloud as a Service(サービスとしてのクラウド:つまり外部サービス型クラウド)」では常につきまとい、「ライバルにデータベースの内容を見られるのではない か」といった被害妄想にもつながる。こうしたクラウドでは1つの巨大なデータベースに、個々のユーザの小さなデータベースを同居させる形態をとっており、 閲覧される可能性があるのだ。


■クラウンドの開発者にとってのメリットは?
――セキュリティ問題など、クラウド時代におけるデメリットの話が多かったが、実際に開発者にとってどのようなメリットがあるのか?

トム・カイト:
クラウドのその根底にある技術は非常に優れたものだ。例えば私が17年前にオラクルに入社した当時、オラクル製品のすべてを、それこそものの1時間程度 でインストールし、アプリケーションとしてセットアップすることができた。だがいまはどうだろう、オラクルのインフラストラクチャーは膨大なものとなり、 このすべてを1人の人間が把握することは不可能になってしまった。オラクルの従業員の私でさえ、これらのすべてをインストールして設定し、メンテナンスす ることは不可能だし、しようとも思わない。それぞれの製品ごとに専門家が存在し、よりスペシャライズされた状態になっている。

――技術が細分化されていくということだと思うが、今後、技術者は専門外の技術に対してどう関わっていくべきか?

トム・カイト:
一例を説明しよう。多くの製品はそれぞれの分野の専門家がセットアップを行い、われわれ自身は1人のユーザとしてそれらをサービスとして日々利用してい る。典型的なのが「APEX(Oracle Application Express)」(http://apex.oracle.com/)で、ユーザはここでデータベースを作成し、アプリケーションを実行しているが、こ のシステムそのものにはユーザは関知していない。メンテナンスはバックエンドで行われているし、APEXそのもののバージョンアップもバックエンドで行わ れる。もしそれで記述済みのアプリケーションに問題が発生するようなら、それもバックエンドで修正され、多くのユーザは関知しない。これがクラウドであ り、ユーザ自身はアプリケーションのメンテナンスに専念するだけでいい。

(「クラウド時代に技術者はどう備えるべきか」に続く)

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