ローコードとは?ローコード開発ガイド

Alan Zeichick |シニアライター| 2024年10月28日

ビジネス向けソフトウェアと聞いて思い浮かべるのは、Webサイトや在庫管理、会計、人事、顧客データベース、財務管理システムといった重要な基幹業務アプリケーションではないでしょうか。これらはいずれも組織の成功に欠かせないものですが、それだけが全てではありません。

貴社には、スタッフ自身が作成した何百、何千もの小規模なソフトウェアが存在している場合があります。これらは特定の課題を解決したり、戦略的チャンスをとらえたりするために使用されます。カスタムレポート作成ツール、特定プロジェクト向けのデータ取得システム、あるいは将来の大型プロジェクトのための本格的なデモ用アプリケーションなどが挙げられます。かつては、こうした戦術的なアプリケーションは多くの場合、コンピュータサイエンスの学位を持つプロのソフトウェアエンジニアのチームによって作られていました。

しかし、今は必ずしもそうとは限りません。

この10年あまり、いわゆる「ローコード」プラットフォームの登場により、個人の開発者や技術に明るいビジネスパーソンでも、こうした軽量ながら重要なアプリケーションを設計・構築・テスト・展開できるようになりました。さらに、従来の数週間から数か月を要する正式なソフトウェア開発プロセスと比べ、ローコードツールならアイデアを数日で完成したソフトウェアへと変えることが可能です。

ローコードとは

ローコードとは、ソフトウェア開発を簡素化した手法です。開発者やスキルを持つビジネスプロフェッショナルは、視覚的なポイント&クリックのインターフェースを使ってアプリケーションを作成できます。多くのローコードの手法では、まず開発者がアプリのユーザーインターフェース設計から始めます。次に、アプリの各種ボタンやフィールド、表示部分の機能を、直感的なプロセスで「結び付け」ます。データベースなど外部アプリケーションとの接続も、ドラッグ&ドロップのインターフェースで設定できます。そして、ボタンひとつでアプリケーションをテストし、関係者によるレビューが可能となります。問題がなければ、さらにボタンを押すだけでアプリをデプロイでき、社内の権限を持つ人物、およびパートナーや顧客が利用できるようになります。

ローコードアプリ開発とは

ローコードアプリ開発は、視覚的なユーザーインターフェースとあらかじめ用意されたコネクタやコンポーネントを備えたプラットフォームを利用し、最小限のコーディングでアプリを作成できるソフトウェア開発手法です。初心者であってもコーディングの複雑さを経験したことがあれば、この手法がなぜ人気なのか理解できます。ローコード・プラットフォームを使えば、コンピュータサイエンスの学位がなくても、ビジネスに真のメリットをもたらすアプリケーションを開発できます。

ローコードアプリ開発は複雑なプログラム言語ではなくドラッグ&ドロップツールを活用するため、従来のコーディングに比べて誰でも使いやすく、かつアプリケーションの開発・提供を迅速に行うことができます。

ローコード・プラットフォームとは

ローコード・プラットフォームとは、直感的なインターフェースを備えたユーザーフレンドリーなシステムであり、初心者の開発者でも機能的かつ安全なアプリケーションを迅速に構築できます。複雑なコードを何百行、何千行と書き、厳密な構文に従う必要がある従来の方法とは異なり、ローコード・プラットフォームを利用することで、開発者はデータベースを含む企業システムへのアクセス、計算や分析の実行、ビジネス目的のための情報の蓄積などができるソフトウェアを容易に構築できます。最新のローコード・プラットフォームは生成AIを活用し、自然言語インターフェースを備えています。そのため、チャットウィンドウで希望するアプリの機能を記述するだけでアプリ開発が可能です。

ローコード・プラットフォームはクラウドに依存することが多く、ドラッグ&ドロップを使用した視覚的な開発者体験を通じて多数のクラウドサービスへアクセスできます。

ローコードのもう一つの重要な点はカスタマイズ性です。完全かつ高機能なアプリも、純粋なビジュアルデザイナーだけで構築できますが、ローコード・プラットフォームではJavaScriptやHTMLなどの言語を用い、カスタムコードを追加することもできます。この柔軟性により、アプリ設計者は商用ソフトウェアパッケージ、オープンソースソフトウェア、自社開発のAPIを含め、ほとんどの外部ソフトウェアシステムと連携することができます。

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主なポイント

  • 開発者および技術に精通したエンドユーザー向けに、さまざまなローコード・プラットフォームが存在します。
  • すべてのローコード・プラットフォームにはライセンス形態があり、オープンソースと商用ソフトウェアの両方があります。どちらを選ぶか検討しましょう。
  • 他のアプリ開発プラットフォームと同様に、そのローコード・プラットフォームが、お客様の組織に必要なセキュリティ要件を満たしていることを確認してください。
  • 主なユースケースには、ビジネスチャンスに応じた新たなモバイルアプリの作成、重要なアプリケーション向けのブラウザベースのフロントエンドの構築、レポート用データの統合などがあります。

ローコードとノーコードは同じものですか?

「ローコード」と「ノーコード」という用語を混同して使う人やベンダーもいますが、この2つは同じものではありません。ローコードもノーコードも、プラットフォームや完成されたアプリの見た目は似ていて、どちらも視覚的なドラッグ&ドロップのインターフェースでアプリを作成します。ただし、ノーコードプラットフォームはシンプルさを追求して設計されています。ノーコードプラットフォームは複雑なロジックをサポートせず、多数の外部データソースとの連携ができず、大量のトランザクション処理に対応できるスケーラビリティもありません。さらに重要な点として、高度な技術や外部API、JavaScriptなどによるカスタマイズには対応していません。ローコード・プラットフォームは、拡張性が高く、堅牢で信頼性のある業務アプリケーションの構築に適しています。反対に、ノーコードプラットフォームは柔軟性やカスタマイズ性に乏しいという制約があります。一般的に、ノーコードはあらかじめ用意されたテンプレートを利用する必要があり、機能やセキュリティ制御も限定的です。

ローコードの基本

ローコードとは、主にクラウド上で稼働する専用プラットフォームを活用して業務アプリケーションを構築する手法です。ローコード・プラットフォームは、開発者はもちろん、テクノロジーに強いエンドユーザー(シチズンデベロッパー)がアプリケーションを作成したいときに利用されます。プロのコンピュータサイエンティスト向けの複雑なツールを使う代わりに、ローコード・プラットフォームを使うことで、アプリ画面の作成や必要な機能の追加、データベースなど外部システムとの連携を、視覚的なドラッグ&ドロップ操作で行うことができます。

ローコード開発の特徴は、よく使われる機能を再利用できるビルディングブロックや、データベース・API・他システムと統合するためのコネクタがあらかじめ用意されていること、そして完成したアプリケーションをクラウドやオンプレミスサーバーへ柔軟にデプロイできる点にあります。

ローコードが人気の理由

ローコード開発が人気の理由は、従来のソフトウェア開発手法と比べて、はるかに速く、簡単にアプリケーションを作成できるためです。ローコードなら、従来は数週間や数か月かかっていたアプリを、一人のユーザー(多くの場合ビジネス部門の担当者、場合によっては開発者)が、わずか数日で作ることができます。これにより、従業員や顧客向けの新しいアプリケーションを素早く提供できるだけでなく、コストも大幅に削減できます。

ローコード・プラットフォームは、複雑さを大幅に抽象化することで、アプリケーション開発の民主化を推進し、企業が新たなビジネスニーズや変化にすばやく対応できるよう支援します。

ローコードの仕組み

ローコード開発には、2つの重要な工程があります。まず、ビジネス要件を定め、直感的なビジュアルデザインツールでアプリケーションを構築します。この工程には、アプリのユーザーインターフェースの設計、アプリが持つ機能の指定、データベースや他の業務アプリケーションを含むデータソースへのコネクタ追加などが含まれます。次に、アプリケーションが完成し、期待された業務効果が得られることをテストで確認した後、クラウドや自社のインフラ上で必要とする全員に配布します。

セキュリティとローコード

ほとんどのローコード・プラットフォームには、認可されたユーザーだけが利用できるようしっかりとしたセキュリティ対策が組み込まれています。こうした制御はローコード・プラットフォーム自体に備わっている場合もあれば、ローコードアプリケーションが格納されるデータベース内に組み込まれている、より強固なアクセス管理システムを利用する場合もあります。これらのツールで作成されるアプリケーションのセキュリティについては、実績のあるベンダーから堅牢なローコード・プラットフォームを選ぶこと、入力値の検証やセキュアなコーディングの徹底、ツール利用者にセキュリティやデータ保護の重要性について教育することなどが、ベストプラクティスとして挙げられます。

ローコードがビジネスにもたらすメリット

ローコード開発は、ソフトウェア・エンジニア・チームによる大がかりで正式なプロセスを必要とする従来型アプリケーション開発に比べ、多くの利点があります。企業がローコードを導入する主な理由は以下の通りです。

  • 開発の迅速化:ローコードを活用することで、アプリケーションを数日、場合によっては数時間で構築でき、時間とリソースを大幅に節約できます。ローコード・プラットフォームは直感的な操作が可能で、多くはブラウザベースで利用できるため、従来のように開発ツールを探して入手・インストールし、使い方を学ぶ必要がありません。さらに、アプリケーションはワンクリックでデプロイできます。
  • 一貫性と標準化:複雑で直感的でないビジネスアプリケーションは利用されにくく、コストの無駄になります。また、ある開発者が別の開発者のアプリケーションを保守・修正する際、ソースコードが組織の標準に沿っていない場合は大きな問題になります。ローコードは、共通の開発ツールプラットフォームを用いることで、どの開発者でも学びやすく、標準的なWeb基準に沿ったアプリケーションを構築できます。習得が容易、保守も簡単、標準に基づいている――これらはすべてローコードの大きな強みです。
  • コスト効率:ソフトウェア開発プロジェクトのコストにはさまざまな観点がありますが、ローコードはそれらすべてでメリットを発揮します。従業員の工数に関しては、チームで数週間や数か月かかっていた作業が、一人で数時間や数日で済むようになります。開発ツール費用も低く抑えられ、企業向けソフトウェアの一部として無料で利用できる場合もあります。また、前述の通り、出来上がったアプリケーションは使いやすいため、広く採用されやすいという利点もあります。
  • コラボレーションの強化:多くのローコードアプリは、実際にニーズを最もよく理解している業務部門のメンバー自身が作成します。これにより、利用者が自らソフトウェアを設計し、グループ内で即時にフィードバックを得ながら機能を調整できるため、別のソフトウェアエンジニアチームに要望を伝えるよりもはるかに迅速かつ効果的です。

    さらに、最新のローコード・プラットフォームでは複数のアプリ作成者による共同作業も可能です。異なる部分のビジネス課題に詳しい同僚たちが協力して開発できるため、より実践的なアプリケーションが作りやすくなります。こうした機能に関心がある場合、変更履歴の管理やバージョン管理の不具合を防ぐためのコードロック機能が備わっているかも確認すると良いでしょう。
  • アジリティの向上:変化の激しい現代のビジネス環境では、迅速な対応が求められます。新しいアイデアや競合他社の動きに対応する際、何か月も待つ余裕はありません。ローコードなら、単純なアプリケーションであれば数時間で、ビジネス上重要なニーズに応える複雑なアプリでも数日ほどで設計・開発・テスト・展開が可能です。このように、「数日」で完了するのは、従来の「数か月」と比べて大きな利点です。
  • 顧客体験の向上:ローコードアプリは、現場の業務ニーズやビジネスチャンスに合わせて設計されており、直感的なグラフィカルインターフェースと、ユーザーの要件をよく理解した人によって構築されるため、エンドユーザーにとって使いやすいのが特長です。また、ローコードアプリは企業のデータベースや他のエンタープライズソフトウェアとも連携できるため、必要なデータを必要な人にタイムリーに届けられます。さらに、最新の生成AI技術を活用することで、エンドユーザーは自然言語でアプリケーションとやり取りすることができます。
  • 生産性の向上:ソフトウェアエンジニアのチームを編成するよりも短い時間で、ビジネスユーザーが新しいローコードアプリを設計・構築・テスト・導入することができ、従業員や顧客、パートナーがすぐにソフトウェアを利用できます。ビジネス課題の解決や新たなチャンスの活用が目的であれば、ローコードによってすぐに効果を得ることが可能です。
  • イノベーションの推進:ローコード・プラットフォームの中には比較的シンプルで静的なものもあり、その場合はアプリに最新機能が不足することがあります。注目すべき機能の一つは、自然言語のプロンプトに対応したAIアシスタント機能で、SQLデータベースクエリの設計やデバッグの効率化を支援します。
  • 連携機能:ローコード・プラットフォームで構築されたアプリケーションは、APIやデータベース、在庫管理や顧客管理など他のエンタープライズアプリケーションと連携できる必要があります。これらの統合機能や、より高度なカスタマイズのためにJavaScript対応が可能かどうかも確認しましょう。
  • 将来への備え:短期プロジェクト向けの、一度限りの使用を想定したアプリケーションもありますが、多くのローコードアプリは長期間利用されることを前提としています。プラットフォームとして実績があり、継続的にベンダーから投資・強化されているかどうかを確認しましょう。それにより、必要に応じて最新機能へのアップデートや新たなニーズへの対応が容易になります。

ローコードの課題

ローコードは多くのアプリケーション開発に最適な選択肢となりますが、プロのソフトウェアエンジニアによる大規模なエンタープライズアプリケーション開発など、従来型の開発手法と比べるとトレードオフも存在します。ローコードのシンプルで標準化されたアプローチが適していないケースもあり、以下のような点を考慮する必要があります。

  • 複雑な保守作業:アプリケーションの中には、一度作成すればほとんど変更がないものから、ビジネスロジックの変化や外部システムとの連携が頻繁に発生し、絶え間ない更新が必要なものまで様々です。ローコードによるアプリはビジュアルデザインツールで簡単に更新できますが、本格的なソフトウェアエンジニアのチームが継続的に品質を担保できる従来型ソフトウェアに比べると、柔軟性が制限される場合があります。保守作業が複雑で頻繁な場合、ローコードは最適とは言えません。
  • ガバナンスとコンプライアンス:ローコード・アプリケーション・プラットフォームは、比較的シンプルなビジネス問題を解決するアプリ向けに設計されています。ただし、コーポレートガバナンスの規則や政府のコンプライアンス規制により、記録管理、データ主権、個人識別情報(PII)、機密医療情報、非公開財務情報、輸出管理対象の企業秘密、監査を要するデータ、軍事情報などへのアクセスに関して、極めて厳格な要件が義務付けられる場合は別です。そのような場合、厳格な基準に従ってソフトウェアを開発し、適合性を証明する必要があります。このようなケースでは従来のソフトウェア開発が唯一の選択肢となるでしょう。
  • 連携の難しさ:多くの業務アプリケーションは、アクセス制御のためのIDサーバ、在庫システム、販売システムなど他のシステムとの連携が必要です。多くのローコード・プラットフォームは、主要なデータベースなどの一般的なシステムとの連携や、SQL・JavaScript・JSON・オープンソースAPIを利用した拡張機能を提供しています。しかし、特殊なシステムや複雑な連携(たとえば古いレガシーソフトウェア、組み込みシステム、極めて独自性の強いソフトウェア)に対しては十分に対応できない場合があります。そのような場合は従来型のソフトウェア開発が必要です。
  • カスタマイズ性の制限:ローコードアプリケーションは、ビジュアルデザインツールで設計され、標準化された実行環境で動作します。ビジュアルデザイナー以外でのカスタマイズも可能で、たとえばOracle APEXではJavaScriptの追加や外部API連携ができます。多くの作業には十分対応できますが、ローコードアプリのインターフェースモデルでは、特殊な要件に対応できない場合もあります。
  • パフォーマンスの制約:ローコードアプリは、中規模までのトランザクション量、たとえば同時数百~数千ユーザー程度であれば十分機能します(アプリの複雑さによる)。多くの業務用途には問題ありませんが、For others, low code isn’t the right answer. 証券取引所の売買システムや銀行のATM、鉄道のリアルタイム貨物追跡など、超大量データや極めて高いパフォーマンスが求められる用途には適していません。ただし、こうした領域でも、たとえば貨物追跡システムの経営者向けダッシュボードといった低負荷のサブシステムにはローコードを活用できる場合があります。
  • 品質保証:特定の業務ソフトウェアが24時間365日絶対に停止せずに動作する必要がある場合、その重要性は非常に高いと言えます。週1回使うレポート作成アプリのようなケースは重要度が低いですが、顧客が自身の注文状況を確認するWebアプリなどは高い信頼性が求められます。ローコードアプリも信頼性はありますが、単一の実行環境上で稼働するため、外部データソースの問題で処理が遅くなったり停止する恐れがあります。このようなリスクがビジネスとして許容できない場合、従来型のソフトウェア開発であれば、外部サービス障害時に複数の実行経路を持たせたり、バックアップサーバや地理的に分散したデータセンターにフェイルオーバーするなど、高度な耐障害性を持たせることが可能です。
  • スケーラビリティの問題:ローコードアプリは、標準化されたランタイムコンテナ内で実行されます。これは、単独の実行環境であったり、企業向けデータベースなど他のソフトウェア内のコンテナであることもあります。このランタイムは、数百から数千の同時トランザクションやユーザーには対応できる場合がありますが、クラウドネイティブなカスタム開発ソフトウェアのように、何百万台ものサーバやクラウドデータセンターにまたがってスケールさせることはできません。
  • セキュリティへの懸念:権限のない人物が、ローコードアプリやそのデータにアクセスできることを懸念されていますか?その懸念は正しいです。多くのローコード・プラットフォームは個人の生産性向上や軽度な用途向けに設計されており、ビジネスアプリに求められる高度なセキュリティ機能(ユーザー認証、データ暗号化、電子署名など)を備えていないこともあります。ローコードを導入する際は、堅牢なセキュリティやアクセス制御の実績があるエンタープライズ系ソフトウェアベンダーが維持・提供するプラットフォームを選ぶことが重要です。ほとんどのユースケースにはこれで十分ですが、特に厳しいセキュリティ要件がある場合は、カスタムソフトウェア開発が必要になる場合もあります。
  • スキルギャップ:一部の企業では、ソフトウェア開発者ではないもののローコード・プラットフォームのビジュアル設計ツールを使いこなせる技術力を持つビジネスユーザー層がいます。実際、多くのローコード・プラットフォーム提供者はオンライン研修やプロフェッショナル認定資格も提供しています。一方で、そのような人材が社内にいない場合は、従来のソフトウェア開発チームや外部コンサルタントにアプリ構築を依頼しなければならない場合もあります。
  • ベンダー・ロックイン:ローコード・プラットフォームは、特定のグラフィカルなアプリ構築ツールと専用のランタイム環境で動くよう設計されています。そのため、ローコードアプリはそのランタイム内では最適に動作しますが、逆にいったん構築したアプリの設計やロジックを他のローコード・プラットフォームに移植して使うことはできません。

一般的なローコード開発プラットフォームの機能

最もシンプルな場合、ローコード・プラットフォームは「アプリ作成者が利用するビジュアルデザインツール」と「アプリケーションの実行環境」という2つの要素から構成されます。認可されたユーザーは、Webブラウザまたはローカル環境からこれらにアクセスすることができます。

以下は、多くのビジネス向けローコード・プラットフォームに共通する代表的な機能です。すべてのシステムがこれらすべての機能を提供しているわけではありませんが、多くの機能が備わっているほど、お客様のアプリケーションは将来にわたり多様な要件に対応しやすくなります。

  • 多様なアプリ用ビジュアルデザインテンプレートと独自テンプレート作成機能
  • RESTやAPIを活用したWebサービスへのアクセス・公開機能
  • 直感的に複雑なデータを追加・編集できる機能
  • 複数開発者による変更差分の比較と競合解決機能
  • 意図したとおりに正確に印刷できるグラフやレポートの作成機能
  • ネイティブアプリのような外観のプログレッシブWebアプリ作成機能
  • HTTPやREST経由でリモートデータベース上のSQLを実行できる機能
  • データのグループ化・書式設定機能
  • データレポートの保存・再利用機能
  • GitHub等の共有リソースリポジトリとの連携機能
  • 数値、テキスト、画像等の複雑なデータへの対応機能
  • フルSQLクエリ言語を利用できる機能
  • 開発者・ユーザーのアクティビティ監視機能
  • 開発者向けのAI支援(自然言語対応)
  • 検索クエリの自動補完や提案機能
  • データベーステーブル閲覧・編集用フォームの作成機能
  • アプリケーション全体でのデータ暗号化
  • クロスサイト・スクリプティング(XSS)やパラメータ改ざん等の攻撃検出機能
  • 実行中アプリのエラーレポート機能
  • JavaScript、SQL、PL/SQL等によるアプリ拡張性機能
  • 複数の開発者が同時に作業でき、バージョン管理や上書きの問題が発生しにくい機能
  • チャットウィンドウなど生成AIを活用したユーザー対話機能
  • データ主権対応にも役立つモバイルアプリ用ジオロケーション機能
  • 1つのアプリで複数の言語に対応できるグローバル機能
  • モバイルアプリと他のスマートフォン・タブレットアプリとの連携機能
  • 詳細な読み取り専用・読み書き可能フィールドなど、多層アクセス制御
  • エンドユーザー用のアプリ内プロセスワークフロー
  • エンタープライズデータベース内のリアルタイムデータ検索機能
  • リアルタイムかつ柔軟でインタラクティブなチャート作成機能
  • 多様なブラウザやモバイル端末での安全な認証
  • 共有コンポーネントをワンクリックで複製・更新できる機能
  • 高度なデバッグやアプリケーショントレース用ツール
  • 開発者向けのタスクリストや承認ワークフロー
  • アクセシビリティ要件を満たすユーザーインターフェース・コンポーネント
  • アプリ用の多様なフォント・グラフィックス・アイコン埋め込み機能

ローコード、ノーコード、ハイコードの違い

ノーコードとローコードのプラットフォームは共通点が多く、どちらもドラッグ&ドロップでアプリを設計できる視覚的な開発環境を提供します。エンドユーザーは、完成したアプリケーションをブラウザやモバイル端末から視覚的に操作できます。

どちらも、プロの開発者だけでなく、ある程度技術に詳しいビジネスユーザーでも利用でき、コンピュータサイエンスの学位は必要ありません。また、両方のツールで外部データソースとの連携が可能ですが、どの程度まで連携可能かはプラットフォームにより大きく異なります。

最大の違いはカスタマイズ性にあります。ノーコード環境は基本的に、JavaScriptやHTMLなど標準言語によるコーディングや、ツールの開発用標準機能を超えたカスタマイズができません。一方、ローコード・プラットフォームでは、こうしたコードの追加や独自カスタマイズが可能です。そのため、開発者が自分のロジックを細かく実装したり、より柔軟なユーザー・エクスペリエンスや独自のシステム連携を実現できる自由度が大きくなります。

これらに対して、「ハイコード(従来型開発)」と呼ばれる伝統的なソフトウェア開発・エンジニアリング手法があります。ソフトウェアエンジニアは、統合開発環境(IDE)などのビジュアルツールも使いますが、基本的にはJavaScript、Java、C++、C#など複雑なプログラミング言語で多くのソースコードを書く必要があります。また、より正式な開発プロセスや高い専門知識・経験が求められます。一部のビジネスアプリケーションでは、依然としてこうした大規模なソフトウェアエンジニアリングが必要ですが、多くのプロジェクトは、ローコード・プラットフォームを採用することでより俊敏に、より速く、低コストで対応できます。

主な違い

ローコード ノーコード 従来型開発
ドラッグ&ドロップのビジュアル開発環境 対応 対応 非対応
JavaScriptやHTML等でのコードカスタマイズ可 対応 非対応 対応
開発期間 通常数日 通常数日 通常数か月
アプリの作成者 1人または小規模チーム 1人 開発チーム
開発コスト 無料または低コスト 無料または低コスト 高コスト
拡張性 中程度 低い 高い

ローコードで企業は何を構築できるのか

各ローコード・プラットフォームは共通点もありますが、その目的や機能レベルは異なります。最終的な成果物は、貴社が選ぶプラットフォームや開発者のスキルに依存します。一般的に、ローコードを使って以下のようなアプリケーションを構築できます。

  • 業務プロセスアプリ:複数部門を持つ企業では、業務の組織化を支援するテクノロジーが不可欠です。このタイプのアプリは、生産性やワークフローを管理・自動化・最適化するのに役立ちます。
  • 顧客向けアプリ: 顧客向けアプリは、消費者とブランドとの直接的なつながりを作ります。たとえば、保険会社の顧客が契約内容を管理できるアプリや、学生が大学の情報にアクセスできるアプリなどが該当します。最終的な目標は、よりパーソナライズされたカスタマー・エクスペリエンスの提供です。
  • データ処理アプリ:ローコード・プラットフォームはAIの組み込みも可能で、効率的かつ高精度なデータ処理を実現します。データへのアクセス性向上は生産性を促進し、従来手作業で行っていた機能を自動化することで時間やコストの削減にも貢献します。
  • 業務効率化アプリ:業務効率化アプリは、テクノロジーを活用して業務オペレーションや職場の効率を高めます。代表的な機能には、従業員のトレーニング支援、カスタマーサービスの強化、製品の高品質基準の徹底などがあります。
  • ユーザーインターフェースアプリ:Webサイトやモバイルアプリでの体験は、ブランド全体の評価を左右します。ローコードを使うことで、ユーザーインターフェースの設計・構築が可能になり、顧客満足度とブランド評価の向上につながります。

ローコードの主なユースケース

ローコード・プラットフォームのユースケースはほぼ無限に存在します。オラクルだけでも85万人以上のお客様がOracle APEX上で2,100万件以上のアプリケーションを開発しています。以下はその例です。

  • Trailcon 360は、3万台を超える商用セミトレーラーの位置情報、テレマティクス、保守状況を出荷業者にリアルタイムで提供するローコードアプリです。フリート管理会社Trailconの月間3,000件を超える請求書の処理にも利用されています。
  • Natcorpが提供するローコードアプリでは、ブラジル国内60万人以上のエンドユーザーの人事管理が行われています。最新バージョンでは生成AIが組み込まれ、ユーザーがテキストで質問するだけでデータ主導の回答が得られます。
  • 米国の政府機関向けソフトウェアベンダーSavantage Solutionsは、資産管理ソフトをローコードアプリに刷新しました。その主なメリットは、直感的なユーザー・エクスペリエンス、データ可視化とレポート機能の強化、ブラウザ非依存性、セキュリティの向上などです。

ローコード・プラットフォームの選び方

現在、さまざまな機能・特徴を持つローコード・プラットフォームが存在しています。個人利用向けのものもあれば、ビジネス用途重視のプラットフォームもあります。コストも、機能性・利用規模・サポートレベルによって異なります。オープンソース型のプラットフォームもあり、コミュニティサポートが無料のものから、プロフェッショナル向け有償サポートが選べるものまであります。

プラットフォーム選定時の主なステップは以下の通りです。

  1. 業務ニーズの明確化:何を構築したいのかを具体的に定義します。誰がアプリを開発するのか、その経験レベルはどうか、利用者は自社内限定なのかパートナーやサプライヤーも含まれるのかを整理しましょう。また、スケーラビリティ(同時利用人数など)、信頼性、アクセス制御・セキュリティなどの要件も明確にしておきます。
  2. 技術要件の評価:現在社内で使っている他のソフトウェアとどのような連携(読み取り専用か書き込みも必要か)が必要か確認します。エンドユーザーが利用する環境はブラウザベースかモバイル端末か、その両方かも考慮しましょう。また、RESTベースのWebサービスなど、特定のAPIとの接続が必要かどうかも重要なポイントです。
  3. ユーザー・エクスペリエンスの検討:アプリを使うのは誰で、どの程度の技術スキルを持っているかを把握しましょう。ユーザーインターフェースに求められる機能(リアルタイムデータ取得やグラフィック表示など)は満たされているか、多言語対応が必要かどうかもチェックしてください。インターフェースが標準的なブラウザや、iOSやAndroidなどの主要モバイル端末で直感的に使えるかどうか、デバイスの認証システムが利用できるか、別途セキュリティプロセスが必要かなども確認しましょう。
  4. カスタマイズ性と柔軟性の評価:ローコード・プラットフォームは、標準でさまざまな機能を備えていますが、追加で機能拡張したい場合、その柔軟性やカスタマイズのしやすさも重要です。チームが馴染みのある言語でカスタマイズできるか、JavaScript・HTML・SQL・RESTベースAPIなど標準技術を使って外部クラウドサービスやアプリケーションと連携できるかも確認しましょう。
  5. ベンダーの信頼性とサポート体制を確認:選定したローコード・プラットフォームのベンダーが、アプリの想定利用期間中に事業撤退やサービス終了となるリスクはないか検討しましょう。また、今後も新技術導入や機能強化、バグ修正、セキュリティアップデートが継続的に行われるかも重要です。開発者向けの技術サポートが充実しているかもチェックしましょう。
  6. コストとライセンスの分析:すべてのローコード・プラットフォームには、オープンソースか商用かを問わずライセンスが必要です。その内容や費用体系が自社の要件に合っているか確認します。開発ツールや利用ユーザーごとの課金、アプリ完成後の利用料やテクニカルサポート費用がどこまで含まれるかも把握しましょう。そのプラットフォームを使用して追加のアプリを構築する場合、それらは一括ライセンスに含まれますか?それともアプリごとに料金を支払うのでしょうか?そのベンダーからすでに購入している他のソフトウェアのライセンスに、ローコード・プラットフォームの料金も含まれていますか?
  7. パイロットテストの実施:ローコードアプリケーションが要件を満たせるかを判断するために、まずPoC(概念実証)やパイロット版アプリの構築・検証がどれくらい簡単か確認しましょう。データベース連携も含めて、追加コストや長期契約なしでテストできるか、パイロット用の一時ライセンスがあるかも検討ポイントです。
  8. フィードバックの収集:長期契約前に、開発担当者や想定ユーザーが試せる環境を提供しているかを確認しましょう。また、アプリのUIや機能性についてフィードバックを簡単に集められる仕組みがプラットフォーム側に備わっているか、バグやロジックエラーを指摘しやすいかどうかも評価しましょう。
  9. 十分な検討・意思決定:前述のポイントも含め、ローコード・プラットフォームに求める「必須条件」と「あれば尚良い機能」を整理しましょう。予想プロジェクトコスト(導入後の開発工数、ユーザー数・トランザクション数などで変動)も見積もっておきます。
  10. 導入計画の策定:採用を決定したら、アプリをアイデア段階から本番運用まで進めるための具体的な手順やプロセス計画を立ててください。実際の進め方については次章でさらに説明します。

ローコード導入の始め方

ローコードアプリ開発は従来のソフトウェアエンジニアリングに比べて圧倒的にスピードが速いものの、ビジネスプロセスとしてしっかりと取り組むべき領域です。組織がローコードアプリ開発を検討する場合、そのプロセスやローコードの設計原則に適応するには時間がかかることがあります。また、カスタムアプリ開発や、ソフトウェアエンジニア以外がコードを書くことあるいは正式な開発チームのプロセス以外での開発に慣れていないステークホルダーの理解と協力が必要になることがあります。以下に、検討すべき主なポイントを挙げます。

  1. 評価:初めに行うべきは、ローコードがプロジェクトに適した選択肢かどうかを判断し、最適なローコード・プラットフォームを選定することです。これには、プロジェクトの要件の評価、アプリ作成担当者やチームの特定、さらに想定されるエンドユーザーやその他主要なステークホルダーの洗い出しも含まれます。また、プロジェクトの予算・スケジュール・成功の指標(KPI)を明確にしておくことも重要です。
  2. トレーニング:ローコード・プラットフォームは直感的で使いやすく、ブラウザからドラッグアンドドロップで操作できます。しかし、だからといって、機能性、安全性、スケーラビリティ、使いやすさ、信頼性、自社の基準への準拠性を備えた業務アプリを作るためのトレーニングを受けずに、いきなり構築を始めるべきではありません。オンライン学習など、新しいプラットフォームのトレーニングを受ける時間を確保しましょう。
  3. パイロットプロジェクト:非常に重要なアプリの開発にすぐ着手したくなる気持ちは理解できますが、最初からそこに取りかかるのは避けましょう。まずはアプリ開発担当者に、小規模な課題解決から取り組ませ、経験を積ませることが大切です。あわせて、ローコード・プラットフォームが他の重要な業務ソフトウェアとどのように連携するかを学ぶよい機会にもなります。たとえば、経営幹部向けの高度なデータ分析アプリを構築する前に、まずはデータベースからいくつかのレコードを取得するだけのシンプルなアプリを作成してみるのはいかがでしょうか。
  4. システム連携:どのアプリ開発プロジェクトでも、ローコードであれ従来型であれ、システム連携は最も難しい部分のひとつです。貴社にはおそらく、データベースやレガシーアプリケーション、クラウドアプリケーション、外部Webサービスなど、多くのデータソースが存在するでしょう。ローコードアプリの開発担当者は、それらのデータソースを正確かつ安全に特定・アクセスするための方法について、支援が必要となる場合もあります。
  5. コラボレーション:開発者は孤立して作業することはできず、ローコードアプリの開発者も同様です。たとえ業務要件を十分に理解している場合でも、技術スタッフをはじめとした各分野の専門家や、最適なユーザーインターフェース設計のために意見をくれる多様なエンドユーザー層の協力が不可欠です。また、ローコード・プラットフォームによっては複数の開発者がチームで共同作業できる機能が備わっている場合もあるため、その活用方法もあらかじめ把握しておくことが大切です。
  6. 反復的な開発:現代のソフトウェア開発は、まず小さな機能を実装し、フィードバックを受けてその内容を反映し、さらに機能を追加し…というサイクルを何度も繰り返す「反復型(イテレーティブ)」の手法が最も効果的とされています。このアプローチはローコード開発にも非常に適しており、とくにアプリを作成する人が専任のソフトウェアエンジニアではなく、他に本業を持っている場合はなおさらです。
  7. 拡張性:ローコードアプリは、最初は1人のユーザーから始まり、次第に10人、そして気づけば1,000人、1万人と利用者が拡大することも珍しくありません。しかし、アプリの設計が甘い場合、たとえ優れたローコード・プラットフォーム上に構築していても、利用規模が拡大した際に動作が不安定になったり、停止してしまうことがあります。特に外部データソースとの接続に関しては、パイロット段階では問題なく動作していても、本格的に従業員やパートナー、顧客など大規模なグループで利用した際に不具合が発生するリスクがあります。そのため、アプリの展開は段階的に進めていくのがベストプラクティスです。
  8. ガバナンスとコンプライアンス:ローコードであれ従来型であれ、どの組織にもソフトウェアやデータに関する独自の要件があります。これには、従業員やお客様の個人情報(PII)、財務データ、営業秘密、医療記録などの取り扱いが含まれます。その一部は、業界基準や会計基準、訴訟、政府による法令等によって規定されています。ローコードアプリを開発する担当者が、これらの要件に精通した関係者と連携し、認可されたプロセスに従ってコンプライアンスを確保していることを必ず確認してください。
  9. フィードバックと改善:前述の通り、最良のソフトウェアは反復的に作られます。しかし、ソフトウェアソリューション、たとえローコードアプリであっても、「完成」するということはほとんどありません。常により良い方法が存在し、新しい機能の追加や使いやすさの向上、新技術の導入、そして当然ながらバグ修正などの余地が残されています。アプリ開発者(またはアプリの保守担当者)が確実にフィードバックを受け取れる仕組みを整え、個人のプライドがアプリの品質向上の妨げにならないようにしましょう。
  10. 文化的な変化:ローコードは新しい技術ではなく、すでに何年も前から存在していますが、貴社にとっては初めての取り組みかもしれません。全てのアプリケーションを従来のソフトウェアエンジニアリングチームが開発すべきだと考える人からの反発があるかもしれませんし、プロジェクトに関わりたいと思っていても、時間・知識・経験が足りない人もいるかもしれません。また、ローコードであっても、企業の基準やコンプライアンスルールを守る必要があることを十分に理解していないアプリ開発者も存在し得ます。新しいローコードプロジェクトを始める際は、単なる技術的側面だけでなく、人に関する要素にも十分に配慮してください。

ローコード開発におけるセキュリティとコンプライアンス

企業におけるすべてのソフトウェア開発プロジェクトは、必ずセキュリティが確保されていなければなりません。仮に社員専用のソフトウェアであっても、アクセス制御は必要です。アプリがローコードで作成されたものであろうと、従来型のソフトウェアエンジニアリング技法で作成されたものであろうと、在庫管理システムやお客様データベースなど企業データへアクセス可能な場合は、暗号化と認可を確実に行わなければなりません。貴社が求めるセキュリティ要件をアプリ開発プラットフォームがサポートしていることを確認するだけでなく、アプリ作成者がそのセキュリティ機能を適切に活用していることも同じように重要です。誰かがインターネット上のアクセス可能な場所にプレーンテキストファイルでデータを書き込んでしまい、情報漏洩を招く――そんなことは絶対に避けなければなりません。

セキュリティと密接に関連するものとして、コンプライアンスも同様に極めて重要であり、多くの側面を持っています。社内の機密情報に関するガイドラインがあるだけでなく、政府による規制や、上場企業のIR自粛期間のような業界規制、データ主権、営業秘密、価格設定、契約条件、法的和解、知的財産に関するルールなども該当します。この点において、ローコード開発と従来型ソフトウェアエンジニアリングの間に違いはありません。セキュリティとコンプライアンスに関しては、「最初からすべてを正しく行う」ことが絶対の原則です。

それでも、基幹業務部門でアプリを開発する担当者は、セキュリティやコンプライアンスの規則に詳しくない場合があります。しかし、正直なところ、それは言い訳にはなりません。どんなに目立たない小規模なアプリであっても、アプリを作成する者は、必ずIT部門や法務部門、さらにコンプライアンス・ガバナンス担当部門と相談し、正しい手続きが整備されていること、承認フローが明確であることを確認し、すべてが記録として残るようにしなければなりません。これらのプロセスは手間に感じるかもしれませんが、アプリのセキュリティを徹底することで、自社の評判とビジネスを守ることができます。

ローコードの事例

世界中には何百万ものローコードアプリケーションが存在します。オラクルによれば、Oracle APEXだけでも2,100万件以上のアプリが開発されています。その中には、ごく小規模なものとして、部門の年次ホリデーパーティーの出欠を集計し、どの従業員が手作りデザートを持参するのか、飲み物を持参するのかを記録するアプリもあります。反対に大規模なものでは、トラクタートレーラーのフリートのリアルタイム位置や稼働状況を可視化するアプリもあります。

以下は、ローコードアプリケーションの主なユースケースです。

  • 新たなビジネスチャンスに即応するためのモバイルアプリの作成
  • 重要な業務機能で利用されていたスプレッドシートをフォームベースのWebアプリに置き換え
  • レガシーなクライアント/サーバーアプリケーションに、ブラウザベースのフロントエンドを構築
  • 人事システムからデータを取得し、従業員が利用できるディレクトリを作成
  • データベースから読み取る安全なRESTベースのアプリを通じて、パートナーに重要なデータへのアクセスを提供
  • 複数の社内データソースから情報を集約し、経営陣向けに要約レポートを作成
  • ERPシステムからカスタムのインタラクティブレポートを作成

ローコードの未来

ローコードの今後はどうなるのでしょうか。ここ数年の動向を見る限り、ローコード・プラットフォームは、今後もさまざまな方向に、同時に進化していくと考えられます。

連携の強化:ローコード・プラットフォームには、クラウド上の他のデータソースやレガシーなクライアント/サーバーシステムとの連携を支援するツールが、これまで以上に多く搭載されるようになります。

ウィザード機能の強化:現代のローコード・プラットフォームはすでに、テーブルやフィールドの選択プロセスを簡略化するなど、アプリ開発者がAPIやデータベースを理解しやすくする機能を提供しています。これらのツールは今後さらに進化し、AIの活用が進むことで、開発者が「こうしたい」と自然言語で指示するだけで、アプリビルダーがその内容に基づいて機能を自動生成してくれるようになっていくでしょう。

コラボレーション機能の強化:従来のローコード・プラットフォームは、基本的に一人のアプリ開発者向けに設計されていました。しかし現在では、共有ワークスペースやGitHub連携など、チームでの協働を支援するツールを備えるプラットフォームが増えています。今後は、従来型ソフトウェアエンジニアリングで一般的なコラボレーションツールが、ローコードにもより多く取り入れられていくでしょう。

スケーラビリティの向上:ローコードアプリはすでに、高速かつ応答性に優れ、数百〜数千人規模の同時ユーザーやトランザクションに対応できます。今後は、より大規模なスケーラビリティに対応するため、複数サーバーインスタンスへの対応など、さらなる進化が期待できます。

ユーザー・エクスペリエンスの強化:ローコードアプリのユーザーインターフェースは、すでに直感的で使いやすく、カラフルなアイコンやグラフィックス、インタラクティブなチャートやテーブル、さらには生成AIチャットウィンドウなどを提供しています。今後はWebブラウザでもスマートフォンやタブレットのようなモバイル端末でも、さらにユーザー・エクスペリエンスが向上することが予想されます。

Oracle APEXでアプリをより速く構築

ビジネス向けソフトウェアの構築には、ローコード・プラットフォームの活用が最適な選択肢であり、85万人以上の開発者が利用しているOracle APEXはその決定版とも言えます。実際に世界中の企業で、2,100万件以上のアプリケーションがOracle APEXの業界レベルの堅牢なセキュリティ、高い可用性、優れたスケーラビリティを活用して構築されています。

さらに、Oracle APEXは、Oracle Autonomous Databaseを含むOracle Databaseの完全サポート・無償機能であり、オンプレミスでもOracle Cloud Infrastructureでも利用できます。すでにOracle Databaseをご利用のお客様は、追加費用なしでOracle APEXにアクセスできます。もしお持ちでなくても、常時無料のOracle APEXもご利用可能です。

まずは2分で始められる無料のOracle APEXワークスペースで、エンタープライズアプリを従来の20倍の速さ、100分の1のコード量で開発する方法をご体験ください。

自然言語のプロンプトに基づいてコードを生成する生成AIツールは、開発者にもビジネス担当者にも同様にメリットがあります。何を作成するかを説明し、システムに方法を決定させるだけです。クラウドがさらに改善する10の方法をご覧ください。

可能であれば、ローコードで構築を

ローコードは、エンタープライズソフトウェアをより賢く、より速く構築するための優れた手段です。本稿でご紹介した通り、すべての課題がローコードに適しているわけではなく、プロジェクトによっては従来型のソフトウェアエンジニアリングが必要となることもあります。しかし、ローコードが利用できる場面では、開発に必要な工数を大幅に削減し、少人数・少ないリソースでアプリを構築でき、開発期間も数か月から数日へと劇的に短縮できます。

現代のローコード・プラットフォームは、非常に直感的な開発体験や、生産性を高め欠陥を減らすツールなど、従来のローコードシステムと比べても大きなメリットがあります。さらに、構築コストが削減でき保守も簡単になるため、ローコードは組織のソフトウェア開発の積み残し(バックログ)を解消し、課題解決や新たなビジネスチャンスをより迅速につかむための有力な選択肢となるかもしれません。一度、導入を前向きにご検討いただく価値があります。

ローコードに関するよくある質問

ローコード開発とは何ですか?

ローコードとは、ソフトウェア開発を簡素化した手法です。コンピュータエンジニアでなくても、ビジネス担当者などが視覚的なポイント&クリックツールを使って、アプリケーションの設計・開発・テスト・導入を行えます。ローコード・プラットフォームによっては、アプリをブラウザやモバイル端末上で動作させることも可能です。

ローコードはノーコードとどう違うのですか?

ノーコードプラットフォームは、完全にビジュアルなインターフェースだけでシンプルなアプリを作成できます。ローコード・プラットフォームはそれを一歩進めて、JavaScriptやHTMLなどのコードを使ってカスタマイズできる機能も備えており、ビジネス上の課題をより柔軟に解決できます。

ローコードは誰でも利用できますか?

基本的なITスキルを持つビジネス担当者であれば、オンライン研修などを受ければローコードでアプリ開発ができるようになります。もちろん、経験豊富なソフトウェア開発者もこれらのツールを活用でき、多くの場合ローコードを理想的な開発手段と感じています。

ローコードは良い選択肢ですか?

ローコードは非常に優れた選択肢です。多くのビジネス要件をローコードアプリで解決でき、その大きな利点は、従来のソフトウェアエンジニアリングと比べて、アプリの設計から導入までを格段に短時間で行えることです。数か月、あるいはそれ以上かかっていた開発も、数日で実現できる場合があります。

ローコードは難しいですか?

ローコードは従来のソフトウェア開発よりずっと簡単です。多くの最新ローコード・プラットフォームには、充実したオンライン研修や、アプリ開発を支援するウィザードや便利なツールも豊富に備わっています。