お客様のビジネスでAIを拡張するには

Jeffrey Erickson | コンテンツ・ストラテジスト | 2024年2月9日

AIは貴社のビジネスに大きな影響を与える可能性があります。AIを味方につけるには、AIの取り組みを単なる実験から実際の運用へと進める必要があります。

AIをいち早く導入した企業は、AIを活用して、買掛金・売掛金処理のスピードや精度を高めたり、法的文書やその他の調査書を要約したり、X線画像の解読などの重要なタスクの信頼性を向上させています。また、AIを活用して数百万件に上る財務取引の中から不正を検知したり、慌ただしい倉庫業務や製造現場で素早い意思決定を実現しているリーダー企業もあります。さらに、AIチェットボットを利用して、ますます複雑化するサポートコールに対応したり、営業担当者に次善のステップを案内している企業もあります。

そして、これらはまだ始まりに過ぎません。

しかし、このような成功の裏では、組織はAIを実際に機能させるために必要なツールと人材を確保し、技術的および意識面での調整を行う必要がありました。

以下では、AIを拡張し実際にビジネスに適用する上でのさまざまな課題について見ていきます。

スケーラブルなAIとは

スケーラブルなAIとは、機械学習(ML)アルゴリズム生成AIサービスを、ビジネスの需要に合わせた規模で、日々の業務の実行を可能にする能力を指します。アルゴリズムや生成モデルを必要なスピートと規模で動作させるためには、十分なインフラストラクチャとデータ量が必要です。また、スケーラブルなAIアルゴリズムが望ましい回答を導き出すためには、ビジネスに関係するあらゆる場所から得られ、統合された完全なビジネスデータが必要です。

同様に重要なのは、AIのアウトプットを業務で活用する態勢が整っている従業員がいることです。これらの要件がすべて整えば、スケーラブルなAIによって、ビジネスのスピード、セキュリティ、正確性を向上させ、パーソナライズや創造性といった面も強化できるかもしれません。

主なポイント

  • AIの拡張により、さまざまな業務において大幅な改善を支援できます。
  • AIの取り組みを成功させるには、データ管理、データサイエンス、ビジネス・プロセス管理など、多くの要素を考慮する必要があります。これらは多くの場合、MLOps(AI/機械学習を効率的にビジネスに適用するための運用手法)の一環として見なされます。
  • MLOpsには、ビジネス目標を達成するための機械学習モデルの構築とトレーニング、または既存のアルゴリズムや大規模言語モデル(LLM)のトレーニングが含まれます。
  • AIを日々の運用に取り入れる際には、データセキュリティ、データプライバシー、および規制レポートを考慮する必要があります。

AIの拡張が難しい理由

AIを拡張するには、投資とコミットメントが必要です。たとえば、新しいスキルやテクノロジー、強力なコンピューティング環境、そして組織の運営方法の変更が必要となります。AIを拡張するということは、単にモデルを構築してトレーニングするだけでなく、それらを本番環境のアプリケーションに導入して大規模に実行し、ビジネスユーザーに監視およびレポート機能を提供することを意味します。

AIの拡張を成功させるためには、6つの大きな課題を克服する必要があります。

  1. データ: データはAIの生命線です。機械学習アルゴリズムのトレーニングにも、出力の生成にもデータが必要です。機械学習モデルが使用するデータにはさまざまな形式があります。リレーショナルデータベースのように行と列の表形式のデータもあれば、テキスト文書や画像、動画の形式、ソーシャルメディアに存在するデータもあります。

    膨大な量のデータを取得、整理、分析するには、データ管理の専門知識と、スケーラブルなクラウドベースのデータレイクハウスなどのツールやクラウドサービスへの投資が必要です。データセキュリティとプライバシーは、どのようなスケールのAIにおいても最も重要な懸念事項です。データは、企業が保管する機密データと同様、外部および内部の脅威から保護されなければなりません。また、AI運用チームは、トレーニングデータ内の機密情報がAIの出力に反映されないよう保証する必要があります。

  2. プロセス: AIを拡張するには、少なくとも次の3つのグループによる反復的な作業が必要となります。

    1. 業務エキスパートは、カスタマーサービス、出荷と物流、製品設計、放射線学、会計など、各業務の専門家です。
    2. IT部門は、運用データを統合、保護、標準化し、必要な計算能力とネットワークを構築します。
    3. データサイエンス部門は、AIの導入と拡張に備えるため、機械学習機能の作成、モデルの選択、パラメータの調整などを行います。業務エキスパートは、データサイエンティストと協力して、AIの出力がガイドラインに準拠していることを確認します。IT部門やデータサイエンス部門は、基盤モデル自体を変更することなく組織のデータに基づいてLLMの出力を最適化できる検索拡張生成(RAG)の導入についても検討する必要があります。

  3. ツール: AIの拡張に使用されるツールには、データサイエンティストが機械学習モデルの構築に使用するツール、IT部門がデータを管理し、計算量の多いアルゴリズムをサポートするために使用するツール、ビジネスユーザーが日常業務でAI出力を活用するために使用するツールの3つがあります。ひとつの機械学習モデルを構築するには、数十種類の専門システムが必要になることがあり、データサイエンスの専門家が、多種多様なオープンソースや独自のツールから組み立てることもあります。

    最近のテクノロジー企業は、AIを拡張するために、データサイエンス、データ管理、AI運用ツールを単一のプラットフォームに統合しています。この機械学習プロジェクトを円滑に進めるための取り組みは一般的にMLOpsと呼ばれます。統合プラットフォームには、AIを構築、維持、監視するためのツールに加え、社内の利害関係者や規制当局にAI出力を報告するためのツールが含まれています。

  4. 人材: 機械学習モデルの設計、トレーニング、導入に必要な専門知識の習得には時間がかかるため、AIの専門家の希少価値は高く、雇用には多額の費用がかかります。そのため、これまでAIプラットフォームを構築してきたのは大手テック企業であり、AIの専門知識を得るために進んで多額の費用を支払えるのは、テクノロジーに精通した大規模な組織のみでした。

    しかし現在では、MLOps プラットフォームがクラウドサービスとして利用できるようになり、LLMもAPI呼出しを通じて利用できるようになりました。これにより、より多くの企業がAIを利用できるようになりました。データ管理やデータサイエンスの専門知識は依然として必要ですが、クラウドプロバイダーが提供するAIサービスの普及により、AIモデル構築の深い専門知識を持つ人材を雇用する必要性は軽減されました。

  5. 範囲: AIの試験的運用を終え、より広くビジネスに適用する場合、どの程度までAIを拡張すべきでしょうか。できれば、出荷時間の短縮やカスタマー・エクスペリエンスの向上など、明確な運用上のメリットが得られる規模まで拡張するのが理想的です。その一方、AIの初期の取り組みにおいては、複雑すぎたり、収益に直接影響を与えるものは避けるべきです。そうでないと、問題が発生した場合にリスクを恐れてすぐに中止せざるを得なくなります。そのため、問題が発生してもそれほど大きな被害が出ない分野から小規模に始めるのがお勧めです。AIプロジェクトの範囲は、組織内で専門知識と自信が深まるにつれて、より拡大していくでしょう。

  6. 時間:CompTIAによると、AIプロジェクトの約80%はPoC(概念実証)の範囲を越えておらず、成功したプロジェクトでも、スコープと複雑さに応じて3か月から36か月かかっています。その期間は、モデルの選択と導入、および管理された環境でのAI出力の監視に時間が費やされることになります。

    また、大規模なAIシステムに必要なデータを供給するために必要な時間と労力についても考慮する必要があります。データサイエンティストやIT部門は、機械学習アルゴリズムを通じてデータの取得、統合、保存、準備、ストリーミングを行い、出力を監視する必要があります。成長を続けるオープンソースのツールやライブラリ、自動化ソフトウェア、クラウドサービスを利用することで、このサイクルを加速させることができます。この分野が成熟するにつれ、ツールも同様に進化します。

AIの拡張が重要な理由

AIの拡張は困難ですが、ビジネスリーダーたちは、その課題や初期費用は最終的にビジネス上の利益によって相殺されると期待しています。McKinseyによると、AIは2030年までに世界経済に13兆ドルの利益をもたらすと推定されています。それにはいくつかの理由があります。まず、AIを活用するために、より多くの企業が「デジタル・トランスフォーメーション」プロジェクトに着手し、デジタル経済においてより革新的で競争力のある企業となるために自社のデータを活用するようになるでしょう。AIはこれらの競争優位性を強化し、さらなるイノベーションへと導きます。すでにAIを導入している企業は、顧客満足度の向上や従業員の生産性向上、そして船舶、トラック、製造設備、倉庫などの資産のより効率的な活用といった利益を享受しています。

お客様のビジネスでAIを拡張するには

厳しいビジネス環境においてAIを導入するのは困難な作業ですが、適切なプロジェクトであれば、その価値は十分にあります。まずは、データサイエンスから始めて、機械学習アルゴリズムのライブラリをビジネス目標に合わせてカスタマイズしましょう。これは、APIを使用してOpenAIやCohereなどのベンダーが提供する大規模言語モデルにアクセスし、トレーニングしている企業にも有効です。

次のステップは、AIのトレーニングに使用するデータセットを特定し、取り込むことです。データセットは社内または社外データ、あるいはその両方で構成されています。AIをビジネス環境で活用するには、カスタマーサービス、財務、法務などの部門の利害関係者と支援者によるサポートが必要となります。データサイエンス部門とこれらの支援者が連携し合うことで、AIエンジニアは業務部門の「日常業務」がどのようなものかを正確に理解できます。また、これらの支援者は、同僚やパートナーと協力してAIドリブンのプロセスに備え、立ち上げ時には幅広い導入を推進するという責任を担います。機械学習モデル、データフロー、ビジネス・プロセスが整えば、ビジネスでAIを拡張することができます。

5つの重要な要素を組み合わせることで、企業はAIの取り組みを成功させ、さまざまなメリットを得られます。

この図は、AIの取り組みを成功させるための5つの重要な要素を示しています。

  • 適切なデータ: データは慎重に取得、標準化、統合する必要があります。
  • 適切なプロジェクト: 定量化可能な価値が得られる、達成可能な目標を選択します。
  • 適切な支援者: プロジェクトに協力してくれる支援者を確保しましょう。
  • 適切なレポート: 実証可能なセキュリティ、コンプライアンス、KPIにより、成功を証明できます。
  • 適切なプラットフォーム: すべてを連携させるためのAIライフサイクル・ツールを導入します。

AIを拡張するための7つのベストプラクティス

ビジネス・プロセスでAIを拡張するためには、多くの課題が伴います。以下に、成功に欠かせない実証済みのベストプラクティスをご紹介します。


1. データ・ライフサイクルに着目

データサイエンティストが機械学習モデルを構築し、ビジネスがこれらのモデルを拡張するには、データソースの統合と更新、およびセキュアで標準化された形式の提供が可能なデータ構造を確保する必要があります。


2. MLOpsの標準化と合理化

データサイエンスおよび機械学習の運用チームのスキルセットにフィットし、自社のITインフラストラクチャまたは主要なクラウドプロバイダーのインフラストラクチャに適合するMLOpsプラットフォームを選択します。


3. 部門横断的かつ協力的なAIチームの結成

AIプロジェクトは、分野や部門を横断する取り組みです。ビジネス全体から利害関係者を招集しましょう。


4. 成功の見込みが高い初期プロジェクトの選択

ビジネスのあらゆるプロセスにAIを取り入れることは簡単ではありません。まずは素早く成果を上げることができ、より野心的な将来のプロジェクトの先駆けとなるプロジェクトから始めましょう。また、成功を確実にするためにAIセンター・オブ・エクセレンスの立ち上げも視野に入れます。


5. ガバナンスとレポート体制の確立

あらかじめガバナンスが組み込まれたデータ管理、データサイエンス、ビジネス運用ツールを選択します。関連するセキュリティおよびプライバシー規制を理解し、プロセスにコンプライアンスとレポート体制を組み込みます。


6. モデルをエンドツーエンドで追跡

AI出力の速度やコスト、出力の根拠、エンドユーザーにとっての価値などを追跡できる機能を探しましょう。


7. 適切なツールの使用

ビジネスでAIを拡張するには、データサイエンティストがITエンジニアと連携し、AIガバナンスやコンプライアンスの問題に関し両グループがビジネスユーザーと協力するためのツールセットが必要となります。クラウドベースのデータサイエンス・プラットフォームは、機械学習モデルやノートブック(コード実行とデータ可視化およびテキストによる解説を組み合わせたインタラクティブな計算環境)を構築、トレーニング、導入、管理するための場所をデータサイエンス部門に提供することができます。重要なのは、AIエンジニアがモデルを試行し、開発し、その利用を拡張できるスペースを提供することです。

オラクルを活用したAIの拡張

AIの拡張を検討している企業にとってOracle Cloud Infrastructure (OCI)は賢明な選択肢です。企業にとって最も理にかなった方法でAIのメリットを享受でき、ニーズに合わせて拡張できます。組み込みの機械学習モデルとAIサービスを備えた幅広いSaaSアプリケーション、そして機械学習モデルを大規模に構築、トレーニング、導入するためにの最高レベルのインフラストラクチャを利用できます。また、オラクルでは、Cohereの最新のLLMベースの生成AIモデルに簡単にアクセスできます。

データサイエンティストは、フルマネージド型のデータサイエンス・プラットフォームにより、Pythonやその他のオープンソース・ツールを使用して機械学習モデルを構築、トレーニング、導入、管理できます。オラクルは、JupyterLabベースのインフラストラクチャを提供することで、モデルをテスト、開発し、トレーニングをNVIDIA GPUと分散トレーニングで拡張することを可能にします。クラウドは、対話型アプリケーションや拡散モデルなどの生成AIのトレーニングに最適です。

OCIでは、自動化されたパイプライン、モデル導入、モデル監視などのMLOps機能を使用して、モデルを本番環境に移行し、最新の状態に保つことができます。今すぐオラクルにお問合せいただくか、これらのサービスを 無料でお試しください。

コンシューマーグレードのAIが注目を浴びる中、企業はAIと機械学習を積極的に導入しています。テクノロジー・プラットフォームとビジネス・プロセスの急速な台頭がエンタープライズAIの拡張を促進しています。今後はより多くのAIプロジェクトがPoC(概念実証)から本格的な本番環境に移行できるようになるでしょう。解決すべき課題は残っていますが、それを克服した企業は、効率性、正確性、データ・セキュリティ、パーソナライゼーション、イノベーションの向上を実現できます。

企業独自のトレーニングを開始する前にAIセンター・オブ・エクセレンスを整備することで、AIプロジェクトの成功率が高まります。当社のeBookでは、その理由と、効果的なCoEを構築する方法について説明します。

AIの拡張に関するよくある質問

AI製品の活用を拡張するにはどうすればよいですか?

AI製品の活用を拡張するには、組織内のさまざまな利害関係者のチームワークが必要です。これには、データサイエンス、データ管理、ITの専門家や、AI製品が使用されるビジネス・プロセスに精通した人々などが含まれます。これらの人々が連携して、MLアルゴリズムの設計、トレーニング、導入、微調整などを行う際にMLOpsプラットフォームが役立ちます。

AIスタートアップ企業を拡張するにはどうすればよいですか?

AIスタートアップ企業を拡張するには、データ収集、機械学習モデルまたはLLM、オンプレミスまたはクラウドベースのコンピュート・インフラストラクチャに関する適切な意思決定を、初期の段階で行う必要があります。スタートアップ企業は、大規模なデータセットをトレーニングするために多数のGPUを調達し、パフォーマンスと信頼性を備えた複雑なAIインフラストラクチャを実行して、結果をタイムリーに提供する必要があります。

AIシステムのスケーラビリティとは何ですか?

スケーラブルなAIシステムとは、厳しいビジネス環境で成功するために必要なスピードと精度を備えたシステムです。これらのシステムは、実験やPoC(概念実証)の段階を超え、ユーザーグループにサービスを提供するために拡張することができます。

AIのスケーリングとは何ですか?

スケーリングとは、計算集約型のサービスをビジネスのニーズに合わせて調整することを指します。アプリケーションにより多くの計算リソースが必要な場合、アプリケーションをサポートするITインフラストラクチャを拡張する必要があります。また、インフラストラクチャが不要な場合の縮小もスケーリングの一種です。例えば、アプリケーションの中には、季節や四半期ごとに使用量が急増するものもあります。スケーラブルなクラウド・インフラストラクチャは、このようなニーズに対応して拡張・縮小できるため、企業は使用していないインフラストラクチャに対して費用を支払う必要はありません。