北海道富良野市は令和2年より他の自治体に先駆けて「スマートシティ」という言葉を部署名に含め庁内・外のデジタル化を推進してきました。自治体においてはDX推進、自治体システム標準化、ガバメントクラウド対応など幅広い対応を求められる中、常に先進的な取り組みを進められている富良野市より、スマートシティ戦略課 スマートシティ推進係 東所 龍世(トウショ リュウセ)氏にお話をお伺いいたしました。庁内・庁外問わないDX推進の背景やガバメントクラウドまで多岐に渡ってお話しいただきました。
富良野市では令和 2 年 4 月に富良野市のスマートシティへの取り組みと自治体 DX を進めるため、専属部署として企画政策部門の職員と情報政策部門の職員を中心に新たな部署、「スマートシティ戦略室」を立ち上げました。立ち上げからは、スマートシティへの取り組み、 DX を進めるための 「ICT 利活用推進計画」を策定、庁内では全部署すべての業務の棚卸、その結果を踏まえ、ペーパーレス化、電子決裁、RPA の導入。市内では様々な ICT の実証実験の実施や AI オンデマンド交通の導入、保育支援システムや除排雪効率化システムの導入などを行ってきています。
また、令和4年9月の新庁舎供用開始に合わせ、庁内ネットワークの無線化とインターネットをメインとした β’モデルへの移行を行い業務効率の改善を図ってきています。自身でも有線接続されたPCのある自席で仕事をし、印刷した紙資料とペンを持って会議に臨んでいた今までと違い、タブレットを持って庁内のどこでもペーパーレスで仕事ができるようになったことは体感できる変化です。変化することは簡単ではありませんでしたが、DX推進に当たって、理事者や幹部職員から積極的にデジタルを利用することで現場へ浸透し、さらに市長の後押しもあり円滑に進めることができたと感じています。
日本オラクル様とは令和 2 年度に実施した除排雪効率化システムの実証実験でのつながりから始まり、令和 3 年度からは北海道大学×日本オラクル×富良野市の産官学連携による「北海道大学DX提案実習」での新たな関わりをはじめ、令和 4 年度には 3 者での協定を締結、本年で同事業は 4 年目となりました。
北海道大学×日本オラクル×富良野市の産官学連携による「北海道大学DX提案実習」では、毎年本市が課題と感じている点や、より伸ばしていきたい施策に関するデータを提供し、北海道大学博士・修士課程の学生を公募により選出し、それぞれの研究分野とは異なったテーマについて分析しながら、本市の施策について改善や促進の提案をいただく事業となっています。令和 3 年度に同事業が始まり、 富良野市が直営で行っているふらのワイン事業の販売促進、リサイクル率 90%である富良野市のごみの分別について、富良野スキー場の利用促進、健幸ポイント事業の参加者増加など、様々なテーマにおけるデータを 1 年間分析しながら、年度末に最終報告会で研究の成果と施策提案をいただいております。今後も本事業を継続し、様々な施策に対して市外から見たストレートな声をいただくと同時に、本事業を通して「富良野のファン」になっていただいて、プログラムを終了したあとも富良野に来て頂くことや関わりを持って頂けるようになると嬉しいです。
富良野市職員の変化としては、学生によるデータ分析から施策の課題を認識されたこと、また、学生からの施策提案を参考に、職員が自ら考え行動するきっかけになりました。例えば、ワインの試飲セットの販売やホームページのリニューアル、 ゼロカーボンに向けた「市民の行動ブック 100+α」の策定、スキー客増に向けた「Furano bonchi powder」事業の取り組みなど、提案内容を参考に様々な施策が実施されております。庁内でも当初は特定部署との連携だけでしたが、全庁的に本プログラムの認知度が上がってきており、協⼒も得られやすくなりました。認知度向上としては、理事者や幹部職員で構成された会議体での報告共有や、本プログラムの最終報告会の視聴を可能としたり新聞や市広報誌、市公式ホームページなどで積極的な発信をしたり、共有の場を設けたことだと感じます。
現在の状況としては各業務システムのベンダーとの移行に向けたマスタースケジュールの調整や移行の要件定義に向けた準備を進めております。課題としては、標準化、ガバメントクラウドへの移行などについて、不確定な要素が多いことから、最適解を見つけられずにいる点です。また、 先⾏⾃治体の実証結果であったように、⼤きな負担となるガバメントクラウド利⽤料であったり、増加が見込まれるシステム利用料やガバメントクラウドおよび接続回線の費用をどう確保するかも課題となっております。さらに先行自治体での良い事例があれば理解しながら良いところは取り込んでいきたいと考えます。一方、移行についてはスケジュール通りできるように調整しております。
先にお伝えした通り、 現在のベンダークラウド(プライベートクラウド)よりコストの増加は避けられないと考えています。市で行う DX などもコストが増加したものもありますが、その分住民の待ち時間の短縮や業務効率の上昇、またペーパーレス化によるゼロカーボンへの寄与などコストが増加したとしてもその分付加価値的な部分があると考えています。ガバメントクラウドへの移行でもそのコストに見合った価値を示していただきたいと考えています。標準化も含め、 「コストがかかったとしてもガバメントクラウドに移行していて良かった」と思えるような状態になるように期待します。
基幹系システムの標準化と合わせて、匿名加工のルール化がされた際には、データの利活用(EBPM)などへの展開は期待できるかと思います。データをしっかり利用していくことが今後行政にも求められていると考えており、データ利活用の推進はガバメントクラウドに移行してよかったと思える一つの要因になり得ると考えます。
北海道大学様には、 北海道の最高学府として、昨今求められる DX 人材の育成と、 北海道の自治体や企業と連携・共創しながら北海道が好きな学生、北海道に住みたい学生、北海道で働きたい学生を輩出していただき北海道を共に盛り上げていきたいと考えております。オラクル様には今後もこの北海道に何かしらの形でかかわり続けていただきたいこと、そして富良野市へも北海道大学DX提案実習を含め、引き続き北海道の DX 化に関わり続けていただけることを期待します。また、OCIを利用することもあり、ガバメントクラウドでの安定稼働も期待しております。
北海道 富良野市 総務部スマートシティ戦略室 スマートシティ戦略課 スマートシティ推進係
人口19,680人(令和6年現在)の北海道の中心にある町。年間190万人以上が訪れる観光都市でもある。令和2年よりスマートシティ戦略室を立ち上げ積極的なデジタル化を推進している。
鬼澤/クラウド事業統括 クラウド・エンジニアリング統括 ソーシャル・デザイン推進本部
留岡 翼/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部