ASPに聞くガバメントクラウド・標準化の現状と課題

ガバメントクラウド移行・標準化の取組みにおいて、地方自治体に実際にシステムを提供するアプリケーション提供事業者(ASP)の役割が決定的に重要なことは言うまでもありません。移行期限が2年を切る中、今回は関東を拠点に地方自治体等における業務全域を網羅するパッケージ・システムを提供し、ガバメントクラウド移行対象20業務において最初にOCIを採用いただいた株式会社ジーシーシー様にお話を伺いました。

現状の貴社における標準化・ガバメントクラウドの取り組みについて教えてください
現状の貴社における標準化・ガバメントクラウドの取り組みについて教えてください。

 令和2年度に国から(仮称)Gov-Cloudの情報が発出されてから間もなく、「自治体システム標準化PJ」を立ち上げ、ガバメントクラウドに関する検討を開始しました。そこから数年かけ情報収集や検討を進めるとともに、OCS(Oracle Consulting Service)の支援を受け、より具体的な構成検討を行ったうえでPoC環境での検証に取り組みました。

 その後令和5年度「ガバメントクラウド早期移行団体検証事業」に採択され、ガバメントクラウド上への環境構築に着手、運用テストを経て、令和6年7月には、標準準拠システムのファーストユーザーがガバメントクラウド上で本稼働する予定で進めています。

貴社のお客様(自治体様)における標準化対応・ガバメントクラウド移行に関して、どういった課題、不安、苦労の声を聴かれていますでしょうか。

 現在の課題、不安の声としては、マルチベンダ、マルチCSPの際の連携についてと、ガバメントクラウド利用料がどうなるかとの声を挙げられている自治体様がおります。またシステムを使用する職員の操作確認や標準仕様システムでの運用の組み立てがスケジュール通りに進むよう、調整に苦労されている自治体様もいらっしゃいます。

 弊社としては自治体様へ丁寧に御説明していくと共に、ガバメントクラウド上に構築した環境で行う運用テストの中で、各ベンダとの連携が標準仕様に沿って行えることをご確認いただけるよう準備を進めております。

ガバメントクラウドの検討の際、どういった点を重視してCSPを検討・算定されたのでしょうか。 またOCIで実際に利用を始めて率直なご意見があればお願いいたします。
ガバメントクラウドの検討の際、どういった点を重視してCSPを検討・算定されたのでしょうか。 またOCIで実際に利用を始めて率直なご意見があればお願いいたします。

 基幹系システム規模をクラウドで稼働させることが初めての試みであったことから、各CSPを一から比較しました。また、弊社システムはOracle Databaseを利用しているため、デジタル庁の要件に従い、Oracle Databaseの可用性を担保しながらマネージドサービスにて提供しているCSPに絞り込みました。価格も含めた各種比較検討を行った結果、現時点においてOCIが最適であるとの結論に達しました。

 OCIの利用を開始してからは、デジタル庁の要件を満たすうえで、OCIにて提供されているサービスでは足りない部分があり苦労することもあります。たとえば、デジタル庁からファイル連携に関する仕様が公開された際に、OCIでの実現方法が分からず、OCS(Oracle Consulting Service)に相談させていただきながら認証認可基盤の方式設計を実施いたしました。また、連携ということで、マルチCSPを想定した認証認可基盤を構築する必要があったため、汎用性を高めるための設計にお付き合いいただき、結果として最善の方式を採ることができました。今後は各CSPの特色をさらに生かせるような設計が実現できればと考えています。

2025年度以降、標準化とガバクラ移行が完了してからの展望とオラクルに期待することなどあれば教えてください。

 まずは弊社システムの既存ユーザーの安定稼働を最優先とし、サポートやブラッシュアップに引き続き注力していくとともに、移行困難となっている自治体様への協力をしていきたいと考えております。

 また、アプリケーションのモダン化を行う事で、セキュアで低コストのサービスの提供と、顧客から要望の多い複数のCSPへの対応も可能なアプリケーションを目指します。今回の対応では、標準化対象業務と、標準化対象業務と関連が強いシステムがガバクラへリフトしましたが、オンプレやその他のクラウドに残っている業務システムについても、ガバメントクラウドの利用が進んでいくものと考えております。

 オラクルに期待することは、OCIのサービス拡充をお願いしたい。OCIの機能としては、例えばDRサイトへのバックアップでは、コストとのバランスを取るため、複数のサービスを組み合わせて実現していますが、ワンストップで実現できるサービスが提供されると構築負担の低減につながるので大変ありがたいです。あとはサードパーティ製品のサービス対応を充実していただくことを期待しています。

OCI事業の拡大に合わせて、AI分野も大幅に拡大される予定のようですが、自治体向けのAIソリューションを一緒に進めていきたいと考えています。

儘田 典元 氏
プロジェクトマネジメント部 次長
2001年から税業務のシステム開発、運用保守に従事、その傍ら、新規導入プロジェクトのマネジメントを兼務。2014年から住基系業務を担当し、マイナンバー制度の対応を行った。2017年から福祉系業務全般の管理を行う傍ら、複数の自治体クラウド導入プロジェクトのマネジメントを兼務。自治体システム標準化が本格化し、ガバクラの調査研究を行うため2020年11月より現所属に異動、自治体システム標準化プロジェクトに従事、今に至る。

伊久間 雅彦 氏
データセンターサービス部 次長
2005年より県公共のオンプレシステムのネットワークなどのインフラ設計構築保守業務に従事。2011年より群馬県内外の市町村のインフラを担当するなど、一貫して地方公共団体のインフラ関連業務に従事。2015年には自社初のLGWAN-ASPサービスのインフラ構築を担当。2020年より現職。自社データセンターの運用管理およびデータセンターサービスの開発に従事。2021年より自治体システム標準化プロジェクトに参画し、OCIを利用したPoCを実施。現在は早期移行団体検証事業においてガバメントクラウドの環境構築業務に従事している。

株式会社ジーシーシー
株式会社ジーシーシーは関東を拠点に、市区町村、県などの地方自治体や公共団体における業務全域を網羅するパッケージ・システムや受託開発システムを提供。サービス・プラットフォームの自治体クラウド化に向けて、提供するシステムの基盤を自社データセンターに集約するプロジェクトを2016年から開始しており、同年9月より自治体クラウド・サービスとして自治体に展開している。

インタビュアー:

高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター
尾髙 花歩/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部