ASPに聞くガバメントクラウド・標準化の現状と課題③:一般財団法人岐阜県市町村行政情報センター

今回は、岐阜県内の地方公共団体における行政事務の情報システム共同化及び標準化に関する事業を行い、行政事務の効率的運用に取り組まれている一般財団法人岐阜県市町村行政情報センター にお話しを伺いました。

理事長 後藤 茂樹 氏

貴センターについて教えてください。

一般財団法人岐阜県市町村行政情報センターは、 県内の地方公共団体における行政事務の情報システム共同化及び標準化に関する事業を行い、行政事務の効率的運用に寄与することを目的として、昭和45年4月に設立された組織です。

そして、設立以降、県及び市町村における情報システムに関する調査研究、市町村事務処理の標準システムの共同開発や受託処理などの事業を推進してきており、現在では、「岐阜県標準システム」として構築した「総合行政情報システム」を、全国最大規模の「自治体クラウドサービス」として岐阜県内35団体に提供しています。

理事・事務局長 佐野 雅哉 氏

貴センターの標準化・ガバメントクラウドの取り組みについて教えてください。

当センターでは、国の地方公共団体情報システム標準化基本方針や関係省庁から公表されている標準仕様書などに則って、令和7年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムに移行することを目標に対応を進めてきています。

今回の標準化では、これまで培ってきた自治体クラウドサービス提供の強みを活かして、ガバメントクラウドへの接続や関連する運用保守を含めた「自治体クラウドトータルサービス」を実現し、これまでどおり安心、安全なサービスが提供できるよう対応したいと考えています。

貴センターのお客様(自治体様)における標準化対応・ガバメントクラウド移行に関して、どういった課題、不安、苦労の声を聴かれていますでしょうか?

当センターのお客様からは、国等から公表される標準化に関する膨大な情報を把握することの大変さや、ガバメントクラウドに認定されているCSPのマネージドサービスなど新しい技術要件に関して理解していくことが難しいというお話、そして、現行システムと標準仕様書の機能の違いや、その違いをどのように対応していけばよいのかについて不安があるとお聞きしています。

また、 現在、 当センターが提供しているシステムはオールインワンパッケージとしてサブシステム単位だと90近くの業務システムを稼働しており、標準化の対象になっていない公営住宅、福祉医療や水道料金、そして、内部事務系の財務会計、人事給与などの業務が含まれていることから、これら標準化の対象外となった業務システムに対する標準化の影響や、標準化後にインフラ環境が多重化してしまうことによる経費増について不安があるとお聞きしています。

これらの不安に対しまして、 標準仕様の理解や機能の違いの対応に関しては、当センターにおいて国等から公表される標準仕様書等の分析を行って、その結果を、適時、市町村情報化研究会や専門部会などの市町村担当者様が参加される会議体において説明や情報提供を行ってきています。

また、 標準化の影響や経費増に関しては、 その影響を最小限にするため、ガバメントクラウドのCSP選定に当たっては、信頼性、可用性及び機密性はもちろんのこと、コスト面も重要視して比較検討し、当センターが構築・提供する標準準拠システム等を最も効率的に利用することができるのは「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」であるという結果となり、標準化の対象外となったシステムとの効率的な連携も考慮するなど、経費増の負担を少しでも軽減できるように取り組んでいます。

理事・ソリューション推進部長 森田 哲也 氏

ガバメントクラウド移行に取り組んでいる中で、貴社が苦労されている点はありますか。

今回の標準化に伴うシステム移行は、令和7年度末までに移行を完了させることが求められています。各団体における繁忙期や業務運用(税、国保等の賦課処理など)のことを考えると、本番移行を行うことができるタイミングは7月~12月に限られます。このため、移行作業は、複数団体を同時に進めなければいけません。

特に、データ移行では、現行システムのデータを新しい標準準拠システムが使用するテーブルのレイアウトに変換したり、氏名、住所等の文字について現行文字から行政事務標準文字にコード変換したりすることが必要になりますが、これらの処理も含め、データ移行に係る作業を短時間かつ正確に行う必要があります。

これらを短時間かつ正確に実施するためには、これまでの経験・ノウハウだけにとらわれていては実現できないものと考え、データ移行を担当するメンバーには、前例にとらわれずにデータ移行の仕組みを考えるよう指示し、現在もその検討を続けているところです。

OCIの利用を始めてご意見があればお願いいたします。

OCIでの環境構築は初期段階ですが、OracleデータベースのライセンスがOCIの「Oracle DBマネージドサービス」に含まれるため、ライセンス数を気にすることなく環境の増減に柔軟に対応できる点をメリットに感じています。また、機能面では、仮想ネットワーク関連のツールが強力であり、ネットワーク関係のトラブルシューティングの際にはなくてはならないネットワークビジュアライザやネットワークパスアナライザなどが提供されており便利であると感じています。

今後、期待したいところとしては、データベースのインスタンスやリソース部分についても同様のツールが提供されること、現在、監視に係るマネージドサービスの設定やスケジューリングに苦戦している状況にあり、そのあたりの改善をお願いしたいです。

OCI資格取得チームのメンバー

貴センターのSEの皆さまには多くの方にOCIの資格を取得いただきましたが、取得に向けてどういった取り組みをされていましたか?

「自治体クラウドトータルサービス」を、安心、安全なサービスとして提供できるようにするためには、OCIのマネージドサービスなどの新しい技術の習得は前提になるものと考えました。また、デジタル庁が公表している「ガバメントクラウド手続き概要」において、委託先の事業者に対しては、上級クラウド資格取得者の参画を明確に要求することが明示されたこともあって、ガバメントクラウドの選定後すぐにOCIの上級クラウド資格にあたる「Oracle Cloud Infrastructure 2022 Certified Architect Professional」を取得する計画を立ち上げました。

この計画の実施のために、資格取得に挑戦する職員を選出し、日本オラクル株式会社様から提供されたOCI資格研修サービスを活用してこの資格取得に臨みました。

この上級クラウド資格の取得は、最重要事項のひとつとして位置づけましたが、挑戦する職員だけの責任・負担とならないよう、チーム全体として取り組むことにし、2人以上の資格取得を目標として、研修受講の進捗管理は当然のこと、疑問点が出た場合にはチーム内で共有して教え合うなど丁寧にサポートしながら取り組みました。職員間で競争意識が芽生えたこともあって、挑戦した全員が資格取得するという良い意味で驚かされる結果となりました。

自治体職員の方でも資格取得をされている方もいらっしゃいますが、どういった利点があるとお考えでしょうか?

デジタル庁から公表されている「ガバメントクラウドの利用について(本記事執筆時点で第2.0版)」の中で、ガバメントクラウドの利用における地方公共団体の責任が明示されています。ガバメントクラウドの構築や運用について、各地方公共団体では、事業者に委託をして対応されるものとは思いますが、地方公共団体の管理責任を果たすために、ガバメントクラウドの利用状況の確認や障害発生時の状態の確認や理解をするためのスキル・知識は必要になってくるものと考えられますので、マネージドサービス等の用語、操作方法など、基礎的な知識・技術を習得することは必要であり、そのために資格取得をすることが必要になるとも考えられます。

資格取得を目指される場合は、日本オラクル株式会社様が提供している研修サービスを活用されることがよいのではないかと考えます。

なお、当センターのサービスを御利用いただいている飛騨市様において、総務課情報システム係の職員の方が「Oracle Cloud Infrastructure Certified Foundations Associate」の資格を取得されています。

ソリューション推進部企画開発課長 谷村 亮 氏

2025年度以降、標準化とガバクラ移行が完了してからの展望について教えてください

標準化後の展望になりますが、3点あると考えています。

1つ目は、標準化対象外となったシステムのモダン化*1の推進によるインフラ環境の集約化です。標準化の移行直後は、標準化の対象外となった業務システムも含めるとインフラ環境が多重化した状態となるため、標準化の対象外となった業務システムについても順次モダン化し、インフラ環境を集約してコストも含め効率化していきたいと考えています。

2つ目は、クラウドサービス利用による業務効率化の推進です。標準化を契機に、システムの「所有」から、「サービス」として利用する流れがより一層加速し、適切な「サービス」を組み合わせることによって、新しい住民サービスを迅速に実現されていくことになると考えています。

最後、3つ目は、データ利活用の推進です。今回の標準化によって、基本データリストなど標準化対象業務のデータが共通的に抽出できるようになります。生成AI やデータサイエンスの知見を活用することで、思いもよらないデータの活用方法が発見され、ベストプラクティスとなるものは全国に横展開されていくものと考えています。

*1 モダン化とは、CSPのクラウドサービスを効果的に活用することができるシステムとして新しいアーキテクチャでシステムを再構築すること。

今後、オラクルに期待することなどがあれば教えてください。

標準化に伴い貴社への依存度が高くなる中、市町村における財政的な課題も大きくなりますので、価格面については考慮いただけることを期待したいです。

また、OCIのサポートについて体制の強化や的確で迅速な対応、OCIの優位性としてOracleデータベースの存在があると考えており、データベースにおけるAIの実装について、個人情報の取り扱いやセキュリティ対策にも配慮された効果的で安全なサービスとして提供されることも期待しています。


一般財団法人岐阜県市町村行政情報センター

一般財団法人岐阜県市町村行政情報センターは、岐阜県内市町村における行政事務情報化の推進を目的に、岐阜県及び県内市町村の出捐により昭和45年に設立され、一貫して業務・システムの標準化及び共同化に取り組みシステムの開発、サービスの提供等を行ってきた。

現在は、県内市町村が共同で利用できる岐阜県標準システムとして、自治体クラウド型総合行政情報システムを県内35団体に提供している。

インタビュアー:

細野 彰則/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部 部長
尾高 花歩/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部