ガバメントクラウドの導入が進む中で、クラウドサービスプロバイダ(CSP)の選定は、自治体が導入を決めたASP(アプリケーションサービスプロバイダ)によって事実上決まってしまうケースが多く、結果として複数のCSPを併用する「マルチクラウド環境」となる自治体も少なくありません。マルチクラウドには、各クラウドの強みを活かせるといった利点がある一方で、運用・管理の複雑化やノウハウ不足といった課題も生じています。今回は、ガバクラ標準化支援の実績を持つITbook社と、OCIやAWSでのクラウド構築経験が豊富なインディゴ社に、自治体におけるガバメントクラウド移行で見えてきた課題とその後の展望について伺いました。
現在、政府が選定したガバメントクラウドにおけるCSPは5社あり、 AWS(Amazon Web Services)、 Oracle Cloud Infrastructure(OCI)、Microsoft Azure、 Google Cloud、さくらのクラウド(条件付き)が選定されています。この中でも、各ASPがAWSやOCIを採用することが多く、自治体もその流れに沿う形で、結果として両方のクラウドを併用する自治体が増えています。これが「マルチクラウド」と呼ばれる形で、1社だけのクラウドに頼らず、それぞれのクラウドの強みを活かして運用の最適化を図る方法の一つとなっています。
ただ一方で、複数のクラウドを使いこなすには、単一のクラウドと比べて管理が大変になります。そこで登場するのが「運用管理補助者」です。運用管理補助者とは、自治体がクラウドを使うにあたって、日々の運用やセキュリティ、トラブル対応などを専門的にサポートしてくれる事業者のことで、具体的にはクラウド環境の監視や、セキュリティ設定やインシデント(事故)の対応、障害が起きた際の原因調査や復旧の支援を担います。
さらに、「統合運用管理補助者」と呼ばれる役割の事業者も存在します。これは複数のシステムやクラウドをまとめて、全体をうまく連携・管理する司令塔のような存在です。
自治体がクラウドやシステムごとに個別に調整する手間を省き、全体を俯瞰して運用を最適化してくれる役割となっています。
「マルチクラウドの課題」に入る前にそもそも「クラウドの課題」について考えてみましょう。従来のオンプレミスによる情報システム運用では、障害発生の要因がハードウェアによる物理的なものなのか、アプリケーションによるものなのか明らかな場合が多く、それに応じて対応する事業者も自ずと決まってきました。一方それがクラウドではその境界が曖昧になり、障害対応の質が変わってきたという印象です。
もちろん、物理障害により現場対応する必要性がなくなったり、耐障害性を高めるための施策を予算制約により諦めなくてよくなるなど、クラウド移行によるメリットが大きいことは大前提としてあります。
さて、マルチクラウド環境の運用においては、複数のクラウドを併用するからこそ生まれる特有の工夫が求められます。たとえばコスト管理については、各CSPごとに料金体系や管理画面、分析方法が異なるため、全体を一元的に把握・最適化するにはある程度の知見が必要となります。セキュリティ面でも、各CSPの特性に応じたIAM*設計やリスク評価が求められ、慎重な対応が重要です。まれにアクセス設定などに細心の注意が必要な場面もあるため、事前の設計や確認体制が一層重要になってきています。
障害対応では、どのクラウド・ベンダーに起因するものかを見極めるには一定の時間を要することもあり、アラートの優先順位付けや判断基準の整備が求められます。また、これらの運用を支える人材育成についても、幅広い知識と実践的なスキルが求められるため、継続的な研修や支援体制の充実が今後さらに重要になると感じています。総じて、マルチクラウド運用には高度なマネジメント力が必要となりますが、それだけに自治体の技術力や体制強化にもつながる取り組みだと捉えています。
インフラとアプリの境界が曖昧になっている今、両方の知見を持つ人材の重要性はますます高まっています。従来のように「誰が何をやるか」がはっきりしない中で、どのトラブルがどこに起因するのかを明確にし、調整できる体制が求められています。マルチクラウドや複数ベンダーが絡む構成では、誰に責任を求めるのか、どこに対応依頼を出すのかをあらかじめ整理しておかないと、問題解決が後手になります。今後は、技術と運用をつなげる「顔のある調整役」がますます重要になると思います。
我々が支援している自治体様の中には、情報職として民間IT企業経験者を採用したり、情報部門と業務所管課システム担当の異動ローテーションを組んだりするのような取組みをされている例もあり、こうした取組みは他の団体においても参考になると思われます。
ITbook株式会社
取締役副社長
ITbook株式会社
執行役員
インディゴ株式会社
代表取締役社長
インディゴ株式会社
サービス事業部 ジェネラル・マネージャー