国の定める標準化システムへの移行期限まで2年を切りました。多くの自治体やアプリケーションベンダーが標準化対応を進める中、どうしても「期限に間に合わせる」ことが優先されがちです。一方、システム標準化の発端となった地方制度調査会答申の趣旨は「2040年頃にかけて顕在化する変化・課題」への対応であり、標準化を機にその変化・課題にどう取り組んでいくかが問われていると言えます。
こういった現状認識を踏まえ、和歌山市デジタル推進課の小松氏、及び和歌山県を拠点とするICTベンダーである紀陽情報システム辻氏にお話しを伺いました。
ガバメントクラウドについては、マイナンバー系・住民情報系システムが移行する中で、CSP料金見積りツールなどを見ても24時間稼働前提で試算されていたり、月次処理、年次処理、システム間データ連携といったものが、どこまで従量課金であるクラウドに影響があるかが掴み切れておらず、試算値と、実際システムを利用した際の実績値の乖離がどの程度あるのかが読めていない。和歌山市では令和6年度から、ガバメントクラウドでのシステム構築が始まるが、ベンダーと協力しながら、なるべく本稼働までに、クラウド利用料を低減できるような使い方を検討したいと思う。
期待としては、システムのランニングコスト。これまでのオンプレベースでは自治体ごとに仕様も調達方法もバラバラなので、費用比較が難しかった。標準化後であれば「この人口規模であればこの価格」、という形で値段がオープンになれば自治体側はベンダーを選びやすくなるのではないか。オンプレ特有の費用としての常駐SEなどもなくなると思うので、人手がかからないシステムになれば、必然的に自治体側の負担も減ると思う。すぐにできるものではないと思うが、システムの利用料はオープンになってもいいのではないか。
共同利用方式において、コンソールの参照権限がない点は課題だと認識している。情報部門としてはトラブルが起きた際に参照したり、最適なリソースを検討するためにタイムリーに把握したい。また、技術的な部分や経験も完全にベンダーに依存する形になってしまう。何かトラブルがあった時に、情報部門として活躍ができるのか、懸念を抱いている。ベンダーとの合意があればコンソールを参照できてもいいのではないか。共同利用方式と単独利用方式の「いいとこどり」ができればベストだと思う。
庁内の生成AIの利用率が低く、デジタル推進課がいくら旗を振ってツールを整備しても、
原課職員の意識が変わらなければなかなかDXは進まない。ガバメントクラウドも同じで、
原課職員も理解が進まないが本来は知っておいてほしいもの。
ただ、自治体職員は減り続ける一方で業務は増えている、若手職員の退職も
増えている中、通常業務で手一杯、デジタルに手が回らないという現状がある。
国が進める公共サービスメッシュや、システム標準化に伴うデータの標準化には期待している。その未来像を見極めて、市として、或いは官民連携でどう進めていくかを検討していきたい。
現状、和歌山市ではオープンデータやダッシュボードの拡充に取り組んでいる。また、庁内向けにはBIツールの研修を開催し普及を目指しているが、データへのアクセス性が悪い、既存データをクレンジングする必要があるなどの課題から、研修後は結局Excelが選択されている現実がある。BIツール単体を導入しても普及しないという印象だ。標準化により、データフレンドリーな環境が進み、使えるデータが揃ってきたら、ガバメントクラウド上の20業務・基幹系システムのデータを利活用したDX(ダッシュボード化、アプリ化など)を進めたい。そこは本市にかかわらず自治体のニーズが大きいと思う。マイナンバー系・住民情報システムとCSPのサービスを組み合わせや、標準化の一環でBIツールとデータソースをセットで提供したり、さらに他自治体とも共有できる分析テンプレートなどが整備されたりしていると自治体としては非常に取り組みやすくなるし、CSPの差別化にも繋がるのではないか。
本市においても、多くの自治体においても標準化担当とDX担当が別になっているが、今後はシームレスな業務を行っていくべきだと感じている。
CSPについては座学・動画などで勉強しているが、技術的な知見を持ち続けるためにも、実機で自由に触れる学習環境が欲しい。クラウドについては、今後必要な知識と認識しており、例えば、クラウドは環境構築が早いと言われるが、その実感が持てない。それができれば、今後情報部門に異動してくる職員や原課職員にも、クラウドに詳しい人材が育てられると思う。
また、先ほども話したガバメントクラウド上の標準化対象システム内のデータを活用したサービス展開を期待する。アプリケーションベンダーによっては標準化によって、業態変化を進めざるをえないかもしれないが、何とか効率的なシステム運用を実現して、ランニングコストを抑制できるようにしていただきたい。それによって削減できた人的リソースを、データ活用分野に振り向けていくことが必要だと思っており、そのためには受け止めるCSP/ASP側にもシームレスな支援を望みたい。令和7年度末まで、2年を切っており、待ったなしの状況である。何とか標準化・ガバメントクラウドがいい方向に進むよう頑張っていきたいと思う。
小松 亮 氏
和歌山市総務局総務部デジタル推進課 システム班長
民間企業での勤務後、平成18年和歌山市役所入庁。市民税課、総務省地域情報政策室、情報システム課、国保年金課を経て、令和5年4月からデジタル推進課(旧情報システム課)システム班長に着任。5名の班員とともに標準化対応を推進する。
これまでとの違いでいうと、やはり標準仕様が大きい。今までは個別の自治体様ごとに業務のやり方が違ったりしていたものを、それぞれカスタマイズしていたが今後はそれができなくなる。現状
Fit&Gapを進めているところだが、今までできていたのにできなくなる、といったものも出てくると思う。
業務が一回りするまで、慣れるまでには半年・1年くらいかかるのではないか。
ガバメントクラウド関係でいうと、OCI含めパブリッククラウドの活用が初めてであることもあり、実際
使ってみないとわからない部分が多い。バックアップ時の切替、リストアなどが気になっている。
運用管理補助者としては今までとは大きく変わらないとは思っているが、自治体様ごとの料金算出・
按分の方法が気になっている。
弊社へのビジネスインパクトの点では、ガバメントクラウドよりも標準化の方が大きい。今後は
法改正対応ひとつとっても、一度標準仕様に従って対応すればそれで基本的に終わりになることが
想定される。個別の自治体様への開発作業は不要となるため、自治体システムに対する開発案件自体が大きく変わることが想定される。
今後標準化以降を見据えた弊社のアクションとしては、パッケージの利用団体数の増加、内部事務のような標準化対象業務以外の展開、SaaSのような新しいサービスの開発、こういったことが必要になる。
自治体様に対しては、標準化とともにBPR/DXの積極的な推進を期待する。原課を巻き込んでいくための積極的な全庁的旗振り役、推進力が必要ではないか。費用面については、削減効果を得るまでに長い目で見てほしい。コスト削減のためにはパブリッククラウドの利点を発揮できるような柔軟な運用が実現できる必要があり、それは一朝一夕でできるものではない。
オラクルには環境構築の支援をまずはいただきたい。運用がある程度できるようになれば、CSPとして基盤をしっかり維持いただければそれでよい。繰り返しになるが弊社としてパブリッククラウドを使うのが初めてであり、ユーザーである自治体様も漠然とした不安があると思うので、手厚くサポートいただきたい。弊社が運用管理補助者になるという観点で、ワークショップ、勉強会、事例提供など知識面のサポートも欲しい。
辻 宏幸 氏
紀陽情報システム株式会社 公共事業部公共システム開発二部 部長
2001年の入社以来、約20年間は金融部門で銀行の勘定系システムをはじめとした関連システムの開発・保守や業務システムの企画・推進等に従事。2020年10月より公共部門に異動になり、保健所向け生活衛生システムや、一般企業向け案件の対応に従事しながら、自治体の基幹業務システムとのかかわりを持ち始める。2023年4月から公共部門において、本格的に標準化移行推進のプロジェクトを開始したことに伴い、自治体基幹業務システムの担当部署に異動になり、現在、地方自治体システムの標準化・ガバメントクラウドへの移行に向けて推進中。
紀陽情報システム株式会社
紀陽情報システムは、和歌山県を拠点とするICT企業であり、システムの開発・構築、ネットワークインフラストラクチャの設計・運用、クラウドサービスの提供、セキュリティ対策など幅広い領域の支援を実施。自治体と金融の市場をメインマーケットとしており、自治体市場においては、地方公共団体情報システムの標準化への適合も実施し、和歌山県下を中心とした25団体に対してそれらをCloud
Nativeな基盤を活用して提供予定。
高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター
留岡 翼/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部
デジタル・ガバメント推進部