有識者に聞く自治体最前線の現状と課題 【特別編・前編】〜自治体・ASP・CSPが語るガバメントクラウド&標準化の本質〜

2024年7月に、和歌山市様、紀陽情報システム株式会社様、弊社の3者により、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)を利用した基幹業務システムのガバメントクラウドへの移行、及び共同研究の開始についてプレスリリースをさせていただきました。そこでは今後の連携強化の一環として、1.標準準拠システムの各種費用について、ガバメントクラウドを活用した費用低減策の可視化 2. 標準準拠システムのモダン化の効果 のふたつのテーマについて共同研究を進めていくことについても発表されています。本記事ではその共同研究の具体的な内容及び成果につきまして、3者による座談会形式により全2回にわたってお届けします。

(2024年11月29日和歌山市役所にて撮影・収録)

現状の貴社における標準化・ガバメントクラウドの取り組みについて教えてください
まずは改めて自己紹介と、今回の共同研究においてどのような役割を担ったのか、それぞれお話をいただけますでしょうか。

和歌山市デジタル推進課 小松氏(以下 和歌山市・小松氏):和歌山市デジタル推進課の小松です。庁内の基幹系システムの運用、及び標準化・ガバメントクラウド移行プロジェクト全体を担当しています。またデジタル改革共創プラットフォームアンバサダーに任命されており、デジタル庁や他自治体とも積極的に意見交換をさせて頂いています。 今回の共同研究においては、ガバメントクラウド移行前後の費用比較を行うにあたっての対象システムの選定や、費用試算にあたっての考え方の整理、現行システムの費用算出などを行いました。またクラウド移行、モダン化による効果や期待などについて、自治体職員目線で意見や議論をさせていただきました。

司会:ちなみに、標準化・ガバメントクラウドについて、各自治体からは最近どのようなことが話題になっていますでしょうか。

和歌山市・小松氏:いま自治体界隈では、令和7年度予算要求の時期ということもありガバメントクラウド利用料がよく話題になっています。特に人口規模が小さい自治体において、ランニングコストが高止まりして苦しいという声がよく聞こえてきます。

司会:ありがとうございます。従前から言われているガバメントクラウドのコストの問題があらためて顕在化してきているということですね。まさに今回の共同研究のテーマと関係してくるかと思います。では辻様お願いします。

紀陽情報システム株式会社 辻氏:紀陽情報システム株式会社の辻です。弊社は和歌山県下を中心に20以上の自治体、和歌山市様においては20業務のうち住民基本台帳、印鑑登録、選挙人名簿管理、就学の4業務の標準準拠システム(以下:住基系システムという)を提供予定となっています。本研究においては、各種費用試算にあたっての検討材料に加え、アプリケーション開発事業者の立場でモダン化構成の内容や、そこから得られた定性的効果、想定されるメリットなどを整理致しました。 なお、小松様のご指摘のように、弊社が担当している(和歌山市様以外の)自治体様においても小規模団体が多く、コストが高くなっているという課題は聞こえてきます。

司会:宜しくお願い致します。最後に、日本オラクルから細野さん、お願いします。

日本オラクル 細野(以下、オラクル・細野):日本オラクル株式会社の細野です。弊社ガバメントクラウドプロジェクトの責任者になります。和歌山市様、紀陽情報システム様においては、ガバメントクラウドで弊社Oracle Cloud Infrastructure(OCI)を選定いただいており、来年のガバメントクラウド上での本稼働に向けてご支援させていただいているところです。 本研究においては、費用試算やモダン化の効果検討にあたりCSPの立場から技術情報の提示や支援などを行ったほか、研究全体のファシリテーションも実施させて頂きました。本日はどうぞ宜しくお願い致します。

それでは早速共同研究のテーマに入っていきたいと思います。
最初に「テーマ1,費用低減の可視化」についてですが、今回の費用算定は具体的にどのように行ったのでしょうか。算定にあたっての範囲や前提条件などがあれば合わせて教えてください。

和歌山市・小松氏:率直に言うと、現行のオンプレミスの基盤との比較ということ自体が非常に難しかったです。現行の基盤は、統合仮想基盤として導入しており、それぞれの業務システム単位で導入しているものではありません。従いまして、現行の統合仮想基盤の年間のランニングコストを、CPUコア数とディスク容量とで按分し、さらに、今回の共同研究の対象の4システム(住民基本台帳、印鑑登録、選挙人名簿管理、就学)自体に割り当てているCPUコア数とディスク容量が全体のどれくらいになるかという比率を計算し、算出するというやり方を採用しました。

紀陽情報システム・辻氏: 弊社からは移行後の費用として、今回の住基系システムについて、ガバメントクラウド移行後の環境で24時間365日稼働させた場合の費用を算出しました。今回ガバメントクラウド移行にあたっては、既存システムを改修し標準仕様に合わせるのではなく、パッケージ開発元ベンダーにおいて、システムのアーキテクチャから見直しており、デジタル庁が示すガバメントクラウド移行パターンにおいてはRebuild(アプリ再構築移行)を行う予定となっています。これにより、標準準拠システム自体がクラウドネイティブな技術を活用したものになる予定で、ガバクラ移行後の利用料についてもマネージドサービスを多く含んだものを提案できる構成になっています。

オラクル・細野:今回は現行基盤と比較対象を可能な限り合わせるべく、あくまでガバメントクラウド利用料のみを試算し、アプリケーション利用料部分は対象外としております。ガバメントクラウド(パブリッククラウド)のメリットとして、従量課金であることから、運用過程で見直しをしていくことが重要であるのと、単独利用方式ではなく共同利用方式になるため集約率も意識していくことが必要になると考えております。

ガバメントクラウドの検討の際、どういった点を重視してCSPを検討・算定されたのでしょうか。 またOCIで実際に利用を始めて率直なご意見があればお願いいたします。
具体的に算出された結果について教えてください。

和歌山市・小松氏:20業務システム全体で考えると、現行より、少し高くなると感じるものと、安くなると感じるものがありました。今回の共同研究の対象の4システムは、現行より3割程度安くなるという試算ができています。 和歌山市においてはこのような結果が出ましたが、計算して感じたのが、個々の自治体単位で見ると、現在使っているハードウェアやミドルウェアのスペックも違いますし、契約している価格も違うと思います。そのため、一律に高くなる安くなるということはなく、また比較対象をどのように考えるかで、試算結果は変わってくるのだろうと感じています。

紀陽情報システム・辻氏:住基系システムのガバメントクラウド移行により、現行より約3割の削減効果が試算されました。和歌山市様の現行基盤はオンプレミスです。ハードウェアはもちろんバックアップやシステムの監視や運用についても自庁で準備されています。今回、ガバメントクラウドへの移行に際しては、弊社の共同利用領域へ移行する予定です。そのため、ハードウェアの維持管理に係る費用や非機能要件に係る部分が共通化されることによる削減効果が大きいものと思います。

他のガバクラ移行団体からは、システム全体の費用が上がっているという声をよく聞きますが、今回3割下るという試算ができたのは、何がポイントなのでしょうか。

和歌山市・小松氏:今回の共同研究の対象システムは、仮想サーバーからコンテナへの切り替え、DBはOracle Database Standard Edition 2からAutonomousDB(ADB)への切り替え、フレキシブル・シェイプへの対応というように、モダン化やパフォーマンスの最適化に対応したものとなっているが、パッケージを全面的に作り変えたことにより安くなっているということではないかと考えています

紀陽情報システム・辻氏:和歌山市様においては現行のオンプレミスからガバメントクラウドへの移行に伴い、オンプレミスのハードウェアが削減されることが大きいと思います。また、システムのアーキテクチャ再構成により、標準準拠システムはクラウドネイティブなアプリケーションに生まれ変わろうとしています。この2点が大きな削減効果のポイントと思います。 まず、オンプレミスでは、ピーク時や最低5年間の利用を想定したサイジングを行う必要があること、また和歌山市様は自庁でハードウェア基盤を運用管理されているため、どうしてもハードウェアにかかるコストが大きくなります。これがガバメントクラウド上での共同利用となることで、共通化・集約化による効果が出ているものと思います。他自治体様においては、データセンターに設置したハードウェア基盤を複数自治体様で利用しているケースも多くあります。そういった自治体様においては、既にハードウェアの共同利用による費用削減はある程度行っている状態ですので、これほどの効果は出にくいかもしれません。 また、マネージドサービスやオープンソースソフトウェア(OSS)を組み合わせて利用することで、ソフトウェアライセンスに係る費用が削減されているものと思います。マネージドサービスを利用することの効果については、今後本番稼働を迎えたのちに改善できるところもあると思います。マネージドサービスの利用については、従量課金という側面からどうしても利用時間が長くなると削減効果が薄くなります。現状、標準準拠システムの本番稼働を迎えていないところで、ベンダーとしてはどうしても現状の運用に近いような長時間の稼働を見こした試算をせざるを得ないというところがあります。この辺りは今後改善していけるものと考えます。

司会:共同研究開始前の時点では、このような結果になることを予想されていましたか?

和歌山市・小松氏:正直、予想していませんでした。ただ、今回の結果はあくまで現時点での試算であり、運用の時点で上がることもあれば、逆に改善を重ねることで下がることもあると思います。現状の各ASPが作成するガバメントクラウド利用料は、あくまでも参考見積であり、個々の自治体のリソースに応じて作成されたものではないと認識しています。現状のガバクラ利用料は、事業者の試算方法や精度に依存する部分が大きいと思うので、必ずしも一般論としてガバクラ利用料は高い、という議論にはならないと思います。

オラクル・細野:今回の試算が全ての自治体には当てはまらないと想定しております。しかし、効果測定のポイントやどこを検討すべきかなど今回の研究が多くの自治体の参考になればと思います。その中でOSやハイパーバイザーなど商用製品をベースとしていた点をマネージドサービスで補い、さらにはそれらを稼働時間ベースで計算できることはメリットだと思います。ガバメントクラウドとなるとボリュームディスカウントや移行期間の極小化など今後更なるメリットが可視化されるはずです。さらにセキュリティレベルなど向上したこともあり、より高いレベルでシステムが運用されることがコストに対する価値とも言えます。

小松 亮氏
和歌山市総務局 総務部デジタル推進課 システム班長
民間企業での勤務後、平成18年和歌山市役所入庁。市民税課、総務省地域情報政策室、情報システム課、国保年金課を経て、令和5年4月からデジタル推進課 (旧情報システム課)システム班長に着任。庁内の基幹系システムの運用管理、標準化・ガバメントクラウドを担当。令和6年からは、デジタル庁のデジタル改革共創プラットフォームのアンバサダーを務める。

辻 宏幸氏
紀陽情報システム株式会社 公共事業部公共システム開発二部 部長
2001年の入社以来、約20年間は金融部門で銀行の勘定系システムをはじめとした関連システムの開発・保守や業務システムの企画・推進等に従事。2020年10月より公共部門に異動になり、保健所向け生活衛生システムや、一般企業向け案件の対応に従事しながら、自治体の基幹業務システムとのかかわりを持ち始める。2023年4月から公共部門において、本格的に標準化移行推進のプロジェクトを開始したことに伴い、自治体基幹業務システムの担当部署に異動になり、現在、地方自治体システムの標準化・ガバメントクラウドへの移行に向けて推進中。

細野 彰則
日本オラクル株式会社 クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部 部長

インタビュアー:

高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター

標準準拠システムのモダン化の効果とは?