オラクルのプロダクト・マーケティング、分析およびAI担当シニア・ディレクターNick Engelhardt、およびオラクルのAIエージェント・スペシャリスト・リーダーAnshuman Pandaによる執筆

図1: DMCCは、世界有数の商品貿易および企業拠点です。
2002年、DMCC(ドバイ・マルチ・コモディティ・センター)は、ドバイを商品貿易および企業のグローバル・ゲートウェイとして位置づけることを目的として設立されました。同センターは長年にわたり経済の中心的な推進要因としての役割を果たしており、ドバイへの海外直接投資(FDI)の15%、同国GDPの7%に貢献しています。DMCCは、Jumeirah Lakes Towers(JLT)やUptown Dubaiなどの世界クラスの開発の拠点であり、100,000人以上の専門職員、住民、訪問者が行き交い、2024年にはFinancial Times誌のfDi Intelligenceによって世界ナンバーワンのKnowledge Zoneに認定されています。これらの開発はまた、9年連続で同誌のGlobal Free Zone of the Yearを受賞しています。
DMCCはOracle Generative AI(GenAI)を採用することで、ドバイ経由のグローバル貿易の流れを加速させ、業務と職員のエクスペリエンスに革新をもたらしています。最先端のAIソリューションを採り入れることで、主要なプロセスの自動化と、エコシステム内での業務のデジタル効率の刷新化を進めています。同センターはAI導入のパイオニアとして、イノベーション、自動化およびシームレスなデジタル・エクスペリエンスの新たなベンチマークを確立しつつあります。
ビジネス課題
Oracle GenAIを導入する前、DMCCはいくつかの課題に直面していました。
- 手作業による人事プロセスの処理 – DMCCではすでにFusion Cloudのセルフサービスを休暇申請に利用していましたが、職員は申請の際、イントラネットにアクセスしてSSOリンクをクリックし、3つのフィールドを手入力する必要がありました。しかし、承認や一般的な問い合わせなどの他の人事問い合わせは依然として手作業で行われており、職員の貴重な時間が費やされていました。
- ポリシー関連の問い合わせが人事部の大きな負担に – 職員は休暇の調整を各自で確認できましたが、ポリシー関連の問い合わせは依然として人事部に頼っており、人事部のワークロードが増していました。
- 部門間での自動化のスケーラビリティ – 複数の部門にわたって効率性を向上させるために、分離された人事部の枠を超えて組織の自動化を拡大する必要がありました。
- エンタープライズ・システム間の統合が限定的 – DMCCのFusion Cloudは他のアプリケーションと統合されておらず、今すぐの統合を必要とはしていませんでしたが、既存のワークフローを最適化し、AIによる改善を図ることで、業務の効率化を推進できる可能性がありました。
- デジタル・アシスタントの必要性 – 自然言語を理解して、迅速に正確な回答を提供し、エンタープライズ・システムとシームレスにやりとりして生産性を向上させるAI搭載アシスタントの実現が、重要な要件となっていました。
これらの課題を克服するため、DMCCは、即座に効果をもたらし、既存のエコシステムと統合し、進化するビジネス・ニーズに継続的に適応できる、AI搭載のプラットフォームを求めていました。
DMCCがOracle GenAIを選択した理由
DMCCがオラクルと提携した理由は、Fusion Cloudのアプリケーション、エンタープライズクラスのセキュリティ、OCI Generative AIが提供する機能にありました。Conneqtion Groupによる概念実証(PoC)が成功を収めたことで、オラクルが理想的な選択肢であることが確立されました。オラクルが選ばれた主な理由は次のとおりです。
- Oracle Generative AIとOracle Digital Assistantを活用することで、状況に即した回答を提供し、人事、財務、サプライチェーンの業務のセルフサービスを実現できる。
- Oracle AIによるDocument Understandingを活用することで、ドキュメント処理を自動化し、正確性を高めながらインサイトを抽出できる。
- Oracle Vector DatabaseでAIによる回答を強化し、企業ドキュメントから検索拡張生成(RAG)をリアルタイムで実行できる。
- オラクルのクラウドネイティブAIサービスにより、処理の高速化、コスト効率の向上、コンプライアンスの向上が実現される。
- 堅牢なクラウド・セキュリティにより、DMCCのコンプライアンス要件を満たすことができる。
オラクルの信頼できるAIエコシステムは、DMCCが目指すイノベーションのビジョンと合致するものでした。
実装
GenAIの実装にあたっては、DMCCは段階的なアプローチを採用し、次に示す組織目標に合わせてシームレスな導入が確実になされるようにしました。
- AI主導の自動化を検証するために、Conneqtion Groupによるカスタマイズされた概念実証(PoC)を実施する。
- 人事ポリシーの問い合わせがどのような言語であっても、AIによる回答が即座に職員に提供され、人事部のワークロードを減らして効率性を向上させることができます。
- Oracle Fusion Cloud HCM、Oracle Digital Assistant(ODA)、OCI Generative AIを活用して、職員が休暇や人事関連書類をシームレスに要求する。
- ワンクリック操作の経費AIエージェントは、Oracle Document UnderstandingとFusion REST APIを使用して経費を検証します。これにより、手作業が削減され、コンプライアンスへの準拠を実現できます。
- OCIのテクノロジーを活用して「AI導入ダッシュボード」を構築し、職員のエンゲージメント、欠勤の傾向および人員計画に関するインサイトをリアルタイムで提供する。
- 英語とアラビア語によるバイリンガルなAIインタラクションは、Fusion Cloud HCM、MS Teams、イントラネット・ポータル、モバイル・アプリとシームレスに統合され、UI/UXはDMCCのブランディングに合わせてカスタマイズされます。

図2: DMCCの導入のアーキテクチャ。
導入のスケジュールと課題の克服
- 人事ポリシー用RAG、欠勤記録および書類依頼を3か月で実装する。
- 直面している課題:
- LLMのハルシネーション – 正確性を高めるためにプロンプトを継続的に再設計する。
- エージェントのアーキテクチャ設計 – システム全体にわたってアーキテクチャを汎用化する。
- 休暇/書類の検証 – Fusion FastFormulaを参照しながら検証のメカニズムを再構築する。
- 日付の抽出 – ユーザーの問い合わせから得られる日付の正確な解釈を保証する。
- コードのメンテナンスやビルド・パイプラインにVB Studioを使用して、下層環境から上層環境まで導入を行う。
- OAuth2検証を使用して、シングルサインオン(SSO)をSharePointおよびMS Teamsに統合する。
- パフォーマンスの最適化: Oracle Kubernetes Engine(OKE)にエージェントやカスタム・コンポーネントを導入することで、起動時間が20秒から10秒に短縮。
- 正確性の向上: エージェントのアーキテクチャにカスタムのAIフローを用意することで、システム全体の効率性が向上。
DMCCは当初、リファレンスとするGenAIがなかったために課題に直面していましたが、透過的なアプローチとAI機能の実証の成功により、オラクルは信頼を獲得しました。オラクルによるFusionとの密接な統合に加えて、PoCが順調に実行されたことで、複数のベンダーとの競争を制しました。
「Oracle Generative AIを人事業務やエンタープライズ業務に統合したことは、DMCCにとってゲーム・チェンジャーとなりました。わずか3か月で、大幅な効率化を達成し、人事部のワークロードが軽減され、職員のセルフサービス機能が強化されました。AIによる自動化を活用することで、回答時間を短縮し、効率的なプロセスを実現し、ビジネス地区全体でデジタル・トランスフォーメーションの新たなベンチマークを確立しました。オラクルと提携することで、LLMのハルシネーション、検証のメカニズム、Microsoft TeamsやSharePointなどのエンタープライズ・プラットフォームとのシームレスな統合といった、複雑な課題を克服できました。これはほんの始まりにすぎません。今後のロードマップとして、AIによる自動化を、調達、財務、さらにはバレーパーキング(係員付き駐車サービス)などの職員サービスにまで拡大し、イノベーションとオペレーショナル・エクセレンスに向けた取り組みを強化することを検討しています」DMCCの情報テクノロジーおよびイノベーションのディレクターを務めるAbdalla Al Ali氏はこのように述べています。
成果
DMCCでのOracle GenAIの導入は、効率性、コスト削減、従業員エクスペリエンスを大幅に向上させました。AIを活用した自動化により、人事部のワークロードの軽減、効率的な財務、セルフサービス導入の促進が実現しました。スケーラブルなインフラストラクチャにより、エンタープライズ部門全体で自動化がサポートされるようになり、イノベーションの標準が確立されました。
- AIを活用した自動化により、人事部のワークロードを軽減。
- ワンクリック操作の経費AIエージェントを活用して経費処理を迅速化。
- 従業員による採用が増加し、人事部への依存が低減。
- 人事業務や財務業務の手作業を削減。
- 経費請求処理を迅速化し、承認やコンプライアンスを加速。
Oracle Cloud InfrastructureとAIによる自動化を活用することで、DMCCはデジタル・トランスフォーメーションのベンチマークを確立し、将来を見据えた、スケーラブルでインテリジェントなエンタープライズ業務を実現しています。
将来に向けての戦略的パートナーシップ
DMCCにおけるOracle GenAIの採用は、同センターをAI主導の企業変革のリーダーとして確立するための戦略的な取り組みです。今回のプロジェクトは、DMCCをGenAI採用の先駆けとして位置づけるものであり、地域内の他の組織に対する先例となります。
オラクルは、ソリューションがDMCCの長期のビジョンに沿ったものとなるように、AIワークショップから商業構造の構築に至るまで、取り組み全体にわたって幅広いサポートを提供しました。PoCが成功を収め、オラクルがAIによる魅力的なコネクテッド・ソリューションを実証できる能力を示したことは、パートナーシップを強固なものにする上で重要な役割を果たしました。
次のステップ
DMCCにおけるOracle GenAIの採用は、企業がAIを活用して新たな高みへと到達する取り組みに変革をもたらします。自動化、ドキュメントの理解、AIによるインタラクションを通じて、DMCCは職員の生産性を高め、将来を見据えた業務を実現しています。こうした戦略的な取り組みは、DMCCにメリットをもたらすだけでなく、業界全体でAIソリューションを広く導入する道を開くものとなります。
同センターでは、AIの導入を進めながら、AI自動化をMicrosoft Teams上のProcurement and Finance GPTにまで拡大し、AIによる従業員向けバレーパーキングを導入することを計画しています。信頼できるAIパートナーとなったオラクルと協力することで、DMCCは、生成AIによるイノベーションの取り組みをリードする体制を整え、UAEやその他の国におけるAI主導のビジネスの卓越性の新たな基準を確立しています。
DMCCおよびOracle Cloud Infrastructureの詳細は、次のリソースを参照してください。