人工知能(AI)とは

簡単に言うと、人工知能(AI)とは、人間の知能を模倣してタスクを実行し、収集した情報に基づいて自身を反復的に改良することができるシステムや機械のことです。AIはさまざまな形態で利用されます。次にいくつかの例を挙げます。
- チャットボットは、AIを使用して顧客の抱える問題をより迅速に理解し、より効率的な回答を返します
- インテリジェント・アシスタントは、AIを使用して大量のフリーテキスト・データセットから重要な情報を解析し、スケジューリングを改善します
- レコメンデーション・エンジンは、ユーザーの視聴傾向に基づいて、お勧めのテレビ番組を自動的に提示します
AIとは、特定の形式や機能に関する技術と言うよりも、超強力な思考処理やデータ分析のためのプロセスや性能のことを意味します。AIと言うと、高機能な人型ロボットが世界を支配するようなイメージを浮かべる方もいるかもしれませんが、AIは人間に取って代わることを意図したものではありません。人間の能力や貢献性を大幅に強化することを意図したものです。そのため、きわめて高価値なビジネス資産となるのです。
人工知能に関する用語
AIは現在、オンラインでの顧客対応やチェスの対戦など、かつて人間による入力が必要であった複雑なタスクを実行するアプリケーションを全般的に指す言葉となっています。AIという言葉が、AIの一部分である機械学習や深層学習と同じ意味で使われることも少なくありません。しかし、実際には違いがあります。たとえば、機械学習はシステムで使用されるデータに基づいて、システムのパフォーマンスを調べたり、改善したりすることを主な目的としています。ここで注意すべきことは、機械学習はすべてAIですが、AIは必ずしも機械学習ではないということです。
多くの企業では、AIのメリットを最大限に得るため、データ・サイエンス・チームへの投資に力を入れています。データサイエンスは、複数の分野にまたがる学問であり、科学的方法やその他の方法を使用してデータから価値を引き出すものです。データサイエンスでは、統計学やコンピューター・サイエンスなどといった分野のスキルをビジネス知識と組み合わせて、複数のソースから収集されたデータを分析します。
AIを組織に役立てる方法
AIの中心的な原則は、外界に対する人間の理解と対応を真似て、それを超えることです。これは近年急速に、イノベーションの基礎となりつつあります。データのパターンを認識して予測を行う機械学習が様々な形態で進化したこともあり、AIは次のような用途でビジネスに付加価値を提供しています。
- 大量のデータを、より包括的に理解できるようにする
- 予測技術を使用して、複雑すぎるタスクや日常的なタスクを自動化する
エンタープライズにおけるAI

エンタープライズ組織では、かつて人間が行わなければならなかったプロセスやタスクをAIテクノロジーによって自動化することで、組織のパフォーマンスと生産性を改善しています。またAIは、人間では到底不可能な規模のデータを把握するのにも役立ちます。このような処理能力は、ビジネスに大きなメリットをもたらします。たとえば、Netflixでは機械学習を使用してパーソナライゼーションを強化しており、2017年には顧客ベースを25パーセント以上も増やしています。
近年、多くの企業がデータ・サイエンスを優先事項に位置付け、重点的な投資を行っています。3,000人以上のCIOを対象にGartnerが最近行った調査によると、回答者の多くが、アナリティクスやビジネス・インテリジェンスを組織の最重要差別化テクノロジーとして位置付けています。調査対象となったCIOたちは、これらのテクノロジーを自社の最重要戦略と考え、新規投資の多くをそれらに注ぎ込んでいます。
AIは、ほぼすべての業種、ビジネス、職務に役立ちます。AIの一般的な用途や業種別の用途としては、次のようなものが挙げられます。
- トランザクション・データや人口統計データを使用して、自社との取引期間中に特定の顧客が消費する金額(顧客生涯価値)を予測する
- 顧客の行動や好みに基づいて価格を最適化する
- 画像認識を使用してX線画像を分析し、癌の兆候を探す
エンタープライズにおけるAIの活用方法

Harvard Business Reviewによると、エンタープライズ組織では主に次のような目的でAIが使用されています。
- 侵入を検出して阻止する(44%)
- テクノロジーに関するユーザーの問題を解決する(41%)
- 生産管理業務を減らす(34%)
- 承認済みベンダーの使用に関する内部コンプライアンスを評価する(34%)
AIの導入を後押ししている要因
各業種でAIの開発が進んでいる背景には、次の3つの要因があります。
- 高パフォーマンスなコンピューティング性能が手頃なコストで容易に確保できるようになった。クラウドで提供される計算能力がコモディティ化したことで、高パフォーマンスなコンピューティング性能を手頃なコストで簡単に利用できるようになりました。以前は、AI用のコンピューティング環境が非クラウドベースでしか提供されていなかったため、コスト的に大きな障壁となっていました。
- トレーニング用に大量のデータを使用できるようになった。 AIでは、高精度な予測結果を導くために、大量のデータでトレーニングを実行する必要があります。データをラベリングするためのさまざまなツールが登場したことに加え、構造化データや非構造化データを簡単かつ比較的安価に格納および処理できるようになったことで、多くの組織がAIアルゴリズムを構築し、トレーニングできるようになってきました。
- AIの導入が競争力の強化につながる。企業は、AIのインサイトをビジネス目標に活用することが競争力の強化につながると認識するようになり、AIをビジネス全体の優先事項に位置づけるようになりました。たとえば、AIによって提供されるターゲット別の推奨事項は、適切で迅速な意思決定の強化に役立ちます。AIによって提供される機能や性能の多くは、コストの削減、リスクの軽減、市場投入までの時間短縮など、さまざまなメリットにつながります。
エンタープライズAIに関する5つのよくある神話
多くの企業がAIテクノロジーの導入に成功していますが、AIと、AIができることとできないことについては、かなり多くの誤解があります。ここでは、AIに関する5つのよくある神話について掘り下げていきます。
- 神話その1:エンタープライズAIには、自分自身で構築するアプローチが必要。
現実:ほとんどの企業は、社内ソリューションと既成のソリューションの両方を組み合わせてAIを導入しています。社内でAIを開発することで、企業は独自のビジネスニーズに合わせてカスタマイズできます。事前構築されたAIソリューションを使用すると、すぐに使えるソリューションで実装を合理化でき、より一般的なビジネスの問題にも対応できるようになります。 - 神話その2:AIは魔法のような結果をすぐにもたらしてくれる。
現実:AIの導入を成功させるには、時間、慎重な計画、そして達成したい成果物の明確なアイデアが必要です。まとまりのない乱雑なAIソリューションの提供を回避するためには、戦略的なフレームワークと反復的なアプローチが必要です。 - 神話その3:エンタープライズAIでは、人間の出番はない。
現実:エンタープライズAIは、人間に代わるロボットではありません。AIの価値は、人間の能力を増強し、従業員をより戦略的なタスクに注力できるよう解放することにあります。さらに、適切なデータを入力し、適切な方法で処理するためには、人間の力が必要です。 - 神話その4:データは多ければ多いほど良い。
現実:エンタープライズAIにはスマート・データが必要です。AIから最も効果的なビジネス・インサイトを得るには、高品質で最新の、関連性が高く充実した内容のデータが必要とされます。 - 神話その5:エンタープライズAIが成功するために必要なのは、データとモデルだけ。
現実:データ、アルゴリズム、モデルが出発点ですが、AIソリューションが変化するビジネス・ニーズに対応できるようにするには、スケーラブルでなければなりません。今日まで、ほとんどのエンタープライズAIソリューションはデータ・サイエンティストの手で作られてきました。これらのソリューションは、大規模な手動のセットアップとメンテナンスを必要とし、拡張性がありません。AIプロジェクトを首尾よく実装するには、前進するにつれて新しい要件を満たすように拡張できるAIソリューションが必要です。
AI運用の利点と課題
AIの価値を証明する成功事例は数多くあります。従来のビジネスプロセスやアプリケーションに機械学習や認知的インタラクションを追加すれば、ユーザー・エクスペリエンスを大幅に改善し、生産性を高めることができます。
ただし、AIの導入にはいくつかのネックも存在します。AIを大規模にデプロイできるのは限られた企業だけです。これにはいくつかの理由があります。たとえば、クラウド・コンピューティングを利用しない場合、AIプロジェクトは処理能力の面で高コストになることが少なくありません。また、AIの構築には複雑な作業が伴うため、専門スキルの確保が必要ですが、その供給は不足しています。これらの問題を最小限に緩和するには、AIをいつどこに導入し、どのような場合にサードパーティを利用するべきかを知ることが重要です。
AIの成功事例
次に示すのは、AIが主な要因となった成功事例です。
- Harvard Business Reviewによると、Associated Pressは、AIソフトウェアをトレーニングし、業績関連の短いニュース記事を自動的に作成することで、記事の作成数を12倍に増やしました。これにより、同社の記者は、より詳細な記事の作成に時間を使えるようになりました。
- Icahn School of Medicine at Mount Sinaiでは、Deep PatientというAI対応ツールを構築することで、病気が診断されるよりも前に、医師が高リスクな患者を特定できるようになりました。insideBIGDATAによると、このツールは、患者の医療履歴を分析し、約80種類の病気を、最も早くて発症の1年前に予測することができます。
すぐに使えるAIによるAI運用の簡素化
最近では、AIを使ったソリューションやツールが増え、多くの企業が、AIを以前よりも低コストで迅速に導入できるようになりつつあります。すぐに使えるAIとは、AI機能が組み込まれているか、意思決定プロセスを自動化するアルゴリズムを備えた、ソリューション、ツール、ソフトウェアのことを指します。
すぐに使えるAIには、機械学習を使用して自己回復を行う自律型データベースや、各種のデータセットに適用して画像認識やテキスト分析などの課題を解決する事前構築済モデルなど、様々なものがあります。これにより企業は、価値実現までの時間の短縮、生産性の向上、コストの削減、顧客との関係改善を促進することができます。
AIを最初に導入できる分野
チャットボットを通じて顧客とやりとりする。チャットボットとは、自然言語処理を使用して顧客の発言を理解することで、顧客が質問をしたり、情報を入手できるようにするものです。チャットボットは使用していくうちに学習を重ねていくので、顧客とのやりとりに大きな価値を加えることができます。
データセンターを監視する。IT運用チームは、Web、アプリケーション、デバイス・パフォーマンス、ユーザー・エクスペリエンス、ログ・データをすべて1つのクラウドベース・データ・プラットフォームにまとめて、しきい値の監視や異常の検知を自動化することで、システム監視に要する時間や労力を大幅に減らすことができます。
エキスパートに頼ることなくビジネス分析を実行する。視覚的なユーザー・インターフェイスを備えた分析ツールを使用すれば、技術者以外のユーザーでも、システムへのクエリを簡単に実行し、わかりやすい回答を得ることができます。
AIの可能性をフルに実現するうえでの障害
AIの可能性は今や誰もが認めるところですが、多くの企業では、機械学習やその他のAI機能が持つ可能性を十分に実現できていません。なぜなのでしょうか。皮肉なことに、問題の大部分は人間の側にあります。ワークフローの効率が悪いと、企業はAI導入の価値をフルに達成することができません。
たとえば、データ・サイエンティストは、機械学習モデルを構築するのに必要なリソースやデータを思うように取得できなくなります。また、チームメイトとの連携がうまくとれなくなることもあります。さらに、各自の管理するオープンソース・ツールがばらばらだと、データ・サイエンティストが開発したモデルをアプリケーションに組み込む前に、アプリケーション開発者がそれらをすべてコーディングし直さなければならなくなることもあります。
オープンソースのAIツールが増えていくと、ITチームがデータ・サイエンス・チームの作業環境を継続的に更新しなければならなくなり、それらの作業に時間を奪われることになります。データ・サイエンス・チームの作業方法が十分に標準化されていないと、この問題はさらに悪化します。
最後に、会社のAI資産が持つ可能性を上級役員が十分にイメージできないケースも考えられます。そうなると、AI導入を成功させるうえで欠かせない、連携的で統合的なエコシステムを構築するための支援やリソースが十分に提供されない結果に陥ります。
適切な文化の創造
AIを最大限に活用し、導入上の障壁を回避するには、AIエコシステムを全面的にサポートするチームカルチャーを形成する必要があります。そのような環境を整えたうえで、次のことを行う必要があります。
- ビジネス・アナリストがデータ・サイエンティストと連携して、問題や目標を定義する
- データエンジニアが、データと基盤のデータ・プラットフォームを管理して、それらを分析用に全面的に運用できるようにする
- データ・サイエンティストが、データサイエンス・プラットフォーム上にデータを準備し、それらを探索し、可視化し、モデリングする
- ITアーキテクトが、データ・サイエンスをスケーラブルにサポートするために必要な基盤インフラストラクチャを管理する(オンプレミスでもクラウドでも同様)
- プリケーション開発者がモデルをアプリケーション内にデプロイし、データ主導型製品を構築する
人工知能から適応型インテリジェンスへ
AIの機能がエンタープライズ運営の中心的要素になりつつあるなか、新しい言葉が注目され始めています。それが、適応型インテリジェンスです。適応型インテリジェンス・アプリケーションとは、内部や外部のリアルタイム・データが持つパワーを、意思決定科学や高度にスケーラブルなコンピューティング・インフラストラクチャと組み合わせることで、エンタープライズ組織のビジネス意思決定を改善できるようにするものです。
これらのアプリケーションは、ビジネスをスマート化するのに役立ちます。これにより企業は、顧客に提供する製品、推奨事項、サービスの品質を改善し、業績の向上につなげることができます。
競争力強化のための戦略的重点項目になりつつあるAI
AIは、業務効率を改善し、新たな収益チャンスを確保し、顧客ロイヤルティを高めようとするすべての企業にとって、戦略上の重点項目と言えます。AIは近年急速に、さまざまな組織にとっての競争上の利点になりつつあります。AIを使用することで、企業はより大きな成果をより短時間に達成し、パーソナライズされた魅力的な顧客エクスペリエンスを提供し、業績を予測して収益性の向上を促進することができます。
ただし、AIはまだ新しく、複雑なテクノロジーでもあります。AIを最大限に活用するには、大規模なAIソリューションを構築し、管理するための専門スキルが必要です。AIプロジェクトを成功させるには、単にデータ・サイエンティストを雇うだけでは不十分なのです。エンタープライズ組織では、適切なツール、プロセス、管理戦略を整備して、AI導入の成功をより確実なものにする必要があります。
AIを最大限に活用するためのベストプラクティス
Harvard Business Reviewでは、AIを初めて導入する際の推奨事項として、次のことが挙げられています。
- 収益とコストに最も大きく影響し、かつ最も早く影響する活動にAI機能を適用する。
- AIによる生産性の促進は、人員数を増減させることなく、現状の人員数のままで進めていく。
- AIの導入は、フロントオフィスではなく、バックオフィスから着手する(IT部門と会計部門が特に効果的)。
AI導入に関する支援の確保
今はAIによる変革の重要性は、疑う余地がありません。競争力を維持するには、すべての企業が最終的にAIを受け入れ、AIエコシステムを構築する必要があります。今後10年以内にAIを一定度以上導入できなかった企業は、競争に遅れをとることになるでしょう。
例外もあるでしょうが、多くの企業では、AI機能を最大限に利用するためのエコシステムやソリューションを開発できる人材や専門スキルが、社内に確保できていません。
AIによる変革を成功させるための適切な戦略を開発し、適切なツールを確保するうえでサポートが必要な場合は、高度な専門知識と包括的なAIポートフォリオを提供できる、革新的なパートナーを探すようにしましょう。