ASPに聞くガバメントクラウド・標準化の現状と課題②

前回に引き続き、ASP目線でのガバクラ・標準化の現状を知るべく、今回は静岡県内約4割の団体の基幹系システムの運用・保守を担当し、ユーザーとなる自治体の特性に合わせてパッケージ製品を組み合わせてサービス提供を行なう株式会社SBS情報システム様にお話を伺いました。

2024年4月30日

政府としてクラウドスマート、モダン化を推進している一方、全国的にエンジニアが不足しているという理解です。こうした現状をどのようにとらえていらっしゃいますか。

 標準化対応に起因する全国的なIT人材不足は、当社としても非常に大きな問題だと捉えており、そこには主に2つ要因があると思っています。まず1つは標準仕様に準拠するという仕様面の問題と、もう1つはインフラ環境がガバメントクラウドに対応しなければならない点です。そしてどちらとも2025年度までの対応が基本的に必須であることが、問題をより大きくしています。当社は、自治体情報システムに関しては自社開発ではなく、開発ベンダーから仕入れたパッケージシステムを自治体に対して提供しています。標準化対応においては、標準仕様に準拠するためのアプリケーション開発は開発ベンダーが行い、当社のような運用ベンダーは、要件のすり合わせ(Fit&Gap)やシステム構築、移行作業を経て稼働させることが担務となります。

 また、ガバメントクラウド対応に関しては、今回、アプリが動作するインフラ環境は4CSPに限られていますが、対応する開発ベンダーはそこで稼働できるように作りかえないといけません。運用ベンダーとしても、今まではオンプレミスや自治体クラウドなど、IaaSに近い基盤で動かしていたところを、クラウド環境上に構築する必要があるため、知識やスキルが充足しているとはいえない状況の中で、開発側も運用側も新たな業務に対応していかなければならないというのが実情です。

 さらに、通常、システムを切り替える作業期間は少なく見積もっても半年から1年は必要で、その中で要件定義、テスト、移行と作業を進めていきますが、今回2025年度にすべての顧客に対して、同時並行で移行作業を行う点が全体的なリソース不足を招いていると考えます。


現在、ガバメントクラウドの設計・構築を行なわれている中で、オラクルのコンサルティングサービスで設計・構築の支援をさせていただいておりますが、どのようなご評価でしょうか。

 今回、採用する新システムは、モダンアーキテクチャなアプリケーションとなっていますが、当社としてはクラウドやモダン技術が得意分野というわけではありませんでした。そのような中で、インフラ構築から自分たちで対応していく必要があるため、基本的なスキルの習得からはじめて、すべて自力での構築することも当初は考えました。しかし、最終的には、時間的な制約やリソース面から、先行投資としてコンサルティングサービスを契約することを決断しました。

 特に良かった点は、アサインいただいたメンバーの方々がOCIに詳しいのはもちろんのこと、ガバメントクラウドや三層分離など、自治体固有の環境に関しても理解が深くて話がスムーズにできた点が挙げられます。あとはこちらの無理なお願いにも真摯に耳を傾け、常に精力的に取り組んでいただいた点に感謝しています。


今後さらに設計構築を進め、運用フェーズに入っていかれますが、現在の課題としてはどのようなところでしょうか。

 運用ベンダー目線でお話ししますと、今はシステム間連携周りのところが気になっています。標準化対象の20業務の中でも連携が必要となりますし、場合によっては他社のクラウドサービスとも連携する必要があります。

 また、オブジェクトストレージ連携の際に、シングルCSPの場合は問題ないのですが、マルチになったときに相手の認証・認可や、閉域網にてAPIで繋がないといけないという制約があります。そのため、DNS周りのリファレンスや、認可周りのリファレンスといった技術的な助言が共有されるべきだと思っています。当社は、一社でマルチクラウドになりますが、一社でシングルクラウドであっても相手先がマルチクラウドだと調整もとりづらいので、そういった問題が今後出てくるだろうと考えています。


標準化やガバメントクラウドの先にある自治体のITについて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。
右:株式会社SBS情報システム 公共事業本部 第2システム部 サブチーフ 深沢 翔 氏

 今回の2025年度の対応をもって、標準化やガバメントクラウドの目的が達成することはないと思っています。国が描くあるべき姿に近づくためには、やはりランニングコスト自体を削減する必要がありますが、実際には現状と同等かむしろ上がってしまうという状況になってしまっていて、ガバメントクラウドを使う必然性や合理的理由が見出しにくい状況になっているのが事実です。

 全体的な流れとしては、アプリケーション分離を進める施策に舵を切り、コストを下げていくことがポイントと考えます。アプリケーション分離をするためには、暗号化キーの消去などの技術的な問題やセキュリティポリシーの兼ね合いですぐには実現できないので、一つ一つ問題を解決しながらコスト削減というゴールに到達することで、ようやくガバメントクラウドを使って良かったと思うことができるはずです。それと並行して、削減したコストを、市民サービスの向上や業務改善に資する投資へと充当していくという流れになることが目指すべき方向性だと考えます。当社としても、ITベンダーの立場からあるべき姿の実現に向けた提案を続けていきたいと思っています。

深沢 翔 (ふかさわ しょう) 氏 

 株式会社SBS情報システム 公共事業本部 第2システム部 サブチーフ 
 2017年の入社以来、公共事業本部にて自治体情報システムの運用保守とインフラ管理に従事。介護保険や県医療費助成や外字管理などの業務システム運用、各種システム構築や自社データセンターの運用などを経て、現在は、ガバメントクラウド(主にOCI)の設計構築マネージャーを担当。
 エンジニアの現場における若手リーダーとして自治体情報システムの標準化対応プロジェクトを牽引する。

株式会社SBS情報システム 

 静岡県内で新聞・ラジオ・テレビなどのメディアを展開している「静新SBSグループ」の一角として、SI事業を手掛ける。静岡放送の電算局として、1970年代から公共分野の電算処理サービスを始めて以来、メイン事業となる公共(自治体)のほか、医療、メディアに向けてシステム開発・構築・運用サポートを行う。
 公共事業においては、静岡県内35自治体の内、約4割の団体の基幹系システムの運用・保守を担当し、ユーザーとなる自治体の特性に合わせてパッケージ製品を組み合わせてサービス提供を行なう。

インタビュアー:

高山 聖/事業戦略統括 戦略事業推進本部 担当シニアディレクター
新海 高士/クラウド事業統括 公共・社会基盤営業統括 公共営業本部 デジタル・ガバメント推進部