Alan Zeichick | シニアライター | 2024年10月29日
ソフトウェア開発は、ワープロで白紙の新しいドキュメントを開くときと似ています。「最初に何から手をつけるべきか?」、「複雑なアプリケーションを作る際に、面倒な定型コードや設定ミス、重要な項目の抜け漏れをどうやって防ぐか?」といった課題が出てきます。そこで役立つのがアプリケーションフレームワークです。アプリケーションフレームワークは、さまざまな種類のアプリケーションのための構造を提供します。開発チームがアプリケーションフレームワークを選択したら、本格的にソフトウェア開発が始まります。単なる穴埋めテンプレートほど単純ではないものの、アプリケーションフレームワークが下準備を担うことで、シンプルなマイクロサービスやWebアプリから、従来型のクライアント/サーバーアプリケーションまで、幅広いプロジェクトに対応できます。
Java開発者にとって、最も利用されているアプリケーションフレームワークの一つがSpringです。Springはきわめて柔軟で汎用性が高く、小規模なサービスから、企業の中核を担うような大規模システムまで、さまざまな用途に利用されています。しかし、その高い柔軟性はメリットである一方、選択肢の多さから複雑になりやすいというデメリットもあります。そこで登場するのがSpring Bootです。Spring BootはSpringを拡張したもので、依存関係の管理や設定など、煩雑になりがちな部分を自動化してくれるため、より簡単に使い始めることができます。
そのため、Springの導入を検討している場合は、Spring Bootの利用を積極的にご検討いただくことをおすすめします。
Spring Bootは、Springベースのアプリケーションを作成するためのオープンソースのJavaフレームワークです。2000年代初頭に開発されたSpringは、エンタープライズ向けアプリケーションで非常に高い人気を誇るJavaフレームワークとなりました。その後、Spring Bootが登場し、Springのあらゆるツールや技術を拡張しながら、より簡単に使えるフレームワークとして提供されるようになりました。これにより、アプリケーションの開発を迅速に進めることができるようになっています。
Java開発者にとって、Springには依存性注入、イベント管理、国際化、データ・バインディング、型変換、アスペクト指向プログラミングなど、実に多彩な基盤技術がそろっています。テスト、モック、データオブジェクト、Model-View-Controller方式のWebアプリケーション、リモート処理、タスクスケジューリングなど、思い浮かぶ機能はほとんどSpringでカバーできます。どの機能を使うかは、開発チームやアーキテクトの判断次第で、必要なものだけを選んでも、すべてを活用しても構いません。
Spring Frameworkは、Apache 2.0ライセンスのもとで提供されるオープンソース・ソフトウェアです。
Springプロジェクトには数多くのサブプロジェクトが用意されており、クラウドアプリ向け、セキュリティ、Webサービスの公開や利用、認証情報の管理、データアクセス、イベント管理、さらには人工知能まで幅広くカバーしています。柔軟性が高い分、複雑になりがちなのも事実です。Springベースの大規模アプリケーションを構築しようとすると、設定や選択肢が非常に多く、その一部は手動で設定した後にコードを書き始めてしまうと、変更が難しくなることもあります。
そこで登場するのがSpring Bootです。
SpringとSpring Bootの主な違いは、「複雑さ」と「使いやすさ」のバランスにあります。
Springは、ほぼ無限にカスタマイズ可能ですが、その分、どのモジュールやサードパーティ製ライブラリを導入するのか、どの機能をどのように設定するのかといった選択をじっくり時間をかけて決める必要があります。そして、その作業が終わらないと、本格的なコーディングを始めることができません。
一方、Spring Bootを使えば、インストールや設定に関する多くの選択をフレームワークが自動で行ってくれるため、開発をよりスムーズかつスピーディに始めることができます。確かに、カスタマイズの幅はやや減りますが、実際には困るケースはほとんどありません。ほとんどのシチュエーションでは、Web開発やマイクロサービス開発にはSpring Bootの方が適しています。例外的なケースや大規模なプロジェクトの場合のみ、Springを直接使う選択肢もあるでしょう。
主なポイント
Spring Bootは、エンタープライズ向けJavaアプリケーションを構築するためのオープンソースのアプリケーション・フレームワークです。開発チームが素早く開発を始められるよう設計されており、従来のSpringで必要だった煩雑な設定作業を省略して、スタンドアロンのSpringアプリケーションを簡単に作成できます。
Springプロジェクトの目標は、「意見を持った(opinionated)」設計を通じて、より速くスムーズな開発体験を実現することです。つまり、どのSpringモジュールや機能を有効にするか、どのサードパーティ製ライブラリを導入するかをアルゴリズムで自動的に決定し、その設定も自動で行います。さらに、組み込みWebサーバー、セキュリティシステム、メトリクス、分析機能など、Javaプロジェクトに役立つさまざまな非コーディング要素も追加してくれます。
執筆時点での最新バージョンであるSpring Boot 3.3.4は、最低でもJava 17とSpring Framework 6.1.13以上が必要です。Spring Bootは、Maven 3.6.3やGradle 7.x・8.xなどのビルドツールと連携可能です。また、組み込みサーブレットにはTomcat、Jetty、Undertow、またはServlet 5.0以上に対応したコンテナを利用できます。GitHubとの連携も一般的です。
Spring Boot最大のメリットは、Springアプリケーション・フレームワークの豊富な機能を、その複雑さを意識せずに利用できる点です。Java 17以降に対応したJava仮想マシン(JVM)であればどこでもアプリケーションを実行でき、別途WebサーバーやWARファイルを用意する必要はありません。
また、Spring Bootでは従来のXMLファイルによる設定ではなく、application.propertiesファイルを用いて設定を行います。これは、Oracle DatabaseやMySQLなどのデータベースを利用するアプリケーションに最適です。実際、MySQLを使う場合はSpring Bootが自動的にインメモリデータベースの設定も行ってくれます。データアクセス技術に幅広く対応できるSpring Data JPA(Java Persistence API)も利用可能です。
Spring Bootアーキテクチャの詳細について知りたい方は、Spring Bootベースのアプリケーションの例をご覧ください。
Spring Bootは、他の多くのJavaアプリケーションフレームワークやアドインと同様に、「依存性注入(DI)」と「制御の反転(IoC)」という仕組みを活用して、Javaプログラムにさまざまな機能を追加します。
DI(依存性注入)とは、アプリケーションで利用するオブジェクトや機能そのものを、外部フレームワークであるSpring Bootが用意し、提供してくれる仕組みです。開発者はそれらを自分で作り込む必要がなく、状況に応じて、それらのオブジェクトや関数へのインターフェースを知っている、または定義するだけで十分です。
IoC(制御の反転)は、プログラムの流れ(コントロールフロー)が外部から提供される仕組みです。Spring Bootの場合、開発者はアプリケーションの処理ロジックに集中でき、イベントループやメッセージの振り分けなどはフレームワーク側が担います。Springの特殊なIoCコンテナが、こうしたオブジェクトや機能の依存性注入を効率的・簡単に行ってくれます。
また、SpringやSpring BootではJavaアノテーションも活用されています。アノテーションは「@」記号を頭につけてソースコード中に記述されるタグで、コンパイルには影響しませんが、プログラムに関するメタデータとして機能し、追加機能を提供する際に利用されます。
開発者は、Spring Bootを利用する際、まず新しいプロジェクトのMavenのpom.xmlファイルやGradleのbuild.gradleファイルに、必要なSpringの依存関係およびSpring Boot Starterの依存関係を追加します。その上で、たとえばWebサービス用のRESTコントローラーを構築する場合には@RestControllerなど、適切なSpring Bootアノテーションをコードに付与していきます。Spring Bootは、設計やコーディングを大幅に簡単にするさまざまな機能も提供してくれます。たとえば、Jacksonを使ったシリアライズ/デシリアライズなど、3種類のJSONマッピングライブラリとの統合があらかじめ用意されています。また、Spring SecurityはHTTPやフォームを利用するアプリケーションをはじめ、あらゆるWebアプリケーション構築に不可欠なセキュリティ機能も備えています。
Spring Bootフレームワークは、アプリケーションを4つの層に分けて設計します。HTTPリクエストやJSONデータの処理をビジネスロジックから分離し、さらにビジネスロジックを、データのオブジェクト表現と外部データベース上の実際のデータから分離します。この4層アーキテクチャは、そのままマイクロサービス開発に活用できるだけでなく、Webアプリケーションに最適なModel-View-Controller(MVC)デザインパターンとしても応用できます。
すべての依存関係を追加し、プログラムロジックを書き終えたら、MavenやGradleの標準コマンドを実行することでアプリケーションを起動できます。Spring Bootは、プロジェクトで必要となるSpring Frameworkの各種コンポーネントを自動でインストールし、最適な形で設定してくれます。また、もし自己完結型の実行ファイルを作成したい場合でも、Spring Bootなら複数のJARファイルをまとめた「ネストされたJARファイル」を直接作成できます。このJARファイルを配布すれば、Java 17以上に対応した標準JVMや、GraalVMのようなネイティブ・イメージ・プラットフォーム上でアプリケーションを実行できます。
Springアプリケーションフレームワークは、プロジェクトの規模にかかわらず、エンタープライズ向けのJava開発を格段に効率化してくれます。根本的には、Javaプロジェクトの土台作りをサポートし、多数のモジュールやサードパーティ製ライブラリのインストール・設定作業を自動化することで、開発者の負担を軽減します。アプリケーションのアーキテクチャや用途によっては、こうした作業は非常に複雑になる場合もあります。たとえば、Webサーバーやマイクロサービス向けのRESTエンドポイントが必要な場合も、Spring内に必要な仕組みがすべて備わっています。
生産性向上と密接に関連しているのが、実行時の効率の良さです。さまざまなサービスやライブラリの設定は複雑になりやすく、動作速度やメモリ消費を最適化するのも簡単ではありません。その点、Spring、そして特にSpring Bootは、長年にわたって最適化が重ねられてきたため、アプリケーションの起動や終了が非常に速くなっています。これは、マイクロサービス環境のような用途で特に重要なポイントです。
アプリケーションの種類にかかわらず、Spring Bootは柔軟な4層アーキテクチャを提供し、それぞれの役割を明確に分離・抽象化しています。たとえば、データベース層はオブジェクトデータベースやリレーショナルデータベースなど、外部データソースとのやり取りを担当します。永続化層は、オブジェクトとリレーショナルデータの変換や、CRUD(作成・読み取り・更新・削除)リクエストをデータベース層に送る役割を持っています。ビジネス層はプログラム全体の流れを制御し、プレゼンテーション層はHTTPリクエストやJSONデータの変換を管理します。これらすべての土台をSpring Bootが用意してくれるため、開発チームは主にアプリケーション固有のロジックだけを書けばよく、アプリケーションの完成までスムーズに進められます。
やや簡略化して説明しましたが、イメージはお分かりいただけると思います。
Springの人気のもう一つの理由は、その圧倒的な普及率です。実際、SpringはJavaの世界で非常に広く使われており、ほぼすべての主要なJava関連ツールやサービスが、ライブラリやプラグイン、技術ドキュメントを通じてSpringやSpring Bootをサポートしています。また、コミュニティフォーラムやトレーニング動画、オンライン・対面のカンファレンス、認定資格なども充実しています。そのため、SpringやSpring Bootを採用することは技術的に優れているだけでなく、人材確保の面でもビジネス上賢明な選択だと言えます。
Spring Bootは、従来のSpring Frameworkを直接使う場合と比べて、エンタープライズ向けJava開発者に多くの利点をもたらします。一般的に、プロジェクトの要件をSpringでもSpring Bootでも満たせる場合は、セットアップがより簡単で、高い生産性を実現できる、Spring Bootの利用をおすすめします。主な利点として、次の点が挙げられます。
Spring Bootは、長年にわたりエンタープライズ向けJava開発者のニーズに応える形で進化してきました。機能が非常に多いため最初は圧倒されますが、実際にはSpring Bootの役割は「開発の簡素化」です。プロジェクトに必要なモジュールや機能、ライブラリをSpring Bootが自動的に選んで組み込んでくれるので、開発者はインフラ周りや土台作りではなく、本質的なプログラムロジックに集中できます。
開発プロセスの簡素化に役立つSpring Bootの機能のいくつかを次にご紹介します。
なぜSpring Bootはこれほど人気があるのか
Spring Bootのメリットは、アプリケーションの開発から本番環境への導入まで幅広くあります。
Spring Bootの代表的な機能
開発:
導入:
Spring Bootは、シンプルなマイクロサービスから、企業で重要な役割を担う大規模アプリケーション、最新のクラウド向けアプリケーションまで、あらゆる種類のエンタープライズJavaアプリケーション開発に活用できます。一般的なSpring Bootアプリケーションは、用途に応じてカスタマイズ可能な4つの層で構成されています。たとえば、シンプルなマイクロサービスであれば、データベースや永続化層が不要な場合もあります。
下から順に、この4層の構成は以下のとおりです。
Spring Bootを試してみたい場合、そのセットアップもとても簡単です。この手軽さが、多くの開発チームでSpring Bootが選ばれ、学生をはじめ多くの方が学んでいる理由の一つでもあります。始める際は、公式のDeveloping Your First Spring Boot Applicationのドキュメントもご参照いただくことをお勧めしますが、ここでは流れを簡単にまとめます。
サービスを実際に体験してみたい場合は、導入されているほぼすべてのサービスを利用するアプリケーション、CloudBankをご活用ください。
Spring Bootのデータベース層は、クラウドでもオンプレミスでも、さまざまなデータベースに対応しています。その中でも、特に人気が高いのがOracle DatabaseとMySQLです。オラクルの開発チームは、Spring Bootのサポートに力を入れており、コードをオープンソースライブラリに還元するだけでなく、オラクル独自の多彩なフレームワークやライブラリとの連携も積極的に推進しています。また、Oracle DatabaseやOCIサービス向けにサポートされたSpring Starterも、Oracle Cloud Marketplaceで提供されています。
Oracle Backend for Microservices and AIは、2024年6月に発表された新しいプラットフォームで、Oracle Databaseをはじめとするインフラストラクチャコンポーネントを活用し、複数のクラウド上で動作する「Backend as a Service」を提供します。これにより、開発者はSpring Bootなどのフレームワークを使用して、マイクロサービスを構築・デプロイできるようになります。本プラットフォームは、マイクロサービス基盤の構築、テスト、運用に関わる作業を大幅に簡素化します。また、「AI Sandbox(開発者向けプレビュー版)」が組み込まれており、Oracle Database 23aiを活用したRAGやエージェント技術による素早い検証・試行も可能です。AI Sandboxは、Spring AI Microservice向けのコード自動生成にも対応しており、生成したコードはOracle Backend for Microservices and AI上で管理・デプロイできます。Oracle Backend for Microservices and AIは、コマンドライン・インターフェース、Visual Studio Code(VS Code)用プラグイン、IntelliJ用プラグイン、サービス・ディスカバリー、イベント管理などの機能も備えています。
結果として、Spring Bootはビジネスにとって最適なオープンソースの選択肢となっています。Spring Framework単体を使う場合と比べて、開発チームが複雑な業務アプリケーションをはるかに短期間で開発できるようになります。Spring Bootが必要な機能や外部ライブラリを自動的に導入し、適切に設定してくれるので、開発者は複雑な技術作業に時間を取られることなく、本来注力すべきビジネス課題の解決に集中できます。
AIモデルは、不正のリアルタイム検知や、医療分野での新たなインサイトの発見、カスタマーレビューやSNSの感情分析など、さまざまな場面で活用されています。これらに共通するのは、「データを賢く活用した開発」であるという点です。このeBookでは、実際のAIユースケースを11事例ご紹介しています。
Spring Bootとは何で、どういった用途で使われますか?
Spring Bootは、Java開発者がSpring Frameworkの強力な4層アーキテクチャを活用しながら、より簡単にアプリケーションを構築できるようにするアプリケーションフレームワークです。開発生産性の向上、リリースまでの時間短縮、自動設定機能によるエラー発生リスクの低減、といった多くのメリットがあります。
Spring Bootはバックエンド用のフレームワークですか?
Spring Bootはエンタープライズ向けJavaアプリケーションを構築するためのフレームワークです。クラウド環境やオンプレミスの両方に対応し、Webアプリケーション、マイクロサービス、クライアント/サーバー型などさまざまなソフトウェア開発に使えます。Spring Bootは、フロントエンド(プレゼンテーションやビジネスロジック)からバックエンド(永続化処理の抽象化やデータベース連携)まで、幅広い機能をカバーしています。