シニア・プリンシパル・プロダクト・マネージャー、Ashwini Gupta
この記事では、レポート基準を適切に管理するために、最適な手法を選定する際に用いられるさまざまな計算方法に焦点を当てています。リスク調整は、保険契約からの利益がどのように報告され、時間の経過とともにどのように推移するかの重要な要因です。
リスク調整は、IFRS 17における開示の主要な計算項目の1つです。本基準では、リスク調整が非財務リスクに伴う不確実性を引き受けることに対し、企業が必要とする対価を反映すべきであると定められています。
リスク調整は、IFRS 17における3つの主要構成要素の1つとされています。この項目は、「不利な乖離に対するマージン」を蓄えることを目的として構造的に設計されており、そのため契約期間中に発生する利益の主要な決定要因となることが期待されています。企業は、リスク調整が秩序立った一貫性のある方法で確実に計上されるようにするため、さまざまな計算方法を検討しています。
IFRS 17基準は、計算手法について具体的な方法を明示していません。保険会社は、リスク調整の一貫性を確保するため、以下の定性的な規則(IFRS 17 B91項)に従い、自社の方法論を自由に選択できます。
計算と開示に関して、企業は契約グループ・レベルでリスク調整を計算し、開示においては期首残高から期末残高への推移を示す必要があります。さらに保険会社は、採用する計算手法と、負債が消滅するまでのリスク調整の信頼区間についても開示することが求められます。
IFRS 17は原則ベースの会計基準であり、企業には自社にとって最も適切な計算方法を選択する裁量があります。
リスク調整を算出するために利用可能な方法は次のように4つあります。すなわち、資本コスト・アプローチ、バリュー・アット・リスク・アプローチ、シナリオ・バリュー・アット・リスク・アプローチ、不利な乖離に対するマージン・アプローチです。
資本コスト・アプローチは、ソルベンシーIIにおけるリスク・マージンの計算と同様の方法を用います。リスク・マージンの計算は、次のように定義されます。
ここでは、リスク資本は、リスク・ペアごとにその結合リスク要件を合計して算出します。リスク・ペアのリスク要件は、2つの個別リスクの資本要件に、それぞれの相関係数を適用して求められます。算出されたリスク資本には、ソルベンシーII指令で規定された6%の資本コスト率を乗じます。この指令に従い、個別リスクのリスク資本を計算する際の信頼水準は99.5パーセンタイルに設定されています。
ソルベンシーIIに多大な投資を行っている企業は、IFRS 17と重複する業務を回避するため、ソルベンシーIIの既存プロセスをリスク調整の計算にも活用することが予想されます。
2つの計算の間には、対象となるリスク、リスクのパラメータ化、契約境界、および2つの数値が必要な粒度を含めて、概念的に重要な違いがあります。したがって、保険会社は既存のソルベンシーII手法を用いる場合、これらすべての違いを考慮する必要があります。
ソルベンシーIIの標準式では、ストレス・テストと相関アプローチが使用されており、これらは欧州保険・年金監督局(EIOPA)によって調整されています。欧州保険・年金監督局 (EIOPA)によって調整されています。これらの計算はあらゆるリスクを包含し、1年間の期間に対して信頼水準を99.5パーセンタイルに設定しています。保険会社は、個別のストレスと相関マトリクスを使用し、ベース・ランと異なるストレス間の相関を考慮して計算します。
IFRS 17では、これらのストレスを、リスクの価格設定とストレスの適用期間に合うよう適切に調整できます。グループごとに計算される将来キャッシュフローの現在価値は、VaR計算における最良見積もりとなります。この計算は、さまざまな仮定に対してマージンを追加して繰り返されます。「マージンあり」の実行と最良見積もりの実行との差異は、適切な相関マトリクスを用いて集計されます。ただし、資本コスト・アプローチと同様、保険会社は非財務リスクのみを対象とする必要があります。
また、保険会社は、リスク間の相関関係を適切に考慮した複数の仮定に基づくシナリオを使用することもできます。この代替アプローチは、モデリング機能や利用可能なデータが限られている場合に特に有効です。必要な要素ベースラインとなる最良見積もりとは別に、特定のシナリオ結果を導出するために単一のシナリオを実行します。このアプローチで最も重要なのは、計算に適したシナリオを策定することです。シナリオの導出には統計的手法を用いることも可能ですが、主観性が介在するという制約があります。エキスパートの判断に過度に依存すると、結果の説明が困難になるおそれがあります。
このアプローチは最も基本的で、計算能力の観点でも最も要求が少ない方法です。多くの規制当局は、引当金やその他の目的において、すべての仮定に明示的なマージンを組み込む方法の採用を認めています。ベース見積もりを上回る部分が「不利な乖離に対するマージン」として明示的に計算・認識されます。
この方法論を引当金計算に採用している保険会社であれば、IFRS 17におけるリスク調整の算定に、既存の計算基盤やプロセスを活用できます。
保険会社が選択する方法は、社内の計算能力、各アプローチへの習熟度、そしてIFRS 17の要件を満たしつつ柔軟に対応可能な体制に左右されます。加えて、以下のような観点も重要です。すなわち、年度をまたいで一貫性のある結果を提供できること、他の指標との整合性が取れること、既存のデータやプロセスを活用できること、などです。
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