「学びへの飢え」:Red Bull Advanced Technologies、将来のレーシングスター育成にOCIを活用してAIを試験

Red Bull Advanced Technologiesは、OCI上で動画を入力することで深い分析を可能にするツールの実現を目指しています。

Chris Murphy|2022年10月24日


モータースポーツの頂点に到達するために、若手レーサーには一般的なアスリートの集中力や情熱以上のものが求められます。

「私たちが求めているのは "極めたいという激しい渇望" です。次に走るときにはもっと上手くなりたいという燃えるような意欲のことです」と語るのは、Driver Academyの責任者で若手ドライバーの育成を担うGuillaume Rocquelin氏です。

「こちらが提供できるあらゆるデータや分析に対して貪欲でなければなりません」とRocquelin氏は続けます。「それこそが、私たちが最も重視する姿勢です。もちろん、それがすぐに身体的能力に直結するとは限りませんが、そこからすべてが始まります」

フランスF4選手権でコーチングを受ける、Red Bullジュニア・チームの野村勇斗選手(中央)

このトップレベルへの飛躍について誰よりも理解しているのがRocquelin氏です。彼は4度のF1ワールド・チャンピオンに輝いたSebastian Vettel選手のレース・エンジニアを務めた後、レース・エンジニアリング責任者を経て現職に就いています。Red Bull Driver Academyは、モータースポーツ界屈指の育成機関であり、現在F1に参戦する20名のうち7名がこのプログラムの卒業生です。

Rocquelin氏は、自身を含むコーチ陣が使う教育ツールには、まだ改善の余地があると見ています。優秀な若手ドライバーは旺盛な学習意欲を持っていますが、コーチ側には「なぜあの選手の方が速いのか」を明確に示す手段が限られています。ブレーキを踏んだのはいつか、加速はいつか、シフトダウンのタイミングは?カーブへの進入角度や通過角度はどうだったか?ドライバーは速い選手の走りを「見る」ことはできても、それを正確に再現するのは難しいのです。

Red Bull Advanced Technologiesは、モータースポーツに高性能技術を応用し、さらに他業界への応用も模索しており、この課題に対して、より優れた若手ドライバー育成ツールの開発に取り組んでいます。同社のエンジニアたちは、オラクルのデータサイエンス専門家と連携し、機械学習、クラウド・コンピューティング、データ可視化を組み合わせて、こうしたデータ志向のアスリートにとってより価値のあるトレーニング体験を創出しようとしています。

「どんなコーチング環境においても、ツールはあくまで会話の出発点であり、ツールの質が高ければ会話の質も高くなるのです」とRocquelin氏は語ります。

どんなコーチング環境においても、ツールはあくまで会話の出発点であり、ツールの質が高ければ会話の質も高くなるのです

Red Bull Driver Academy責任者 Guillaume Rocquelin氏

オラクルのデータサイエンス・チームは、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)を活用して自動運転車向けのSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)アルゴリズムを改良し、まずはeスポーツ・ドライバーの映像分析に応用しようとしています。これが成功すれば、ドライバーの走行映像をアプリケーションに入力し、機械学習で解析することで、ラップタイム向上につながる新たなインサイトを得られるようになると見込まれています。

Red Bullジュニア・チームのArvid Lindblad選手がイタリアF4選手権に出場。

このツールはまだ開発初期段階にあります。オラクルのデータサイエンティストたちは、自動運転車用のアルゴリズムを通常のセダンではなくレーシングカーに適用した際、課題に直面しました。「レースの世界では、物理法則の適用がまったく異なります」と語るのは、オラクルのAIサービス担当バイスプレジデント、Jigar Modyです。ここでは、OCIが未解決のAI課題にどう対処しているかを見ていきます。

まず、Red Bull Advanced Technologiesはeスポーツ・シミュレーターの映像をオラクルのデータサイエンス・チームに提供し、チームはその映像にSLAMアルゴリズムを適用して、車両のトラック上の位置を特定しようとしました。その出力は、後の分析に必要な基礎データになると期待されていました。

しかし問題が発生しました。最初にSLAMをレース映像に適用した際、位置予測が500メートルもずれていたのです。このアルゴリズムは、最高時速320キロ(200マイル)、カーブでは5 Gの横加速度に耐えながら走行する車両を想定していませんでした。精度の高いAIモデルが必要であったため、オラクルのデータサイエンティストたちはモデルの精緻化に取り組みました。

こうした精度は非常に重要です。「ドライバーは非常に正確に運転するため、アルゴリズムが役立つためには20 cm単位の位置精度が必要なのです」と語るのは、オラクルのチーフ・データサイエンティストで本プロジェクトを指導するAlberto Polleriです。「車の進行方向を示す角度も数度単位で変わるため、1度未満の精度が求められます」

オラクルのデータサイエンス・チームは、AIモデル構築と検証に必要な膨大な計算処理を支えるために、OCIのグラフィック・プロセッサ・ユニット(GPU)をオンデマンドで大量に活用しています。チームは映像をOCIに取り込み、畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN)と再帰型ニューラル・ネットワーク(RNN)で処理し、OCI上で各種パラメータを検証してAIモデルに適合させ、実際のトラック上の走行との一致度を評価します。

このモデル適合作業は計算負荷が最も高いため、OCI上のスケーラブルなクラウド・リソースとしてのコンピューティング能力が不可欠です。モデルによっては実行に数日かかることもあります。ときには、試験の途中で改善が見られないと判断して中断したり、複数のモデルを並行して実行したりすることもあります。「私たちは毎月数百件の実験を行っており、それぞれに数日を要するのです」とPolleriは説明します。

OCI上での技術実装

以下は、OCI上でのアーキテクチャにおけるデータフローの概要です。

まず、映像データがOCIに取り込まれます。

次に、データは3つの並列パイプライン(ワークフロー)へと流れ、視覚オドメトリ(速度と向き)、トラック上の位置、車両制御(ステアリングと車輪)をそれぞれ評価します。これらのワークフローは、GPUを含むOCI Computeのリソースを広範に活用しています。

AIモデルが精緻化されれば、Red Bull Advanced Technologiesは、OCI上で動作するツールを使って、ドライバーがラップごとにどのように走行を変えているか、他のドライバーと何が異なるかを深く分析できるようになることを期待しています。

こうしたアルゴリズムの研究は、レースを超えて、ロボティクスや自動運転車など、物体の次の動きを予測することが重要な分野においても価値ある応用が見込まれます。ほとんどの用途では時速200マイルのスピードは必要ありませんが、レースで得られた精緻化は、より一般的な速度帯でも有用となるでしょう。「高速環境でうまく機能する技術は、低速環境では驚くほどのパフォーマンスを発揮します」とオラクルのModyは語ります。


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