オンプレミスの制約とクラウドの可能性:リーダーのためのAI戦略

オラクル、テクノロジーおよびイノベーション担当ディレクター、CISSP、Gilbert Traverse | 2025年5月6日

オラクルは、企業向けアプリケーション分野で40年以上にわたってリーダーシップを発揮してきた強みを活かし、お客様にJD Edwards、Peoplesoft、Siebel、Oracle E-Business SuiteといったOracle Applications Unlimited製品群を提供してきました。また、SAPなどの競合製品も、長年にわたりビジネス運営を支えてきました。しかし、近年AIが急速に普及する中で、多くのビジネスリーダーが既存のレガシーアプリケーションの中でAIをどのように活用するべきかを模索するようになっています。今年初めのForbesの報告によると、世界の大手企業のうち6割が生成AIを導入しています。これらの企業のうち、74%が大きな投資対効果を実感しており、45%が従業員の生産性が2倍になったと答えています。1このように、AIは実質的な価値を生み出し、業務のスピードと効率を格段に向上させることができます。こうした生産性の向上によって、小規模な組織でも効率よく成長し、競合他社と同じ土俵で戦い、市場に新たな変化をもたらすことができます。しかし、AIの導入が進み、こうした効率性の向上が当たり前になる中で、AIの導入を後回しにする企業は、競合他社にすぐに遅れをとる可能性があります。

AI導入の選択肢

リーダーは、取締役会から今日のAI市場で競争力を維持するためのAI戦略の策定と導入を求められており、市場の変化に遅れを取らず、事業を円滑に進めながら迅速に対応する必要があります。オラクルのApplications Unlimitedプログラムは2035年までサポートされますが、リーダーは既存のレガシー環境にAIを追加するのか、あるいは最初からAIが組み込まれている最新のプラットフォームへ移行するのか、選択を迫られています。たとえば、Oracle Fusion Cloud Applicationsは、財務、人事、サプライチェーン、CXにわたる最新のベストプラクティスを網羅した完全なスイートを提供し、150以上のAI機能が組み込まれています。また、Fusion Applicationsでは、革新的な機能が四半期ごとに追加されるため、自社の主要な業務プロセスにAI戦略を組み込みつつ、投資効果を最大限に高めることができます。

レガシープラットフォームからOracle Fusion Applicationsへの移行は、高度にカスタマイズされたシステムを長期にわたり使用している組織にとっては、あまりにも困難で複雑に思えるかもしれません。しかし、効果的なAIツールを構築することは、それ以上に難しい作業です。AIには多くの利点がある一方で、多くの企業はいまだに自社のAIビジョンの実現に苦労しています。最近のWall Street Journalの記事によると、多くの経営者がAIに対して楽観的である一方で、AIの導入は想定より大変だと感じていることが明らかになっています。2実際、市場には多くのAIサービスやツールが提供されていますが、効果的なAI戦略を実行するためには、データサイエンスのスキル、開発力、専門的なインフラ、高度な業務プロセスの理解、そして信頼できる高品質なデータが必要となります。多くの企業は、これらの一部には対応しているものの、AI戦略を成功させて実際に価値を生み出すために必要なすべての力を備えている企業はごくわずかです。

AIの一般的な課題

リーダーがAIの導入を本格化させる中で、多くの一般的な課題に直面しています。複数の異なるシステムを抱えていたり、高度にカスタマイズされたオンプレミス・アプリケーションを利用している場合、AI活用の第一歩としてデータを整備すること自体が大きな難題となります。データを集約できれば、過去のデータでモデルをトレーニングするのは一見容易に感じられます。しかし、業務プロセスの変更や例外、データセットの外れ値などが、AIの精度に影響を及ぼす可能性があります。こうした要因は、ツールを使えば使うほどモデルドリフトの発生にもつながります。さらに、AIの専門人材は需要が非常に高く、優秀な人材の確保と定着は困難を極めます。また、AIプロジェクトの成功には、業務プロセスへの深い理解が不可欠なため、各業務部門の責任者の賛同が求められますが、AIツールの活用方法に対する考え方は部門ごとに異なる場合もあります。

AIモデルを稼働させるGPUはサプライチェーンの不足による影響を受けています。さらにGPUは膨大な電力を消費するため、企業のサステナビリティ目標への影響も懸念されます。高度な処理を行うために複数のGPUを連携させて運用する場合、ロスレス・ネットワークが必要であり、これらすべてがAIソリューションの導入コストを非常に高額に押し上げる要因となります。

AI導入の技術的な課題に加え、最新の規制動向や既存のプライバシー法も企業へ重大な規制リスクをもたらしています。たとえばEU AI Act3や、カナダのArtificial Intelligence and Data Act4、カリフォルニア州消費者プライバシー法5、EU一般データ保護規則6などがあり、これらに適合しない形でAIを運用すると規制の対象になりかねません。特に採用業務でのAIの活用は規制当局の監視強化やリスク増大にもつながります。7そのため、IT部門のエグゼクティブは、急速に変化するテクノロジー、人材、規制環境のもとで、自社のAI戦略を推進しつつ経営価値を生み出さなければならない、という難しい課題に直面しています。

成功するAI戦略の構築

AI戦略を成功させるには、技術的なソリューションのみに依存していてはなりません。効果的な戦略は多面的である必要があり、それにより最大の価値を引き出すことができます。National Bureau of Economic Researchが発表した調査によると、AI活用による最大の生産性向上のためには、補完的な業務プロセスの整備や、組織体制の再構築、新しいAIツールを使いこなすための個人や組織の適応力の強化が求められるとのことです。8

効果的なAI戦略を推進するためには、既存プロセスに単にAIを後付けするのではなく、中核となる業務プロセスそのものにAIを組み込むという新しい発想が不可欠です。生成AIツールは確かに価値をもたらしますが、カスタマイズされたレガシーアプリケーションを抱える企業では、もともとAI活用を想定していない業務プロセスにAIツールを適用しても、変革的な効果を得にくいという課題があります。

また、組み込みAIソリューションを選定するにあたり、データのプライバシーとセキュリティにも十分な注意を払わなければなりません。一部のAIベンダーは、企業データや知的財産を収益化する目的で匿名化されたデータマイニングを契約上義務付けることがあります。しかし、データに差異があると、複数のデータセットを集約しても得られるメリットは限定的です。

さらに、AI戦略を成功させるには、そのプロセスに必ず人間を介在させる必要があります。これは、人間がAIツールの使用を意図的にオンにする、推奨を受け入れる・拒否する、AIが生成したコンテンツを修正する、といった仕組みを指します。NIST AI Risk Management Frameworkは、人間がAIプロセスに関与することで、公平で公正な結果を促進できるとしています。9

さらに、AI戦略は柔軟性を持ち、将来を見据えたものでなければなりません。AIの進化のスピードは、インターネットやスマートフォンといった過去の変革的テクノロジーの普及速度をはるかに上回っています。2年前には生成AIが登場し、一般ユーザーもAIを活用して自然言語でデータと対話できるようになりました。その翌年には、検索拡張生成(RAG)のようなツールが登場し、カスタムモデルをトレーニングせずに文脈に即した回答を提供できるようになりました。現在では、新しいタイプのAIであるエージェント型AIが登場し、機械学習、高度な分析、文脈を理解する生成AIの力を組み合わせ、プロセスを自動化し、より高いビジネス価値を提供することが期待されています。複数のAI技術と分野の融合であるエージェント型AIを導入することは、十分な経験やノウハウを持つ組織以外には非常に困難な取り組みとなるでしょう。このような複雑性もあり、CIO Magazineによれば、AIエージェントを独自に構築しようとする企業の約75%は失敗に終わるとされています。10

そのため、SaaS技術が急速に進化し、機能追加やアップデートも頻繁に行われていることを考えると、最初からAI機能が組み込まれている「SaaSファースト」戦略を選ぶことで、企業はすばやく、確実にAIによる生産性向上を実現できるといえます。要するに、AIの複雑さを考慮すれば、「購入できるものは構築しない」ことが重要です。

オラクルが支援できること

オラクルは、独自の強みを生かし、エグゼクティブの皆さまが組み込みのAI機能を活用した効果的なAI戦略を導入できるよう支援します。オラクルは、日々使われる業務プロセスのフローの中に多様な予測型・生成型のAIやAIエージェント機能を直接組み込むことにより、Fusion Applicationsの機能を継続的に拡張しています。これにより、データサイエンティストでなくても、すべてのエンドユーザーがAIの恩恵を受けられるようになります。Oracle AI Agent Studio for Fusion Applicationsは、お客様が自社固有のニーズに合わせて生成AI機能やAIエージェントを作成・カスタマイズ・検証・展開できるツールを提供する、設計時の環境です。高度にカスタマイズされたレガシーアプリケーションとは異なり、Fusion Applicationsの統合データモデルは一貫性のある高品質なデータを提供し、効果的なAI活用を支援します。加えて、AIの稼働に必要なOracle Cloud Infrastructure(OCI)のコンピューティング・パワーも、Oracle Fusion Applications利用時には追加費用なくご利用いただけます。

CIAを最初の顧客に迎えた歴史を持つオラクルにとって、セキュリティはまさにDNAの一部です。そのため、Oracle Fusion ApplicationsのAIでは、お客様のデータがオラクルや外部のLLMベンダーと共有されることはありません。また、「人による介在」と、四半期ごとのアップデートの徹底により、人間中心かつ将来を見据えたAIツールを迅速かつ簡単に導入していただくことができます。

イノベーションが急速に進む今、競争に遅れを取るリスクが高まる中で、経営層はOracle Fusion Applicationsを活用することで、自社のAI戦略を効果的に実行することができます。これには、最新のベストプラクティスの導入、AIによる分析の実現、エージェント型AIの迅速かつ有効な活用などが含まれます。Oracle Fusion ApplicationsにはあらかじめAI機能が組み込まれているため、お客様は自社独自のユースケースに集中することができます。Oracle Fusion Applicationsは、AI機能を別途構築して既存のシステムに追加することなく、リーダーの皆さまが全社規模でAIの価値を実感できる明確な方法を提案します。

次のステップ

組み込みのAI機能を備えたOracle Fusion Applicationsの導入をお考えですか?ぜひOracle Cloud Applicationsの営業担当者まで気軽にお問い合わせください。

Fusion ApplicationsのAI機能の詳細については、「Oracle AI for Fusion Applications」をご参照ください。また、Oracle Cloud Applicationsを支える基盤技術については、当社ブログシリーズをご参照ください。まずは概要をご覧ください。

本稿の著者は、オラクルのNorth American Applications Office of Technology and Innovationのメンバーです。当チームはお客様のビジネスを技術革新を通じてモダナイズすることに注力しており、AI、SaaS、プラットフォーム技術、オペレーション、データ管理に関する専門知識とビジョンを提供しています。

AIイノベーションがもたらす変革の時

オンプレミスからFusion Applicationsへ移行し、競合他社の一歩先を行きましょう

1『74% of Early AI Adopters Already Have ROI』、Forbes、2024年8月8日

2『AI Work Assistants Need a Lot of Handholding』、The Wall Street Journal、2024年6月25日

3The EU Artificial Intelligence Act、Future of Life Institute

4 Artificial Intelligence and Data Act、Government of Canada

5 California Consumer Privacy Act、State of California

6『Legal framework of EU data protection』、European Commission

7『A global outlook on 13 AI laws affecting hiring and recruitment』、HR Executive、2024年6月18日

8『Artificial Intelligence and the Modern Productivity Paradox: A Clash of Expectations and Statistics』、National Bureau of Economic Research、2017年 (PDF)

9『AI Risk Management Playbook: Govern』、National Institute of Standards and Technology

10『Thinking of building your own AI agents? Don’t do it, advisors say』、CIO、2024年9月19日