オラクルのプロダクト・マーケティング担当シニア・ディレクターBarry Mostert、オラクルのプリンシパル・クラウド・アーキテクトBashir Rabile、オラクルのプリンシパル・プロダクト・マーケティング担当ディレクターKellsey Ruppelによる執筆です。
Industrial Scientificのグローバル・データ・アーキテクトとしてご活躍のPhanidhar Chilakapati氏に、執筆者より感謝の意を申し上げます。
Industrial Scientificは、業界をリードする安全装置サプライヤーです。

図1: Industrial Scientificは、業界をリードする安全装置サプライヤーです。
Fortive Corporationのグループ企業であるIndustrial Scientificは、ガス検出および安全性ソリューションのグローバル・リーダーであり、世界中の産業界に救命技術を提供しています。石油およびガス・セクター向けにガス検出器を提供する主要メーカーとして、安全性、効率性、生産性を向上させる革新的なソリューションの実現に取り組んでいます。そのミッションをさらに推進するため、同社のチーフ・アーキテクトとエンジニアリング部門ディレクターが率いるIndustrial Scientificのエンジニアリング・チームは、オラクルと連携して、カスタマーサポート業務に革新をもたらすAI搭載のソリューションを導入しました。
ビジネス課題
Industrial Scientificは、カスタマーサポート業務において次の重要な課題に直面していました。
- サポート・チームは、デバイスの問題、トラブルシューティング、ドキュメント問い合わせに関する毎月約1,200件のリクエストに応対している
- 回答を得るために複数の部門に相談する必要があり、サポート・チームへの負担が大きく、回答時間が長引いていた
- 回答時間が数日に及ぶことが多く、カスタマー・エクスペリエンスに大きな影響を及ぼしている
- サポート能力が限られているため、サービスデリバリーにボトルネックが生じていた
- こうした業務上の非効率性により、顧客満足度が影響を受けていた
オラクルのソリューション
複数のAIプラットフォームについて評価を実施した結果、Industrial Scientificはソリューションの構築にOracle Cloud Infrastructure(OCI)を採用しました。このソリューションは同社内でSensAIと呼ばれ、次のOCIサービスと連携してカスタマーサポートの回答を自動化します。
- OCI Generative AI: CohereのR+大規模言語モデル(LLM)を使用して、顧客からの問い合わせを処理し、正確な回答を生成します。Cohereが選ばれた理由は、その優れたパフォーマンス、エンタープライズクラスの契約条件、データ共有を防止する厳しいデータ・プライバシー・ポリシーにありました。
- OCI Generative AI Agents: 検索拡張生成(RAG)機能を提供し、製品ドキュメントなどのSensAIのカスタム・データセットを活用してユーザー・インタラクションを拡張します。
- Autonomous Data Warehouse: Generative AIおよびAI Agent(RAG)サービスとのユーザー・インタラクションから生成されたデータを格納します。Select AIの機能を使用して、自然言語でデータを問い合わせることができます。
- Oracle APEX: SensAIのチャットボット・スタイルのユーザー・インタフェースを提供し、Generative AI RAGエージェントとやりとりする関数を簡単に呼び出すことができます。
- OCI関数: ワークフロー全体を調整するサーバーレス関数で、顧客メールの受信時にトリガーされ、サービス間の処理手順を調整して回答を生成および配信します。
- OCI Streaming: 言語モデルによって生成された回答を選択し、Oracle Integration Cloudで使用できるようにします。
- Oracle Integration Cloud(OIC): 同社のSalesforceインスタンスをOCIサービスに接続して、システム間で顧客の問い合わせ、契約情報、サポート回答のシームレスなフローを実現します。
- OCI Object Storage: AIシステムが参照する製品ドキュメント、トラブルシューティング・ガイド、サポート資料を収容するナレッジ・ベースで、文書化された正確な回答を提供します。

図2: SensAIの導入アーキテクチャ。
Industrial Scientificのグローバル・データ・アーキテクトを務めるPhanidhar Chilakapati氏は、「メールへの対応に数日かかっていましたが、自動化により迅速にサポートできるようになり、当社の技術チームの業務が変革されました。チームは日常的な問い合わせから解放され、複雑な問題に専念できるようになりました」と語っています。
このソリューションは統合されたパイプラインとして機能します。Salesforceで顧客からの問い合わせを受けると、OCI関数がトリガーされ、生成AIと連携して内容を分析し、OCI Object Storageから取得したドキュメントに基づいて回答を生成します。生成された回答は、顧客のサポート契約に従ってカスタマイズされ、Salesforceを介して返信されます。こうした自動プロセスにより、ドキュメントの参照と契約へのコンプライアンスを適切に維持しながら、数日かかっていた回答時間を、ほぼ瞬時の正確なサポートへと変革させることができました。
「ドキュメントを安全に処理し、カスタマーサービス・リクエストを改善できる、エンタープライズ対応のAIソリューションを見つけたことは、当社にとってゲーム・チェンジャーとなりました」(Phanidhar氏)。
成果
Oracle AIソリューションの導入により、次に示す大きなビジネス上の価値がIndustrial Scientificにもたらされました。
- サポート業務の自動化: ソリューションによって日常的な問い合わせが自動的に処理されるようになり、サポート・チケットの回避率が著しく高まりました。このブログ記事の公開までに、SensAIは2,230通余りのメールに回答し、185時間以上の時間短縮を実現しました。この自動化により、サポート担当者は基本的なメール対応から解放され、人的な介入を必要とする複雑な技術的問題に専門知識を集中できるようになりました。
- カスタマー・エクスペリエンスの向上: 回答時間が数日から数分へと大幅に短縮され、関連性のあるドキュメントを参照することで正確で一貫性のある回答が実現しました。顧客の契約レベルに基づいてパーソナライズされたサービスを提供できるようになり、交換部品や出荷オプションの取り扱いが適切に行われるようになりました。
- 運用効率の向上: SensAIを活用し、インテリジェントな自動化を通じてサポートのワークフローを合理化することで、効率が30%向上し、チケット回避率が高まったことで運用コストが大幅に削減されました(図3を参照)。サポート・リソースの割当てが最適になり、日常的な回答を得るために複数の部門に問い合わせる必要がなくなり、スタッフが価値の高い活動に専念できるようになりました。

図3: SensAIソリューションは、手作業のプロセスと比べて30%の効率向上を実現します。
- 意思決定の強化: 一般的なサポート問題や顧客からの問い合わせのパターンに関する貴重なインサイトがAIシステムにより生成され、プロセスやドキュメントをサポートするデータドリブンの改善が可能になります。この分析機能は、プロセス最適化の領域を特定するのに役立っており、カスタマーサポートの提供を戦略的に改善するガイドとして機能しています。
Industrial ScientificにおけるOracle AIの採用は、テクノロジーの力でカスタマーサポート業務を変革できることを実証しています。高度なAI機能と堅牢なクラウド・インフラストラクチャを活用することで、同社は効率性、顧客満足度、全体的なビジネス・パフォーマンスを大幅に向上させました。今回の成功事例は、AIが産業界に革新をもたらし、イノベーションを推進する可能性を秘めていることを強調するとともに、エンタープライズクラスの実装にふさわしい適切なテクノロジー・パートナーとソリューション・アーキテクチャを選択することがいかに重要であるかを示唆しています。
「このシステムで得られているインサイトの活用は、現在のサポート・チケットの解決だけにとどまりません」(Phanidhar氏)。「当社のドキュメントの改善や、今後作成するトレーニング資料の質的向上にも役立っています」。
次のステップ
今回の成功を足がかりとして、Industrial Scientificでは、サポート担当者のトレーニングを強化するチャットボット・サポートの導入、生成AIを活用した既存のドキュメントに基づく包括的なトレーニング資料の作成、高コストなチャット・エージェント・ソリューションを置き換えるOracle APEXとの統合の可能性など、複数の刺激的な開発を検討しています。
詳細は、次のリソースを参照してください。