2023年に解決すべき、医療人事に関する12の主要な課題

Mark Jackley | コンテンツ・ストラテジスト | 2023年3月17日

医療機関は、困難な人材の課題に直面しています。新型コロナウイルスのパンデミックがこの業界を襲う以前から、病院、クリニック、医療施設、その他の医療機関は、医師や看護師の不足、従業員の定着率の低下、従業員の燃え尽き症候群、そして着実に上昇する人件費に悩まされていました。これらの課題を解決しなければ、患者の健康や命が危険にさらされるだけでなく、従業員の精神的なウェルビーイングや医療システムの財政的な健全性も損なわれる可能性があります。

医療業界の人事課題は多岐にわたりますが、その解決策は相互に関連しており、ある分野の改善が別の分野の改善につながる可能性があります。例えば、トレーニングを充実させることで、医療機関は従業員を維持し、職場の安全性を高め、個人情報保護法を遵守することができます。

ここでは、医療機関が今日直面している12の主要な人事上の課題と、それを克服するための戦略やベストプラクティスについて説明します。

ヘルスケアにおける人事の役割とは

他の多くの業界と同様、ヘルスケア業界の人事チームも、スタッフの雇用や福利厚生の管理以上の責任を負っています。医療機関の人事チームは、トレーニングや開発プログラムも管理しています。また、患者や従業員を守るための安全対策も実施していますし、患者レコードや従業員レコードのプライバシーを保護する重要な役割を担っています。さらに、給与や福利厚生の枠を超えた報酬プランを策定したり、従業員のスケジュール管理ポリシーを作成したりして、燃え尽き症候群を未然に防ぐことにも寄与しています。また、患者満足度を向上させるための政策やプログラムの作成にも貢献しています。

主なポイント

  • 医療人事の第一の課題は、大規模な人材不足によって引き起こされた人材獲得競争において、スタッフを惹きつけ、維持することです。
  • 人材不足は、従業員の燃え尽き症候群や離職の原因となるだけでなく、患者満足度の向上、規制遵守、患者や従業員の安全確保といった医療機関の取り組みに支障をきたします。
  • 人事チームは、給与や福利厚生の充実、柔軟なスケジュール調整、新しいテクノロジーへのアクセスなど、従業員のニーズと人件費の上昇を抑える必要性とのバランスをとるために、創意工夫を凝らす必要があります。

医療人事に関する12の課題

医療機関の人事担当者が直面する最も困難な課題は、当然のことながら「人」に関わるものです。スタッフの雇用、維持、育成はそれ自体が課題であり、これらの分野のいずれかが改善されれば、患者の転帰の改善やデータ規制への遵守など、より広範な課題の克服につながります。

1. スタッフの確保

米国医科大学協会は2021年の報告書で、米国が2034年までに124,000人の医師不足に直面する可能性があることを明らかにしました。報告書では、5万人近いプライマリケア医と最大7万7千人の専門医が不足すると予測されています。

テクノロジーは、人事チームが人材を管理するのに役立ちます。クラウドベースの人材管理(HCM)システムにより、医療機関は現在と将来の人材ニーズをリアルタイムで把握することができます。また、クラウドベースのエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムにより、人材レベルを維持または向上させるための予算を計画することができます。テクノロジーは人事サービス提供の改善にも役立ちます。例えば、求職者がモバイル端末で募集職種に応募できるようにすることで、応募者の審査、面接のスケジューリング、採用内定までのプロセスを加速させ、競争の厳しい市場で競合他社に先んじることができます。

2. 燃え尽き症候群

Mayo Clinicは、燃え尽き症候群を、仕事上のストレスの一種として、「肉体的または精神的に疲弊し、達成感の低下や個人のアイデンティティの喪失も伴う状態」と定義しています。米国医師会の調査では、全回答者の半数が、燃え尽き症候群の症状を少なくとも1つは経験していると回答しており、看護師では56%となっています。また、3分の1が重度の不安やうつを訴えており、調査対象となった医師の25%が2年以内に現在の病院を辞める予定であると答えています。

燃え尽き症候群を減らすために、ヘルスケア業界の人事チームは、従業員の健康とウェルビーイングを組織のコアバリューに組み込む必要があります。これらのバリューを行動に移すために、人事はデータ分析を導入し以下のような質問に答えることで計画、人材確保、スケジューリングを改善する必要があります。過去3か月間に費やされたリソースとベッド数は?患者が再度入院したり、予定より長く入院する可能性は?インフルエンザのピーク時にリソース不足を防ぐにはどうすればよいか?分析は、人事チームが従業員の定着や退職の要因を特定するのにも役立ちます。分析だけでなく、デジタル・テクノロジーは従業員のエンゲージメントを維持し、ストレスを軽減させるのに役立ちます。例えば、スケジュールの確認、個人レコードへのアクセス、仕事満足度調査などの日々のタスクを、いつでも、どこでも、どのデバイスからでも、より簡単かつ効率的に処理できるようにします。

3. 従業員の維持

人手不足と従業員の燃え尽き症候群は、従業員の定着率に悪影響を及ぼします。ヘルスケア人材派遣会社NSIによると、米国では2021年の医療従事者の平均離職率は25.9%で、前年より6.4ポイント上昇しました。一般的な病院では、過去5年間で100%の職員が離職しています。

2021年の病院の離職者のうち、95.5%を自己都合が占めています。生産ラインが停止したり、注文の割合が減少したりする業界とは異なり、医療機関は患者ケアを維持するためにシフトを埋める必要があります。人手不足で残業が必須となった場合、従業員はより良い労働条件の雇用主に移ったり、一時的な失業や早期退職を選んだりしています。NSIの調査によると、若い医師は年配の医師の2倍の速さで離職し、新しく採用された看護師の3分の1近くが1年以内に退職しています。

定着率を高めるには、人事チームは給与やスケジュールの改善以外も視野に入れる必要があります。医療機関の中には、ドレスコードを緩和するなど、より魅力的な文化を作り出そうとしているところもあります。メリーランド州の病院であるCalvert Health Systemは、ソフトウェア・アルゴリズムを使って職場の問題を特定し、解決するためのプログラムを開始しました。このプログラムでは、従業員がルール違反、医療ミス、従業員同士の対立などの問題を匿名で報告できるようになっています。このような情報に人事がアクセスできることで、人材維持に悪い影響が出る前に、問題に対処できるようになっています。

4. スケジューリングと管理

医療従事者が過剰なスケジュールを強いられていたり、スケジュールについて発言権がないと感じたりすると、燃え尽き症候群や低レベルの患者ケア、高い離職率につながることがよくあります。人事は、全社的なスケジュール管理を支援することで、人材の維持にもつなげることができます。

従来、ヘルスケア企業は、スタッフのスケジュールを管理するために手間のかかるスプレッドシートを使用していました。現在は、ヘルスケア・スケジューリング・ソフトウェアを活用することでプロセスを効率化して、時間を節約し、従業員エクスペリエンスを向上させることができます。従業員は、スケジュール変更に関するメッセージなど、自動スケジュール通知をモバイルデバイスで受け取ることができます。最適なソフトウェアでは、従業員が休暇を申請したり、同僚とシフトを交換したりすることが簡単にできます。管理者は、毎日または毎週のスケジュールを数分で作成できます。スケジューリング分析では、例えば、続けて休憩を取れていなかったり、時間を超過して働いているチームメンバーを特定するなど、スタッフが働きすぎていることをマネージャ―に知らせることができます。また、組織が全体的な労働条件を改善するのに役立つインサイトを提供することができます。

5. 患者満足度の向上

患者満足度は、従業員のパフォーマンスと密接に関連しているため、人事上の問題です。医師がいつも予約時間に遅れたり、看護師が患者を軽率に扱ったり、フロントスタッフが予約や質問に親切に応じなかったりすると、患者満足度は低下します。アメリカ国立衛生研究所の調査によると、39%の人が過去に嫌な経験をしたために医者に行くのを避けていることがわかりました。

人事は、アンケートや少人数のグループミーティング、あるいはHCMシステムに組み込まれたフィードバック機能を通じて、従業員のパフォーマンスに影響を与える最大の問題を特定する必要があります。例えば、過酷なスケジュール、低賃金、古いテクノロジー、その他の要因などです。人事は、従業員満足度を低下させている原因を取り除くことで、患者満足度を向上させることができます。

6. レコードに関する規制の遵守

人事は、患者データの管理に関する規制への遵守を維持するための方針と手順を定義する責任があります。医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Healthcare Insurance Portability and Accountability Act)」に基づき、米国のヘルスケア業界は、患者データの収集、レコードの保管、レコードへのアクセスなどに関する厳しい基準を満たす必要があります。これを怠ると、年間150万ドルもの罰金が課されることもあります。

人事は、医療レコードを保護するために組織のITチームや法務チームと密接に協力し、コンプライアンス文化を創造することで支援しなければなりません。人事の支援により、医療機関は、機密情報にアクセスできる人、従業員がポリシーに違反した場合の対応、ポリシーと手順が保持され、必要に応じて更新される場所などを決めることができます。人事は、全従業員を対象とした研修など、企業コンプライアンスへの賢いアプローチを確立することで、経済的な罰則や訴訟から組織を保護し、全体的な管理負担を軽減することができます。

7. 研修と能力開発

包括的な研修と開発プログラムには、スタッフの定着率の向上、法令遵守の改善、患者ケアの向上など、さまざまな利点があります。しかし、Association for Talent Developmentによると、医療従事者は、シフト制勤務であることや、職種、スキル、資格の種類が非常に多いことから、他の業界の従業員に比べて、トレーニングに費やす時間が年平均34%少なくなっています。

人手不足と従業員の燃え尽き症候群の深刻さを考えると、医療機関は、あらゆる種類のトレーニングと能力開発に投資する必要があります。セキュリティや企業コンプライアンスに関するトレーニングは、すべての従業員にとって有益です。看護師や管理者のための専門的なトレーニングは、患者ケアと従業員エクスペリエンスを向上させます。明確なキャリア開発計画を設定することで、従業員は達成可能なキャリアパスを歩むことができます。病院や24時間365日体制の職場で働く従業員が、いつでもどこでも機能的なトレーニングツールにアクセスできることは、特に重要です。テクノロジーはここでも重要な役割を果たします。例えば、さまざまなデバイスからトレーニングや能力開発にアクセスできるようにしたり、トレーニングの期限が近づくと自動的にアラートを送信するオンライン追跡システムを提供することもできます。

8. 患者と従業員の安全の確保

患者の安全が損なわれる原因は、従業員のトレーニング不足や手順の不履行など、意図的でない場合がほとんどです。人事は、人材不足、燃え尽き症候群、過酷なスケジュール、不十分なトレーニングなど、医療機関のその他の重要な課題に取り組むことで、患者の安全とウェルビーイングの向上にも貢献することができます。

従業員の安全は、仕事に特有のリスクによって脅かされています。米国労働統計局によると、医療従事者は、鋭利なものによる切り傷、化学物質や薬物への接触、腰痛などの仕事上の負傷のリスクが高く、毎年60万人以上の従業員が負傷しています。新型コロナウイルスをはじめとする感染症の脅威が続く中、そのリスクはますます高まっています。さらに、医療従事者に対する職場での暴行のリスクは、他の業界の従業員の4倍であると、米国労働安全衛生局(OSHA)は報告しています。身体的な安全だけでなく、精神的なウェルビーイングも問題となっています。ある調査によると、医療従事者の4人に1人が、職場で安全でないレベルの精神的苦痛を経験したり、目撃したりしたことがあるそうです。

魔法のような解決策はありません。人事は、新入社員にOSHAや自組織の定める安全基準について教育したり、マネージャーが安全な職場環境を作っていることを確認する責任を負っています。人事は、安全に関するポリシーと手順を定期的に見直し、更新し、施設管理者と協力して、職場の潜在的な危険性を監査する必要があります。

9. 競争力のある報酬

人事マネージャーは、優秀な医師、看護師、管理職を探す際に、多くの障害に遭遇します。医療従事者は、競業避止義務契約を結んでいることが多く、新しい仕事に就けるまでに長い通知期間を必要とします。また、医療施設が遠隔地にある場合、最も必要なスタッフ、例えば専門医や看護師が、移住を希望しない可能性もあります。

このような理由から、競合他社が提供するものと比較して、魅力的な給与と福利厚生のパッケージを提供することが極めて重要です。競合他社が提供する給与に少なくとも匹敵することに加え、医療機関の雇用主は、歯科や眼科を含む健康保険や、確定拠出年金などの退職金制度といった標準的な福利厚生も提供しなければなりません。しかし、これらはあくまでも必要最低限の条件です。募集職種によっては、保育支援、メンタルヘルス・プログラム、スポーツジム法人会員、学生ローン返済支援、通勤手当など、福利厚生の拡充を検討する必要があります。

10. 採用企業のブランド力を高める

Glassdoorやその他のオンラインソースのおかげで、求職者が雇用主について調べることはかつてないほど容易になっています。これは、医療機関にとっては課題であると同時にチャンスでもあるのです。優秀な人材に入社を検討してもらうためには、医療機関の人事チームはマーケティングと連携して、魅力的な雇用者ブランドを構築する必要があります。

専門家は、「良いブランディングとは、正直なブランディングである」と指摘しています。あなたの組織で働くことは、実際どういった感じなのでしょうか?人々はどのような点が気に入っていて、また、継続的な改善のために組織は何をしているのでしょうか。ヒント:従業員に、彼らの経験について語ってもらいましょう。彼らの仕事についてだけでなく、職場に来るとどんな気持ちになるのかも語ってもらいましょう。もしあなたの職場が忙しい職場であれば、それをストーリーの一部として語り、エキサイティングな職場を好む求職者を引きつけることができます。平均より高い割合で従業員を維持できているのであれば、安定性、経営陣の配慮、やりがいのある仕事、仲間との絆など、従業員が定着する理由を伝えるようにします。

11. 人件費と給与のコスト

人件費の高騰は、米国の医療機関が直面する財務上の課題に拍車をかけています。Kaufman Hallレポート(PDF)によると、業界の人件費は、新型コロナウイルスの発生以来、3分の1以上増加したことが明らかになっています。契約労働が大きな理由の一つで、現在では医療システム全体の人件費総額の11%を占めています。契約看護師の時給の中央値は劇的に上昇しており、2019年から2022年にかけて106%上昇しています。

医療機関の雇用主が、競争力のある報酬を提供しながら、人件費と給与のコストを削減できる方法はいくつかあります。通常の給与の2倍や3倍の残業代や割増賃金を分析し、日常的に割増賃金を支払っている部署を特定します。管理体制を見直し、可能な限り役職を削減します。これは、経費削減に役立つだけでなく、経営陣も経費削減を免れないということを現場の従業員に示すことにもなります。最も重要なことは、契約社員、巡回看護師、その他の派遣社員への依存を可能な限り減らすことです。これらの派遣社員は、通常、相場より高額で、入れ替えには高い費用がかかります。

12. 最新のテクノロジーを活用する

テクノロジーは、他の業界と同様、ヘルスケア業界に大きな変化をもたらしています。医師や看護師は、特に高齢者や感染力の強い患者を遠隔で診察するようになってきており、時間の節約と安全性の向上に努めています。カルテのデジタル化も進み、臨床スタッフは患者のウェアラブルデバイスや組み込みデバイスから、時にはリアルタイムでデータを収集できるようになりました。

しかし、医療技術の進歩に伴い、急こう配の学習曲線を必要とする特定のシステムもあるため、多くの臨床従事者がついていけていないのも事実です。人事チームは、新しい医療システムに関する必須トレーニングを提供し、シフト勤務の従業員がコースを修了する時間を確保しやすいようにする必要があります。技術に精通した従業員を雇うことは良いアイデアですが、労働市場が厳しい中、雇用主は常に選り好みできるわけではありません。

Oracle Healthcare HCM:人事の課題に対する処方箋

医療人事チームが必要としているのは、さまざまな課題に取り組むための強力なテクノロジーであり、つながりのない、複雑なシステムではありません。

Oracle Fusion Cloud Human Capital Management (HCM)を活用することで、医療機関は、従業員の燃え尽き症候群の防止と離職率の低減に役立つ、思いやりのある文化を支える人事プロセスの計画、作成、管理、および最適化を行うことができます。医療システム全体のあらゆる人事プロセスをつなぐ、この完全なソリューションは、共通のデータソースを提供することで、人事チームがより良い意思決定を行い、進化する従業員のニーズを先取りすることを支援します。

臨床医と非臨床医の両方の成長機会を向上させ、パーソナライズされたロールベースの学習、直感的なパフォーマンス管理とキャリア開発ツールを1か所にまとめて、従業員が簡単に新しいスキルを習得できるようにします。パフォーマンスと患者ケアの両方を向上させ、燃え尽き症候群を緩和する人員配置計画を作成することができます。従業員が職場や自宅でモバイルデバイスを使って、自分のレコードを含む人事システムにアクセスできるようにすることで、セルフサービスを向上させます。自動化を利用して、優秀な候補者を迅速に採用することができます。また、オンライン・コミュニケーション・ツールを活用して、従業員のフィードバックを収集し、従業員の定着を促すような、つながりのある協力的な環境を構築することができます。

医療人事に関する主要な課題:よくある質問

ヘルスケアにおける人事の役割とは
医療機関の人事組織の役割は、採用、入社手続き、給与計算など、従来の業務にとどまりません。人々が優れた臨床医、ビジネスパーソン、同僚として成功するための支援も行っています。今日の厳しいヘルスケア業界の労働市場において、人事は、スケジューリングの改善、包括的な従業員トレーニング、競争力のある報酬を推進することで、燃え尽き症候群やスタッフの離職率を減らすという重要な役割を担っています。

ヘルスケア業界における最大の人事課題とは
ヘルスケア業界における最大の人事課題は、業界の人材不足が続く中、優秀な人材、特に専門医や看護師を惹きつけ、維持することです。

医療人事の主な目標とは
医療機関の人事担当者の目標にはさまざまなものがありますが、適切な人材の発掘と確保、ストレスの多い仕事に従事する従業員の声に耳を傾け擁護すること、プライバシー法やその他の規制の遵守を維持すること、あらゆる立場の従業員に対して必要なトレーニングを確実に実施し、仕事やキャリアアップに役立てられるようにすることなどが挙げられます。

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