Barry Mostert | シニア・ディレクター、アナリスト | 2023年10月25日
組み込み分析は、十分な情報に基づく意思決定をより簡単に行えるようにするデータ分析の革新的なアプローチです。この記事では、組み込み分析の定義、その利点の詳細、一般的な導入テクニックをご紹介します。企業は、分析機能をビジネス・ワークフローや業務アプリケーションに直接導入することで、従業員や、場合によっては顧客でさえも、状況に応じたリアルタイムのインサイトにアクセスし、データドリブンな意思決定を行えるよう支援することができます。
組み込み分析では、データ分析と可視化機能が運用アプリケーションやその他のソフトウェアに直接統合されるため、異なるアプリケーションやシステムを切り替えることなく、データにアクセスして分析することが可能です。組み込み分析は、分析の複雑さを軽減しながら、ビジネスの意思決定の改善と新たなビジネス・チャンスの特定を支援します。また、必要なところに適切で実用的な情報を提供することで、データドリブンなインサイトをより多くの人(従業員、場合によっては顧客)にとってアクセスしやすく、実用的なものにします。
ビジネス・アナリティクスと組み込み分析はどちらも、データドリブンのインサイトにより、企業が情報に基づいた意思決定を行えるよう支援することを目的としています。その違いは、それぞれの使用方法にあります。ビジネス・アナリティクスとビジネス・インテリジェンス(BI)は、ユーザーが業務に使用している運用アプリケーションから切り替えて、データ・インサイトを得るために別のインターフェースを持つ別のツールを使用する必要があります。
組み込み分析は、統合される特定の場所向けに設計されており、タスクに関連する情報を提供します。また、分析およびインサイトにアクセスするための簡単な方法を提供する一方で、ビジネス・アナリティクスやビジネス・インテリジェンス・ツールは、利用するための情報を提供するものの、ツールおよび関連データソースを使用してコンテンツを作成または修正するためには、技術に精通した人材が必要になります。
従来の分析とは異なり、組み込み分析では、裏付けとなる情報やインサイトにアクセスするために、業務に使用しているユーザー・インターフェースから専門の分析ツールに切り替える必要がありません。社内ユーザー(従業員)や社外ユーザー(顧客)は、組み込み分析を使用するうえで高度な技術スキルや、基盤となる分析プラットフォームやデータ管理システムにアクセスする必要はありません。このアクセスにより、関連する分析プロセスを理解しなくても、データに基づく意思決定を行うことができます。
組み込み分析は、より効率的でアクセスしやすく、使いやすいアプローチを提供し、特にリアルタイムのビジネス・プロセスのサポートに適しています。組み込み分析は、リアルタイムにビジネス・プロセスをサポートするための状況に応じたインサイトを提供することができます組み込み分析がなければ、ユーザーは別の分析プラットフォームへのアクセス、そのソフトウェアを使用するスキル、データ定義の理解、提供された情報のやりとりや操作、把握にさらに多くの時間が必要となります。
主なポイント
従来の分析 | 組み込みのアナリティクス | |
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インターフェースの切り替え | ユーザーは主要なユーザー・インターフェースから専門的な分析ツールに切り替える必要があります。 | ユーザーによるインターフェースの切り替えは不要です。現在使用しているインターフェース内で、直接インサイトにアクセスできます。 |
技術的なスキルの必要性 | ユーザーに高度な技術スキルと、基盤となる分析プラットフォームやデータ管理システムの知識が必要となります。 | ユーザー(社内外を問わず)が高度な技術スキルを持ったり、分析プラットフォームやデータ管理システムを理解する必要はありません。 |
効率性とアクセシビリティ | 与えられたデータをやりとりし、操作し、理解するためには、より多くの時間と労力が必要です。 | より効率的でアクセスしやすく、ユーザーフレンドリーなアプローチを提供します。特にリアルタイムのビジネス・プロセスに適しています。 |
リアルタイムの洞察 | 元来、リアルタイムのビジネス・プロセス向けに設計されているわけではありません。ユーザーは、データ処理と分析を待つ必要があることがよくあります。 | ビジネス・プロセスをサポートするために、状況に応じたインサイトをリアルタイムに提供します。 |
個別のプラットフォームの必要性 | 別の分析プラットフォームへのアクセスと、そのソフトウェアを使用するためのスキルが必要となります。 | 別の分析プラットフォームは必要ありません。インサイトはユーザー・インターフェース内で状況に応じて提供されます。 |
データ定義の理解 | ユーザーが効果的に分析を使用するには、データ定義の理解が必要です。 | ユーザーが分析プロセスやデータ定義を深く理解する必要はありません。 |
組み込み分析は、ワークフローとビジネス・プロセスをより良くサポートするために、組織の業務アプリケーションにデータ分析機能を統合するソフトウェア・プラットフォームです。CRMやERPシステムなどの業務アプリケーションに直接導入することができる分析を使用することで、エンドユーザーは、ツールの追加や IT部門や データ・アナリストによるサポートを必要とすることなく、重要なデータ・インサイトにアクセスすることができます。つまり、ユーザーは現在のワークフローやアプリケーションの状況から離れることなく、十分な情報に基づいたデータドリブンな意思決定を行うことができます。企業で幅広く使用されている場合、組み込み分析は生産性の向上、分析プラットフォームのROIの増加、分析主導の文化の醸成につながります。
企業の観点:組み込み分析は、ビジネスが製品やサービスを競合他社と差別化できるよう支援することができます。たとえば、銀行は貯蓄の進捗状況を表示したり、さまざまな貯蓄とリターンのシナリオに基づいて将来の潜在的な富を予測するビジュアル・データ・インサイトを顧客のオンライン口座概要に組み込むことができます。この付加価値サービスは比較的低コストですが、顧客が行おうとしていることを直接強化するため、顧客にとって高い価値があります。製品に直接組み込み分析を導入することができるため、ビジネス・アナリティクスは顧客維持を向上させ、追加の分析機能に対する料金を請求することで新しい収益源を生み出すこともできます。また、組み込み分析により、企業は利用データを収集および分析し、将来の製品開発で参考となる顧客行動や嗜好に関するインサイトを提供することができます。
ユーザーの見解:組み込み分析により、従業員や顧客は、ツールを追加したり専門的なナレッジを必要とすることなく、日常業務の中でデータに関するインサイトに直接アクセスすることができます。これにより、より十分な情報に基づいたデータに基づく意思決定が支援され、生産性、精度、効率が向上します。組み込み分析により、通常であれば取得することが困難であったり、時間がかかったりするデータに関する本質的なインサイトを、迅速かつ簡単に利用することができます。また、組み込み分析により、より多くのデータの収集や調査のために意思決定を先延ばしにする必要がなくなり、これらのインサイトに基づいて即座に行動を起こすことができます。たとえば、自分のオンライン銀行口座にログインした人が、組み込み分析によって支出の習慣を視覚的に確認でき、さらに新たなツールを追加することで、新しい車などの大きな買い物が可能かどうかの評価を支援することができます。
インサイトを他のシステムに組み込むためにはさまざまな方法があり、必要となる技術的スキルのレベルも上がっていきます。最もシンプルな方法は、リンクを切り取ってアプリケーションに貼り付けるだけです。次のレベルは、必ずしもコードを書かなくても、使用中のシステムを理解しているより技術的な人に任せるローコード・オプションを使用します。最後に、最も柔軟性を提供するものの、専門家のスキルに依存するフルコード開発フレームワークがあります。これら3つの組み込み分析の方法について詳しく説明します。
URLのコピー&ペーストによる統合:このアプローチでは、ユーザーがやりとりする運用システムは、ユーザー・インターフェース上の所定のスペースに、グラフや表などの必要となる分析コンポーネントをレンダリングするよう、分析プラットフォームに要求します。このアプローチを使用するには、その運用アプリケーションが、通常リンク、ウェブサイト、またはiFrameから、コンテンツを埋め込む方法を提供する必要があり、そのURLは分析ソフトウェアから提供されます。図2は、Microsoftのウェブサイト・アプリケーションを使用してMicrosoft Teamsに分析を組み込む様子を示しています。
ローコード開発プラットフォームを使用した統合:ローコード・アプリケーション開発のメリットには、最初からコーディングする場合と比較してより迅速にイノベーションを実現し、最小限のコストで業務要件にすばやく対応できることが挙げられます。分析を組み込むには、ユースケースや組み込みを行う担当者のスキル・レベルに応じて、さまざまな手法を用いることができます。ローコード・ユーザーは、技術に精通したビジネス・アナリストや、機能豊富なツールに慣れているが本格的なコード・ライターではない「シチズン開発者」である場合がほとんどです。たとえば、ローコード・ツールは、アプリケーションに分析インサイトを簡単に導入することができるWebコンポーネントを提供することができます。また、一部のデータベースには、データ可視化およびその他の分析をより簡単に埋め込むためのローコードツールが含まれています。
たとえば図3では、Oracle APEXのファセット検索により、タグ・クラウドと自然言語生成による可視化などの組み込み分析コンテンツをフィルタできます。
図4は、分析プロジェクトを参照するOracle Visual Builderアプリケーション内で使用する分析Webコンポーネントと、ローコード・アプリケーション開発者が構成できるプロパティを示しています。
フルコード・フレームワークを使用した統合:フル・コード・フレームワークは最も柔軟性がありますが、使用するには適切なスキルを持つ開発者が必要です。フル・コード・フレームワークは最も柔軟性がありますが、使用するには適切なスキルを持つ開発者が必要です図5で示すように、Oracle Analyticsのキャンバスごとに、Webアプリケーションでそのキャンバスを参照するために必要なコードを表示し、コピーすることができます。
この方法でコンテンツを組み込むと、フィルタを渡したりイベントを呼び出すための追加機能を提供し、その結果、迅速なWebデザインに合わせてカスタマイズできるリッチなユーザー・エクスペリエンスが得られます。図6をご覧ください。
組み込み分析により、従業員や顧客は使用中のアプリケーションやデジタルインターフェースから離れることなく、行動に活用できる情報をより簡単かつ効率的に得ることができます。そうした情報は、グラフ、表、地図、あるいは単なるテキスト・プロンプトの形で提供さ れることがあります。重要なことは、情報は他のデータソースからもたらされたものでありながら、人が行っているデジタル活動ではごく自然に利用されているということです。以下は、それによりもたらされる7つのメリットです。
組み込み分析の最適な使用方法を検討する際には、公開ウェブサイトやアプリケーション、従業員向けの企業アプリケーション、そして独立系ソフトウェアベンダーのケースの3つの幅広い統合シナリオを検討して、有用性を高めます。これら3つのシナリオの詳細は次のとおりです。
公開ウェブサイトとモバイル・アプリの統合 : データ分析ツールと可視化ツールをウェブサイトやウェブアプリケーションに直接統合することで、ユーザーはウェブページを離れることなくデータのやりとりや分析を行うことができます。たとえば、バケーション・レンタル企業は、企業のウェブサイトやオーナー向けモバイル・アプリのコンテキスト内で、宿泊率、価格、レビューなど、物件のパフォーマンスに関するインサイトをホストに提供できます。
社内オペレーティング・システム統合:データ分析と可視化ツールを社内システムに直接統合することで、従業員の時間を大幅に短縮し、より多くの人に実用的な情報を提供することができます。たとえば、分析を組み込んだサプライチェーン・マネジメント・プラットフォームは、在庫水準、サプライヤーのパフォーマンス、納期をリアルタイムに可視化し、従業員が他の企業ツールに切り替えることなく、企業のサプライチェーン管理システムでそれらのインサイトを直接確認できるようにします。
サードパーティ・システムの統合:組み込み分析は、独立系ソフトウェアベンダーの手配でサードパーティ・アプリケーションに統合され、ワークフロー内でユーザーにリアルタイムでインサイトを提供することができます。これにより、ISV組織は顧客やパートナーにデータドリブンなインサイトを提供し、競争上の優位性を生み出すことができます。たとえば、ISVが自社のeコマース・プラットフォームに分析を導入することで、閲覧履歴や購入履歴などの消費者行動に関するリアルタイムなインサイトを顧客に提供することができます。
組み込み分析プラットフォームには、企業のニーズを満たすためにいくつかの基本的な機能が必要となります。これらのニーズは、ダッシュボード、可視化、インタラクティブ性など、ユーザーがデータとやりとりする方法と、適切なデータにアクセスできる機能に最も重点を置いています。組み込み分析プラットフォームに必要な主な機能を以下に示します。
組み込み分析は、従業員や顧客が使用しているアプリケーション内で、行動を起こすために必要なインサイトにアクセスできるよう支援する上で、今後ますます重要な役割を果たします。これにより、ビジネスの大きな障害が解決されるため、データをより有効に活用し、確実にスマートな意思決定ができるよう支援することができます。組み込み分析が提供するものは、静的なグラフまたは若干インタラクティブなグラフだけではありません。機械学習(ML)は、ユーザーが要求しなくても、状況に応じた視覚的な予測を提供することができるようになります。たとえば、あるエネルギー企業は、MLを使用して、顧客の請求ページ内で、過去の使用量に加え、季節性や天候予測などの外部要因を考慮して、今後6ヶ月間のエネルギー使用量を予測するインサイトを提供することができます。
パーソナライズされたリアルタイムのインサイトを提供することは、ビジネスがよりタイムリーで十分な情報に基づく意思決定を通じて競争上の優位性を獲得しようとする中で、ますます重要になります。組み込み分析の未来を形作る可能性のあるその他の要因には、クラウドベースのソリューションの利用の拡大、セルフサービス分析の導入増加、IoTやブロックチェーンなどの最先端のテクノロジーとの分析ソリューションの統合などがあります。
分析プラットフォームを導入することが導入分析のニーズを満たすことができるかを評価する際には、優先順位順に以下の要素を検討します。
Oracle Analyticsでは、リンクを使用してワークブックにアクセスするだけでなく、オラクルのローコード開発ツールを使用してコンポーネントを提供したり、フルコード開発者が好むJavaScript埋め込みフレームワークを使用するなど、さまざまな埋め込み機能を柔軟に使用できます。
組み込みのOracle AnalyticsとOracle Cloud Infrastructure(OCI)で利用可能な豊富なサービスの組み合わせは、企業がカスタマイズされたコンポーザブル・アプリケーションを作成するための独自の方法を提供します。たとえば、Visual Builderを使用して、画像を取り込み、OCI Generative AIサービスを使用して分析を実行し、組み込み分析のフィルタとして機能する「ラベル」の提案を生成するアプリケーションを構築できます。そうしたソリューションでは、Oracle Autonomous Data Warehouse、OCI Object Storage、OCI REST APIを介した通信も利用します。AI Vision機能を利用して駐車場の満車状況を検知したり、組立ラインのステーションで在庫が減少したことを検知するなど、こうしたアプリケーションのビジネスユースケースは数多くあります。
さまざまな手法を用いた組み込み分析は、あらゆる規模のビジネスを支援することができます。組み込み分析の開始は、分析ワークブックのリンクを業務アプリケーションにコピー&ペーストするだけと簡単にできます。シチズン・デベロッパーであれば、導入にローコードオプションを使用して、より高度なものを試すこともできます。また、開発者であれば、埋め込みフレームワークを使用したフルコード作成を無限に行うことができます。どちらを選択しても、従業員の業務や顧客の購買プロセスのフローにおいて、適切なタイミングでインサイトを提供することが、より適切な意思決定および生産性や売上の向上につながることはすぐに分かります。
分析を組み込むことで、各システムが本来の機能を発揮できるようになることが最大のメリットです。ソフトウェア企業は、ホスト・アプリケーションとその開発者を、システムの機能運用の最適化に完全に集中させることができます。分析プラットフォームを使用して組み込み分析を提供することで、企業は専門知識が不足している可能性のある分野で、独自のカスタム分析を開発する必要がなくなります。
組み込み分析の例を挙げてください。
組み込み分析の例としては、CRM(顧客関係管理)システムに組み込まれた指標と可視化があります。営業担当者は、売上収益、コンバージョン率、顧客獲得コストなどの主要業績指標を、毎日使用しているCRMシステム内で直接確認することができます。これにより、異なるアプリケーション間での切り替えを行うことなく、データに基づく意思決定、トレンドの特定、目標に向けた進捗状況の追跡が可能になります。
組み込み分析の能力について教えてください。
組み込み分析の能力は、既存のビジネス・ワークフロー、アプリケーション、プロセスにデータ分析をシームレスに統合する機能にあります。日々の業務に直接分析を導入することで、ビジネスはリアルタイムのインサイトを獲得し、データに基づく意思決定と、変化する市場状況への迅速な対応が可能になります。これにより、効率の向上、カスタマー・エクスペリエンスの向上、収益の増加、コストの削減が実現する可能性があります。
組み込み分析の価値を教えてください。
まず、組み込み分析により、ビジネスはリアルタイムのデータインサイトに基づいて十分な情報に基づく意思決定を行うことができ、問題や市場の変化に即座に対応する機能が向上します。組み込み分析により、従業員は専門的なスキルやデータチームのサポートに頼ることなくデータにアクセスし、解釈することができます。これにより、 データ・アクセスが民主化され、意思決定のスピードアップと、手動によるデータ処理に起因するエラーの可能性が低下します。
次に、組み込み分析はカスタマー・エクスペリエンスの質を向上させることで、競争上の優位性をもたらすことができます。リアルタイムのインサイトを活用することで、ビジネスは顧客の行動や嗜好をより深く理解し、パーソナライズされた推奨事項およびターゲットを絞ったマーケティング・キャンペーンの提供を実現することができます。これにより、カスタマー・ロイヤルティの向上、解約率の低減、収益の向上を推進することができます。
最後に、組み込み分析はビジネス・プロセスの非効率性を特定し、継続的な最適化を可能にすることで、コスト削減を支援することができます。主要業績評価指標(KPI)をリアルタイムに追跡することで、ビジネスはボトルネックの特定、それに応じたプロセスの調整、無駄の削減を実現し、ひいては最終損益を改善することができます。