Jeffrey Erickson | シニアライター | 2025年11月14日
「人知れぬ努力があるからこそ、楽にこなしているように見える」——これはアイスホッケーの名選手ジョナサン・テーヴスの言葉ですが、類似性検索にもぴったりのモットーかもしれません。たしかに、短時間で答えやおすすめを提示する姿は一見簡単そうに思えますが、実際には背後で複雑なデータフロー、AIシステム、高性能な計算リソースが支えています。類似性検索は、大規模データの中から瞬時にマッチする情報を見つけ出すことができるため、自然言語処理、レコメンデーションシステム、不正検知、検索エンジンなどで重要な役割を担っており、医薬品開発など、さまざまな業界のユースケースでも活用が広がっています。では、なぜこの技術は、膨大な非構造化データの中からこれほど素早く類似するものを見つけられるのでしょうか?また、従来のキーワード検索と、どのように異なり、どう補完し合っているのでしょうか?この記事では、類似性検索の仕組みや活用法を紐解いていきます。
類似性検索(最近傍検索)とは、情報検索やデータ分析の分野で使われる技術で、指定したクエリ(検索対象)と最もよく似ているデータセット内のアイテムを見つけ出す手法です。これは、対象と共通する特徴を持つオブジェクトや文書、画像、その他のデータポイントを特定したい場合に有効であり、たとえば画像検索エンジンや動画配信サービスのコンテンツ推奨機能などにも応用されています。
類似性検索システムでは、データセット内の各アイテムごとに「ベクトル」と呼ばれる数値の集まりを作成し、そのベクトルによってアイテムの特徴を数値的に表現します。これにより、画像・テキスト・音声・動画など、どのようなデータ形式であっても、コンピューターが現実世界の概念や対象物を数値的に理解し比較できるようになります。
こうして様々なデータの特徴を表すベクトルは、ベクトルデータベースに格納され、ベクトルインデックスが作成されます。これによって、データを高速に検索できるようになります。データセットに対してクエリが行われると、クエリの特徴や概念を表すベクトル埋め込みが作成されます。この際、データベースに格納されているベクトルを作成する際に使用したのと同じアルゴリズムが使用されます。その後、データベースはアルゴリズムを用いて、データセットの中からクエリ対象に最も近いデータを特定します。
このような検索は、「セマンティック検索」とも呼ばれることがあります。これは、ドキュメント内のキーワードや画像のピクセルではなく、データやアイテムが表すオブジェクトの特性や概念的な意味に基づいて一致を見つけるためです。非常に大規模なデータセットでも高速かつ正確に結果を提供できる類似性検索の能力は、自然言語処理、画像認識、コンテンツベースのフィルタリングなど、AIを活用したシステムにとって不可欠な技術となっています。
ビジネスアプリケーションでは、類似性検索と従来型のキーワード検索、両方の強みを組み合わせて活用する例も珍しくありません。たとえば、価格や在庫状況など、最新のビジネス情報も考慮したレコメンデーション・システムが挙げられます。こうした機能は、専用のベクトルデータベースと既存のデータストア間でデータをやりとりしたり、ベクトルデータとリレーショナルデータの両方をネイティブに扱えるマルチモーダルデータベースを利用することで実現できます。
基本的に、従来型検索は「明示的に指定したものを正確に見つける」ことを目的とし、類似性検索は「手元にあるものや知りたい内容に最も近いものを探し出す」ことを重視します。
従来型検索は、データベース検索などでよく使われ、特定のキーワードや条件に基づき、構造化されたデータの中から正確な一致や関連性の高い項目を探す際に利用されます。たとえば「サンフランシスコで一番美味しいラーメン」を検索すると、従来型の検索エンジンはそのキーワードやあらかじめ定義された関連語を含むWebページを返し、ランキング形式で表示します。この方法では、クエリに対する正確で直接的な回答を重視します。
類似性検索は、クエリ対象と概念的または構造的に近いアイテムを見つけることに特化した手法です。画像やテキスト、複雑なデータポイントなど、非構造化もしくは半構造化データの検索に特に有効です。たとえば、手元の写真に似ている画像を探す場合、類似性検索は「草原」や「高層ビル」「色合い」「表現されている感情」など、たとえそれらが完全に一致していなくても、見た目やパターンが類似している画像を検索します。また、文書検索システムでは、キーワードが完全に一致していなくても、話題や言語表現が似通った記事を返すことができます。先ほどのラーメンの例でいえば、レビュー文に含まれるテキストのベクトル情報をもとに、類似性検索を行うことが可能です。
主な違い
従来型検索と類似性検索の主な違いは、検索の目的、利用するデータの種類、用いられる数学的手法、そして最適なユースケースなど、いくつかの観点から整理できます。先述の通り、従来型検索は特定のキーワードや条件にもとづき、完全一致や高い関連性のあるアイテムを探すのが目的なのに対し、類似性検索はクエリと概念的・構造的に似たアイテムを見つけることを重視しています。
従来型検索は、在庫管理や人事記録など、エンタープライズ・アプリケーションでよく見られる構造化テーブルデータ(行・列で整理されたデータ)を前提としています。一方、類似性検索は画像・音声・複雑なデータポイントなど、JSON形式によく見られる非構造化/半構造化データの取扱いに優れています。
両者で利用する数学的手法も異なります。従来型検索は、ブール論理、キーワードマッチング、ランキングアルゴリズムなどを使って、データセット内の各アイテムの関連性を判断します。一方、類似性検索は、コサイン類似度やユークリッド距離、ジャッカード類似度といったベクトル距離指標を用いて、インデックス化されたアイテム同士がどれだけ似ているかを数値で評価します。これらの数理指標については、記事の後半で詳しく取り上げます。一般的に、従来型検索は企業の情報検索システムなど、データベースから正確な検索結果を得たい場合によく使われます。一方、類似性検索はレコメンデーションシステム、画像認識、コンテンツベースのフィルタリングなどで主に活用されています。
ここで注目すべきなのは、多くのビジネスユースケースにおいて、検索拡張生成 (RAG)を備えたシステムがLLMとともに両方の検索手法を組み合わせて活用している点です。これにより、セマンティック検索で得られた結果と、最新の企業データを組み合わせ、ビジネスにとってより正確で有益なアウトプットを実現しています。たとえば、レコメンデーションエンジンの場合、類似性検索でマッチした商品に対し、価格や在庫状況といった情報を従来のSQLクエリで取得し、その内容をLLMに渡すことで、自然言語で分かりやすい回答を生成できます。
主なポイント
類似性検索は、データサイエンスや機械学習の分野で使われる技術で、クエリ対象と最もよく似たアイテムをデータセットから高速で見つけ出すことを目的としています。しかし、こうしたシステムは、どのようにして画像やテキスト、音声ファイルなどが「似ている」と判断できるのでしょうか?この仕組みのカギとなるのが、各アイテムの特徴を数値化する高度なAIモデルです。これにより、それぞれの特徴を数学的に評価できるようになります。こうして得られた数値表現は「ベクトル埋め込み」と呼ばれ、非構造化データに含まれる概念や対象を、コンピューターが理解できる形で表現します。ベクトルデータベースは、こうした大量のベクトルを保存・インデックス化し、高次元空間上でそれぞれが表すアイテムの検索を可能にします。これにより、2つのアイテムがどれほど近い(似ている)かを数学的に判断できるようになるのです。
その後、システムはユークリッド距離、コサイン類似度、ジャッカード類似度といった有名な距離指標にもとづいて、最も近いアイテムを特定します。類似性検索システムの開発においては、検索対象のデータの種類や目的(異常検知、商品推薦、自然言語処理など)に応じて、適切な距離指標や検索アルゴリズムが選ばれます。たとえば、近似最近傍探索(ANN)アルゴリズムは、検索の精度とスピードのバランスをとることで、類似性検索処理を高速化できるよう設計されています。これは特に数十億件規模の大規模データセットの場合などに有効です。代表的なANN手法には、ツリー構造による効率的な探索を実現するオープンソースライブラリのAnnoyや、数十億件のベクトルも扱える高度なインデックス技術を持つFaissなどがあります。
類似性検索は、クエリとデータセット内のアイテムが持つ共通の特徴を識別して検索結果を導き出す技術です。主に、ベクトル埋め込み、インデックス作成、最近傍探索(nearest neighbor search)といった手法が活用されます。以下のようなステップで処理が行われます。
類似性検索は、特に非構造化データを扱う用途において非常に優れた効果を発揮する、強力な手法です。一方で、その限界を理解し、問題の特性に合わせて適切な手法や指標を選択することも重要です。
類似性検索を効果的に実装・活用するためには、その基本概念の理解が不可欠です。ここで紹介する手法や技術は、相互に連携し合いながら、期待される検索結果を実現します。
ベクトル表現とは、保存されているコンテンツの特徴や属性を多次元空間上の数値ベクトルに変換するプロセスです。これにより、たとえばテキストなら言葉の意味、画像なら視覚的な要素、音声ならパターンなど、データの本質的な特徴をベクトルとして捉えることができます。各アイテムの特徴を表すこのベクトルは「ベクトル埋め込み」と呼ばれます。データとクエリの双方にベクトルを作成することで、ベクトルデータベースはこれらの表現を活用し、異なる項目やクエリ間の類似性を効率的に測定・比較することが可能になります。
距離指標は、類似性検索においてベクトル同士の「どれくらい似ているか/異なるか」を数値で測るための重要な指標です。どの距離指標を使うかは、データの特性やアプリケーションの要件によって異なります。一般的な距離指標には、2点間の直線距離を測る「ユークリッド距離」、2つのベクトルがどれだけ同じ方向を向いているかを評価する「コサイン類似度」、サイズが異なる場合でもベクトルの特徴を比較できる「ジャッカード類似度」などがあります。
どの類似性検索手法を採用するかは、アプリケーションの目的によって決まります。たとえば、異常検知システム、画像検索、自然言語処理など、用途によって最適な技術は異なります。次の技術では、前述の距離指標を活用して目的を達成します。代表的な手法として、KNN(k近傍法)とANN(近似最近傍探索)があります。以下、それぞれについて解説します。
K近傍法、KNN: KNN手法を使った類似性検索では、クエリベクトルとデータベクトル群を比較し、ユークリッド距離やコサイン類似度などの指定した距離指標にもとづいて、クエリに最も近い「k」個のデータポイントを特定します。KNNは、「類似したデータはベクトル空間上で近接して存在する」と仮定し、新しいデータやクエリを近傍のデータと比較することで、そのカテゴリや値を予測します。
KNNは、クエリとデータセット内のすべてのデータ間の距離を計算するため、計算量が非常に大きくなりがちです。特に大規模データセットではその傾向が強くなります。それでも、KNNはレコメンデーション・システムや画像認識、異常検知など、さまざまな用途で効果的な手法として活用されています。
近似最近傍法、ANN: ANNは、類似性検索において、クエリを表すベクトルに非常に近いデータ要素を効率的に見つける手法です。全てのデータポイントとの正確な距離を計算する必要がないため、大規模データセットにおいても実用的です。ANNは、厳密な全件比較では計算コストが大きすぎて現実的でなくなるような大規模データセットに適しています。ANNアルゴリズムには、ローカリティ・センシティブ・ハッシング(LSH)や、ツリー構造を用いた手法などがあり、データの次元を狭めたり、インデックス構造を活用することで、候補となるデータを迅速に絞り込みます。結果は完全に正確ではない場合もありますが、実務上は十分な精度が得られます。ANNは、画像検索や自然言語処理などのアプリケーションで広く利用されています。
類似性検索は、さまざまな用途で広く利用されています。たとえば、ストリーミングサービスでのおすすめ表示や、検索エンジンの回答の裏側でもこの技術が使われています。また、この検索技術は、金融やデータセキュリティの分野でも背後で活用されています。ここでは、類似性検索が活用される代表的な事例を紹介します。
類似性検索を効率的に実装するためのツールやライブラリは数多く存在しますが、それぞれアプローチや特徴が異なります。代表的な例をいくつかご紹介します。
お客様のアプリケーションで、すでに類似性検索を導入していたり、これから導入を検討されていますか?その場合、データをAIシステムに移行する必要はありません。オラクルがAIおよび類似性検索を、シンプルかつエンタープライズクラスのアーキテクチャで、お客様のビジネスデータに直接もたらします。
Oracle AI Databaseにネイティブに組み込まれたAIベクトル検索機能により、簡単に類似性検索を設計・構築・実行でき、アプリケーションを強化できます。また、他のデータタイプとの組み合わせも可能で、リレーショナルデータ、テキスト、JSON、空間データ、グラフデータといったさまざまなデータを、すべて一つのデータベース上で扱えます。こちらは無料でお試しいただけます。
Oracle AI Vector Searchは、ドキュメントのロード、変換、チャンク化、埋め込み、類似性検索、そしてお好みのLLMを使った検索拡張生成(RAG)などの機能を備えており、データベース内でネイティブ機能として、もしくはAPIを通じて利用できます。
Oracle Cloud Infrastructure上で類似性検索機能を構築すれば、スケーラビリティ、パフォーマンス、高可用性、セキュリティを兼ね備えた、AIアプリケーションを支えるエンタープライズ向けのデータ管理基盤上でAIを活用できます。
お客様のデータ基盤は、類似性検索やその他AI関連の取り組みに対応できる体制になっていますか?本eBookでは、AIの成功を支える堅牢なデータ基盤を構築するための計画をご紹介します。
類似性検索は自社にどのようなメリットがありますか?
エンタープライズ環境でAIベクトル検索システムを導入すれば、ユーザーが自然言語によるプロンプトでデータストアや文書の探索を簡単に行えるようになります。また、オンラインショップのレコメンデーション・エンジンのように、顧客向けサービスへパーソナライズ機能を組み込むことにも役立ちます。
どのようなデータで類似性検索を実行できますか?
ベクトル埋め込みを持つすべてのデータで類似性検索が可能ですが、特にテキスト、画像、動画、音声ファイルなどの非構造化・半構造化データでよく利用されています。
類似性検索はどのようにカスタマー・エクスペリエンスを向上させますか?
類似性検索を活用することで、顧客の好みや過去の選択にもとづいたコンテンツのパーソナライズや提案が可能となり、カスタマー・エクスペリエンスの向上につながります。
大規模データセットに対するスケーラビリティはどうですか?
類似性検索は非常に柔軟でスケーラブルな検索手法です。ベクトルデータを効率的にインデックス化することで、大規模データセットでもクエリに対して類似するアイテムを迅速に特定・返却できます。