Natalie Gagliordi | コンテンツ・ストラテジスト | 2024年2月26日
「現在のERPで問題ありません。問題もないのになぜ置き換える必要があるのでしょう?」
これは、大規模なITシステムの刷新に乗り気でなかったり、得られるメリットを十分に理解していなかったりするビジネスリーダーや現場の従業員から、頻繁に投げかけられる質問です。しかし、従来のオンプレミス・ソフトウェアから、現代のビジネス・ニーズにより合致した新しいアプリケーションへと財務業務を移行しようという動きは、各業界で確実に高まりつつあります。企業やその他の機関では、ビジネスモデルや戦略を再考または拡大し、これらの新しいアプローチをサポートする機能を備えた新しいテクノロジーを導入しています。企業がERPのようなコア・アプリケーションを置き換える場合、最近ではクラウドベースのアプリケーションを選択することがほとんどです。しかし、ERPは日々の業務の中心的存在であるため、多くの経営幹部は変更することのリスクのほうに目が行ってしまいます。ERPのビジネス・ケースを明確に提示することで、意思決定権を持つ主要なビジネスリーダーの心をつかみ、これらのシステムを日常的に利用するスタッフの支持を集めることが可能になります。
エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)は、組織が日々の業務を監督するために使用するソフトウェアで、会計、調達、プロジェクト管理、リスク管理、コンプライアンス、サプライチェーン業務などの機能をカバーしています。ERPのビジネス・ケースとは、組織内に新しいERPシステムを導入するための根拠、正当性、期待されるメリットを徹底的に概説する、プレゼンテーション形式のドキュメントです。ほとんどの企業では、これらの機能を実行するためのERPシステム(または複数のアプリケーション)がすでに導入されているため、ビジネス・ケースでは、既存のオンプレミス・システムをクラウドに移行すべき理由を明確化することに焦点を当てる必要があります。変更を実施する理由は、企業の戦略目標およびその目標を達成するために必要な能力と直接的に合致していなければなりません。ビジネス・ケースは、利害関係者や意思決定者が新しいERPソリューションへの投資を検討し、承認するためのロードマップとして機能します。
ERPのビジネス・ケースの作成は、ERPプロジェクトの承認と資金調達を確保する上で最も重要です。なぜなら、ビジネス・ケースは、新しいERPシステムの導入に伴い期待されるメリット、コスト、リスク、および戦略の包括的な概要を主要な意思決定者に提供するものだからです。ビジネス・ケースを作成することで、チームは、何が重要で、なぜ変革を行うべきなのかという理由を集中的に考えることができます。このように焦点を絞ることで、プロジェクトの成功に対するコミットメントのレベルが高まります。さらに、明確に定義されたビジネス・ケースは、優れたソフトウェア・システムの導入に対する従業員の熱意を喚起し、少なくとも、オープン・マインドで取り組むことを促します。
組織が新しいERPシステムの導入を真剣に検討し始めると、リーダーは通常、そのためのプロジェクトチームを立ち上げます。そしてそのチームの最初の仕事は、ERPのビジネス・ケースを構築することです。企業がERPのようなコア・アプリケーションを置き換える場合、クラウドベースのアプリケーションを選択することがほとんどです。ビジネス・ケースは、新しいERPソフトウェアが企業の戦略実行に不可欠なビジネス機能をどのように提供するかを深く掘り下げ、これらの機能から得られる価値を定量化する機会を提供します。例えば、人工知能のようなソフトウェアの新機能が、いかに正確な予測を可能にし、それによってどれくらいの業績向上が見込まれるかを示すことができます。あるいは、クラウドベースのERPシステムを導入することで、定期的なアップグレードにかかる費用が削減され、新しいIT機能の獲得がよりシンプルで経済的になることを示すことができます。コストに見合う価値を明らかにし、実証することで、チームはプロジェクトを進めるかどうかの決定へと一歩近づくことができます。これには、適切なERPソリューションを特定し、リーダーシップの承認を得ることが含まれます。
主なポイント
ERPのビジネス・ケースを作成するには、主要な新しいソフトウェア・システムに対するあらゆる要件、その潜在的なメリット、および投資の根拠を特定するために、さまざまな部門が連携して取り組む必要があります。以下に、ERPのビジネス・ケースを作成するための主なステップをご紹介します。
クラウドERPのビジネス・ケースを構築する際には、まず企業の戦略と、その戦略を実行するために必要なクラウド機能に軸足を置くことから始めます。将来のニーズを考慮し、既存のERPシステムとビジネス・プロセスを評価して、現在の機能と将来の要件とのギャップを特定します。可能であれば、組織のパフォーマンスを同業他社と比較し、潜在的な改善点を明らかにします。テクノロジーのアップグレードには多くのメリットがありますが、具体的な欠点とその理由を理解できていないと、これらのメリットを多く得ることはできません。非効率なプロセスを新しいERPシステムに移行することは避けたいものです。なぜ新しいERPシステムが必要なのか、その背景を説明することで、利害関係者は、現状に即した変革の取り組みがどのようなものかを理解することができます。
さまざまなビジネス関係者と協力し、既存のソフトウェアとプロセスの長所と短所を評価しましょう。例えば、最新のテクノロジーを使用しているか、新しい機能が登場し利用可能になったときに定期的に追加できるか、などを検討します。この評価は、財務、計画、調達など、機能別に行う必要があります。この目的は、問題点を把握し、どこに非効率性があるかを特定し、これらの非効率性が組織にどのような影響を与えるかを明確にすることです。
ビジネス・プロセスとワークフローを徹底的に見直すことで、ボトルネックや、重複、時間のかかるシステム更新や手作業などの改善点を特定しましょう。
ソフトウェア・ライセンス、ハードウェア、トレーニング、コンサルティング、人件費、継続的メンテナンス、アップグレードなど、既存のERPシステムに関連する運用コストを算出しましょう。
データの欠落やアクセス性の悪さ、過度の手動タスク、リアルタイム・データの不足など、既存のシステムおよびプロセスにおける現在の問題点、非効率性、および制限を特定して文書化します。
手作業による保守や中断を伴うダウンタイム、またはその他のシステムの制限(柔軟性の欠如やカスタマイズの必要性)など、現在のオンプレミスERPシステムに関連する非効率性が財務に与える影響を定量化します。
このステップでは、新しいERPシステムがステップ1で特定した能力ギャップに対応できるかどうかを判断します。組織がクラウドERPで達成したい目標や目的を明確に設定することが重要です。このステップでは、オンプレミスERPと比較して、新しいERPシステムが企業内のどのような課題に対処し、改善するのかを明らかにします。
既存のシステムを包括的に分析することで、組織がビジネス・プロセスをサポートし、目標を達成するために新しいERPシステムに備わっているべき特性や機能を特定します。
ERPシステムに求める具体的なメリットを特定します。また、ビジネス・プロセスを改善したり、機械学習やAI機能を使用した高度な予測などを追加したりするために、ERPシステムに必要不可欠な機能やモジュールを特定します。
既存システムの機能と導入予定のクラウドERPシステムの機能との間にギャップがないかを確認します。このプロセスでは、ベンダーのWebサイトで製品のロードマップを確認することが有効です。
利害関係者がERPビジネスケースの提案に基づいて行動するためには、新しいERPシステムがどのように導入されるかを詳細に示す計画が必要です。これには、タイムライン、フェーズ、必要なリソース、潜在的な課題とその緩和戦略が含まれます。
ERPシステムの導入、ライセンス、保守に関連する合計コストを長期間にわたって予測します。
新しいERPの導入が正しい決断かどうかを判断するためには、潜在的な投資収益率(ROI)の詳細な分析を行う必要があります。通常、この分析では、収益の増加、キャッシュフローの改善、スタッフの生産性の向上、資本コストの削減、サポートコストの削減などのメリットと、導入や継続的なサブスクリプションに関連する費用を比較します。また、新システムの総所有コストと、既存システムの維持・保守コストも比較します。通常、業界のベンチマーク、アナリストの調査、ビジネスプロセスの成熟度モデルなどを参考にし、リターンとコストに関する保守的かつ現実的なさまざまなシナリオを評価します。また、この計画では、新システムがどのくらいの期間で導入され、期待される利益がいつ頃達成されるかという時間枠を見積もる必要があります。このように、利害関係者に成功例を示し、今後どのようのその成功を測定していくのかを提示することが重要です。
ERPシステムが、評価フェーズでリストアップされた重要な能力ギャップにどのように対処するかをハイライトします。例えば、意思決定の精度とスピードを向上させるためのプロセス自動化、組み込みの分析、機械学習、コラボレーション機能の提供などです。
新しいERPシステムが、業務効率の改善や生産性の向上にどのように役立つかを示しましょう。断片化された業務プロセスを標準化、簡素化、自動化することで、効率性が向上します。このような変更によって改善できる指標としては、例えば顧客への定時搬送や売掛金回収期間の短縮などを挙げることができます。
総所有コスト(TCO)の削減は、クラウドベースのERPに移行することの潜在的なメリットの1つです。クラウドベースのERPでは、保守コストを削減し、アップグレードを不要にすることで、ITスタッフをより付加価値の高い取り組みに集中させることができます。また、ハードウェアの更新やデータセンター設備の運用にかかる資本費用も不要になります。さらに、ビジネス・プロセスの簡素化と自動化によって、さらなるコスト削減が可能になります。
ERP導入によって予想されるコスト削減を実現するための戦略と計画を詳細に説明します。主要業績評価指標(KPI)とベンチマークを作成し、ソリューションが本稼働するタイミングでROIを定量化できるようにします。
ERP導入プロジェクトに必要な財務リソースを詳述した資金調達計画を策定します。これには、ソフトウェア費用、人件費、システム・インテグレーターのサポート費用、雑費などを含める必要があります。
ビジネスリーダーや従業員にとっての最大の関心事は、ERPの刷新が大きな混乱を招くかどうかという点です。クラウドベースのERPに移行する場合、クラウド・アプリケーションを立ち上げながら、オンプレミス・システムをどのように縮小していくかを知りたいという声もあるでしょう。従業員は、このプロジェクトによって日々の業務がどのように変わるかを理解したいと思うでしょうし、経営幹部は、業務が滞る可能性のある潜在的なリスクを知りたいと思うでしょう。このステップでは、プロジェクトの実現可能性を示し、現実的な時間枠を提示することで、これらの懸念に対処するする必要があります。説明責任は重要です。結果をどのように追跡し、それが達成できなかった場合にどのような対応が可能かを示しましょう。
ERPプロジェクトに必要な人材、スキル、役割の概要を示す計画を策定します。システム・インテグレーターの専門知識や能力を導入する必要があるでしょうか?新システムに携わるキーパーソンをサポートするために、必要なトレーニングを提供する方法も検討しましょう。
新システムへの移行中の混乱を最小限に抑え、業務の継続性を確保し、移行中のデータ損失、中断、手戻りのリスクを低減するための戦略を提示します。例えば、新しいERP機能の地域別、部門別の導入を詳細に計画します。レガシーシステムをいつ終了し、データをいつ、どのように(どの程度)移行するのかを明確にします。同様に、既存のアプリケーション、データベース、サードパーティシステムとの統合に関するテスト計画を策定し、データの流れを妨げる可能性のある問題を未然に防ぎます。
ERP導入に伴う潜在的なリスクを特定し、評価するとともに、広範なテストや模擬稼動など、これらのリスクを軽減するための戦略を策定します。すべてのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークが新しいERPシステムをサポートするために互換性があり、更新されていることを確認します。
複雑さや潜在的な課題を考慮した、現実的な導入スケジュールを作成します。地域別、ビジネス部門別など、導入フェーズを詳細に計画します。クラウド・アプリケーションに関しては、従来のオンプレミス・システムに比べて導入期間が短くなるのが一般的です。しかし、信頼性を確保し、期待に応えるためためには、導入の時期や必要な変更管理について現実的であることが重要です。
メリットの達成度の追跡方法、その責任者、そしてメリットが達成されていない場合にチームが取るべき行動を定義します。
ERP導入の目的を定め、予想されるメリットとコストを明確化し、それらのメリットを達成するための計画を立てたら、いよいよ次は利害関係者にビジネスケースを説明する番です。この段階では、詳細なステップバイステップの導入戦略を説明するわけではありませんが、質問されればすぐに答えられるようにしておく必要があります。この段階では、ERP移行の必要性、メリット、コスト、リスク、戦略を経営幹部に明確に伝えるために、膨大なデータ、分析、計画を上位概念に集約する必要があります。
経営幹部や審査委員会などの意思決定者にERPのビジネスケースを説明する際には、彼らが抱くであろう疑問や懸念を予測し、彼らの優先事項や関心事に配慮したプレゼンテーションを行うようにします。
データ可視化ツールを活用して、新しいERPシステム導入から得られるメリット、コスト削減効果、ROIを説明します。
先ほども述べたように、この段階ではプロジェクトの上位概念を説明しています。しかし、ビジネスケースを裏付けるためには、詳細な財務予測、コスト効果分析、予想ROIの内訳を提示する必要があります。最高経営責任者をはじめとする上級意思決定者は、この種の投資を正当化するために確かな財務データを必要としています。
現実的かつ実用的なクラウドERPのビジネスケースを作成するには、企業の現状と将来のニーズを十分に理解し、クラウドERPが組織にもたらす潜在的なメリットを明確に示す能力が求められます。
Oracle Fusion Cloud ERPは、財務管理、調達、パフォーマンス管理、サプライチェーンおよび製造を1つのプラットフォームに完全に統合し、リアルタイムのデータを提供することでビジネス全体を総合的に把握できるようにします。Oracle Cloud ERPは、これまで手作業で行われていたプロセスを自動化することで、財務チームが急速に変化するビジネス状況に迅速に対応できるようにします。また、即時のデータ共有と問題解決を可能にし、アプリケーション・スイート内でのコラボレーションを強化します。さらに、標準化されたベストプラクティスがプロセスの効率化を促進します。Oracle Cloud ERPの導入により、ITチームはハードウェアのサポートやコストのかかるアップグレード・サイクルに集中する必要がなくなり、代わりに組織がERPの機能を最大限に活用できるように支援することに専念できます。また、四半期ごとのアップデートにより最新のイノベーションが提供されるため、ソフトウェアの陳腐化やアップグレードによる混乱を心配する必要はありません。Oracle Business Value Servicesは、ERPの置換を検討中の企業に対し、ビジネス・ケースを定義・明確化するための支援を提供しています。また、オラクルは、プロジェクトの初期費用の管理に役立つ資金調達オプションも提供しています。
ERPのビジネス・ケースとは何ですか?
ERPのビジネス・ケースは、ERP導入の戦略的・経済的な正当性を証明するものであり、利害関係者に新システムのメリット、コスト、リスクを提供します。
ERPのビジネス・ケースの作成方法を教えてください。
ERPビジネスケースを作成するには、新しいERPシステムを導入する必要性とメリットを正しく理解するために、部門横断的な協力が必要となります。
ERPのユースケースとは何ですか?
ユースケースとは、従業員や他のソフトウェア・アプリケーションが新しいERPシステムとどのように相互作用するかを詳細に説明するドキュメントです。特定の目標を達成し、ビジネス・タスクを実行するためにソフトウェアをどのように使用すべきかを説明します。