APIは、ソリューションを統合するための最も一般的な方法となりました。APIインターフェースは、ソフトウェア・ソリューション間、またはソリューション内の異なるパーツ間の「合意」を提供します。API仕様は、ソリューションの開発・提供方法に変化をもたらしています。そして、一部のテクノロジー企業にとっては、主要な収益源となっています。APIの導入と標準化により、あらゆる業界でビジネス・イノベーションが加速しています。Gartnerの2021年のレポートによると、90%のソリューションにおいて、APIはUIよりも多くのシステムへのアクセスを提供しているとのことです1。
ここでは、いくつかの業界でAPIがどのように大きな変化をもたらしているのかを見てみましょう。
従来、金融サービス業界は、少数の超大手グローバル企業によって独占されてきました。2007年、欧州連合(EU)および欧州経済領域(EEA)では、市場における競争とイノベーションを促すために、決済手段の標準化を行う必要がありました。このため、初めての決済サービス指令が制定され、これは成功を収めました。2018年には、欧州内で改正決済サービス指令(PSD2)が立法されました。これは、当初の指令の範囲を拡大するもので、EU企業への支払いに影響を与えました。PSD2は、業界にプラスの影響をもたらし、オープン・バンキングなど、新しい世代の標準に貢献することになりました。アメリカやカナダにも独自のAPI規格があり、Financial Data Exchangeという組織によって管理されています。
オラクルは、金融サービス業界向けに幅広いソリューションを提供しています。オラクルのアプリケーションやクラウドサービス、また、API標準の利用について詳しくは、以下のリソースをご覧ください。
銀行と金融におけるAPIの詳細
カードキーとホテル予約の関連付け、飲食物の部屋への課金など、現代のホスピタリティ・エクスペリエンスは、驚くほど相互に関連しています。例えば、ExpediaやTrivagoなど、さまざまなサードパーティによるホテル予約や価格設定が、裏でどのようにオーケストレーションされているのかについて考えてみましょう。
多くのホテル経営者は、自分たちをテクノロジー企業ではなく、サービス・プロバイダーだと考えています。実際、これらの機能の多くは、さまざまな小規模の専門ソフトウェア・プロバイダーを利用することで実現することができました。Oracle Hospitalityは、ホテルが効率的かつコネクテッド、そしてアジャイルなビジネス・プロセスを構築できるよう、当社の製品をSaaSソリューションとして再構築しようと試みてきました。そして、新しいSaaSサービスでは、高価な開発作業を行うことなく多くのサードパーティ・ソリューションの統合をサポートする必要があることを理解したうえで、Oracle Hospitality Integration Platform(OHIP(PDF)を生み出しました。
OHIPは、サードパーティ用の統合APIプラットフォームを提供します。OHIPを利用することで、ホテルは、P3のオンライン・チェックイン/チェックアウト・サービスや、Oracle Hospitality OPERA Cloud Property Managementと統合されたBest Westernの中央予約システムなどの、サードパーティ・サービスを統合できるようになります。OHIPは、ホテルがより効率的に、より優れたゲスト・エクスペリエンスを提供し、収益性の向上につなげることを可能にします。OHIPプラットフォームでは、APIイベントの消費を効率化するために、モッキングツールやテストエンドポイント、ストリーミングAPIの利用など、API開発と消費をサポートするためのベストプラクティスを取り入れています。
ホスピタリティ業界のAPIに関する詳細
テクノロジーの変革が著しい業界において、APIは必要不可欠なものとなっています。ヘルスケア業界では、以下のようなさまざまな要因によって、APIの利用が推進されてきました。
多くの異なるソリューションプロバイダーが相互に協力し合い、一貫したコミュニケーションをとる必要があるため、業界では統合のための共通の標準を開発する流れになってきています。ヘルスケア業界では、HL7(Health Level 7)が国際標準として採用されています。HL7は広範囲にわたり、患者レコードなどのデータ通信のためのREST API仕様の開発が含まれています。Fast Healthcare Interoperability Resources(FHIR)と呼ばれる患者レコードのAPI仕様は、HL7の一部です。FHIRの導入は、患者ジャーニーや、病気の根本的な原因の切り分けに役立つ医療パターンの特定など、多くのサービスを促進する上で極めて重要です。FHIRの導入は、Appleが、自社のスマートフォンやスマートウォッチで生成された健康情報の伝送にこの標準を採用するほど進んでいます。
ヘルスケアに特化したAPIが相互運用性とイノベーションを促進する一方、ヘルスケア業界は、個人情報や機密データが大量に含まれるため、データプライバシーに関する懸念に最も敏感な業界であると考えられます。そのため、強固なインフラストラクチャ・セキュリティ、効果的なアプリケーション開発、そして何よりも、効率的なAPIゲートウェイの導入が極めて重要です。ファイアウォールや関連するインフラストラクチャ・サービスは、基本的なプラットフォームのセキュリティ確保には役立ちますが、個々のサービスやエンドポイントをサポートするように設計されているわけではありません。アプリケーションとビジネス・ロジックのセキュリティ管理(どのアプリケーションがいつ、どのように特定のサービス機能と相互作用できるかなど)とID・アクセス管理製品の交差点に位置するのがAPIゲートウェイです。
オラクルにはどのような影響があるのでしょうか?医療用API標準の重要性が認識され、FHIRをはじめとする医療標準へのサポートがソリューションに組み込まれることになります。オラクルは、医療情報テクノロジー企業、Cernerの買収に伴い、そのサービスをOracle Cloud Infrastructure(OCI)に移行し、サービスの改善・改良を進めていく予定です。APIを利用するためには、APIの定義とドキュメントを利用可能にする必要があります。そのため、Cernerが提供するような、これらの情報にアクセスするための開発者向けポータルが必要になります。サーナー製品群にはAPIも含まれているため、サードパーティの専門機関は、Cerner EHRなどのソリューションにサービスを統合できます。これにより、臨床医の患者ケア能力が向上し、例えば、患者エクスペリエンスを簡素化したり、患者の遺伝子分析結果を臨床処方に反映したりできるようになります。
ヘルスケア業界のAPIの詳細については以下をご覧ください。
通信業界では、当初から相互運用性が重要視されてきました。この業界のビジネスモデルの成功は、ネットワーク間のスムーズでセキュアな接続、国内外の通信事業者間の接続、および通信事業者間での通話料の相互賦課に依存しています。今日のデジタル・モバイル・ネットワークでは、顧客は新しいプロバイダーに電話番号やその他の情報を提供するだけで、モバイル・プロバイダーを変更することができます。これらのビジネス慣行はすべて、共通のプロセス、ボキャブラリ、そしてTM Forumという合意された標準に基づき記述されたAPIによってサポートされてきました。Oracle Communicationのソリューションは、通信事業者のお客様をサポートするための適合性が認定されています。
通信業界におけるAPIの詳細については、以下をご覧ください。
ヘルスケアと同様に、ユーティリティ分野も大きな変革を遂げています。APIとAPIセキュリティは、こうした変革のサポートに不可欠です。そしてその多くは、環境への配慮およびエネルギー効率の向上という必要性によって推進されてきました。これらの変革には、次のような主要なビジネスの変化が含まれます。
中部電力とGRDFが開発したスマートメーターのようなソリューションにより、顧客がアプリやスマートデバイスを通じてエネルギー使用をコントロールできるようになりつつあることは明らかです。電気自動車の普及が進んだことで、人々は、充電のためにエネルギーを消費するのに最適なタイミングを意識するようになりました。ディーゼル車やガソリン車への依存度が下がり、電気自動車への移行が進むと、発電の必要性が高まり、需要の変動が顕著になると予測されています。つまり、テレビのCMの合間にやかんを沸かすような需要急増に加え、ラッシュアワー終了後に車を充電するなど、新たな需要急増が予想されます。
業界の規制当局は、エネルギー取引市場を通じてエネルギー供給の競争力を高め、消費者(家庭用および業務用)が二酸化炭素排出量に責任を持つよう、より環境にやさしいエネルギー源の開発を促しています。取引によって、電力需要の変動を予測するための情報の必要性が高まっています。また、風力や太陽光を利用し、余ったエネルギーを電力網に戻すマイクロパワー・ジェネレーターは、コスト効率よく動作させるための自動化を必要としています。
さまざまな情報源からAPIを使って情報を提供したり、引き出したりできるかどうかが、成功するか失敗するかのカギを握っています。APIゲートウェイをはじめとするITインフラストラクチャによるセキュリティが不可欠になってきています。ヘルスケアなどの業界と比較すると、データの機密性はそれほど高くはありません。しかし、電力の管理と利用がますます密接になり、その継続的な供給が企業にとってより重要になるにつれ、サービスを妨害しようとする行為に対する防御がこれまで以上に重要になります。国際エネルギー機関(IEA)の報告書「Power Systems in Transition 2020」では、これらの要因について詳しく説明しています。他の業界と比較してユーティリティ分野は規制が厳しく、APIは、半官半民のサービスプロバイダーや契約サービスプロバイダーによって州や国レベルで管理されていることが多くあります。その結果、API仕様が標準化されていないこともあります。エネルギー供給会社からのエンドコンシューマー向けAPIは一般的に利用可能ですが、ここでも標準化は州や国によって異なることがあります。
今後、道路や道での移動による動力発電を採用する車両が増えるにつれ、電力の伝達を容易にする通信システムが必要となります。そのためには、近距離エネルギー伝送技術を活用する必要があります。しかし、そのインフラストラクチャには費用がかかります。道路上の運動エネルギーからどれだけのエネルギーを得ているかという情報を、そのエネルギーを提供する側とやりとりできる車両が登場することになるでしょう。このような動きは、ドライバーレス、あるいは自動運転車の開発とともに顕著になっていくでしょう。自動運転車の台頭は、車が交差点に差し掛かると、信号や他の車と自動的に交渉し(V2X:vehicle-to-everything)、最も効率的な交通の流れを提供するために信号を変更できる、新しいAPIの必要性を生み出します。将来的には、信号機のインテリジェント化に伴い、ドライバーは交差点で減速したり停止したりする必要がなくなるかもしれません。このような相互作用はすべてAPIに要求されることになります。HTTPのバージョンアップのように、APIの仕組みが進化することはあっても、APIの仕組みの基本的なメカニズム(構造化、構造体にリンクしたペイロード、ステートレスなメッセージの意味)は変わることはないでしょう。
ユーティリティ業界におけるAPIについては、以下をご覧ください。
APIは、消費者向けサービス、企業間、デバイス間、さらにはサービス、製品、組織内の個々のプロセスにとって極めて重要なテクロノロジーです。APIが提供する可能性を最大限に引き出すためには、いくつかの重要なステップを踏む必要があります。
オラクルのクラウド・サービスは、すべてAPI仕様から構築・開発されています。API定義は、多くのOCIサービスを構築するためのスケルトンとして機能します。つまり、すべてのクライアント・インターフェイスは、オラクルがクライアント用に公開した同じAPIを利用することになるので、これらのUIにも影響を及ぼすことになります。同じAPIはソフトウェア開発キット、Terraformコア、OCI間接続の構築にも使用されます。新しいサービスを開発する際、ストレージ・スキーマに関する問題に焦点を当てる前に、APIとそのサービスがどのように利用されるかを考える必要があります。
前述したように、UIではなくAPIを使うことによって、公開されるソリューションの数が増えます。そのため、APIには安全でセキュアであることが要求されます。APIがセキュアであれば、UIも本質的にセキュアなものになります。オラクルはセキュリティとコンプライアンスを非常に重要視しています。そのため、オラクルのソリューションは、臨床現場や政府、さらには防衛など、機密データを使用するユースケースにおいて高い実績を誇っています。OCIとOCI API Gatewayは、30以上の国内または国際標準に対して検証されています。ただし、異なる業界の特定の仕様への準拠は考慮されていません。
1. Gartner、「API Security: What You Need to Do to Protect Your APIs」Mark O’Neill他著、2019年8月28日公開、2023年1月13日更新、ID G00404900。