Amber Biela-Weyenberg |コンテンツ・ストラテジスト| 2023年12月18日
ビジネスでは、組織の履歴データから将来起こりそうなことを統計分析によって推定する予測計画が広く導入されるようになっています。この情報は、CFOと財務チームによる売上や経費などの要因が変化しうる状況の把握を助け、予算の適切な配分や投資およびキャッシュ・フロー計画の改善を可能にします。予測計画と予測を活用することで、CFOやその他のビジネス・リーダーは、供給不足や資金不足など、予測における潜在的なリスクを特定することができます。この予測により、問題を回避し、企業の利益と評判を守ることができる可能性が高まります。
予測計画を使ったフォーキャストは、予測オーキャストと呼ばれることもありますが、これは履歴データを分析し、起こる可能性の高いことを予測するプロセスです。予測計画とは、CFOや財務チームがその情報を使って将来に備える方法です。予測計画を行う財務チームは、月次の販売数や日次の在庫水準など、一定期間ごとに記録されたデータからパターンやトレンドを特定し、次に起こりうることを予測する時系列予測を幅広く活用しています。このような時系列データの分析は、サイクル、季節性、長期トレンドの把握に役立ち、これらはすべて正確な予測作成を支援します。
たとえば、CFOが次のホリデー・シーズンの売上予測を希望しているとします。企業に長年にわたるセールス・データの履歴があれば、時系列予測によって時期的な影響を反映した推定値を提供することができます。しかし、財務チームは、最も正確な予測を行うために、状況に最適な時系列予測手法を特定し、使用する必要があります。
アナリストがインサイトを導き出し、モデルを正確に適用するために十分な品質のデータを有していれば、予測計画で用いられる予測手法の精度は、直感や前年比の増加率を一律に仮定するような他の手法に比べて高くなるはずです。さらに、多くの組織では、データ・モデリングと機械学習(ML)とを用いてデータ・セット内の人間には見えない関係を明らかにする予測分析機能を組み込んだソフトウェアを使用して、予測をさらに検証することにしています。予測分析によるフォーキャストの検証は、ますます予測計画プロセスの標準部分として見なされるようになりつつあります。
主なポイント
予測計画は、過去のパターンやトレンドがある程度繰り返されることを前提としています。そのため、CFOと財務チームは過去を分析することにより、インサイトを明らかにし、現在のデータに基づいて将来の結果を予測する予測を作成することで、今後起こる可能性の高いことに備えることができます。拡大するユースケース全体にわたりトレンドを確実に予測する需要の高まりと、ビジネスのボラティリティと複雑性の高まりにより、予測計画とフォーキャストの導入が増加しています。市場分析会社BARCが計画プロセスに参加する295人の従業員を対象に行ったグローバル調査によると、予測計画を生産的に使用していると回答した組織の数は、2020年のわずか4%から2022年には27%に増加しました。らに17%は2022年に導入またはプロトタイプを使用していることが同調査で判明しています。将来を正確に予測できる企業は、十分な情報に基づいた意思決定を現時点で行い、今後の成功に向けた計画を策定できる可能性が高まります。
ある企業が、来年の売上、原材料費、生産容量要件を予測し、新しい機器に投資することが有意義であるかを確認することを望んでいるとします。チームの予測が正確なものになるのかどうかは、複数の要因から影響を受けます。第一に、財務チームはパターンおよびトレンドを見出すために十分なデータを備えている必要があります。一般的な経験則では、予測する期間の少なくとも2倍の履歴データが必要となり、たとえば12ヶ月の予測を作成するには24ヶ月分の履歴データが必要です。また、データは信頼性が高くクリーンなもの、つまり虚偽や重複、不正確なフォーマットのデータがないものであることが必要です。通常予測計画は、よく構造化されており、できれば正確まことが望ましいとされる傾向のある財務からのデータを使用して行われます。予測は、それを形成するために使用されるデータと同等のものでしかありません。さらに、財務計画および分析(FP&A)アナリストは、利用可能なデータと回答する質問から、適切な時系列予測モデル(多くの場合、複数のデータ・モデル)を特定する必要があります。不適切な変数を選択すると、予測がうまくいかず、意思決定を誤る可能性があり、また変数を増やすと、データ・モデルがデータに存在するランダムなノイズをモデル化し始める「オーバーフィッティング」につながる可能性があります。
考慮すべき要因が非常に多いことから、こうした意思決定をナビゲーションし、最終的にはより正確な予測をより迅速に行うための予測計画ソフトウェアやサービスを利用する財務担当者が増えています。予測が正確であるほど、財務チームは将来の計画を立て、予算を賢明に配分することができます。年間予算を作成する際に、いかに多くの要因が絡んでいるか、また、採用コストなど1つのアイテムが与える影響がいかに大きいかを考慮すべきでしょう。Society for Human Resource Managementは、従業員1人を採用するために企業が費やす支出は平均4,129米ドルであると推定しています。あるホテルチェーンの人事部門が、離職率が昨年と長期的なものであることを前提に、ハウスキーピング部門の従業員500人を入れ替える必要があると仮定した場合、実際には1,000人を入れ替える必要があるとすれば、採用コストだけで200万米ドルを超える可能性があります。そのようなシンプルなアプローチではなく、企業は予測計画を使って、離職レベルの過去のトレンドを把握し、起こりうるベストケースとワーストケースのシナリオを評価し、モデルが大幅に異なる結果を予測した場合には、定常状態の離職予測を調整することを検討することができます。
財務チームだけでなく、予測計画と予測を部門横断的に活用することは、経済、従業員、サプライチェーン、その他のビジネス推進要因の変動に対処するためにますます重要になっています。予測計画は、たとえば在庫管理で使用することができ、運転資金に予期せぬ負担をかける周期的または時期的な高騰や、生産を遅らせる可能性のある欠品を発見することができます。調達マネージャーは、原材料コストを推定し、商品価格の上昇に対してヘッジするかどうかを決定するために、フォーキャストと予測を使用することがあります。カスタマーサービスのチーム・リーダーは、予測計画を使って通話量のトレンドを予測し、人員配置レベルを設定することがあります。このような運用インサイトは、ビジネスの多くの分野に影響を与え、組織がより正確な財務計画を作成することを支援します。
PwCが2022年8月から実施した調査によると、CFOの半数近くが、さまざまなシナリオを分析し、それに備える機能を得るために、予測モデルを構築することを最優先事項だと述べています。この予測により、収益が不足したり、期待を満たす可能性の低い新市場に多額の投資をするなどの潜在的なリスクを回避することができます。ベストケースとワーストケースの予測に基づくシナリオプランを構築することで、チームに対応方法を準備します。さらに、組織のリアルタイム・データを使用して予測を自動的に更新する予測計画ソフトウェアを使用する企業も増えており、財務チームは災害発生または成功の到来をより早期に察知し、計画された対応を早めることができます。
時系列予測は、一定の間隔で記録された履歴データ・ポイントを使用して、将来起こりそうなことを予測する手法です。数多くの時系列予測手法やアルゴリズムが存在しますが、財務担当者は、利用可能なデータと達成したいことに基づいて、最も正確な予測ができるものを見極める必要があります。
時系列予測は通常、トレンド、季節性、サイクルを調査します。トレンドは通常、人口の変化、有機的成長、テクノロジーの変化といった長期的要因による、時間の経過に伴うデータ・パターンの段階的または一定した増減を反映します。多くの場合、線形関数または動きの遅い曲線関数でモデリングできます。季節性は、長期的に生じる周期的、規則的、ある程度予測可能な増減に焦点を当てます。月次データを扱う場合、季節性は通常暦年内で生じます。季節性は、四半期ごとや祝日などの自然な季節性に分類される場合があります。サイクルとは、増減のパターンのことで、それほど規則的ではなく、1年以上続く場合もあります。ビジネスでは、一般的な季節性パターンよりも動きが遅い複数年のビジネス・サイクルなどによることがよくあります。
一般的な方法は次のとおりです。
予測計画は、組織が重要な意思決定を行い、将来に備えることを支援します。これを効果的に行うために、FP&Aのプロフェッショナルは、達成したいことと利用可能なデータを考慮した上で、最も正確な予測方法を使用する必要があります。また、データが信頼でき、関連性があり、可能な限り精度の高い予測を行うために十分大きなデータ・セットであることも重要です。推奨されるサイズは様々ですが、アプローチとしては、少なくとも予測期間の2倍のデータ量を持つことが挙げられます。
上記の時系列予測手法のセクションで示したように、各アルゴリズムには注意点があり、特定の状況下でより優れたパフォーマンスを発揮します。たとえば、製造プロセスで使用する原材料の将来の価格を、一定の期間における過去の平均価格を見て推定するには、トレンドや季節性がない場合、SMAが最も効果的です。しかし、データにトレンドがあり、季節性がない場合は、DMAの方が正確な予測を得られる可能性が高くなります。データを非季節化することもできますが、その場合はモデルがより複雑になります。
データの可用性と予測の目的だけでなく、アナリストは、推定がどの程度正確である必要があるか、スタッフの時間、データ・ソーシング、コンピューティング・リソースの観点から予測を作成するコストと利点の比較、分析を実施するための時間などの要因を考慮する必要があります。最も統計的に正確な予測を見つけることは時間のかかるプロセスになり得ます。関連する予測方法を特定し、各モデルの数値を過去の値と照らし合わせ、過去に使用された場合、どれが最も誤差が少なく、最適な予測になったかを分析する必要があります。たとえば、二乗平均平方根誤差(RMSE)計算を伴う検証データ・セットを作成することで、履歴データ・ポイントに対してモデルを評価することができます。RMSEは、検証データ・セットの残差の標準偏差であり、RMSEが低いほど優れています。最も正確な予測を行う予測方法には、2つの変数(グラフのY軸上の従属変数とX軸上の独立変数)の関係を示す回帰直線に最も近いデータ・ポイントがあります。適切なアプローチには、複数の方法の使用が含まれる場合があります。
多くの人は、このプロセスを自動化する予測計画機能が組み込まれたアプリケーションの使用を好みます。プロフェッショナル・サービス組織であるEYが1,000人のCFOおよびシニア財務リーダーを対象に実施したEY Global DNA of the CFO Surveyによると、今後3年間で財務機能を改善する第一の方法としてテクノロジーの変革が挙げられ、次いでAIの利用による財務業務の改善などの高度なデータ分析が挙げられています。これらのAアプリケーションは、企業のデータをさまざまな時系列予測手法にかけ、RMSEと標準誤差の基準を適用し、最も適合性の高いモデルを特定します。また、予測とともにベストケースとワーストケースのシナリオを予測する場合もあります。
中には多変量分析が可能なアプリケーションもあり、FP&Aのプロフェッショナルは一度に複数の要因を比較し、財務予測と経営計画を改善できます。さらに、これらのプロセスを自動化することで、新しいデータが利用可能になるとフォーキャストと予測が更新され、CFOおよび財務チームが最新のインサイトをすぐに利用できるようになります。
消費者の需要、経済状況、サプライヤーのパフォーマンス、その他の変数が常に変動する中で、ビジネスが利益を伸ばし、リスクを最小限に抑えるというプレッシャーの高まりに直面する中、予測計画は不可欠なものとなりつつあります。CFO DiveとFTIコンサルティングが303名のシニア財務エグゼクティブを対象に実施したグローバル調査によると、予測精度の向上と分析機能は、2023年以降に財務実績を改善するために使用する戦略の上位5つのうちの2つであることがわかりました。頻繁な更新による予測の改善により、組織がさまざまなシナリオ・プランニングを行い、迅速に適応する機能が強化されます。
金融サービス持株企業であるKCBグループは、以前は全支店と事業部門の予算を編成して確定するまでに12週間以上かかっていました。データが複数カ所かに分散していることがひとつの問題となっていました。また、取引手数料や資金不足手数料などの非資金収入の予測を行う際、市場トレンドやその他の外部データに頼っていたため、予測が複雑になっていました。KCBグループは、予測計画ツールが組み込まれたアプリケーションの使用を開始すると、自社のビジネス・データと外部データを用いて、トレンドを特定し、さまざまなシナリオを予測することが容易になりましたプランニング・プロセス全体を改善することで、KCB Groupは最終的に予算サイクル・タイムを60%短縮しました。
より正確なフォーキャストは、ビジネスが収益の成長を推進するために、市場のトレンドを予測して迅速に対応することも支援します。lululemonは北米以外でのビジネス成長に注力することを決めた際、財務計画および分析チームは、世界経済や業界トレンドの変化がどのように売上に影響する可能性があるかについて、より正確に予測する必要があることに気づきました。そこで、高度なフォーキャスト手法である予測分析が組み込まれた、より堅牢なプランニング・アプリケーションを使用し、履歴データとリアルタイム・データに基づいて複数のシナリオを予測し、年間計画を継続的に更新するようにしました。このインサイトにより、同社の財務の健全性と戦略が改善され、リーダーはブランドのリーチを拡大するために十分な情報に基づく意思決定を行うことができるようになりました。
フォーキャストは、ビジネスおよび財務ニーズをサポートするために、他にも多くの用途があります。たとえば、予測フォーキャストは人間の先入観を軽減することができるため、企業はより正確に売上を予測することができます。統計に基づくフォーキャストは感情を排除し、過去のデータに基づいて最も起こりそうなことを予測するため、セールスマネージャーやその他のリーダーはより適切に計画を立てることができます。同様に、今後6ヶ月間の製品売上のフォーキャストにより、企業は、予測される需要に見合うだけの商品を生産するための十分な資材を確保できるよう、今すぐ計画を立てる支援をすることができます。
財務チームは、予測フォーキャストと予測計画により、中長期的なキャッシュ・フローを予測し、どのような規模の企業にとっても重要な関心事である最も可能性の高い資金流動性の状況をより的確に把握できるようにします。手元に現金があれば、予期せぬ機会を捉えたり、不測の出費をカバーする柔軟性が生まれます。しかし、いつでも利用可能な資金の額を把握することは困難な場合があります。たとえば、顧客にクレジットで商品を販売するサプライヤーの場合、そのアイテムの販売時点ですぐに資金が利用できるわけではありません。顧客がいつクレジット販売に対する支払いを行うかを予測する必要があります。
IDCの2021 Global CFO/Treasury Surveyによると、ほとんどの財務担当者は、資金と流動性を統合的に把握するために1日以上を必要としています。これは2つの問題を引き起こします。1つ目は、予期せぬ事態に迅速に対応する組織の機能を妨げること、2つ目は、数値が判明した時点で、おそらくそれはすでに時代遅れであることです。また、この調査では、3カ月以上先の資金予測を信頼している回答者は5%未満であることもわかりました。流動性測定の複雑さとビジネスへの多大な影響を考慮し、より正確な予測を迅速に行うために予測フォーキャストを検討している企業が増えています。
また、予測を迅速に検証するために予測モデルを使用する財務チームも増えています。機械学習と高度なデータ分析に基づく予測モデルは、アナリストには見えない履歴データの関係を特定することができます。これは、アナリストが多くの変数を用いて複雑な質問に答えようとする場合に、予測やインサイトを生成するための高度な方法だと考えてください。
たとえば、都市の人口増加を予測することは非常に困難です。都市計画担当者は、年間平均何人がその自治体に転入出するのか、毎年の出生数、男女の人口はそれぞれ何人で、寿命はどのくらいかなどを考慮する必要があります。都市の規模の変化をより正確に予測することができれば、道路や学校の建設、水およびエネルギー使用量の変動への備え、その他の重要な意思決定など、コミュニティにより適切にサービスを提供することができます。予測モデルはこのような予測を支援することができます。
予測計画を救命に活用できる可能性があるのは、救急治療室です。病院の管理者は予測フォーキャストと予測分析を使って患者数を予測し、適切な人員配置レベルを計画できます。通常、ERには4時間ルールがあり、スタッフは患者を診察・治療し、その時間内に入退院を決定しなければなりません。2022年に英国で行われた500万人以上の患者を対象とした研究では、入院前にERで5時間以上待たされた患者は、その後30日間に死亡する可能性が高くなることが明らかになりました。病院が看護師や医師の不足に対処している現在、予測プラニングと予測は、従業員を可能な限り効果的に配置するための貴重なツールを提供します
予測へのデータドリブンなアプローチは、人間の先入観を減らし、財務チームが複数のシナリオにまたがり最も可能性の高い結果を迅速に特定できるため、CFOは他のリーダーと協力してより十分な情報に基づく意思決定を行うことができます。Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Managementの一部であるOracle Cloud Enterprise Performance Management (EPM) Planningによる予測計画とフォーキャストは、財務および事業部門間で計画を連携させます。各領域では、デフォルトのプランニング・モデルにアクセスして、迅速に複数のシナリオを検討できるメリットがあります。財務チームは、これらの予測とデータ・モデルを活用することで、より正確で十分な情報に基づいた計画を立てることができ、企業がビジネスを保護し、収益性高く成長させる方法で、ベストケースとワーストケースの結果に備えることができます。
予測計画について教えてください。
予測計画では、過去から学んだことを活用して将来の計画を立てます。時系列予測は、履歴データのパターンやトレンドが繰り返されることを前提に、売上高や株価、月々の支出など、将来予測される値を予測する手法で、機械学習やAIなどのツールを使うことで、予測の検証を迅速に行うことができます。
予測フォーキャストについて教えてください。
予測フォーキャストは、より一般的にフォーキャストと呼ばれ、履歴データを分析し、一定間隔で記録されたデータのパターンやトレンドを特定することで、今後起きる可能性の高いことを推定します。
コネクテッド・プランニングが組織のビジネス・パフォーマンスを向上させる方法をご覧ください。.