Mark Jackley | コンテンツ・ストラテジスト | 2023年1月10日
ERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアは、財務や資産管理、サプライチェーン管理、顧客関係管理(CRM)、人材管理システムなど、企業の最も重要な機能を連携させます。そのため、ERP導入は非常に重要です。絶大な効果を得られる可能性があります:単一のシステムでデータをリアルタイムに連携して標準化することで、ビジネス全体のチームがパフォーマンスを共有することができ、意思決定と計画立案を改善するための真のシングル・ソースを得ることができます。
ただし、ERPの導入には潜在的な落とし穴があります。プロジェクトチームが、プロジェクトの指針となるビジョンを描き、関係者にチームワークを浸透させ、社員に目的を伝えることができなければ、ビジネス上の課題を解決し、必要な結果を得ることができない可能性があります。
そうしたことを適切に行った企業を、以下の3つのお客様事例で詳しくご紹介します。これらの事例を参考にすることで、ERP導入を成功させることができるでしょう。
2019年、米国第3位のクレジットカード・ブランドであるDiscover Financial Servicesは、高度にカスタマイズされた7つのオンプレミスERPシステムを稼働させていました。同社のIT環境は複雑で、標準化が不十分だったため、報告書の作成に時間がかかり、時には不正確な報告書を作成することもありました。さらに、経理部門や財務分析・経営企画部門は、増大する仕事量を支えるため、より拡張性の高いシステムを必要としていました。複数のベンダーを評価した結果、Discoverは Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management(EPM)と統合したOracle Fusion Cloud ERPにシステムを集約し、環境を簡素化することを選択しました。
プロジェクト・チームには明確なビジョンがありました。それはERPの導入は、単なるITアップグレードではないということです。ビジネス・テクノロジー 戦略・変革・ガバナンス担当バイスプレジデントのMichelle Green氏は以下のように語っています。「より多くのデータとより高い品質」を生み出し、全社的にビジネス価値を創造・維持する機会でした。最終的には、機能性と自動化により、全社的な意思決定をより効果的に行うことができるようになりました。」
このビジョンは、COVID-19のパンデミック時にリモート業務にもかかわらず、DiscoverがERP導入を時間通りに予算内で完了させる上で役立ちました。「導入にあたって、私は2つのことを重視しています」とGreen氏は説明します。「一つ目は、"導入がすんなり行われた"と報告を受けるとき。二つ目は、"そのシステムを気に入った"という声が聞こえるときです。導入後15日目、私たちはその両方を耳にしました。」
最新化されたERPプラットフォームが功を奏したのです。財務情報への迅速なアクセスにより、Discoverの全従業員はより効果的に経費を管理ができています。事業部門は、より正確な計画予測とコスト分析が可能になりました。カスタマイズ機能を標準機能へ変更することにより、従業員はテクノロジーの理解に費やす時間が減り、より多くの時間を成果の達成に向けた業務に充てることができるようになりました。また、四半期ごとに自動的に行われるクラウド機能のアップデートにより、Discoverはプロセスや作業方法を継続的に強化することができます。
長年にわたり戦略的買収を行ってきたHormel Foodsは、Dinty Moore、Planters Peanuts、SPAM、Skippy Peanut Butterなど、50以上の有名ブランドを所有しています。しかし、一時期は異なるITシステムをを寄せ集めて所有していた時期もありました。
Hormel Foodsのエグゼクティブ・バイスプレジデント兼最高財務責任者のJim Sheehan氏は、「さまざまな会社ごとにさまざまなシステムがあり、うまく連携していませんでした」と語ります。「それでは会社のパフォーマンスを明確に把握できず、メンテナンスも大変で、正直なところ、競争力の面で負担になっていました。」
中には、人材管理システム(HCM)やERPアプリケーションを15年以上アップグレードしていないケースもありました。システムによっては、属人的なものもあり「そのコードを理解できる人が会社に残っていないと大変でした」とSheehan氏は言います。また、Hormel Foodsでは、多くのアプリケーションを各ブランドのニーズに合わせてカスタマイズしていたことも、複雑さに拍車をかけていました。
ビジネス・プロセスの簡素化とデータ品質の向上を図るため、HormelはKPMGと協力して、Oracle Cloud ERPを導入しました。Oracle Cloud ERPはOracle Cloud Applicationsスイートの一部であり、Hormelのサプライチェーン管理(SCM)、ビジネス業績管理(EPM)、人材管理システム(HCM)もサポートしている
「チームワークに頼らざるを得ませんでした」と話すアシスタント管理者のEldon Quam氏は、以下のように続けます。「オラクル、KPMG、Hormel Foodsの社員が一丸となって働いていました。よく事情を知らない人からすれば、Hormel Foodsの社員なのか、別の会社の社員なのかの見分けがつかないほどだったと思います」
ERPシステムの稼動により、Hormelはビジネス・プロセス、データ、および意思決定を標準化する統合システムを手に入れました。「すべてのビジネスを同じ視点から見ることができるようになりました。」と、Sheehan氏は話します。
また、Hormel Foodsには、多くのブランドにおいて成長機会をピンポイントで把握するための予測モデルも備わっています。「以前は、ブランドごとにものごとを考えてきました」バイスプレジデント兼コントローラーのJana Haynes氏は語ります。「しかし、一元管理されたプラットフォームを利用することで、以前は明らかにならなかったことに気づくことができるようになりました。」
中国とブラジルを除くすべての国の調達が同じプラットフォームになったことで、ベンダーの分析も容易になりました。例えば、一部のブランドは同じものを他のブランドよりも高い金額で購入していることがわかりました。またHormelは、自社ブランドが独自に調達しているベンダーの数を正確に特定することもできます。自社ブランドの製品が依存している供給元のベンダーを把握しておくことで、万が一、ベンダーが需要に対応できなくなった場合でも、代わりの調達先を検討して対処することができます。
企業全体で同一のERPシステムを利用しているため、どのブランドも同じ方法で財務報告を行います。Sheehan氏は、「キャッシュ・フロー、損益計算書、貸借対照表のいずれの項目であっても同様です」と述べています。言い換えれば、チームワークによって、ひとつのチームとして活動する能力が高まったということです。
印刷、データ、マーケティング事業を展開する多角的なグローバル企業であるTaylor Corporationは、ERPソリューションの導入とバックオフィスの最新化に向けて4年から5年にわたる取り組みを開始し、財務、サプライチェーン、製造アプリケーションをOracle Cloudに移行させています。ERP導入の全段階が完了すれば、総コスト削減額は2,000万ドルから3,000万ドルになると見込んでいます。
CEOのCharlie Whitaker氏は、このプログラムを成功させることを個人的な使命としています。導入初期に行われたキックオフ会議で、Whitaker氏は同社の1万人の従業員を集め、このプログラムをTaylorの成長と繁栄の鍵として認識するように呼びかけました。また、運営委員会の開催やプロジェクト・チーム・メンバーとのワーキング・セッションを指揮しました。
「Charlieと話せば、参加は任意でないことが分かります参加は必須です。議論する前に参加せよ、というのは素晴らしいメッセージだと思います」そう語るのは、Taylorの企業変革担当バイスプレジデントであるJenn Warpinski氏です。
当初は懐疑的だったTaylorの管理職たちも、今では率先して同僚を説得しています。「今、彼らは、積極的に参加し、話し合い、Change Managementを行っています」とWarpinski氏は言います。
こうした変革プロジェクトを成功させるためには、従業員の支援が必要です。実際にその範囲は広大で、Taylorは一部ベンダーのサポートが終了したものも含め、85の異なるシステムにまたがるデータとビジネスプロセスを統合する必要がありました。Taylorは、タイムリーな情報に基づいた財務およびサプライヤーに関する意思決定を行い、コストと時間がかかる手動プロセスを自動化し、顧客にとっても同社のビジネス・ユニット間のオペレーションが容易になるようにしたいと考えていました。
例えば、Taylorの5つの多子化企業グループの1つでは、顧客情報を16の異なるシステムに保存していました。そのため、グループ会社であっても事業部をまたいだ製品のクロスセルを行うことが困難でした。(Taylorには、結婚式の招待状印刷からデジタル・マーケティング・サービスまでとあらゆるものを販売する事業部門があります。)
導入の第一段階である、2022年1月に完了したクラウド・ファイナンシャルのグローバル展開以前は、Taylorの財務チームが全社的な売掛金残高の統合ビューを組み立てるには、2週間ほどかかっていました。今では、そのデータを経営陣がリアルタイムで利用しています。
現在Taylorはクラウド調達アプリケーションも活用し、承認された間接サプライヤーとより良い数量割引を交渉することが可能になり、エンド・ユーザーは数回のクリックだけで消耗品の承認を得て注文を実行することができます。
その主な原因のひとつは、コンティンジェンシープランを策定できていないことにあります。最初に、導入チームは遅延やコスト超過の可能性が高い要因を特定し、それに応じて計画する必要があります。例えば、自社のビジネスモデルにプロジェクト立ち上げ前に修正すべき既存の脆弱性がないかなどといったことです。
非現実的な期待も失敗の原因です。スケジュールが短縮されても、成果物のリストが変更されない場合は、ERP導入は最初から破滅的であるか、少なくとも無秩序で高コストなものになりかねません。
こうした潜在的な問題の回避に、慎重なホワイトボーディングの工程が有効です。適切なERPプロバイダー、役員のサポート、他の企業の成功例や失敗例から学ぶ意欲があれば、ERP導入を成功に導くことができるでしょう。
ERP導入を成功に導くには、ビジョンを作り、一つのチームとして働き、あらゆる職階の従業員に支持と忍耐を求める以外にも、必要な要因があります。まず、プロジェクトの範囲、目的、予算などを明確に定義する必要があります。また、適切な専門知識を有するプロジェクト・チームも必須です。また、新システムへのデータ移行計画や、本稼働までの現実的なプロジェクト期間も必須事項です。Taylorが作成したような、ユーザーのトレーニングや教育を含む詳細な変更管理計画が、おそらく成功のために最も重要でしょう。
もうひとつのERPの成功要因: 導入するシステムは、ユーザが簡単に使えるものであるべきです。結局のところ、IT環境とユーザー・エクスペリエンスの改善は、どのERPシステムにとっても重要な目的です。段階的に導入する場合は、定期的にアンケートを実施し、従業員が使いやすいと思っているかどうかを確認することができます。
たとえ完璧な導入計画を立案したとしても、自社ビジネスに合わないERPシステムを選択していたら、素晴らしい結果を得ることはできないでしょう。異なるデータやビジネス・プロセスを統合できるだけでなく、既存のシステムやアプリケーションと連携し、ビジネスを継続できるようなソリューションをご検討ください。また、資金管理や調達といった機能に特化し、より迅速かつ正確な情報が提供でき、意思決定を向上させるシステムが望ましいでしょう。さらに、新製品の企画や価格戦略の設定に際して、収益化とビジネス価値の測定の両方が可能なシステムを選択することも賢明です。
もちろん、プロジェクト・マネジメント・チームは、ERPベンダーを徹底的に評価する必要があります。基本的な特徴や機能だけでなく、実際に何が提供できるのかを慎重に確認することが重要です。たとえば、サポート・サービスはどのようなものなのでしょうか。どのようなトレーニングを提供するのでしょうか。将来像を考えたとき、そのベンダーは、今後競争に勝ち抜くために必要なテクノロジーへの投資を確実に行っているのでしょうか。また、Oracle Fusion Cloud ERPを含むクラウドERPソリューションについて、Gartnerなどの業界アナリストがどのような評価をしているかも確認しておきたいところです。
最後に、ERPシステムが自社に提供できるその他のものは何かを考えてみましょう。例えばオラクルのソリューションには、AIや機械学習を利用して財務統制を強化するリスク管理ツールが組み込まれています。また、顧客関係管理(CRM)システムとの連携も可能で、フロントオフィスとバックオフィスのチームがシームレスにデータを共有することができます。
ERP導入の際の主な課題とは何でしょうか。
最も一般的な3つの課題は以下のとおりです。