新しいエンタープライズ・システムの導入を決定したあらゆる組織にとって、それが現在のオンプレミス・ソリューションと置き換える方式か、既存のクラウド環境に機能を追加する方式か、異種のスプレッドシートや自社製ソフトウェアを補完する新規導入であるかにかかわらず、ERPシステムの導入は重要なアクティビティです。どのタイプの新しいERPシステムを選択する場合も、ユーザーによる受入れ、プロセスの調整、データ品質、エンタープライズ適合という点で、選択したエンタープライズ・ソリューションが成功するかどうかは、導入を適切に実行できるかどうかにかかっています。
この成功は、ユーザーの期待、ビジネス要件、プロジェクトの予算とスケジュールを理解してそれを満たすかどうかで測定されます。新しいERPソリューションの技術的な側面を理解するだけでなく、導入作業全体を通して組織のビジネス面と社内文化面に対処できる、豊富な経験と知識を持ったリソースを活用した、綿密な計画と実行が必要になります。
以下では、ERP導入プロジェクトを進める際に組織が従う必要がある5つの重要なステップとそのサポート・タスクの概要を示します。
オンプレミスのエンタープライズ・アプリケーションを最新のクラウド・ソリューションに移行する組織が増えるにつれ、ERP導入プロジェクトに必要なタスクを同時に検討することが多くなっています。企業は、アプリケーション・ポートフォリオのコスト構造を変更する、テクノロジーの陳腐化リスクを低減する、成長を実現する、オペレーションの敏捷性、レジリエンシ、効率を向上しながらイノベーションを促進するといったさまざまな理由でERPの導入に取り組んでいますが、重要なのは企業のプロジェクトが成功する理由と失敗する方法を理解することです。
クラウド・アプリケーションに移行するにはさまざまな方法がありますが、ERPの導入を成功させるための法則は明白です。予算策定などの1つのプロセスを導入しているか、すべての財務アプリケーションや財務プロセスをクラウドに移行しているかに関係なく、ERPの導入には経験豊富なリソースによる徹底的な計画が必要です。
プロジェクトの範囲、設計、チームおよびメッセージをカバーするプロジェクト・カテゴリを定義し、確立します。
最初は、クラウド移行プロジェクトの管理は他のビジネス・プロジェクトやテクノロジー・プロジェクトの実行と同じように思われるかもしれませんが、プロジェクトの計画とリソースをマッピングすると、その違いがすぐに明らかになります。1つには、ほとんどのオンプレミス実装と比較して、クラウド・プロジェクトのメリットはプロセスの早い段階で明らかになります。
クラウド・プロジェクトのビジネス・ケースが承認されるにつれ、コスト面とスケジュール面のメリットが際立ちます。この点も、クラウド・プロジェクトのタスクがオンプレミス・プロジェクトと異なる部分です。小規模なクラウド・プロジェクト(特にハイブリッドの場合)では、コストが少なく、設備投資が不要なため、承認がさらに迅速で正当化の必要性も少なくなります。
クラウド・プロジェクトのコンポーネントは、プロジェクト定義、チーム、設計、ロールアウト、コミュニケーションの5つのカテゴリに分類されます。成功を収めるためには、プロジェクトのキックオフの「前」に、各カテゴリの情報を収集する必要があります。
このタスクは、クラウド導入プロジェクトの基盤を確立します。細かすぎるように見えるかもしれませんが、この段階で明確さと詳細に欠けていると、下流工程で問題が発生します。最初にしっかりした計画を立てることで、誤りのリスクが低減され、導入チームがプロジェクトの途中で発生する可能性がある問題に備えることができます。
最初に、包括的な目標を組み込んだミッション・ステートメントを記述して、プロジェクトの目的を決定します。次に、目標、範囲、リスク、詳細な予算、人員配置要件(内部と外部の両方)を明確に定義したプロジェクト・ロードマップを作成し、これらすべてをおおまかなタイムラインとタスクのスケジュールにマッピングします。これらのタスクは、オンプレミスとクラウドのどちらの導入でも類似しています。しかし、クラウドの場合はタスクの数が減るため、このステップはクラウドでより迅速に進みます。ハードウェア、ソフトウェアのインストール、カスタム・コード・テストおよびその他のオンプレミス・コンポーネントに関連するタスクは不要になります。
クラウド・プロジェクトでは、チームの構築が簡単です。ハードウェア・アーキテクト、カスタム・アプリケーション・コード開発者、レポート・ビルダー、ソフトウェア・インストーラが必要ないからです。クラウド・プロジェクトでは、必要なスキルと専門知識は、ユーザーのロールと職責、およびベストプラクティスの構成と適用が中心になるため、ビジネス・プロセス・コンサルタントとデータ・アナリストが必要になります。この段階では、プロジェクトにおける各ロールとそれに伴う職責を明確に定義することが重要です。
考慮する必要があるメンバーシップ要件として、専任のプロジェクト・マネージャーを必ず含めるようにし、必要に応じてビジネス・パートナーを選択します。現在、貴社がオラクルのオンプレミスのお客様である場合は、クラウドへの移行を加速するために、Oracle ConsultingのSoarプログラムをご検討ください。運営委員会や執行委員会も必要です。障害を取り除き、必要に応じて他の上級役員に関与してもらうことでプロジェクトの成功を支持する、エグゼクティブ・スポンサーを見つけます。
これを成功への青写真と考えてください。設計文書に含める主な内容は、デプロイするアプリケーション、サードパーティ・アプリケーション、および統合が必要な関連システムです。また、設計には、詳細なデータ定義、ユーザー要件および影響を受けるすべてのビジネス・プロセスも含める必要があります。これらの要素の中には、勘定体系の設計など、かなりの計画が必要になるものがあります。設計を最初から適用することは重要です。設計作業を前もって行うことで、構成タスクを実行しながら最初の一歩を踏み出すことができます。最新のクラウド・アプリケーションでは、これらのタスクが簡素化されています。
どの事業部門や地域をどの順序でカバーするかを決定します。また、新しいシステムを稼働させて本番環境に移行するための主要な要件も特定してください。最終的に実行するか中止するかの基準を早期に確立することは、プロジェクト・スケジュールの論理チェックとして機能します。一部の機能は、当初の稼働開始後の将来的なデプロイメント対象にする場合があります。この場合、稼働後に最終結果を監視および評価するために使用される主要なメトリックを含める必要もあります。ここまでのステップと同様に、クラウドとオンプレミスの導入には類似点があります。しかし、クラウドはよりシンプルになるため、より短いスケジュールとより適切な範囲の制御というメリットが得られます。
内部コミュニケーションはプロジェクトの成功に不可欠です。プロジェクト名とロゴを使用してプロジェクトをブランディングし、組織全体で知名度と認知度を高めることを検討してください。導入の進捗および組織がプロジェクトからどのようなメリットを得られるかについて定期的に情報更新することで、会社全体の認知度とポジティブな期待感を作り上げます。変化には困難が伴う場合があります。プロセス期間全体を通じてプロジェクトの最新情報などの情報を伝達することで、社内チームがすばやく適応し、作業を開始できるようになります。
クラウドを使用することで、導入の成功の実績と、ユーザーによってすでに受け入れられているテクノロジーを活用できます。私たちの多くは、スマートフォンやその他のクラウド対応のアプリケーションやプラットフォームを既に使用しているため、20世紀のオンプレミス・システムから最新のクラウド・アプリケーションに変更するのは、自然で直感的、かつエキサイティングなことです。
Caesars Entertainmentは、すべてをクラウドを移行しています。最近、このゲームとホスピタリティの巨大企業は、財務業務を、30年前から使っているオンプレミス・システムからOracle Fusion Cloud ERPおよびOracle Fusion Cloud EPMに移行しました。Caesarsの財務変革担当バイスプレジデントであるMichael Mann氏は、移行を成功させるための11のヒントを紹介しています。
構成して統合し、データとレポートを評価し、拡張機能を評価します。
準備作業が完了したら、プロジェクト設計を導入します。これは、予算、時間およびタスクに関するワークロードの多くを占めます。クラウド・プロジェクトを導入する場合、必要なタスクは従来のオンプレミス・ソリューションよりもはるかに少なくなります。不要になるタスクとして、ハードウェア・アクティビティ、カスタム・コーディング、ソフトウェアのロードとパッチ適用、ほとんどの(ただし、すべてではない)テストとトレーニングなどがあります。クラウド・プロジェクトの導入には通常、4つの(場合によっては5つの)コア・アクティビティが含まれます。これらは頭字語を取ってCIDERと呼ばれます。
Oracle Cloud ERPが、お客様の新しいビジネス・モデルやプロセスの迅速な導入や、コスト削減や、予測の明確化、イノベーションの加速をどのように支援しているかご覧ください。
クラウド・アプリケーションは、カスタマイズではなく構成に重点を置いています。つまり、データ構造と階層、編成、ユーザーのロールと職責をプロジェクトの初期に構成することが重要です。ほとんどのクラウドへの移行では、コア・ビジネス・アクティビティを迅速に設定し、その後、標準のビジネス・プロセスとそのワークフローを組み合わせることができます。
いくらかの統合作業が必要になります。特に大企業では、すべてのビジネス機能を網羅するソリューションはほとんどありません。サードパーティ・ソリューションやレガシー・システムをクラウド・アプリケーションに統合することで、以前の投資と独自の機能を維持できます。これについては、既存の統合フレームワークが存在する可能性があるため、プロジェクト・チームのIT担当者と協力する必要があります。多くの組織がOracle Integration Cloudを利用して、必要な統合を合理化および簡素化しています。
オンプレミス・システムからの移行には、クラウドへのデータの移動が含まれます。データの量と定義を決定したら、この導入タスクでは、データの品質と正規化タスクをカバーする抽出、変換およびロード(ETL)スキルが必要になります。複雑なデータ・シナリオの場合、時間と予算を費やして事前にすべて準備するのではなく、異なるシステム間でもエンタープライズ・データ全体の一貫性を確保できるOracle Enterprise Data Management Cloudを使用することを検討してください。
クラウド・アプリケーションの基本的な利点の1つは、カスタマイズではなく構成できるように設計されていることです。ただし、必要に応じてOracle Platform as a Serviceを使用することで、アプリケーションを拡張したり補完的な機能を開発できます。Oracle SaaSアプリケーションとの事前統合により、最も一般的なタイプの統合の複雑さが解消され、アプリケーションの更新時に拡張機能が保持されます。
Oracle Cloud Applicationsには、多くのレポート機能と事前定義済レポートが用意されています。導入時にはレポート要件を2つのバケットにソートします。
1)新しいクラウド・アプリケーションに含まれている、リアルタイムの画面上の情報および埋込み分析で置き換えることができるレポートを識別します。
2)生成および配布する必要があるレポートを決定します。出発点として、オラクルの600種類近くのクラウド財務レポート(XLS)のインベントリをご検討ください。
プロジェクト定義に対して、構成および関連する導入アイテムを確認します。
導入タスクが完了したら、プロジェクトの要件と照らし合わせて作業の正確性と完全性を確認することが重要です。オンプレミス・システムのテストと同様に、次の点を確認する必要があります。
高価で持続不可能なカスタム・コードが大量にあることが、組織の足かせになっています。Oracle Cloud Applicationsは、ITの複雑さを排除し、データのメリットを最大限生かすことができます。レガシー・システムとは異なり、Oracle Cloudは、AI、機械学習、デジタル・アシスタントなどの最新テクノロジーの定期的な更新により、継続的なイノベーションを実現します。
オンプレミス・システムとは異なり、クラウド・デプロイメントの検証は比較的簡単です。物理インフラストラクチャ、セキュリティ、コードの最新性、アプリケーション、機能性については、オンプレミス・システムに適用されるような複雑なテスト・アプローチは必要ありません。これらはすべて、すぐに利用できます。
クラウド・プロジェクトでは、検証はCIDER(構成、統合、データ、拡張機能、レポート)に重点を置きます。この検証は、優れた設計文書と効果的なデータ移行により、基本的にチェックリストで行うことができます。
導入したソリューションが定義済のプロジェクトのすべての面と一致することがプロジェクト・チームによって確認されたら、次はユーザーによる受入れに移ります。プロジェクトを定義するときに、事業部門と経営幹部の中で主要な利害関係者が特定されています。利害関係者はプロジェクトの定義の準備作業もサポートしています。今度は、導入したプロジェクトが要件と一致することを確認し、利害関係者の承認を得る必要があります。
また、この段階でビジネス・プロセス・オーナーを関与させることも重要です。ベストプラクティスのチャンピオンになってもらい、組織が最新の基準から外れないようにします。また、ビジネス・プロセス・オーナー(BPO)は、カスタマイズへの取組みに対する先導者であり、組織全体でベストプラクティスの推進と伝達を推奨できます。この時点でBPOが存在しない場合、ここが、この重要な役割を確立する最適な時期です。
ときに、要件と一致していない場合があります。そのため、このタイミングが要件を再確認して問題を修正するよい機会です。修正後、適切な利害関係者に再び関与してもらってください。
ビジネスから承認を得たら、いよいよ本番クラウド・システムへのカウントダウンが始まります。次の3つのタスクを並行して実行します。
システムの準備状況: 対応または修正する最終項目のリスト(パンチ・リストと呼ばれる)を実施し、システムに初期値を設定します。たとえば、クラウドで発行する最初の発注書番号を決定します。
ユーザーの準備状況: ユーザーにユーザー名、パスワードおよび関連情報を提供します。また、ソリューションの稼働開始時に支援を受ける方法を伝えます。
組織の準備状況: 必要に応じて、変更管理とコア・トレーニングの実施に重点を置きます。早い段階の準備タスクでプロジェクトに変更管理を忠実に採用した場合、ユーザーは新しいシステムについて十分な情報を受け取り、使用を開始する準備ができます。
繰り返しになりますが、準備フェーズについては、クラウド・プロジェクトの方がオンプレミス・プロジェクトよりも利点があります。すべき作業が少ないため、スケジュールを短縮し、予算を削減できます。また、プロジェクト・チームのメンバーが本番稼働を開始するか検討している際にもプロジェクトを進めやすくなります。本番環境についてそれぞれの準備状況を確認できたら、本番稼働前の最後のステップが1つあります。
プロジェクトのステップ1では、実行するか中止するかの基準を決定しました。運営委員会およびエグゼクティブ・スポンサーとこの基準を確認します。適切な日付を選択し、全員の賛成の下で稼働を決定できるように要求します。疑問がある場合は、調査して問題を修正します。稼働開始を成功させるためには、必要に応じてサポート情報を使用し、全員をオンボーディングして意思決定を広く伝達することが重要です。
オラクルの経験豊富なカスタマー・サクセス・マネージャー(CSM)は、お客様が目標をより迅速に達成できるようサポートします。オラクルのCSMは、導入、稼働、消費、ユーザーによる受入れなどについて新しいお客様を支援します。CSMは製品とビジネス・プロセスについて詳しい知識があり、Oracleへの投資から最大の価値を引き出せるようお手伝いします。
稼働開始にとどまらず、業務を開始し、宣伝し、お祝いしましょう。
ここまでのステップを実行したプロジェクトであれば、稼働開始はスムーズに行くはずです。個別の問題がいくつか発生する可能性はありますが、準備状況の段階で設置したユーザー支援チームが処理する必要があります。プロジェクト・チームは、関連するITインフラストラクチャおよびネットワーク・スタッフとともに、システム・パフォーマンスを慎重に監視する必要があります。同時に、タスクおよび全体的なエクスペリエンスについてユーザーに確認します。
クラウドとオンプレミスの稼働開始の最大の相違点はすぐに明らかになります。問題がはるかに少ないのです。稼働開始の成功は終わりではなく、クラウドで業務を行うという新しい方法の始まりです。20世紀のアプリケーション・アプローチからの変革は、プロジェクトの成功を祝う大きな理由の1つです。
パーティーを開き、運営委員会、ビジネス・パートナー、業務関係の主な利害関係者、その他、プロジェクトの成功に貢献してくれた人を招待しましょう。パーティーは、楽しいだけでなく、将来の取組みの参考としてプロジェクトの成功した点と失敗した点について議論できる素晴らしい手段でもあります。
パーティーが終わったら、次の7つの追加アクティビティを検討します。
監視および測定: 最初の準備ステップで特定したメトリックを確認します。パフォーマンスを定期的に測定してレポートし、その価値と他の取組みにおける使用の可能性について検討します。
プロジェクトの見直し: パートナーを含むコア・プロジェクト・チームと一緒に、プロジェクトで学んだ知見を文書化し、うまくいった点と改善すべき分野を特定します。企業の社内文化的側面、ユーザーによる受入れ、変更管理のアプローチに注意を払います。運営委員会とエグゼクティブ・スポンサーに、プロジェクトの包括的な報告を提出することを検討してください。
Oracle SaaS Support Servicesとの連携維持: 先行的に対応するよう心掛けて、Oracle SaaS Support Servicesチームと常に連携を取るようにします。Oracle SaaS Support Servicesチームはお客様が成功するための優れたリソースであり、クラウド・サービスをご利用のお客様は無料で活用できます。
継続的なトレーニングの確立: システムの生産性とアプリケーションの知識を最大化するためには継続的なトレーニングが重要です。オラクルのガイド付きラーニングを使用して、新入社員のトレーニング・プログラムや詳細なラーニングを取り入れましょう。
コミュニティへの参加: Oracle Cloudコミュニティに参加してOracle Cloud Applicationsに関するグローバルな会話に加わり、他のさまざまな製品、業界、場所のユーザーから学びましょう。Oracle Cloudコミュニティは、他のユーザーから学び、自身の声を届ける最も簡単で適した方法です。
お客様事例の提供: クラウド・アプリケーションを選択するプロセスの際、既にOracleを利用したクラウド移行を行った他社の話がとても参考になったことを覚えておいでしょうか。クラウドへの移行を検討している他のお客様に今回の経験を公開することを検討しましょう。お客様事例の提供は、ネットワーキングや認知度向上のためにも優れた手段です。
次のクラウド・プロジェクトの計画: クラウド・プロジェクトを成功させた後は、他のオンプレミス・システムを廃止してクラウド・フットプリントをさらに拡大するなど、新しい取組みへの関心が高まります。今回の経験を基に、次のクラウド・プロジェクトを計画しましょう。
以上が、クラウドへの移行を成功させるためのステップです。次は実際に移行を開始しましょう。オラクルはあらゆる面においてお客様を支援する準備ができています。