Mark Jackley | コンテンツ・ストラテジスト | 2023年3月16日
2020年初頭、新型コロナウイルスが世界的に拡大し始めたとき、医療機関の人事チームは、未知の領域にいることに気づきました。彼らには、感染者の治療に必要な数の従業員を確保し、病院を維持する責任がありました。多くの責任の中で特に、従業員の安全確保や、メンタルヘルス支援、シフトスケジュールやリモートワークなどに関するポリシーの調整などが求められていました。
当時のパンデミックは落ち着いてきたものの、新型コロナウイルスは、今でも人事チームにいくつもの大きな課題を投げかけています。人事マネージャーは、大離職時代や、応募者数の減少、人件費の高騰やストライキなどの難題に直面したことで、ここ数年で多くのことを学びました。
主なポイント
パンデミックの発生に伴い、医療人事マネージャーは、組織の人材に対してより大きな責任を負うことになりました。人事部は、従業員の雇用や人件費の抑制といった従来の業務が増える一方で、世界的な供給不足の中、衛生的な職場や清掃用具の充実といった新たな役割も担うことになりました。
応募者数の減少
新型コロナウイルスが原因となり、医療機関は応募者数の減少に直面することになりました。例えば、HRO Todayの2021年のレポートによると、手術技師や認定看護師の応募は前年比52%減、看護師の応募は45%減となっています。また、非臨床職の応募者数にも影響がでています。例えば、管理栄養士の応募は30%以上減少しています。2022年も引き続き同様の傾向がみられています。人材紹介の専門家であるSIAの報告によると、人材派遣会社はヘルスケア職の充足の難しさを5段階中3.75と評価しています。
全国的な人材不足を解決することはできませんが、人事マネージャーは、応募者数を増やすために新しい試みを行っています。例えば、応募プロセスを簡略化する自動化されたシステムを取り入れ、応募者がアカウントを作成せずに求人に応募できるようにするなどです。医療機関の雇用主は、契約ボーナスや転居支援を提供したり、一部の従業員には在宅勤務のオプションを提供するなど、競争の激しい市場で人材を得るために工夫を凝らしています。コロラド州のある病院では、特定の職種には高卒資格を求めず、採用後に学んでもらうための資金を提供するという別のアプローチをとっています。
退職
2021年末、調査会社であるMorning Consultは、医療従事者の18%、ほぼ5人に1人がパンデミック中に仕事を辞め、新型コロナウイルスや、低賃金、燃え尽き症候群を理由に退職したと報告しています。また、残った人のうち31%は、退職を考えたことがあると答えています。
その後、COVIDワクチン接種率の上昇と感染症の激減に伴い、医療従事者の雇用率は上昇しています。Journal of the American Medical Associationによると、2022年4月にはヘルスケア業界の失業率はパンデミック最盛期の3.18%に比べ、2.28%まで低下しています。医療機関の雇用者の間で大離職時代が沈静化したとはいえ、慢性的な燃え尽き症候群、従業員の離職率、そして全体的な人材不足という問題に直面しています。次の退職の波を防ぐために、医療機関の人事マネージャーは、競争力のある報酬と、燃え尽き症候群に対処するプログラム、例えば、休暇やスケジュール管理のポリシーを見直す必要があります。
追加の清掃
衛生的な職場は医療分野ではこれまでも重要でしたが、新型コロウイルスを受け、人事チームは病気の感染を防ぐためにポリシーを見直すことになりました。米国労働安全衛生局(OSHA)と疾病管理予防センター(CDC)が定めたガイドラインに基づき、人事チームは、施設管理者が清掃手順を改善するのを支援しています。現在では、待合室、エレベーター、トイレなどの人通りの多い場所や、ワークステーション、従業員の私物についても、追加の清掃要件が定められています。また、手指消毒薬やウェットティッシュを十分に用意し、受付デスクにプレキシガラスの遮蔽板を設置するなど、物理的な障壁を設けている場合もあります。職場で新型コロナウイルスの疑いがあったり、検査結果が陽性だった場合、人事チームは、より頻繁な清掃を要求し、従業員と患者に対し、手洗い、マスクの着用、ソーシャル・ディスタンスの確保を強く求めるようになっています。
バーチャル人材
他の業界と同様、医療機関も、新型コロナウイルスがきっかけでバーチャル人材プログラムの拡充を開始しました。
人事が、従業員に対し、セキュリティ上の注意などリモートワークに関するガイドラインを提示することで、患者のチェックイン、請求処理、医療記録の管理といった作業をどこからでも行えるようになります。ロサンゼルスを拠点に地域医療サービスを提供するAltaMedは、1,000人以上のコールセンター、人事、IT、コンプライアンスの従業員を在宅勤務に移行し、「フレキシブル・ウォール」というアプローチで医師や看護師にもリモートワークを提供しています。また、特定の新規採用者に転居を求めないことで、医療機関は、特に遠隔地での人材不足をより容易に補うことができます。
燃え尽き症候群
米国医師会が2021年に行った調査では、回答した米国の医療従事者の半数(看護師の56%)が、燃え尽き症候群の症状があると報告しています。この症状は、肉体的・精神的疲労と達成感の低下を伴うと定義されています。また、3分の1が重度の不安やうつを訴えており、調査対象となった医師の25%が2年以内に現在の病院を辞める予定であると答えています。
2022年5月、米国の外科医長であるVivek Murthy博士は、医療従事者の燃え尽き症候群とウェルビーイングに関する勧告を発表し、この問題を国家の優先課題であると宣言しました。Murthy博士は、燃え尽き症候群を緩和するための方法を次のように提示しました。「まず、医療従事者を大切にし、保護することです。つまり、生活賃金、健康保険へのアクセス、十分な病気休暇を確保することです。また、パンデミック時のように、医療従事者が適切な個人防護具なしで仕事をすることは二度とあってはならないことです」また彼は、従業員のメンタル・ヘルス・プログラムへのアクセスを拡大する必要性も指摘しています。
士気の低さ
新型コロナウイルスによるパンデミックは、医療従事者の士気をひどく低下させることになりました。2021年の業界調査では、回答者の62%が新型コロナウイルスに関連する心配事やストレスがメンタル・ヘルスに悪影響を及ぼしていると回答し、56%の現場職員が睡眠障害に陥っていると答えています。ペンシルバニア州のある病院職員は次のように言っています。「スタッフは圧倒され、リソースは枯渇し、新型コロナウイルスへの接触度は極めて高いものでした。正直なところ、最悪でした。そして怖かったです」新型コロナウイルスは2年前ほど猛威を振るっておらず、深刻でもありませんが、職場感染の脅威は決して消えることはありません。
また、病気による脅威だけではありません。OSHAによると、医療従事者が職場で襲われるリスクは、他の業界の従業員の4倍だということです。そして、相対的に低い給与、過密スケジュール、燃え尽き症候群なども、士気を低下させる原因となっています。状況を好転させ、医療従事者の定着率を向上させるためには、人事チームは、従業員のウェルビーイングを組織の価値観に組み込み、それが優先事項であることを証明する必要があります。そして、競争力のある給与、よりバランスのとれたスケジュール、さらには、従業員が自分のニーズがきちんと届き、満たされていると感じるような、より共感的な職場文化を培うプログラムを提供することです。
パートナーシップ・モデル
新型コロナウイルス発生時の人材ニーズに対応するため、医療機関は、人材派遣会社とのパートナーシップを強化しました。例えば、ジョージア州のJackson Healthcareは、Healthcare Workforce Logisticsと提携して570人を増員しました。フィラデルフィアのLiacouras Centerは、General Healthcare Resourcesと提携して新型コロナウイルスの急増に対処しました。特に地方では、このようなパートナーシップの恩恵を受けていますが、多額のコストがかかることもあります。
州政府機関がスポンサーとなっているCommunity Care of North Carolinaという独創的な官民パートナーシップは、医師、看護師、薬局、ソーシャルサービスワーカーなど、14の地域ネットワークで構成され、都会から遠く離れた場所でも質の高い医療を提供しています。人手不足は2年前ほど深刻ではありませんが、今後数年間は人手不足が予想されるため、パートナーシップ・モデルは有用な選択肢となるでしょう。
ポリシーの変更
ヘルスケア業界の人事チームは、新型コロナウイルスに関連する課題に対処するため、広くポリシーの変更を行ってきました。その中には、従業員と患者の安全確保、職場の清掃、マスクの着用、検査に関するポリシーの改訂も含まれています。人事は、新型コロナウイルス時代の職場の安全に関する、正確かつ最新の情報を提供する情報源です。
必要に応じて、人事管理者は次の分野のポリシーも見直し、強化する必要があります。シフトスケジュール、休暇、リモートワークの許可、雇用とオンボーディング、新しい手当の追加を含む給与と福利厚生の調整、従業員のフィードバックの収集とその対応などです。実際、新型コロナウイルスがもたらしたポジティブな一面は、人事主導によるポリシーの刷新ができたことでしょう。
給与に関する要望
Kaufman Hallのレポートによると、新型コロナウイルスの発生以降、ヘルスケアの人件費は3分の1以上増加しました。その増加の主な理由は契約労働ですが、過酷な条件と新型コロナウイルスの脅威の中で働かなければならないことを補償するために、正社員の給与も上昇傾向にあります。ある人材派遣会社が看護師に対して調査したところ、3分の1以上が近々仕事を辞める予定だと答え、その主な動機として「より高い給与」があります。Peterson-KFFによると、医療機関の雇用主は、パンデミックが始まって以来、平均賃金を17%引き上げることで対応したとのことです。
一部の医療機関は、看護師やその他の従業員の給与の上昇を補うため、医療費を引き上げることを検討しました。また、彼らは、Medicareなどの連邦政府のプログラムが支払い率を決定する際に、病院の人件費を過小評価していると主張しています。他の医療機関では、契約社員の人件費や残業代、割増賃金を注意深く観察することで、コスト削減を図っています。
供給不足
通常、人事は医療用品の調達を担当することはありません。しかし、新型コロナウイルス関連の安全衛生管理が業務に加わったことで、人事チームは、手指消毒剤、保護マスク、新型コロナウイルス検査用綿棒などが十分に確保されているかどうかを確認する責任も負うことになりました。ニューヨークのある病院では、綿棒が足りなくなったとき、3Dプリンターを使う調達先を人事が見つけたと言います。人事は、従業員が供給不足に対処できるよう支援する必要もあります。例えば、ある病院が物資不足で手術を延期したとき、その人事チームは、手術再開時のために臨床医を確保しながら、シフトスケジュールを即座に組み直さなければなりませんでした。
労働ストライキ
パンデミックは医療従事者にとって非常に厳しいものであり、多くの医療従事者が給与、福利厚生、労働条件の改善を求めて交渉するようになりました。2023年の初めに3日間ストライキを行ったニューヨークの2つの病院の看護師たちのように、組合に所属する従業員の中にはストライキを行った者もいます。Healthcare Diveによると、2022年の間に、少なくとも3万人の医療従事者がストライキを行い、その2倍近い人数が合意ができなければストライキを行うという警告をしています。カリフォルニア州だけでも、スタンフォード大学病院、Cedars-Sinai、Kaiser Permanenteの3つの主要医療システムの従業員が、2022年にストライキを起こしました。
ヘルスケア業界は、ヘルスケア業界に非常事態をもたらしました。人事マネージャーは、組織が変化に対応できるように、時には職務を超え、緊急時の救援や対策を担当しました。人事は、従業員の安全を守るため、より厳格な清掃プロトコルの作成と実施、新型コロナウイルス感染症の検査ポリシーの実施、ソーシャル・ディスタンスの取り方やマスクの義務付けなど、突然大きな役割を果たすようになりました。また、現場の従業員にワクチン接種を受けるよう促し、時には要求するという繊細な仕事も担っていました。何よりも、状況が急速に変化し、医療システムが新しいポリシーと手順で対応する中で、人事チームは、信頼できる情報源として、新型コロナウイルス関連情報を発信する役割を果たしたのです。
医療機関の雇用主が今後に生かすべき重要な教訓のひとつは、柔軟で協力的な業務プロセスを構築することの重要性です。組織も従業員も、次の公衆衛生上の緊急事態が発生したときに対応できるよう準備しておかなければなりません。特定の職種において、リモートワークやバーチャルケアを拡大するには新しいテクノロジーが必要となります。さらに、スクリーンでの対応と、対面での対応の違いに関する注意点について、人事から指導を受ける必要があります。経営陣は、医療現場の未来を形作る人事チームを、戦略的パートナーとして捉える必要があります。
パンデミック後の時代に、人事が直面する課題に立ち向かうには、この業界特有のアプリケーションが必要となります。
Oracle Fusion Cloud Human Capital Management(HCM)は、医療システム全体のあらゆる人事プロセスを接続します。人事チームは、このクラウドベースのアプリケーション・スイートを活用して、優秀な候補者を魅了するだけでなく、新入社員をスムーズに受け入れたり、従業員が新しい役割を探す手助けをしたりすることができます。Oracle Cloud HCMの人材管理アプリケーションは、雇用者と従業員が出退勤管理を行い、欠勤を記録し、安全衛生に関する問題を報告し、それを修正できるようにします。従業員のフィードバックを取得し、より協力的な職場を構築するためのツールは、従業員の離職率の低減に役立ちます。
Oracle MEクラウド・プラットフォームを利用して、人材を惹きつけ、育て、エンゲージメントさせる職場文化を構築する方法についてご覧ください。
新型コロナウイルスは、医療機関の人事組織が自分たちの役割を見直すきっかけとなりました。新しい従業員の採用、他の医療ネットワークとの従業員の共有、既存の労働力を補うための機関との提携、既存の従業員を維持するための新しいプログラムやプロセスの作成など、独創的な方法を考え出すことは、人事にとってこれまで以上に重要な課題となっています。2023年1月までに110万人のアメリカ人が死亡したパンデミックの後では、安全性への懸念も大きくなります。病院や診療所で働く人事マネージャーにとって、手洗い、マスク着用、ワクチン接種は、永遠の課題となりました。
業界がパンデミックから解放された後も、人事は、データやテクノロジーなどあらゆる手段を駆使して、人件費の抑制、怪我や不満を抱えた従業員からの訴訟の回避、罰金を避けるための規制遵守など、損益を気にしながら従業員の生活を向上させる必要があります。最終的な目標は、患者により良いサービスを提供し、患者の予後を向上させることです。
新型コロナウイルス以降、医療人事が直面している課題とは
パンデミックの発生以来、医療人事は深刻な人員不足、燃え尽き症候群や離職率の上昇、従業員のウイルス感染への恐怖といった課題に直面してきました。人事チームは、シフトスケジュールやリモートワークに関するポリシーを変更したり、人材ニーズを満たすために人材派遣会社の利用を検討したりする必要もありました。
新型コロナウイルスは医療従事者にどのような影響を与えたのか
パンデミックによって、従業員の燃え尽き症候群や士気の低下が増えたことで、多くの人が退職して他の職を得ることになりました。
現在、医療機関の人事担当者が直面している最大の課題とは
2020年の急激な落ち込み以降、業界の人員レベルは回復しているものの、医療機関の人事組織にとって、十分な数の医師、看護師、その他の人材を雇用し、維持することは、引き続き課題となっています。人手不足が予想される中、人事チームは、ポジティブでやりがいのある職場環境を作ることが求められています。