Cara Clinton Vollmer |コンテンツ・ストラテジスト| 2023年12月20日
サプライチェーンの可視化(SCV)はシンプルな概念です。企業は、製品やサービスが供給元やサプライヤーから、製造および最終消費者へと移動する過程を詳細に把握する必要があります。しかし、そうした透明性を確保することは、想像以上に困難です。かつてはよりシンプルなエンドツーエンドのモデルに従っていたサプライチェーンは、原材料サプライヤー、製品パートナー、ロジスティクス・プロバイダー、地域の契約労働者などを含む複雑なグローバル・ネットワークへと進化しました。相互依存する関連プロセスはすべて、完成品の製造、保管、販売、配送に使用されるテクノロジーによって管理されています。
SCVを使用することで、企業はこうしたテクノロジーをすべて連携し、サプライチェーン・ネットワークのあらゆるポイントからのデータに迅速にアクセスすることができます。その結果実現する可視化により、サプライチェーンのプロフェッショナルは、原材料の不足、メーカーの不具合、在庫不足、出荷の遅れなどの潜在的な問題を迅速に検知し、対応することができます。
サプライチェーンとは、企業が商品をA地点からB地点に移動させるための人、リソース、プロセス、テクノロジーのネットワークです。
サプライチェーンは2つの部分に分けることができます。
今日のサプライチェーンは直線的なものではありませんそこで活動するすべての関係者が24時間オンラインでアクセスできる複雑なネットワークの集合体なのです。また、顧客が店舗やモバイル・アプリを介して、フロントエンドでアクセスすることも可能です。一般的なサプライチェーンは、製品の設計、原材料や部品の調達、需要予測、選択したセールス・チャネルへの供給手配、注文プロセス全体にわたるカスタマーサポート・チャネルの提供などの機能を網羅します。
このような複雑性がもたらした、サプライチェーン内の活動を追跡および予測するために使用できるデータ・ソースは、これまで以上に増えています。これには、サプライチェーンとビジネス全体から得られる内部データ、サプライヤー、パートナー、顧客、さらには競合他社から得られるセカンドパーティーの外部データ、サプライチェーン運用に影響を与えうる信頼できるサードパーティーの経済、政治、環境に関するデータが含まれます。
サプライチェーンの可視化により、企業は最初の原材料調達から顧客の手元に届くまでの製品の複雑な動きを詳細に把握することができ、その結果、より適切な管理が可能になります。このような可視性は、サプライチェーンの運用に使用されるテクノロジーから生み出される膨大なデータにより実現します。企業はそのデータを効果的に連携かつ管理することでSCVを獲得し、サプライチェーンにおける問題の検出(または予測)、運用パフォーマンスの最適化、より効果的な計画が可能になります。
たとえば、サプライヤーからのリード・タイムが延びれば、製造に遅れが生じる可能性があります。人手不足が原因で出荷が遅延する可能性もあります。現地の銀行が休業日であれば、ベンダーの支払いが滞ることにもなりかねません。また、機械のメンテナンスが必要な場合、生産が停止することもあります。このような事態に関するデータの多くは、すでに既存の情報システムに存在している可能性があります。輸送管理システムはロジスティクス・データを、データウェアハウス管理システムは在庫データを、エンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)システムは財務および生産データを、顧客関係管理(CRM)システムは顧客およびセールス・データを追跡します。
最も効果的なサプライチェーンは、天候パターン、市場シグナル、パートナーや競合他社のデータなどの外部データだけでなく、これらの情報をすべて結び付け、ビジネス・ユーザーが簡単にアクセスできるようにしています。。また、大量のデータを分析し、トレンドや問題を明らかにすることで、サプライチェーン・チームが「なぜ商品が遅れるのか」、「どの程度遅れるのか」、「顧客への影響は」といった重要な質問に答られるようにします。
サプライチェーンのあらゆる部分を効果的に管理するために必要となる可視化により、企業は生産性、収益性、顧客満足度を向上させる運用効率を高めることができます。
主なポイント
サプライチェーンの可視化とは、サプライヤーから消費者まで移動する製品を詳細に把握する企業の機能のことです。この可視性は、以下の方法により実現されます。
これらの要素を結びつけることで、ビジネスはサプライチェーンがいかに効率的に運営されているかについて全体像を把握することができます。
SCVのサポートに必要なテクノロジーは急速に進化しています。IoTセンサーは、接続されたデバイスからデータを取得することで、倉庫の温度記録、機器の故障検出、輸送中の製品のモニターを行います。人工知能(AI)は、大量のデータからパターンを検出し、サプライチェーン・チームによる特定の製品の需要変動や、近い将来に起こり得る需給変化の予測を支援するために使用できますAIによる分析と機械学習は、コストのかかる中断(機械が故障する可能性がある場合など)を予測し、サプライチェーンの改善を推奨することで、問題が発生する前に対処することを支援します。
IDCの2022年のサプライチェーン調査では、回答者の80%が、サプライチェーンの可視化を強化させるためのプロジェクトが進行中であると回答しました。その理由は、
グローバル・サプライチェーンは絶えず変化しています。新しいテクノロジー、不安定な市場、不安定な地政学、進化する業界規制は、どれも変化を推進しており、企業によるサプライチェーン管理と成長に備えた計画を困難にしています。実際、IDCは2021年に、需要予測計画(製品の需要を予測し、それに対応する機能を最適化するプロセス)に関する問い合わせを、それまでの年で最も多く受け付けました。これらの問い合わせは、2022年に安定したペースで続きました。
サプライチェーンの可視化により、マネージャーは課題が発生したときにそれを察知し、迅速に対応することができます。たとえば、サプライチェーン・マネージャーは、需要や商品の流れに大きな変化があった場合にアラートを受け取ることができるため、迅速に対応して需給のバランスを取ることができます。SCVはまた、サプライチェーン・チームが以下を達成することも支援します。
これらの機能はすべて、急速に変化する市場における組織の競争を支援します。
メーカーは、リアルタイムで活動の追跡を支援するデータ、テクノロジー、およびプロセスを組み合わせることで、サプライチェーンの可視化を実現できます。つまり、サプライチェーンのアップストリームとダウンストリーム部分である、調達、プランニング、在庫、およびフルフィルメント・システムのデータを、ERPおよびCRMシステムを含む組織全体にわたり統合します。ビジネスでは、市場のインサイト、規制の変更、天候パターンなどの外部データもサプライチェーン・マネジメント.に取り入れる必要があります。このようなインサイトの組み合わせにより、エグゼクティブとそれぞれのチームは、原材料の要件、完成品の在庫水準、輸送オプションなどについて、確実な意思決定を行うことができます。
このようなサプライチェーンのデータはすべて、さまざまなテクノロジーを介して収集されます。アイスクリーム・メーカーが追跡する必要のある広範なデータを考えてみましょう。ERPシステムに保存されている調達データは、支出額、ミルクなどの原材料の調達先、最も信頼できるサプライヤーなどを示します。倉庫や小売店の棚に設置されたIoT対応センサーは在庫データを収集し、特定のフレーバーや製品の種類が少なくなるとメーカーにアラートを発します。出荷パレットのRFIDタグやトラックのGPSモニターは出荷場所を追跡し、配送遅延を検知します。一方、湿度センサーがトラックの温度をモニターするため、アイスクリームが溶けるのは顧客の口の中だけになります。サプライチェーン全体にわたり、CRMシステムはメーカーが顧客の注文、サービス・リクエスト、調達から配送までのすべての顧客とのコミュニケーションを追跡できるよう支援します。
サプライチェーン・チームはブロックチェーン・テクノロジーを利用して、サプライチェーンに沿ったこのようなあらゆるインテリジェンスを統合および共有し、参加者に信頼できる情報源を提供することができます。データにアクセスすると、AIによる分析がコンテキストとインサイトを加え、在庫の確保や調達コストが顧客満足度や収益性に与える影響など、企業が主要なダイナミクスやトレンドを理解することを支援します。分析はまた、潜在的な材料不足を予測したり、業績不振のサプライヤーを特定することも可能です。
IDCの2022年のサプライチェーン調査において、業界アナリストは、サプライチェーン全体にわたる可視化の実現、高度な分析の導入、AIなどの新しいテクノロジーの導入に成功した企業は、復旧時間を50%、新製品のリード・タイムを30%短縮できることを明らかにしました。このようなメリットを逃したくない企業はないでしょうが、導入に障害が伴うこともあります。
サプライチェーンの可視化を実現するための最大の障害には、次のようなものがあります。
サプライチェーンの可視化によるメリットは幅広く、最終的には生産性の向上、顧客満足度の向上、利益の拡大を推進することができます。
SCVにより、企業は以下のことが可能になります。
サプライチェーンにおける可視化は、刻々と変化する環境下での成功に不可欠です。しかし、今日のグローバルサプライチェーンの複雑さを考えると、サプライチェーンの可視化を実現することは困難に思われることがあります。適切な手順を実行するための4つのステップをご紹介します。
サプライチェーンの可視化により、3社の企業が需要予測の改善、運用の非効率性の特定、ビジネス全体にわたる重要なデータの連携を実現しました。
Hormel Foods
50以上の代表的なブランドを擁するHormel Foodsは、主要なビジネス・エリア全体にわたり情報システムを最新化するミッションに取り組んでいました。これを実現するため、Hormelはクラウドベースのサプライチェーン、ERP、人材管理(HCM)の各システムを導入しました。中国とブラジルを除くすべての調達がクラウド化されたことで、Hormelはベンダーの分析をより簡単に行えるようになりました。例えば、一部のブランドは同じものを他のブランドよりも高い金額で購入していることがわかりました。また、自社ブランドの主要アイテムを単独で調達しているベンダー数も確認できます。このインサイトにより、代替ソースを検討し、ベンダーが需要を満たせない場合に備えることができます。
Bonnell Aluminum
カスタム・アルミニウム押出材のメーカーであるBonnellでは、もはや実用的な情報を見つけるために膨大な量のデータに目を通すという状況にはありません。高度な分析により、工場マネージャーや主要なエグゼクティブを含むすべての関係者が、ボタンをクリックするだけで在庫管理、生産現場、バックオフィスを可視化できるようになりました。サプライチェーン、財務、人事プロセスにわたりデータ分析が強化されたことで、企業は生産におけるプロセスの非効率性や注文遅延の原因となる問題領域を特定することができます。マネージャーは、リアルタイムのインサイトに基づいて、現場全体にわたり労働力と直接支出を最適化することができます。
Wavetronix
レーダーなどの交通テクノロジーの世界的メーカーであるWavetronixは、ビジネス全体にわたり可視性を高めるため、クラウドベースのサプライチェーン・マネジメント・ソフトウェアを導入しました。販売管理、在庫など多岐に渡るデータの正確性を確認するために、複数のスプレッドシートを突き合わせていた日々は終わりを告げました。また、クラウドベースのERPシステムと分析を利用して、ビジネス全体のアイデアと情報を結びつけています。 クラウドSCMとERPを組み合わせることで、Wavetronixはデータに対するアクセス、コントロール、セキュリティを実現し、受注から入金までのプロセスに関する重要なインサイトをエグゼクティブに提供することで、受注、バックログ、その他の出荷関連のボトルネックを削減することを支援します。
新しいベストプラクティスとテクノロジーは、企業がサプライチェーンの可視性を実現するための課題を克服することを支援しています。最大のトレンドの一部をご紹介します。
サプライチェーンの可視化システムを選択する際には、まず現在のサプライチェーン・ネットワークの検証から始めます。どの領域が可視化の強化からメリットを得られるでしょうか。最も重要なデータ・ソースは何でしょうか。改善が必要なプロセスとユースケースはどれでしょうか。次に、こうした課題に対応するテクノロジーとソリューションを検討します。以下のような重要な機能を検討することをお勧めします。
最後に、選択するソリューションがビジネスの成長に合わせてスケールできること、ベンダーがサプライチェーンのイノベーションに取り組んでおり、定期的に新しい機能やテクノロジーを導入していることを確認します。
変化のペースが速く、競争の激しい環境では、サプライチェーンのリーダーとそのチームは、迅速に適切な意思決定を行う必要があります。これは、製品ライフサイクル全体にわたりサプライチェーンの可視化を確保し、変化をリアルタイムで検知および管理することを意味します。
Oracle Supply Chain Management (SCM)は、統合的なクラウドSCMソリューション・スイートを通じてサプライチェーンおよび製造プロセスを連携させます。Oracle SCMには、新製品を市場に投入し、サプライチェーン計画、調達、製造、在庫、ロジスティクスを管理するために必要なすべてが含まれています。IoTセンサー・データやブロックチェーンなどのテクノロジーにより、チームは商品の流れをモニターし、製品の欠品、機械の修理、納期の遅れなどの潜在的な問題の予測を支援します。Oracle Fusion Analytics for SCMは、AIと機械学習を活用してデータにコンテキストを追加し、予測を行うことで、企業が調達から配送までのすべてを改善できるように支援します。
エンドツーエンドのサプライチェーンの可視化は、AIと機械学習を活用してデータにコンテキストを追加し、予測を行うことで、企業が調達から配送までのすべてを改善できるように支援します。サプライチェーン・コマンドセンターとして知られるこのコンセプトは、運用管理における分析とインテリジェンスのために連携されたデータを活用し、財務、人事、サプライチェーン、セールスなど全体にわたり、より適切な意思決定を推進します。
サプライチェーンの可視化を実現する方法を教えてください。
企業は、製品ライフサイクル全体を通してアップストリームおよびダウンストリーム活動をほぼリアルタイムで追跡するデータ、テクノロジー、およびプロセスを組み合わせることで、サプライチェーンの可視化(SCV)を実現できます。
サプライチェーン・マネジメントにおいて可視化が重要な理由を教えてください。
サプライチェーンの可視化(SCV)により、ビジネス・リーダーはサプライチェーン内のどの部分で、どのようにアクションを取るべきかを把握することができます。サプライチェーン・チームは、顧客や収益を失うリスクよりも、製品の需要が急増したり、サプライチェーンが輸送中に滞った場合にアラートを発して備えることができます。
サプライチェーンの可視化不足について教えてください。
企業が、サプライヤーから消費者へと移動する原材料や完成品を詳細かつ継続的に把握できていない場合、サプライチェーンの可視化が不足しています。これはビジネス・パフォーマンスに長期的な影響を及ぼし、顧客満足度を損ない、収益性を低下させる可能性があります。
サプライチェーン・コマンド・センターについて教えてください。
サプライチェーン・コマンド・センターとは、社内のデータ・ソースを社外の市場シグナルと統合するシステムです。これは、それぞれのチームによるサプライチェーンで発生する可能性の高い特定の問題やシナリオに関する意思決定の改善を支援し、データ、分析、推奨を組み合わせるデフォルトのアプローチを提供することができます。