Mike Chen | コンテンツ・ストラテジスト | 2023年11月9日
ビジネスリーダーは、重要な意思決定を下し、業界や市場の変化を予測して対応するためにあらゆる情報を必要としています。理論的には、今日の膨大なデータストアがあれば、インサイトを得ることは容易なはずです。しかし、実際は、関連データを入手するために、ただでさえ多忙なITスタッフに頼らなければならない場合が多いのが実情です。
この状況を打破するのがセルフサービス分析です。セルフサービス分析は、ITチケット、データ抽出、レポートリクエストの窓口担当者をテクノロジーに置き換えることができます。これにより、非専門家であっても、データの収集・操作、機械学習(ML)や人工知能(AI)などの高度なテクニックの活用、独自のビジュアライゼーションやレポートの作成が可能になります。その結果、ビジネスユーザーが直感を信頼し、興味を探求することを促す構造が生まれ、必要な情報を効率的に発見できるようになります。このタイムリーな知識の発見により、発見した情報が常に適切で有用なものとなります。
セルフサービス分析とは、ITやデータサイエンスの経験がない人でも、運用データをくまなく調べ、タイムリーで適切なインサイトを見つけ出すことができるテクノロジーです。セルフサービス分析により、営業担当者、マーケティング担当者、製造チームなどのビジネスユーザーは、データサイエンティストやIT担当者のサポートがなくても、分析プラットフォームのパワーを活用することができます。
セルフサービス分析を実現するには、企業はクラウドベースの分析ツールを導入し、それをデータ・レポジトリに接続する必要があります。従来の分析では、ITチームがビジネスユーザーからのリクエストに応じてデータ抽出を作成・ダウンロードすることがよくありました。同様に、営業やマーケティング部門がビジネス・インテリジェンスやデータサイエンスのチームにサマリーやレポート、分析の作成を依頼することもありました。セルフサービス分析の「セルフサービス」という側面は、ビジネスユーザーが支援なしでこれらのタスクを処理できることを意味します。データは分析ソフトウェアに直接接続されているため、ユーザーは自ら適切なデータを選択し、プラットフォームのツールを使用して独自の分析やビジュアライゼーションを行うことができます。
セルフサービス分析により、ビジネスユーザーは、データセットの処理、インサイトの生成、ダッシュボードの設計、ビジュアライゼーションの作成など、以前は特定の専門知識が必要だった多くのタスクを実行できるようになります。一部のセルフサービス分析ツールには、非常に大規模なデータセットをすばやく分析し、インサイトを発見して隠れたパターンを明らかにする、AIと機械学習機能が組み込まれています。特に、AIと機械学習の最近の統合は、分析機能に革新的な変化をもたらしました。自動化を活用することで、専門知識を持たないユーザーもデータ探索プロセスに積極的に関わることができます。分析アプリケーションをデータソースに接続するだけで、関連するデータの自動プロファイルが作成されるため、必要なデータの検出に要する多くのステップを省略できます。ユーザーは、多くの場合、特定のクエリを明確に決めることなく、自由にデータを探索できるようになります。
主なポイント
財務、人事、業務、営業・マーケティングのいずれにおいても、現在起こっていることや変化について明確なインサイトを得ること、そして迅速に対応策を策定し実行することが成功のカギとなります。迅速な行動の妨げとなるものは何でしょうか?それは多くの場合、各事業部門が状況を明確に把握するために、組織内の他の部門に分析を依頼しなければならないことです。
セルフサービス分析は、このシナリオを一変させます。ユーザーは、チケットを申請したりメールを送ったりする代わりに、セルフサービス分析プラットフォームを活用して、データセットに直接アクセスし、パラメータを選択し、利用可能なツールを使用してデータに基づくインサイトを生成し、ビジュアライゼーションやレポートを作成できます。分析結果はツール内で直接ロード・実行されるため、外部アプリケーションやスプレッドシートを使ったデータ収集は不要です。これにより、誤ったデータ削除などのヒューマンエラーの可能性を最小限に抑えることができます。もう1つの改善点は、セルフサービス分析により反復作業がはるかに容易になることです。つまり、データから有益な情報を探し出し、ITチームの対応を待つことなく、そのアイデアをさまざまな側面からの分析で追及することができるのです。
分析機能は、企業の各アプリケーションから独立して存在する必要はありません。実際、ユーザーがアプリケーション内に組み込まれたツールに直接アクセスできる場合、分析機能の活用が大幅に増加するという研究結果が出ています。これはなぜでしょうか?その答えは簡単です。手間が少なく簡単にできる場合、人はそれを試してみる可能性が高くなります。組み込み分析の場合、分析をサポートする環境があれば、データのエクスポート/インポートの手間がなくなるため、その場ですぐに分析作業を行うことができます。そして、その分析から、より迅速かつ頻繁に多くのインサイトを得ることができます。よくある例が、Webサイトです。多くのWebサイトでは、記事やページに分析データやレポートが組み込まれており、即座にアクセスできるようになっています。
セルフサービス分析の導入には、クラウドベースのツールを購入し、スイッチを入れる以上のことが求められます。このアプローチを組織全体にうまく展開するには、従業員のトレーニングやデータ標準の作成など、ビジネス戦略とテクノロジーの両面から考慮すべき事項が数多くあります。以下に、セルフサービス分析を組織にうまく導入するための主なベストプラクティスと戦略をご紹介します。
企業のリーダーは、セルフサービス分析プラットフォームに投資する前に、最も重要な既存のデータドリブン・プロセスを特定し、それらが分析能力の強化からどのような恩恵を得られるかを検討する必要があります。業務チームは、そのビジョンをサポートするために必要な社内および社外のデータソースのリストを作成する必要があります。また、追加のデータソースや、AIによる分析やモデリングなどのより強力な技術からメリットを得られる可能性のある分野も特定する必要があります。これにより、必要な機能を提供する分析プラットフォームを特定できます。
ニーズの評価を元に、ITリーダーはデータ分析プラットフォーム・プロバイダーの候補リストを作成します。IT部門は、そのツールを使用することになるビジネスグループと連携して製品をレビューし、選択する必要があります。ユーザー・インターフェースを確認し、カスタマイズの可能性を探ることができるよう、デモを実施しましょう。また、財務部門にも参加してもらいましょう。クラウドにするかオンプレミスにするか、コスト構造はニーズに合っているか、などを確認します。さらに、データ・セキュリティとガバナンス機能を評価するために、セキュリティチームと法務部門にも参加してもらいましょう。
検討中のツールに次のような機能があるかを確認します。
新しいセルフサービス分析ツールを社内に広く浸透させることは、最も難しいステップの 1 つです。従業員は、たとえそれが不完全であっても、使い慣れたプロセスを好みます。彼らに新しいプラットフォームをフル活用してもらうには、各チームが日常的に行っている手間のかかる作業が、新しいプラットフォームの導入でいかに簡単になるかを示すのが一番です。例えば、キャンペーンのコンバージョン率(マーケティング)、地域別の売上成長(営業)、在庫回転率(オペレーション)の分析などが挙げられます。
セルフサービス分析を成功させるカギは、ユーザーが徐々に複雑な分析へとステップアップしていくことです。これらのプラットフォームは、複数のデータソース、大量のデータ、機械学習などの高度な機能を、より簡単に活用できるようにします。上記の例を引用すると、営業リーダーはマーケティングキャンペーンのデータをインポートすることで、成長分析を新たな次元に導くことができます。データをコピー&ペーストして統合する必要なく、さまざまな地域がキャンペーンからどのようなリターンを得たかを確認できます。
セルフサービス分析プラットフォームには、自然言語処理によるクエリ、ワンタッチでの可視化、予測モデリングなど、ビジネスユーザーがより深い分析に簡単にアクセスできる強力な機能が備わっています。チームがこれらの機能を確実に活用できるように、セルフサービス・プラットフォームを導入する際、機能の概要と、特定のユースケースへの適用例を併せて紹介しましょう。また、専用サポート・リソースを使用してパワー・ユーザーの育成を目指します。このプラットフォームが単なるスプレッドシートの代替以上のものであることを従業員に伝えましょう。理想は、従業員がこの分析プラットフォームを、データから意思決定に至る分析ワークフロー全体で活用できるようにすることです。既存のアプリケーションに分析を組み込むことで、導入のハードルを下げ、プラットフォームをより身近でトライしやすいものにします。
従業員が分析中心の環境で働くことに慣れてくると、分析結果を強化するデータソースを特定できるようになり、不足している部分を補ったり、不完全で時代遅れ、または扱いにくいソースを置き換えられるようになります。チームにギャップを探し、新たなデータストリームを特定するよう促しましょう。そして、彼らのニーズを上流工程に伝えるプロセスを確立します。これにより、IT部門のデータ専門家が、そのギャップを埋める新たなデータソースや変換技術を評価できるようになります。
「データ準備」とは、セルフサービス分析やその他のツールで利用できるようにするために、データを正確で完全、かつ重複排除された形でフォーマット化することです。セルフサービス分析の最大の利点は、ビジネスユーザーやその他の専門家ではないユーザーが、データセットからインサイトを引き出せることです。しかし、その反面、これらのユーザーはデータベース管理者やデータ・サイエンティストのような専門知識を持っていないため、データをセルフサービス分析ツールで使用できるようにするには、形式の問題やデータの欠落などのデータ準備の問題に事前に対処する必要があります。ユーザーは、データソースの正確性を検証し、クレンジングすることで、形式や定義の標準を満たす必要があります。データ準備の一環として、事業部門のパワーユーザー向けにトレーニングを実施します。このトレーニングでは、潜在的な問題について説明し、それをITスタッフに報告する方法を指導します。
セルフサービス分析を導入する際、その基盤となるインフラは、チーム全体での幅広い利用に対応できるだけでなく、新たに流入するデータセットをサポートおよび管理できなければなりません。拡張に必要な要件は組織によって異なり、ユーザー数、分析の種類、データセットのサイズ、構成済みのソースの数などさまざまです。また、ガバナンスの問題や、データソースに構造化データまたは非構造化データが含まれているかどうかといった要因も考慮する必要があります。構造化データには、特定のデータウェアハウス要件など、拡張コストを増大させる要因が含まれる場合があります。多くの場合、アクセス拡大に伴う技術的要因とトレーニング要因のバランスをとるため、組織全体ではなく部門ごとにセルフサービス分析を段階的に導入する企業が多く見られます。
ビジネスユーザーがセルフサービス分析に慣れてくると、さらに多くの可能性が見えてくるでしょう。このような考え方はぜひ奨励すべきです。ITチームは、データの取り扱いに関する組織標準を開発する必要があります。これには、データの形式、取り込みプロセス、完全性の確保、組織化などが含まれます。日付/時刻のフォーマットや有効桁数などの要素の不一致をユーザーに解決させることは、彼らのやる気を削いでしまいます。その代わりに、標準を設定して一貫性を確保し、新たなインサイトをもたらすソースを積極的に取り入れるようチームを促しましょう。
データの標準化は、情報の利用と共有を容易にします。ITスタッフにとって、標準化とは、データの正規化に費やす作業を最小限に抑え、同時に異常を簡単に発見できるようにすることを意味します。組織レベルの標準化では、データ定義、変換プロセス、データソースなど、ハイレベルなデータポリシーに焦点を当てるべきです。業務レベルでは、企業が標準レポート形式を設定することで、作成者と閲覧者の両方に明確な枠組みを提供できます。また、セルフサービス・プラットフォームがサポートしている場合は、自由にカスタムレポートを作成することもできます。例えば、特定の機械学習アルゴリズム用の標準レポート出力を設定することで、チームはその分析結果をユーザーが作成したレポートに迅速に統合しやすくなります。
より多くの従業員に、より多くのデータへのアクセス権限を与え、セルフサービス分析を行うためには、顧客情報や機密性の高い業務データの漏洩など、リスクを回避するための対策が組織として必要となります。GDPRや各国固有のデータ・レジデンシー規則などのコンプライアンスやプライバシー要件を満たすためには、企業は常に規制の動向に目を光らせておく必要があります。セキュリティ対策には、機密データが不正な人物に閲覧されたり、一般公開サイトで公開されていないかを確認することも含まれます。そのためには、ユーザーの役割やデータの機密性に基づいて、きめ細やかなアクセスレベルを設定する必要があります。
セルフサービス分析は、生産性と創造性の向上に役立ちますが、すべてのデータがセルフサービス環境に適しているわけではありません。データセットによっては、分析を行うとインフラ全体に負担がかかるほど膨大なものもあります。また、十分なメリットがないのに、前もって多くのクレンジング作業が必要なデータソースもあります。さらに、セルフサービス環境で公開すべきではない機密データを含むデータソースもあります。各事業チームは、現在利用できないデータセットのうち、自分たちのチームにとって最も有用なものを見極め、それらを追加するための人件費、インフラ使用料、セキュリティ対策費について、IT部門と協力して検討する必要があります。
基幹業務チーム向け | ITチーム向け |
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上記で述べたセルフサービス分析のベストプラクティスを導入するには、データを利用するすべての人(特にパワーユーザー、各部門のリーダー、ITチーム、経営幹部)にとって使いやすいプラットフォームが必要です。理想的なセルフサービス分析プラットフォームは、ビジネスユーザーが直感的に操作できる使い安いインターフェースを提供します。また、データ・サイエンティストや上級ユーザー向けの複雑なプロジェクトをサポートする機能や、データレイクおよびデータウェアハウスとの容易な接続性も提供します。さらに、データモデリングとインサイト生成に人工知能を活用し、新しい試みを奨励します。
Oracle Analyticsは、セルフサービス分析をサポートする幅広い機能を提供します。データリポジトリと統合されたOracle Analyticsは、さまざまなスキルセットを持つユーザーに一連の機能を提供し、データから価値を引き出せるようにします。Oracle Analyticsは、クラウド、オンプレミス、ハイブリッドのいずれの環境においても、あらゆる種類のデータから実行可能なインサイトを引き出すための、セルフサービス分析、リアルタイム・ストリーミング分析、データ可視化などのすぐに使える機能を提供します。
ガバナンスや標準化に関する懸念を理由に、セルフサービス分析の導入を遅らせる必要はありません。ビジネスユーザーが自らデータを探索・分析できない場合、IT部門やデータサイエンス部門に過度な負担がかかり、膨大な数のリクエストが常に未処理のまま残ることになります。また、従業員は新しいビジネスインサイトを探求する意欲を失い、その機会を自ら放棄してしまうかもしれません。
自由形式や非定型のデータ探索を促す分析ツールは、長期的に大きな利益をもたらします。これらのツールは、リアルタイムのインサイトを実現し、データリテラシーを向上させます。これにより、データ分析は、単なる事実報告から、根本的な理由を解明するプロアクティブなものへと進化します。
どのようなユーザーがセルフサービス分析に適していますか?
最適なセルフサービス分析のユーザーとは、データの価値を理解しているものの、膨大なデータセットを管理・分析するための技術的専門知識を持たない人です。多くの場合、マーケティング、営業、財務、サプライチェーン、製造などのビジネスユーザーです。このようなユーザーは、データから得られる価値を理解しています。そして彼らは、情報を分析してインサイトを得るための簡単なツールを必要としています。
セルフサービス分析は、従来の分析とどう違うのでしょうか?
従来の分析プロセスでは、ビジネスユーザーは特定の目標を念頭に置いてデータセットをリクエストする必要がありました。そしてそのリクエストがIT部門の処理待ちリストに長く滞留することで、ビジネスチャンスを逃してしまうことがありました。セルフサービス分析を活用することで、ユーザーはツールを起動してデータセットを読み込み、ディメンションとパラメータを定義し、データを操作して、どのようなインサイト、ビジュアライゼーション、レポートが得られるかを確認することができます。
構造化データと非構造化データの違いは何ですか?
構造化データは、YYYY-MM-DD 形式を指定する日付フィールドなど、定義された形式と命名規則を備えています。一方、非構造化データには決まった形式がありません。
構造化データの例としては、顧客アカウント番号や手続き、請求コードのフィールドが定義された医療保険のフォームが挙げられます。非構造化データの例としては、MRIスキャン、診察時の医師のメモ、治療オプションなどが挙げられます。これらのデータには、文脈を説明するためのタグやその他のメタデータを追加する必要があります。
AIと機械学習は、セルフサービス分析にどのように役立ちますか?
人工知能と機械学習(AI/ML)の機能は、従来のルールベースの分析システムでは見過ごされてしまうようなインサイトを発見するのに役立ちます。機械学習アルゴリズムは、時間をかけてより多くのデータに触れることでパターンを見抜く力が向上します。これにより、ビジネスユーザーは時間を節約できるだけでなく、これまで見過ごされていたインサイトを発見できるようになります。AIを搭載した分析ツールがオンラインで利用できるようになれば、ユーザーは自然言語検索を使って質問し、システムは適切なデータソースを選択して回答を生成できるようになります。
自然言語処理はセルフサービス分析をどのようにサポートしますか?
自然言語処理(NLP)をセルフサービス分析プラットフォームで使用すると、ユーザーは会話形式で質問し、与えられたデータセットに基づいた回答を得ることができます。NLPは自然言語理解(NLU)と自然言語生成(NLG)で構成されており、どちらも分析の利便性とアクセス性を高めます。NLUにより、アプリケーションは技術的なクエリを使用せずに、自然言語で提示された質問を理解することができます。たとえば、人事担当者は「昨年退職した社員のトップ5の退職理由は何か?」と質問したり、マーケティング担当者は「過去6か月間で最も高いコンバージョン率を達成した検索連動型広告キャンペーンはどれか?」と質問したりできます。NLPを使用すれば、インサイトや調査結果がわかりやすく要約されたレポートが自動的に生成されます。
AIのパワーを活用することで、セルフサービス分析が一般化され、技術的専門知識を持たないユーザーでもインサイト、ダッシュボード、レポートを生成できるようになります。CIOはAIの導入を先導することで、組織全体でこのような環境を実現することができます。