Megan O’Brien | コンテンツ・ストラテジスト | 2024年5月31日
この数年の経験から学んだことがあるとすれば、それは、将来何が起こるかは誰にもわからないということです。新しいテクノロジー、パンデミック、経済状況の変化など、企業は今、自社の事業運営に影響を与える可能性のある出来事に対して常に目を光らせていなければなりません。
この先の見えない不確実性により、財務の役割、そしてリーダーシップを担う最高財務責任者(CFO)の役割が重要視されるようになりました。企業は、自社が不測の事態に備え、効率性を高め、コストを削減し、適切な成長に向けた投資を決定するための支援を、CFOの組織に求めています。CFOは、収益の拡大、テクノロジーやデータ活用の推進、ビジネスの舵取りにおいて、財務部門が重要な役割を果たせるよう導く必要があります。特に、企業がAIの活用を検討する中で、この新たなテクノロジーがもたらす機会とリスクを判断し、財務部門や組織全体でそれをどのように活用するのが最適かを判断する上で、CFOは不可欠な存在となるでしょう。
CFOが注力すべき領域がどこかという問いに対す答えは、数年前とは全く異なるものになっています。CFOは、レポートやコンプライアンスなどの日常的な財務活動の指揮に多くの時間を費やすのではなく、組織内でより戦略的な役割を担うことが期待されています。
もちろん、財務の中核業務を正確かつタイムリーに遂行することは依然として不可欠です。正確な財務報告と円滑な予算編成プロセスは、今でもCFOの信頼性を左右する要素です。しかし、それだけでは十分ではありません。有能なCFOは、チームを育成し、自動化を取り入れることで、従来の財務機能の責任をより効率的に管理し、これらの仕事に費やされる時間とスタッフの時間を削減する必要があります。AIの活用を含む自動化の導入により、CFOはより価値が高く、より意義のある活動に集中できるようになります。これには、成長機会の評価、資金および投資の管理、進化するリスク状況への対応、コスト削減機会の特定、そしてデータから価値あるインサイトを引き出し、全社的な意思決定を導くことなどが含まれます。
主なポイント
先に述べたような責任の拡大と現在の課題を踏まえ、オラクルでは、すべてのCFOが何よりも重視すべき10のトレンドを特定しました。
インフレによるコスト上昇という逆風の中で、組織の成長目標を達成するためには、コストを最適化し、運転資本を効率化することが最優先事項となります。かつては、経費や業務に関するデータが事業運営部門ごとに分断されていることが多かったため、CFOがコスト削減や効率化の取り組みを推進できる範囲は限られていました。CFOは、ビジネス上の意思決定の効果について、定期的な事後報告を受けていました。そのため、コスト上昇に対抗するためにできることと言えば、的を絞った削減ではなく、企業全体に対する一律の削減がほとんどでした。しかし、財務ソフトウェアとデータ分析の進歩により、財務部門は、組織全体からのタイムリーかつリアルタイムのデータを活用して、意思決定者をサポートし、より強力かつ戦略的に価値を創造できるようになりました。また、AIは、財務部門が他部門と連携する方法にも変化をもたらします。他部門のリーダーとより緊密かつ頻繁に連携することで、さまざまなシナリオを迅速にモデル化し、予測的インサイト生み出すことが可能になります。
例えば、予測分析や機械学習を活用することで、財務部門のリーダーは、過去のデータと現在のデータソースからデータを自動的に収集し、将来のキャッシュフローを継続的に予測することができます。キャッシュフロー予測がより迅速かつ正確に行われることで、CFOは、企業に余剰資金がある場合には早期支払割引を利用したり、資金が逼迫している場合には借入金の見直しを行うなど、健全な流動性レベルを維持するための積極的な対応を取ることができます。また、CFOは、情報に基づく意思決定をサポートするために、状況やデータに基づくインサイトを提供し、最も価値を生み出すと予想される分野にリソースを効果的に割り当てるよう、各事業部門を促すこともできます。
CFOは、少ないリソースでより多くを達成できるよう、企業のデジタル・トランスフォーメーションに重点的に取り組んでいます。Deloitteの2023年第4四半期CFO Signalsレポートでは、CFOの80%が、2024年には自社がさらなる自動化やデジタル・テクノロジーを業務に取り入れる予定であると回答しています。また、76%が、デジタル・トランスフォーメーションやデジタル・テクノロジーが、自社の戦略の達成に重要な役割を果たすことになると回答しています。企業全体が統合されたERPプラットフォームを活用すれば、チームは手動プロセスを自動化し、生成AIによってさらなるインサイト引き出し、信頼性の高い情報を収集・共有して市場の変化に対応し、コストを抑えながら競争優位性を獲得することができます。例えば、企業はダッシュボードをカスタマイズすることで、重要な主要業績評価指標(KPI)を自動的に報告できるようになり、手動でデータ集計する必要がなくなります。このようなダッシュボードがあれば、企業は製品やサービスごとの売上変動を監視でき、売上が低迷している場合は、営業研修の改善、新しいマーケティングや製品構成のテスト、生産予測の調整などによって迅速に対応することができます。
Grant Thorntonによる調査では、財務担当役員の61%が、2024年には自社がAIへの投資を優先事項のトップに位置づけるだろうと予想しています。データ分析とビジネス・インテリジェスへの投資は、サイバーセキュリティにわずかに劣るものの、39%で3位にランクインしています。これまでも、正確で最新のデータを収集することは最優先事項でしたが、現在のCFOは、データからより実用的なインサイトを得ようとしています。そしてそれを実現するために、データ分析とAIを利用しています。
最新のAIは、企業のビジネスのやり方を変えつつあり、財務部門も例外ではありません。例えば、手作業によるデータの収集、統合、レポートを含む決算プロセスは、AIで自動化することができます。その効果は時間の節約だけにとどまりません。AIを決算プロセスに取り入れることで、CFOとそのチームは、データ分析、戦略、アクションなど、より有意義な業務に集中できるようになります。さらに、AIは、資本配分の最適化や収益成長、交渉ポジションの改善、企業間取引の自動化の促進など、複雑な業務に対する推奨事項を提供することも可能です。AIモデルは、より効果的なリアルタイムの意思決定を促進するために、データに基づいた予測を提供します。財務報告のシナリオでは、生成AIは、経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析(MD&A)や脚注を含む10Qや10Kの初期草案の作成を支援します。
Cybersecurity Venturesは、サイバー攻撃による被害額は現在のペースでいくと2025年までに年間約10兆5000億ドルに達し、2015年の水準から300%増加すると予測しています。サイバー脅威の数と巧妙さが増すにつれ、それらを取り巻く規制も強化されています。2023年には、米国証券取引委員会(SEC)が、公開企業に対して、重大なサイバーセキュリティ・インシデントの開示を義務付ける規則を導入しました。この措置は、サイバーセキュリティ・インシデントが今や投資家にとって重要な情報であり、開示を怠ればCFOにとって重大な影響を招く可能性があることを示しています。
サイバー犯罪による財務、規制、リスクへの影響が拡大するにつれ、CFOはサイバーセキュリティにおいてより積極的な役割を果たすようになってきています。CFOは、CISOと連携して、取締役会メンバーやエグゼクティブ・リーダーが事業にとってのサイバーリスクを定量化された財務的な用語で理解し、会社がサイバーセキュリティ技術や保険に適切な投資を行ってリスクを軽減できるように支援することができます。
CFOにとって、市場、信用、流動性、業務上の財務リスクへの警戒を怠らないことが、来年度の課題となるでしょう。これに対し、CFOはテクノロジーを活用して、データドリブンかつ積極的なエンタープライズ・リスク・マネジメント(ERM)戦略を実施しています。財務部門のリーダーたちは、大量の財務データを迅速に分析し、潜在的なリスクを示す可能性のある傾向、パターン、異常を特定するために、データ分析やAIを取り入れています。テクノロジーはまた、CFOがストレステストやシナリオ分析を実施し、特定されたリスクの影響を評価し、適切な緊急時対応計画を策定する上でも役立っています。グローバルな財務管理プラットフォームを導入することで、CFOとそのチームは、主要なリスク指標、金融市場、信用リスク、流動性ポジションなど、企業の財務健全性を継続的に監視することができます。
ESGが規制要件、投資戦略、企業方針の一部となるにつれ、環境、社会、およびガバナンス(ESG)レポートも拡充されました。この変化に伴い、社会的責任を果たしサステナビリティ目標を達成すること、およびそれを追跡することは、オプションではなくビジネスに不可欠な要素となりました。つまりCFOは、このような目標を長期的な事業戦略に組み込み、標準化された評価指標と測定方法を設定し、ESGに関する信頼性の高いレポートを提供する方法を確立しなければなりません。
慢性的な人材不足、給与コストの上昇、特定の職種や業界における異常に高い離職率といった人材に関する課題は、CFOの優先事項の上位に位置づけられています。そのため財務リーダーは、人材管理と人材維持において、より大きな役割を担うようになっています。例えば、経理部門では、長時間労働や多大なストレスを理由に退職する人が後を絶ちません。また、新卒で経理職に就くこともまれなため、人材不足に悩まされ続けています。一般的に、新入社員の採用、研修、オンボーディングには高い費用がかかります。また、離職率が高いと、生産性や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。人材は、企業の全体的な戦略や成功においても重要な役割を果たします。そのため、有能なCFOは、人事部門とより密接に連携し、よりつながりのある人材計画を構築しています。これにより、会社の人材戦略を事業戦略とリンクさせることができます。この2つの部門は、昇給、福利厚生、スキル開発、財務テクノロジー、将来的な人員ニーズなどについて、より多くの情報をもとに共同で意思決定を行っています。これらはすべて、従業員の維持と育成に役立ちます。
多国籍企業のCFOや、今後事業拡大を計画している企業のCFOは、複雑なグローバル課税に対応するため、グローバル税務計画とコンプライアンスにおいて、極めて大きな役割を果たす必要があります。グローバル税務計画は、新規市場への進出、合併・買収、事業再編など、重要な意思決定を左右する要素であるため、企業の収益にも大きく影響します。CFOは、コンプライアンスを促進しながら税負担を最小限に抑えるために、租税条約の分析、税効率の高い事業構造の構築、戦略的な移転価格の設定などを行う必要があります。
ゼロベース予算編成(ZBB)手法では、必要に応じて前年度の予算をベースにしたり調整したりするのではなく、予算編成のたびにゼロから新しい予算を作成します。コストを管理し、最も価値を生み出す分野に支出を割り当てたいCFOにとって、ZBBは予算編成の硬直化に対抗する一つの選択肢となります。この手法では、各サイクルにおいて、事業部門のリーダーが支出、収益、投資計画を正当化することが求められます。また、支出した資金を最大限に活用できていることを確認できれば理想的です。このアプローチの欠点は、予算編成に多くの時間とスタッフの労力を必要とすることです。また、予算は次のサイクルに重点を置く傾向があるため、短期的な思考につながる可能性もあります。
M&A活動は、2021年のピーク以降、近年は低迷していましたが、市場は復活の兆しを見せています。企業内でM&A取引に対する需要や供給が蓄積していたことと、ビジネスモデルを適応・変革させたいという企業の差し迫ったニーズにより、財務的にはあまり理想的な取引環境ではないものの、M&Aへの関心が高まっています。このような状況下で、優位に立つことができる企業は、取引の戦略的価値を十分に理解し、そのための準備ができており、適切な機会が訪れたら素早く行動に移すことができる企業です。買収や買収されることを積極的に考えていないCFOでさえ、潜在的な買収対象や買い手の評価は怠りません。特に、企業が他社に先んじるために自らを再構築しようとしている場合、有能なCFOは、規模の拡大、テクノロジーや人材へのアクセス、成長の加速を可能にする買収を積極的に評価しています。また、より戦略的な成長分野にリソースを再配分することを可能にする、非中核事業や業績不振事業の売却も検討しています。
テクノロジーは、CFOが数多くの責任を効果的にこなすための最も強力な手段のひとつです。完全なクラウドERPシステムがあれば、CFOはビジネス全体を迅速に把握し、企業の財務状況に影響を及ぼす可能性のある問題や予算の差異に先手を打つことができます。
会計、財務、業務計画、サプライチェーン、調達などを網羅する包括的な可視性は、CFOがトレンドを把握し、ベストプラクティスを導入して、組織を成長へと導くのに役立ちます。Oracle Fusion Cloud ERPを活用することで、CFOは、AIによる手動プロセスの自動化やリアルタイムのビジネス分析といった高度な機能や、定期的な自動更新から恩恵を受け、競合他社に先んじることができます。
CFOはどの領域に注力すべきですか?
有能なCFOは、チームを育成し、自動化を取り入れることで、従来の財務機能の責任をより効率的に管理し、これらの仕事に費やされる時間とスタッフの時間を削減する必要があります。AIの活用を含む自動化の導入により、CFOはより価値が高く、より意義のある活動に集中できるようになります。これには、成長機会の評価、資金および投資の管理、進化するリスク状況への対応、コスト削減機会の特定、そしてデータから価値あるインサイトを引き出し、全社的な意思決定を導くことなどが含まれます。
財務・会計のデジタル化とは何ですか?
財務・会計のデジタル化とは、企業の取引や投資、キャッシュフローなどの財務活動を追跡するために必要なさまざまなビジネス・プロセスを、コンピュータやソフトウェアを使って実行することを指します。デジタル化により、財務・経理部門はこれらのテクノロジーを活用して手作業を減らし、大量のデータを分析し、効率を高め、ミスを減らすことができます。
2024年のCFOの役割とは?
CFOの役割は、管理、運用、予算編成、戦略、予測など、広範な規制、戦術、戦略的責任を含みます。また、ビジネスモデルの変革においても重要な役割を果たし、企業が業務を自動化し、データを収集・解釈し、十分な情報に基づいた意思決定を行い、ビジネスを推進できるよう支援する必要もあります。
2024年にCFOが直面する課題にはどのようなものがありますか?
2024年にCFOが直面する主な課題のひとつは、利益と成長のバランスを取ることです。かつては「何としても成長する」という考え方が主流でしたが、賢明で持続可能な成長が期待される今、そのような考え方は廃れつつあります。つまり現在の財務リーダーは、適切にコストを削減し、最良の投資機会を特定し、強固なキャッシュポジションを維持し、テクノロジー投資から最大限の利益を得る必要があるということです。
CFOの役割は今後どのように変わるのでしょうか?
CFOの役割は、過去数十年の間に大きく変化しました。かつては主にバックオフィス業務(企業の帳簿や記録、財務報告、法令順守)を監督する立場でしたが、現在はCEOや経営陣の戦略アドバイザーとしての役割が中心となっています。企業がデータの活用を増やし、業務にAIを適用しようとしている中、CFOは、データに基づく財務上のインサイトやトレンドに関する頼れる情報源となり、各部門における情報に基づいたビジネス上の意思決定をサポートする必要があります。
CFOはどのようなことを懸念していいますか?
CFOの根本的な懸念は、資金が底をつくことです。つまり、給与、負債、サプライヤーなどに対する短期債務を支払うのに十分な流動性資金がなくなり、破産を宣言しなければならなくなることです。また、上記ほど深刻ではないものの、CFOは、会社の資金の賢明な運用、成長を支えるための適切な投資、顧客からの迅速な支払いなどについても懸念しています。同様に、金融政策や財政政策、消費者信頼感などの財務的要因や、地政学的な不安やサプライチェーンの混乱などの非財務的要因を含むマクロ経済動向が、自社ビジネスに与える影響についても懸念しています。