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コラムの概要と主旨: 企業ITは、まさしく今、大きな転換期の入り口に立っている。社会・産業のデジタル化の勢いは今後大きく加速し、クラウド、IoT、ビッグデータ、AI、3Dといったデジタルテクノロジが企業の競争力や製品/サービスの優位性を左右するようになっていく。
すべての経営資源を自前で所有しゼロから始めるのは、ビジネススピードやリスク回避から、すでに当たり前の選択肢ではなくなった。そして、それはこれまで企業のビジネスにとって欠かせざるテクノロジであったERPにもそのまま当てはまり、すでにその変化は始まっている。
このような時代にあたり、これからの経営を支えるERPをどのように選んでいくべきか、何を重視すべきかについて解説していく。
ERPの真の価値
第2回の連載で「テクノロジの転換点」について述べました。ERPは誕生から20年以上経過していますが、インターネット、Web、クラウド、IoT、ビッグデータといったテクノロジの変遷を乗り越えて、エンタープライズアプリケーションとして変わらない価値を提供してきていると思います。
10年ほど前に、「ERPはなくなってしまうのではないか、時代遅れになってしまうのではないか」について取材を受けたことがあります。確かに、技術としての目新しさはないでしょう。時代に応じて新たなテクノロジーを吸収してきましたが、その本質は何も変わってないといってよいかもしれません。しかし、逆にいえば、20年以上にわたり本質を変えることなく使い続けられていることに注目すべきです。ERPの真の価値はむしろ「変わらない」ことにあるのであり、その本質は外部環境の変化を吸収できる「ロバストネス」あるいは「ロバスト性」の高さにあるのではないかと思います。
ロバスト性とは、外乱や誤差に左右されずに本来の性能を発揮できる性質であり、生物学や工学の世界でポピュラーな概念です。ロバスト性を高めるための設計は分野によっても異なりますが、エンタープライズアプリケーションにおいては、汎用性と専用性の境界をどう区切るかにあると、ITRでは見ております。言い換えれば、業務プロセスの流れをシンプルかつエンド・ツー・エンドで提供しつつも、データを抜け漏れなく蓄積できるデータモデルおよびマスタデータの一元性の高さを両立できている点にあると思います。
このような設計は、どうしても詳細の掘り下げや積上げに偏りがちなスクラッチ開発では「木を見て森を見ず」に陥りがちで難しいのが実情です。ある時点では最適な設計かもしれませんが、ピンポイントを追求しすぎるとロバスト性は低くなってしまいます。もちろん、スクラッチ開発でも時間をかければロバスト性を高めることはできると思いますが、昨今の経営が求めるビジネスのスピードに応えられないことが多いでしょう。
今後も、ビジネスモデル、バリューチェーン、業務プロセス、業務処理などで構成されるビジネスの大枠や構造が大きく変わらない以上、ロバスト性の高いERPは企業の屋台骨を支える役割とその価値を提供し続けるでしょう(図1)。
重要性を増すIT部門の目利き力と構想力
ERPのロバスト性の高さを参考書としつつ、スクラッチ開発の良さや自由度を活かしたシステム構築を推進するといった、いいとこ取りができないものでしょうか。残念ながらこれまでに成功といえる例や、企業が異なっても再現できるような手法は確立できておりません。従って、汎用性と専用性の境界やバランスをどう取るかにおいて、ERPベンダー/製品の選択と導入スコープの決定は、これからも企業ITの目利きであるIT部門の重要な役割であるといえるでしょう。
第3回で「理想像を追求するアプローチへの転換」を図るべきと述べましたが、デジタル化の時代においては、自社の大きな方向性に沿って、エンタープライズIT、ビジネスIT、そしてデジタルビジネスの3領域のシステム化に関する構想や実装をスピーディに進めていかねばなりません。その際に、クラウドERPは汎用性の基盤としても、専用性を補強する素材としても活用できるでしょう。第5回の「システムの柔軟性 - Personalize、Integration」で述べたとおり、最新のクラウドERPは、SaaSアプリケーションとの容易な連携を前提としつつ、PaaSの開発環境でピンポイントのビジネスニーズを実現できるような仕組みが提供されているからです(図2)。
もちろん、両者のバランスが取れた活用が重要であることはいうまでもありません。複数のクラウドサービスを利用する際にも、PaaSをハブとしてシステム連携を制御することで、いわゆるクラウドインテグレーションの問題を回避することもできるでしょう。
ビジネスと共に成長できるERP
従来は設計や導入に長い時間がかかったグループ/グローバルのシステム展開も、クラウドERPによりその垣根がさらに下がってきていると思います。また、オンプレミスのERPで問題視されていたアップグレード、カスタマイズ、アドオンについても解決が容易になってきており、ビジネスの状況に応じて拡張も縮退も可能となってきております。
これまでに先送りしてきた課題の解消や、ビジネスの成長に向けたシステム化構想の策定を進めるなかで、クラウドERPの活用を検討する機会が、すでにオンプレミスのERPを導入済の企業にも、これから導入する企業にも多くあるのではないかと思います。Oracle ERP Cloudは、そうした際に、最もムダがなく完結したスイートとして、ビジネスの成長を支える基盤にも素材にもなり得るでしょう。
今回で連載は終りとなりますが、初期導入時から20年以上を経て、ERPは変わらぬ価値はそのままに、新たなデジタル化の時代に向けたテクノロジーの吸収や、産業別ソリューションの充実といった強化が今後も続けられていくでしょう。10年前も「今後もERPはなくなることはない」と取材に答えましたが、改めてエンタープライズアプリケーションをサービスとして提供するクラウドERPの選択と活用が、ビジネスの成長性において重要となっていくと、ITRでは見ております。
「使えない」「使い勝手が悪い」といった機能評価だけでなく、また「標準化」「全体最適」といった紋切り型のカテゴライズではなく、ビジネスの付加価値を高めることができる理想像を、シンプルに、スピーディーに追求できるロバストネスな仕組みとして、クラウドERPを積極的に評価していくべきであると思います。