AIのビジネスケース:ステークホルダーのためのガイドとユースケース

Art Wittmann | Oracle Technology Content担当ディレクター | 2025年9月8日

AIテクノロジーは、異常検出やベクトル検索を通じて、以前から企業活動を支援してきました。しかし、自然言語でコンピュータと会話し、ビジネス・パフォーマンスについて質問したり、根本原因を議論したりすることが、ほとんどの企業にとって現実のものとなったのは、ここ数年のことです。瞬時にデータを分析できるコンピュータがビジネスに役立つことは容易に想像できます。しかし、そこからビジネス価値を引き出すには多大な投資が必要であり、その投資が本当に費用に見合う成果を生むかどうかは必ずしも明らかではありません。

つまり、AIがビジネスにおいて重要な役割を果たすことには広く合意があるものの、確実なROI計算に基づいて強力なビジネスケースを構築することは依然として課題となっています。ここでは、AI投資を正当化する方法を探っていきます。

AIとは

人工知能(AI)とは、通常は人間の知能が必要とされるタスクを実行するよう設計されたコンピュータシステムのことです。中でも最も高度な形式は大規模言語モデル(LLM)と呼ばれ、インターネットやその他の情報源から収集した大規模なデータセットで学習します。学習を終えたLLMは、言語の理解に優れ、幅広い分野で支援を行ったり、多様なタスクを完了するための計画を立てたりすることができます。特に、企業独自のデータと組み合わせることで、これらの能力は非常に大きな効果を発揮します。

主なポイント

  • AIはすでに多くの業務アプリケーションで活用されており、データ処理を通じて新しい洞察を提供し、業務効率を高めています。
  • AIの機能は急速に進化しています。AIエージェントは複雑なタスクの計画・実行を得意とします。企業データへのセキュアなアクセスを確保できれば、人間が行っていた多くの作業を担うことができます。
  • AIの導入を計画しない企業は、競合他社に遅れを取るリスクがあります。他の優れたビジネス戦略と同様に、AI導入も一歩ずつ着実に成功を積み重ねることが重要です。

9つのAIビジネスユースケース

2022年に登場したChatGPTは、学生からビジネスリーダーに至るまで幅広く注目を集めました。学生の作文課題を助ける場面も多かったものの、ビジネスで幅広く活用するためにはさらに技術の進化が必要でした。

その中でも、ビジネスに最も役立っている進歩が2つあります。1つ目は、ビジネスデータへのアクセスです。これには、通常RAG(検索拡張生成)や、MCP(Model Context Protocol)といった技術が用いられます。RAGやMCPなどの技術が適切なデータを提供することで、LLMはそのコンテキストを利用し、顧客からの商品情報に関する問い合わせや、売上予測に関する「もしこうだったら?」といったシナリオ分析にも対応できるようになります。

2つ目は、AIが過去のタスクの進め方を理解し、自律的にツールセットを利用してさらに複雑なタスクを完了できるようになった点です。これはエージェント型AIと呼ばれ、特にMCPの活用が進む中で、AIが具体的なビジネス価値を提供する上で重要な要素となりつつあります。もはやAIの活用は選択肢ではなく、「いつ」、「どのように」使うかが問われる時代です。

以下は、企業がAIを活用して成果を上げている9つの分野です。

1. カスタマーサービス

ほとんどのカスタマーサービス対応は反復的な内容です。つまり、過去の質問・解決策・製品ドキュメントへのアクセス権を持つAIであれば、一次対応のカスタマーサービス担当者として十分に機能でき、さらには新たなツールによって一次対応を超える業務も担える可能性があります。たとえば、エージェント型AIは過去のやり取りから学習し、対話を通じて問題を解決できます。そのため、包括的なカスタマーサービス・データを持つ企業ほど、ビジネスケースは強固なものになります。続いて、5つの主要な機能を詳しく見ていきます。

  • チャットボットと音声アシスタントによる問い合わせ対応の自動化: 従来の非AI型チャットボットはその品質に明らかな問題があったため、顧客は苛立ちを覚え、人による対応への切り替えを希望することが多くありました。AI搭載のチャットボットや音声アシスタントにも、率直で正確、かつ迅速な回答が求められます。
  • 製品ドキュメントやレビューに基づく基本的な質問回答: チャットボットは、AIならではの回答を提供することで、顧客に受け入れてもらいやすくなります。たとえばAmazonのRufusは、ドキュメントや過去の購入者コメントを組み合わせて洞察や製品機能を共有できるだけでなく、その製品のパフォーマンスについて過去の購入者がどう感じたかも伝えることができます。製品サポートの分野では、チャットボットはナレッジベースに基づいて最適な解決策を素早くリストアップしたり、人間のカスタマーサポート担当者では見つけるのが難しいインサイトを提供したりできます。
  • 感情分析: 顧客がサポートを必要としている時、問題を辛抱強く説明したり、「電源は入っていますか?」といった基本的な質問に付き合う気分ではないことがよくあります。AIはますます、チャットや音声のトーンを分析して、苛立ちや怒りを見極めることができるようになってきています。これは効果的なカスタマーサポートにとって非常に重要なポイントです。
  • チケットのトリアージとルーティング: サポート依頼が入った際には、チケットを適切な担当者に振り分けることが重要です。その顧客は最優先するべき重要顧客でしょうか。対象の製品は何で、特定の懸念に最も的確に対処できるのは誰でしょうか。過去の解決事例を追跡することで、AIはカスタマーサポート・ケースを最適にルーティングします。
  • パーソナライズされたサポート: AIであれ人間の担当者であれ、パーソナライズされたサポートの可否はカスタマーサポートシステム内のデータ品質に左右されます。システムにAIを組み込むことで、担当者は必要な顧客情報を素早く手に入れることができ、直接対応する場合でもそのやりとりをパーソナライズできます。

2. マーケティングと営業

AIがデータを迅速に選別し、顧客ごとに個別のマーケティングおよび営業戦略を立案できる点は大きな魅力です。既存のCRMやマーケティング・オートメーション・システムの機能を十分に活用している企業ほど、投資回収は早くなります。データの品質が良いほど、AIを追加したときの成果も良くなります。貴社の営業担当者は、顧客とのやり取りを詳細に記録しているでしょうか。その答えは企業によって異なるでしょう。いずれにせよAIは役に立ちますが、データが多いほどAIの成果は向上します。

  • リード評価とナーチャリング: 貴社の目標は何でしょうか。今後2年で顧客基盤を倍増させたいのか、それとも10%や20%の上積みを目指すのか。営業チームは競合をよく理解し、見込顧客の全体像を的確に把握しているでしょうか。もし貴社の営業チームが最適に機能していて、10〜20%の成長で満足できるのであれば、AIを活用した営業支援は、広範な顧客基盤を持つ企業や高成長を目指す企業ほどには重要ではないかもしれません。この場合、AIのビジネスケースを説明するのは、たとえばカスタマーサービス分野より難しいかもしれません。一方、新市場への参入や新製品の展開を目指す企業にとっては、AIのビジネスケースはより強固になります。たとえば、AIはリードスコアリングを得意とするため、多数のリードを持つ企業がそのうちのごく一部をターゲットにしたい場合に役立ちます。
  • 潜在顧客の特定: 上記のとおり、AIは新しい製品やサービス向けに、人口統計、オンライン行動、ソーシャルメディア活動、過去の購入履歴などのデータを分析して人間が見落としがちなパターンを見つけ、理想的な顧客プロファイル(ICP)を生成できます。そのうえで、ICPやリードスコアリングの戦略を活用して、マーケティング施策の的確なターゲティングを支援します。
  • キャンペーンの最適化: もしキャンペーンから大量のデータ(数千、あるいはそれ以上のリード情報)が得られている場合、AIは最も効果の高いメッセージを特定し、実際にコストがかかるキャンペーンを実施する前にそれをモデル化できます。さらに、リードを受注まで追跡するプロセスが整っている組織であれば、そのデータから新たな知見を引き出し、今後のキャンペーンの微調整に役立てられる可能性があります。
  • カスタマー・セグメンテーション: 膨大なデータセットの中からアイテム間の類似点を見つけ出すことはAIが非常に得意とするところです。そのため、AIに自社の最良の顧客に似た見込顧客を探させるという発想は非常に魅力的です。データが十分に充実していれば、AIは潜在的に利益をもたらす顧客を迅速に特定でき、多くの場合、なぜその顧客が有望なのか、どの製品に対して有望なのかも説明できます。この機能は、システムがより多くのデータを取り込むほど向上します。
  • メッセージ作成や反応のモニタリングなど、顧客コミュニケーションの管理: メールやLinkedInの投稿、その他のやり取り、さらにそれぞれの成果に関する統計を収集できれば、AIはどの方法が最も効果的かを学習し、高い効果が見込めるメッセージを作成できるようになります。ここでも他の領域同様に、データの品質が極めて重要です。同じくらい重要なのは、AIが作成した文面がそのまますぐ送れるとは期待しないことです。現時点では、顧客や見込顧客に送る前にレビューが必要です。
  • 動的な価格設定と推奨事項: AIはデータを迅速に分析し予測を立てることができます。これは、動的価格設定を検討する企業にとって非常に価値があります。たとえば、あなたがロサンゼルスのドジャースタジアムのマネージャーで、ニューヨーク・ヤンキースが来場する場合を考えてみましょう。100ドルの座席が、この試合では1,000ドル、場合によってはそれ以上になるかもしれません。収益を最大化しつつ、スタジアムを満席にするには、価格をいくらに設定すべきでしょうか。このようなジレンマに共感できるなら、AIを活用した動的価格設定が役に立つかもしれません。一方で、サンディエゴのペトコ・パークのマネージャーのように、パドレスのチケットが頻繁に完売しない、つまり需要が供給を大きく上回らない状況であれば、動的価格設定はあまり適していないかもしれません。

3. 業務管理

AIは、例外が発生する反復的なプロセスの自動化に適しています。特に、業務管理に互換性のある製品群を用い、その中核にERPを据えている組織では有効です。AIの効果を最大化するには、業務データと財務データの両方をにアクセスできることが望ましいです。これは、ERPを中心としたシステム内でも、企業が使用している業務システムからデータを取得できるように構築されたデータウェアハウス内でも実現可能です。

だからといって、サプライチェーン管理のようなポイント製品内でのAI活用に価値がないということではありません。しかし、日々のビジネスを全体的に把握できるほど、AIによる業務効率化やインサイトはより優れたものになります。

  • サプライチェーンの最適化: AIをサプライチェーン管理(SCM)システムに統合することで、サプライヤーのパフォーマンスの変化を察知したり、複数のサプライヤーと取引できるように調達プロセスを見直したりすることが可能になります。ただし、SCMシステムは効果的に運用するために多くの準備や設定が必要なため、通常は既存のSCMベンダーから提供されるAI機能を使うのが現実的です。さらに、AIがサプライチェーンの詳細を分析し、販売予測や業務パフォーマンスにアクセスできれば、システムが潜在的なサプライチェーンの問題を早期に察知できるようになり、より有益なインサイトが得られます。
  • 在庫予測: この分野でのビジネス価値は、AIを使うことで、チームだけでは不可能な、より迅速で詳細な在庫予測を実現できる点にあります。また、AIベースの在庫予測と、詳細な販売データとを連携させることで、在庫を最適な場所に配置することができます。さらに、エージェント型AIであれば、新たな発注計画の策定や提案も可能で、在庫配置をさらに洗練させることができます。
  • ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA): ロボティック・プロセス・オートメーションは、繰り返し発生する作業を自動化するための技術です。これまでRPAはAIを使わずに運用されることが一般的でしたが、最近では状況が変わりつつあります。たとえば、アプリケーションに新しいアカウントを追加するのにいつも決まった5つの手順が必要だとします。この手順をロボットが自動で実行するプロセスを作成すれば、新入社員がアクセス権を必要とするときに手間や時間を削減できます。一見便利に思えるかもしれませんが、実際はRPAを導入・設定するための作業量に対し、それで得られる効率化が必ずしも十分とは限りません。もし月に10名~20名の新しいユーザーを追加する程度なら、RPAを設定する価値は低いかもしれません。しかし、短期間で何百名も追加しなければならない場合は、自動化から大きな効果を得られるでしょう。また、AIによる画像認識やデータの取り込み機能を追加すれば、RPAは売掛金や買掛金などのデータ入力業務にも対応できるようになります。さらに将来的には、AIエージェントがRPAを活用して指示されたタスクを達成できるようになれば、より大きな効果が得られるかもしれません。この点については、後述の財務セクションで詳しく解説します。
  • 予知保全: 機械が故障して生産ラインを止めてから慌てて修理を行うよりも、事前に必要なメンテナンスを計画的に実施する方がはるかに効果的です。しかし、あまりにも頻繁にメンテナンスを実施すると、かえって無駄なコストや工数が発生してしまいます。そのため、機械の状態を常時監視し、データをAIに取り込んで「機器が通常とは異なる動作を始めたとき」に知らせてもらう仕組みは大きなメリットがあります。課題として、既存の古い機械にIoTセンサーを後付けする場合、費用が高額になりがちな点があります。そのため、多くのメーカーでは、設備入れ替えのタイミングまで待つことが一般的です。もっとも、多くの製造機械は数十年単位で稼働するのが一般的です。一方で、IoTが本格的に導入されれば、AIは膨大なデータの中から異常の兆候を見つけ出すことができます。これは、もともとセンサーが内蔵されている機械が多く使われている医療分野では、大きなメリットとなるでしょう。

4. 財務

財務部門は常にリソース不足に悩まされがちです。AIを活用することで、多くの定型業務を効率的に処理できるようになります。文書のキャプチャ、理解、分類に特化したAIは、財務部門での手入力を大幅に削減できます。売掛金管理においては、AIが入金を正しく帳簿に記録し、必要に応じて総勘定元帳への仕訳を行うことも可能です。また、発注書と受領書、請求書を照合し、注文通りに商品が届き、正しく請求されているかを確認することもできます。

  • 経費処理: 発生した経費を従業員がスマートフォンアプリで記録できるようになって久しいですが、AIを組み合わせることで精度が高まり、経費が社内規定に沿っているかを自動的に確認できるようになります。その結果、承認や精算処理が簡単かつ迅速になります。
  • 不正検知: 不正検出では、AIが取引内容の中から異常値を検出し、不正行為の可能性を示唆します。AIは異常の検出が得意なため、クレジットカード会社や金融機関、保険会社などで広く利用されています。AIによる異常検出は非常に高速で、不正の疑いがある取引は追加確認が行われるまで一時的に保留にできます。
  • 財務予測: 必要なデータにアクセスできれば、AIは過去のデータや将来の売上見込などをもとに精度の高い予測を立てることができます。特にシナリオ・プランニングに秀でており、新しい前提条件を入力するだけで、すぐに新しい予測を作成できます。できれば予測の根拠を説明できるシステムが望ましく、さらにその内容を深めたり改善策を提示できるならより理想的です。もちろん、AIの精度はデータ品質に大きく左右されますが、特に予測が難しい局面こそ、AIツール導入のビジネスケースは強固なものになります。財務と業務を統合スイートで管理している企業は、これからデータを統合・整備しなければならない企業よりも早く投資を回収できます。
  • 信用リスク評価: AIは申込者の信用力を分析することができます。しかし、適用される法律への準拠を確認するためには人間によるレビューが不可欠です。連邦および州の法律は公平な融資を求めているため、信用評価がどのように行われたのかを理解し、公平に導き出されたことを証明できることが重要です。

5. 人事

AIは、従業員や新入社員が記録システム、社内規定、福利厚生などをスムーズに利用できるよう支援したり、職務記述書や求人票の作成をサポートしたりできます。

  • 候補者マッチング: AIは、社内の求人に対して候補者を適切にマッチングすることが可能です。ただし、AIが職務要件に基づいた適切なマッチングを行うよう制御し、法的に保護された属性に踏み込んで差別につながらないよう注意が必要です。AIが禁止されている行動を取った場合、必ず人間がそれに気づいて正す必要があります。
  • 面接スケジュール調整: 従業員のカレンダーと連携することで、AIは面接のスケジュール調整を自動化できます。また、アンビエントAIに面接の内容を記録させ、評価資料の一部として活用することも可能です。
  • 新入社員オンボーディング支援: IT機器やアプリケーションの手配・設定、オリエンテーションや各種手続きのサポートなど、AIは新入社員のオンボーディングを支援できます。オンボーディング後も、社内規定や福利厚生に関する質問に答えるツールとして役立ちます。
  • 従業員分析: AIは、勤怠データやタスク完了状況などの情報を活用し、組織全体の人材ニーズのギャップを特定できます。

6. 製品開発

AIを活用した製品開発ツールは、設計、コーディング、テスト、シミュレーションを支援するAIエージェントとして提供されることが一般的です。以下はその例です。

  • ユーザーフィードバックに基づく機能の優先順位付け: 数千件もの顧客コメントを読み込んで次に求められている機能を分析するのは大変な作業です。AIを使えば、この分析を数分で終えることができ、その結果についてさらに質問することも可能です。
  • 自動テストと品質保証: 大量のデータポイントが生成されるテスト工程は、AIの活用に非常に適しています。異常検出システムは以前から存在しますが、AIなら他の分析手法では見逃しやすい微細な問題まで発見できます。AIは画像認識システムにも組み込まれており、欠陥を高速に検出することが可能です。
  • 製品利用インサイト: 特に詳細なログを保持するSaaS製品では、AIが機能ごとの利用パターンまで分析できます。LLMはその結果を要約し、膨大なデータから迅速かつ効率的にインサイトを導き出します。
  • 生成AIを用いたプロトタイピング: デジタルツイン技術は、実際の機器や活動をシミュレーションできるコンピュータモデルを作成します。この技術は以前から存在しますが、現在はLLMと組み合わせることで、デジタルツインの作成を加速させています。理想は、両技術を組み合わせたプロトタイピング用デジタルツイン作成・テストツールです。現在、多くのデジタルツインは、製造現場や都市全体など、実際のシステムを再現する用途で使われています。LLMはセンサーやログファイルのデータを取り込み、たとえば「特定の地域での猛暑」や「新規機械の導入」がどのような結果をもたらすかを予測することもできます。ただし、新しい設計を正確に試作するためには大規模なデータセットが必要です。十分なデータがない場合、AI駆動のデジタルツインへの投資効果は限定的になる可能性があります。

7. データ分析

これまでは、データ分析には専門スキルを持つ専任チームや高価なツールが必要でした。意思決定者は、どの情報を抽出したいのかを事前に戦略的に考える必要がありました。しかし、AIの登場によって状況は変わりつつあります。自然言語によるプロンプトやレポート生成を活用することで、データ分析はセルフサービス化が進み、ビジネスユーザー自身が知りたいことを簡単に質問できるようになっています。重要なのは、AIが幅広いビジネスデータにアクセスできる環境です。これにより、AIは営業パイプラインに基づく需要予測や、在庫データに基づく納期予測などを実行できるようになります。今では、AIとデータ分析はクラウド上で統合されつつあります。

  • 自然言語クエリインターフェース: Oracle Database 23aiといった最新のデータベースでは、SQL文ではなく自然言語でデータ検索ができるようになっています。セキュリティやアクセス制御はデータベース側で維持されるため、AIを活用した分析をより幅広い層に提供しやすくなります。
  • 異常検出: 異常分析には以前から機械学習が用いられてきましたが、近年ではLLMの進化により、学習データの事前処理が簡素化されています。分析分野での用途は多岐にわたり、不正検出や予知保全などさまざまなシーンで活用されています。
  • レポート作成: SQL文などを使用したデータ検索では、データや表が結果として返されるだけでしたが、LLMはその検索結果を説明したり、大規模な表の内容をわかりやすく要約することもできます。さらに、今ではデータのビジュアライゼーションも自動生成できるようになり、以前は専門のスキルやツールが必要だった作業も簡素化されています。これにより、わかりやすいグラフィック付きのレポートを短時間で作成できるようになっています。
  • データのクレンジングと強化: 複数ベンダーのバックオフィスアプリケーションを利用している企業では、分析に先立ちデータの重複排除や正規化が必要となります。さらに、複数システムで発生したイベントを関連付けることで、データが強化され、一層有用な分析が可能となります。AIは、このような手作業で時間がかかりやすくエラーが発生しやすい、「クレンジング」や「強化」といった処理を自動化します。例えばクレンジングでは、「Jen Smith, 123 Main St.」と「J. Smith, 123 Main Street」のように完全一致しないレコードも、類似度を分析・スコアリングして統合可能です。また、AIは、誤字や書式の不備、欠損値なども自動的に発見・修正し、データを正規化することができます。データの強化においては、複数システムの記録を自動的に関連付け、ソーシャルメディア投稿のような非構造化データに構造を付与して分析に活用できるようにします。

8. セキュリティとIT

AIはデータ・セキュリティとIT運用を大きく強化する可能性を持っています。異常検出は、リアルタイムで活動を監視し、脅威を特定・軽減することができます。ただし、攻撃者側もAIを活用しているため、企業は常に先回りして対策を講じる必要があります。一方で、AIは複雑な企業向けアプリケーションの管理システムにも組み込まれるようになっています。オラクルは2018年から一部のデータ管理製品に自律型管理機能を導入し、2023年にはAutonomous Databaseを発表しました。このシステムでは、AIがシステムの構成やパッチ適用、チューニングなどを自律的に行うため、DBAの負担が大幅に軽減され、より付加価値の高いデータ活用に集中できるようになります。

  • 脅威検出とインシデント対応: 上述した異常検出やその周辺技術を組み合わせることで、不正アクセスの試みをリアルタイムに検出し排除できるようになります。最近では、AIエージェントが検知だけでなく自動対応まで行うケースが増えており、攻撃経路の遮断、インシデントの記録、セキュリティ担当者への通知なども行うようになっています。
  • ログ分析: ログ分析ツール自体は以前から活用されており、従来は利用状況を把握したり、誰がいつ何を行ったかを特定するのに役立っていました。現在ではLLMが追加されたことで、要約機能が強化され、脅威検出にも貢献するようになっています。
  • ヘルプデスクの自動化: 従来のITヘルプデスクは、ユーザーを満足させるものではありませんでしたが、現在ではAIに過去の解決事例を学習させることで、従来より的確に問題解決をサポートできるようになっています。ここでは、生成AIのセマンティック検索が、類似する問題とその解決策の発見に役立っています。ただし、AIが十分な効果を発揮するためには、記録データの質や完全性が極めて重要になります。

9. 法務とコンプライアンス

今後5年以内に、法律業界をはじめとする分野はAIアシスタントの登場によって大きく姿を変える可能性があります。現在は弁護士やパラリーガルが行っている定型業務を、AIアシスタントがより迅速かつ正確にこなすようになるからです。以下に、AIが役立つ具体的な例を挙げます。

  • 契約書の分析・要約: もちろん弁護士自身が契約書を確認・判断することは不可欠ですが、LLMなどのAIにも活躍の場があります。たとえば契約交渉中に新しい改訂版が届いた場合、AIは変更点をハイライトし要約できます。これにより、確認作業の大幅な効率化が期待できます。
  • 規制監視: 規制監視サービスは、新しい規制が承認された際に法務チームへ通知します。AIは契約書やその他の文書を確認し、新規制が影響する箇所を特定したり、場合によっては遵守のための戦略を提案できます。
  • コンプライアンス監査: 企業ではまず、どの法規制への準拠が必要かを明確にする必要があります。しかし、複数の国や地域で事業を展開している企業では、これはかなり困難な作業となります。この作業が完了したのち、AIは契約書やコンプライアンス関連文書を確認し、不足している点やその理由を指摘できます。
  • 法務リサーチ・アシスタント: AIの類似性検索機能は、関連する判例を見つけるのに非常に役に立ちます。

AI導入のビジネスケースを作成する方法

AIは組織のほぼすべての機能に影響を与える可能性があります。しかし、AIのビジネスケースを構築することは、単にニーズを特定してソリューションを購入するだけの話ではありません。1970年代や1980年代に、企業はまさにそれを行い、高額な失敗を経験しました。必要なときに都度、「ベスト・オブ・ブリードのポイント・ソシューション」を購入した結果、統合の難しさに直面し、包括的な業務管理システムの構築に苦労することになりました。

こうした「ベスト・オブ・ブリード」方式はコストが高いうえ、各システムを連携させるためのミドルウェアの複雑さから、多くのシステムインテグレーターを必要としました。しかし、より大きな課題は、数十種類の異なる製品からデータを収集し、分析可能な形にすることでした。これなしに、ビジネス全体のパフォーマンスをより深く理解し、将来の業績を予測することはできません。

AI導入も同様です。戦略なしに導入すれば、同じ失敗を繰り返し、競争優位性を得ることはできません。それを避けるためには、以下のステップを踏むことが有効です。

1.AIセンター・オブ・エクセレンス委員会の設立
部門リーダーやITリーダーを集め、AI に関する目標や関心を共有しましょう。このグループは、AI導入のスタート地点や導入計画を検討・策定し、成果を追跡する役割を担います。

AIセンター・オブ・エクセレンスの構築

効果的なAIセンター・オブ・エクセレンスの構築に役立つ14項目のチェックリスト(無料)をご用意しました。また、あらゆる組織に共通する3つのベストプラクティスについても説明しています。


2.ベンダーのAIロードマップの理解
現在利用しているベンダーはすでにAIサービスを提供しているか、今後さらに拡充していく可能性が高いでしょう。まずは既存のアプリケーションでAI機能を試し、効率化につなげていくことが良い出発点となります。その上で、より包括的なAI戦略を策定しましょう。

従業員にAIを積極的に使ってもらう最も効果的な方法は、ワークフローに直接組み込むことです。AIへのアクセスが簡単でないと、定着は難しいでしょう。主要なサプライヤーのAIへの取り組みが不十分だったり、ベンダーが多すぎてシステム同士の連携が難しい場合、古いオンプレミス・アプリケーションの入れ替えを検討するのも一つの方法です。他社がAIを活用している中、貴社でのAI戦略が確定しなければ、競合に後れを取ってしまいます。その点、クラウドベースのアプリケーションであれば、AIを迅速に使い始めることができます。

3.データ戦略の策定
「良いAIには良いデータが必要」とよく言われますが、これは真実です。AIエージェントに売掛金や買掛金の処理を自動化させたいなら、最低でも財務・営業・在庫管理システムとのデータ連携が必要です。シナリオ・プランニングにAIを活用したいのであれば、AIが分析できるようデータウェアハウスやデータレイクを用意する必要があるかもしれません。こうしたデータ連携が容易な環境を整えれば、AI導入からより多くの価値を迅速に得ることができます。

4.AI導入ロードマップの作成
AIはビジネスのあらゆる領域で役立つ可能性があるため、インパクトが大きく長期的なROIが最も高いプロジェクトから始めたくなるかもしれません。こうした大型プロジェクトを見据えるのは良いことですが、その実現へとつながる小さな施策から着手するのが効果的です。特に、すぐに効果が見えやすい簡単なプロジェクトから始めると良いでしょう。業務の自動化は、その出発点として最適です。

5.部門ごとに無理なく導入(必要に応じて支援を提供)
AIの導入ペースは部門によって異なります。たとえば、開発部門ではすでにコーディング支援にAIを積極的に活用している一方で、営業部門では導入がやや遅れている場合もあるでしょう。人事部門では、福利厚生や規定に関する従業員向からの質問に答えるチャットボットが効果を発揮しやすく、財務部門では売掛金・買掛金管理の自動化や月次決算の迅速化といった形でAIの効果を実感しやすいでしょう。こうした「小さな成功」を各部門で積み重ねていけば、社内でAI活用の意識が高まりやすくなります。一方で、導入に消極的な部門があれば、経営層からの働きかけが有効な場合もあります。

6.成果を共有
AIによる業務自動化やデータ分析を前向きに捉えない社員もいるかもしれません。それでも、小さなプロジェクトで得られる成果を共有することで、AIの価値を脅威と感じさせずに理解してもらえます。また、このようなプロジェクトを通じて、IT部門がデータの安全性を確保していることや、自動化業務が一貫して正確に行われることを証明できます。

このインフォグラフィックでは、組織がAI投資のビジネスケースを構築するための6つのステップをまとめています。これらのステップには、AIセンター・オブ・エクセレンスの設立、ベンダーのAIロードマップの理解、データ戦略の策定、社内での導入計画の策定、部門ごとの準備、そして成果の共有による導入の促進が含まれます。

オラクルのAIのパワーを最大限に活用

オラクルは、お客様が必要とする場所や方法でAIを最大限に活用できるよう支援します。Oracle Applicationsには、数百種類に及ぶAI機能が追加費用なしで組み込まれており、新しいAIエージェントが次々と追加されています。Oracle Cloud Infrastructure(OCI)は、モデルの利用者と開発者の双方に優れたコストパフォーマンスを提供します。また、豊富なAIサービスやさまざまな基盤モデルが用意されており、人気のオープンソースツールやフレームワークと組み合わせて活用できます。もちろん、Oracle DatabasesとAIを連携させたい場合にも最適なプラットフォームです。データ分析などあらゆる用途で活用いただけます。

AIをビジネスに統合するには、計画やデータ準備など、複数のステップを踏む必要がありますが、従業員にとっても魅力的なプロジェクトとなります。調査によると、IT・マーケティング・営業・カスタマーサービス部門がAI導入の先駆けとなっていますが、人事・財務・オペレーション・現場管理などの部門も大きな恩恵を受けています。また、大企業のほうがAI導入が早かったものの、中小企業も急速にその差を縮めつつあります。

AIで生まれた時間を、さらなる価値創造やカスタマーサービスの向上に使ってみませんか?

AIプロジェクトが生産性向上の目標を達成できるかどうか、その決め手となるのは「データ」です。オラクルのeBookでは、AI導入を成功に導く強固なデータ基盤を構築するために押さえておくべき7つの重要なポイントをご紹介しています。

AIのビジネスケースに関するよくある質問

どのようにAIをビジネスへ統合すればよいですか?

AIの導入は戦略的なプロセスで、主に4つのステップがあります。まず、AIが明確な投資効果を発揮できる課題や機会を特定します。たとえば、財務部門の業務効率化や、カスタマーサポートの一次対応の自動化などです。次に、AIモデルが高品質なデータに簡単にアクセスして活用できるよう、データ基盤を整備します。

ユースケースとデータソースが決まったら、次はツールの選定です。多くの組織では、AI機能が組み込まれた既存のソフトウェア(AI対応データベースなど)を使うか、クラウドプロバイダーを利用します。特定のニーズに合わせてカスタムソリューションを開発することも可能ですが、コストは高くなります。最後に、AIソリューションを業務フローに組み込み、従業員に使い方を教育し、成果とROIを追跡して将来のプロジェクトに活かします。

AIを活用している企業の具体例を教えてください。

小売業界では、AIが組み込まれた推奨エンジンを使い、顧客の閲覧履歴や購入履歴、好み、類似したユーザーの行動などを分析し、リアルタイムで関連性の高い商品を提案しています。これにより売上の向上や顧客ごとにパーソナライズされたショッピング体験を実現しています。

生成AIの有効なビジネス・ユースケースにはどのようなものがありますか?

生成AIは、さまざまなクリエイティブ業務や生産性向上に活用されています。たとえば、マーケティング部門ではプレスリリースやブログ記事、商品説明、SNS投稿の自動生成にAIを活用しています。また、開発者は、LLMを活用してコードの作成やドキュメント作成、デバッグなどを行っています。一方、複雑な顧客・従業員対応やサポートケースの要約を得意とする高度なチャットボットを導入し、人間の担当者を支援する組織も増えています。