日本オラクル特集記事

「世界で勝つための組織作り」 ラグビーコーチ エディー・ジョーンズ氏

出典:HRプロ 「Oracle HCM World Feedback Seminar 2017」の講演レポート(www.hrpro.co.jp/test2/siteinsite_00430.php

2015年9月19日に行われたラグビーワールドカップ・イングランド大会初戦での日本対南アフリカ戦。終了間際に日本代表チームが逆転トライを決め、優勝候補の一角であった南アフリカに34-32で勝利し、世界を驚かせました。この勝利をもたらした功労者が、2012年4月にヘッドコーチに就任し日本代表チームを指導してきたエディー・ジョーンズ氏です。フィジカルで劣る日本チームがなぜ強豪南アフリカチームに勝てたのか。「世界で勝つための組織作り」について、エディー・ジョーンズ氏に話していただきました。


2015年12月からイングランド代表ラグビーチームを率いるエディー・ジョーンズ氏。就任以来、18連勝の記録を達成。「日本人の体格は小さいのですが、正しく努力すれば勝つことができる」と語る

ワールドクラスのチームを築き上げる5つの基盤

私は、日本ラグビー協会の一員として日本のラグビーを変えてきました。日本ラグビーは、ワールドカップで1991年に1勝し、以来24年間勝てませんでした。世界には「ティア1」と呼ばれるトップクラスのチームがありますが、日本ラグビーはまったく通用しなかったのです。

私のラグビーコーチとしてのキャリアは1995年に日本で始まり、その後、オーストラリア、南アフリカ、イングランドのチームでコーチを務めました。それから日本に戻ったわけですが、日本に戻る理由がありました。それは、物事を正しくやることによって、勝てるということを証明したかったのです。日本人の体格は小さいのですが、正しく努力すれば勝つことができるのです。

勝つことは心地がいいですよね。勝つことによってお金が入り、いい人生を送ることができると考える選手もいます。しかし、勝つためにはしなければならないことがあります。

ワールドクラスのチームを築き上げるためには、5つの基盤が必要です。まず「リーダーシップ」、2つ目が「マネジメント」、3つ目が「自分の強みを知ること」、4つ目が「規律と文化を構築すること」、そして5つ目が「学ぶ環境を構築すること」です。

ポテンシャルがあることに気づかせる

私は「リーダーシップ」を「周りの人たちのベストを引き出すこと」と定義しています。

多くの人の前でスピーチをしてモチベーションを上げることは、リーダーにとって大事ではないのです。そういうモチベーションの上げ方では足りません。

自分たちにはポテンシャルがあることを、彼らに気づかせることが大事です。一体感のあるビジョンを持ち、価値ある仕事の一員になって携われると感じることで感情移入していき、特別な何かが引き出されます。

私は「勝つチームにしよう」と考え、そのようなチームを作りました。2015年のワールドカップでは、多くの日本人が南アフリカチームとの試合を観ました。そして、日本人は代表チームを誇らしいチームだと感じました。

選手は勝つためにハードワークをこなし、一生懸命やりました。そして、勝つための勇気を得たのです。

リーダーシップスキルの第一は観察スキル

リーダーになるための最も重要なスキルは、「観察すること」です。人をしっかり見て、必要なことを知ることが大切です。どうすれば彼らが信念を揺るぎなく持つようになるのかを知ることが大事です。人間は変わっていくものです。ずっと同じところに立ち止まる人間はいません。日々どのように変わっていくかを理解しなければなりません。そのために必要になるのが観察スキルです。

例えば、日本代表チームのメンバーに大野均という選手がいました。ポジションはロック(LO)で、通称はキンちゃんです。

さて、日本代表の練習は「ヘッドスタート」という名称で毎朝5時スタートでした。対戦相手がアスレチック性に優れ、足が速く、体が大きくて素早いチームばかりなので、勝つためには朝5時から練習しなければ間に合わなかったのです。

5時スタートといっても日本人は真面目なので、5時に来る人はいません。15分くらい前までにみんな来て、練習の準備に取り組んでいました。それが日本人の特徴です。しかし、キンちゃんは来ません。遅刻することはないのですが、5時ちょっと前に現れるのです。

そんなことが繰り返されたある時、私は「遅い」と言って帰しました。わざと皆の前で辱めたのです。それ以来彼は、ちゃんと15分前に来るようになりました。大野選手はチームで最年長選手でしたが、私が叱ってからどんどん変わっていったのです。

彼らのそういう変化を敏感に感じとらなくてはいけません。勝つために足りないものがあれば、それを補うことが必要です。私は、食事中はいつも選手全員が見えるところに座っていました。何を食べているのか、誰と会話しているのか。そういう細かいことを観察することで、選手の準備が整っているか、試合にコミットしているかを見て取ることができたのです。それは観察することで見えてくるものなのです。

日本の監督と呼ばれる人たちは、立って腕組みをして「自分は何でも知っている」、「何でも言われたことをやれ」という人が多いのですが、リーダーは逆でなくてはなりません。

リーダーは常に学び、変化に適応していく

リーダーには学び、適応していく能力も必要です。私は、20年間コーチをしていますが、すべてを知っているとは思っていません。よりよいコーチになるために学びの日々を過ごしています。

仕事を得たからといって、それがベストの状態とは限りません。環境も変わるし選手も変わっていきます。だからコーチも変わっていかなければならないのです。

電車に乗るために駅に行くのと似ているかもしれません。どの道順で行けば最もいいのかを考えて出かけますよね。それと同じことです。さらに良い道順、さらに向上する方法をコーチが模索していれば、スタッフも付いてきてくれます。

コーチが偉そうにして「俺の言う通りにやれ」と言っていては誰も付いてきてくれないでしょう。そういう状態では誰にも学ぶ環境ができないのです。

ビジネスでもこの20年間の変化は大きいですね。20年前にクラウドという技術はありませんでした。しかし、いまオラクルに入った人はクラウドを学ばなくてはなりません。ラグビーも同じです。試合はいつも変わっていきます。

私は、自分に経験があることは知っていますが、さらに向上していくために学んでいます。学びはリーダーにとって不可欠なのです。

優れた計画を立てて、素早く実行する

リーダーは優れた計画を立てて、素早く実行しなくてはなりません。明日の計画は今日より優れていなくてはなりませんし、計画倒れになってはいけません。計画を立て、実行し、さらに良い計画を立てる。これがリーダーの役割です。

間違いを犯すことを責めてはいけません。間違いを犯さないと何が間違いだったかがわかりません。ミスを犯すことを恐れてはいけないのです。 みなさんは、スポーツを観戦していて、確認に確認を繰り返して意思決定が遅くなってしまう光景を見ておられると思います。そのような遅い意思決定は間違いです。リーダーは早く意思決定しなくてはなりません。

iPhoneを例に考えてみましょう。iPhoneを開発したのはAppleです。そして他のメーカーが類似品を開発しましたが、それではAppleに勝てません。 私は日本代表のヘッドコーチに就任したとき、誰よりも体が小さい日本選手が勝つためには、日本独自のスタイルが必要だと考えました。そこで、キックを使わず、パスとランによって攻撃する方法を計画し、直ちに実行したのです。

高い職業倫理を持つ日本人に必要な集中と没頭

高い職業倫理はビジネスでもスポーツでも必要です。先ほども述べたように日本人はこの倫理に優れています。

倫理は規律正しさといってもいいでしょう。ただ、形だけではダメです。例えば会議。出席していてもだらだらしていたり、iPhoneばかり見ていたりでは成果は出せません。集中が大事なのです。

ラグビーでも同じことです。日本代表の練習では3時間、4時間という長い時間の練習はしません。45分の練習に没頭し、100%出し切ります。それができない選手は家に帰します。

一人ひとりを理解して指示を出すマネジメント

一人ひとりの能力を最大限に引き出し、スタッフをしっかりと管理するマネジメントはとても重要です。ただ、みんなに一律に指示することはありません。一人ひとりのスタッフはみんな違っています。その違いを理解した上で、一人ひとりに合った指示を出し、理解できるようにすることが大事です。

日本代表には田中史朗という、とてもクレイジーな選手がいました。その一方で、福岡堅樹という、ピアノを弾くし、いつも勉強している選手もいました。田中選手はあまり勉強をしたことはないのではないでしょうか。この2人はまったく違うタイプです。

日本代表には31人の選手がいたのですが、一人ひとりが理解できるように内容を変えて指示を出しました。紙で理解する選手には紙で、理解できない選手には別の方法で理解させたのです。

ミーティングでも工夫しました。みなさんも30ページのPowerPointの資料を用意して会議を始めたものの、10ページくらいプレゼンしたところで誰も聞いていないことに気づくことがあると思います。それは、PowerPointという媒体や、30ページという長さに問題があるからでしょう。効果的なコミュニケーションをするには、どういう媒体にするかを工夫し、みんなが関心を持つ刺激的な内容にしなくてはなりません。

チームとして同じ価値観と目標を持つ

正しいスタッフを集めるセレクションもリーダーの仕事です。いろんな条件があります。知識、人格も必要でしょう。ラグビーではフィジカルなタフさ、メンタルのタフさも必要です。

ラグビーはチームとして戦うのでヒーローは必要ありません。慶應大学のスーパーヒーローだった山田章仁は、自分の試合ができればそれで満足するタイプの選手でした。そこで私は、彼を2回日本代表チームからはずしたのです。そうすると、彼は大事なことに気づいてくれました。そして、ワールドカップのサモア戦ではウィニングトライを上げてくれました。

私が重視したのは、一貫性のあるパフォーマンスです。しっかりと仕事ができるパフォーマンスです。10点中8点の仕事ができることが大事です。もちろん10点中9点の人もいますし、10点中1点の人もいます。ただチームとして重要なのは、いつも10点中8点のパフォーマンスができることです。

だから私はラグビーというより、チームをコーチングしていると思います。そして、勝つためにはチームとして同じ価値観、目標を持つことが大切です。

価値観を一貫させて強くなる。下降線の人間は切り離す

日本代表には、ある程度いい選手が大学から来ます。そういう若い人にはパス、タックルなどの技術を教えるというより、まず「チームとしてはこうあるべきだ」ということを示しました。しかし、それには時間がかかります。というのは、彼らはそれぞれ異なる人間で、違う教育を受け、それぞれの価値観を持ったうえで一堂に会すからです。

そういう若い選手に同じ価値観を持たせ、首尾一貫させたことによって、私は日本のラグビーを変えました。そして、もっと若いラグビー選手も日本代表選手のサインをもらって、「ああ、ぼくもこういうふうになりたい」という憧れを持つようになったのです。

ビジネスの世界でも、ある会社に入社すると会社の雰囲気がわかると思います。その会社がハードワークに価値観を置き、一貫性を持つことによってその人は成長していくでしょう。

マネジメントでもうひとつ大事なポイントがあります。スポーツでもビジネスでも、誰がピークに達しているか、誰が下降線にあるかを正確に判断する必要があります。これ以上の生産性がないと判断したら、その瞬間に切り離す必要があります。引きずっていってはいけません。

対戦相手を理解し、自分たちの強みを知る

2015年のワールドカップの初戦の相手は南アフリカでした。平均身長198センチというチームです。それに対し、日本チームは背の低い小さな選手ばかりで、フィジカル面のギャップは明白でした。

しかし、この障害を乗り越えたところに、我々のアドバンテージがあると、私は考えました。フィジカルという問題ばかりを考えていてはフィジカルのギャップは乗り越えられません。ギャップを逆手にとって、新しい方法を考えたのです。

それが、「素早く、賢く動くこと」です。日本人選手の足は短いのですが、10メートルの走力なら世界一の速さになって、短距離を賢く走りきれば南アフリカに勝てると考えたのです。南アフリカはそういう相手と対戦したことがないのです。

ビジネスでも同じです。不可能だと言われても解決策があるのです。試行錯誤を繰り返して失敗が続いても、自分たちの強みを発揮できれば勝つことができるのです。

スクラムの能力も高めようと、フランス人のスクラムコーチを呼びました。そのスクラムコーチはクレイジーで、選手がスクラムを組んだ上に乗っかるのです。「もっと低くしろ」というわけです。低いスクラムを組むことによって、相手は対応できなくなるのです。

南アフリカとの試合で、日本チームは素晴らしいスクラムを組むことができました。南アフリカの高さより、日本はずっと低くしました。不利を有利に、弱みを強みに変えたのです。

勝つためには自分の強みだけでなく、対戦相手も理解する必要があります。南アフリカの強みはフィジカルです。当たれば南アフリカの選手の方が強いのです。そこで、日本チームは走っているところにはボールを投げないという戦術を採用しました。体を当てられないようにボールを予想外の方向に出して惑わしたのです。相手がタフだったので、頭を使いました。南アフリカチームは次第にイライラしてきました。

このように、メンタルで強くなることが勝つためには必要です。相手の心理状態を理解し、いい気持ちにさせないのです。

決められたルールを徹底して守る

勝つチームを作る4つ目の基盤は、規律と文化を構築することです。

「規律」とはルールを守ることです。ルールは非常に重要であり、守ることを徹底しなければなりません。代表チームには数少ないルールがありました。「時間厳守」と「服装・身だしなみを整える」ことです。

ルールは違反者を罰するためのものではありません。必要があるから、パフォーマンスが上がるから、ルールにしているのです。勝つチームを作るために必要なルールだから、全員がルールを理解し、守らなくてはなりません。もしかすると、すでにあるルールも効果がないなら見直す必要があるかもしれません。

カジュアルなミーティングを頻繁に持つ

「規律(ルール)と文化」は対をなすものです。規律を守ると同時に文化を共有することが大切です。ただ、ここで忘れてはならないのは、育ってきた環境が40代、50代の人たちと若い人たちではまったく違うことです。若者の中には生まれたときから携帯電話があるという人もいます。そして、全員がコンピュータを持っています。私たちはコンピュータがない環境で育ちました。

20年前のコーチは、「今日は1~5をやろう」という指示を出していました。そうすると、選手は素直にその指示を聞いてくれました。しかし、いまの若い選手はやってくれません。リーダーは理解が共有されているのかを把握し、個人個人の特徴を理解する必要があります。

そして、「このグループはこの課題」、「そちらのグループはその課題」と指示して、自分達が抱えている課題をチームで解決するように促します。そうすると選手は、人の話を聞くだけのミーティングではないとわかるので苦にならないのです。

また、オフィシャルな話し合いは選手を緊張させます。例えば6カ月に一度の評価の話し合いでは選手を理解することはできません。3分間くらいの短い時間でもいいから1対1で話すカジュアルなミーティングを数多くもち、「あなたのことを大事に思っている」ということを伝えることが必要です。

勝つためのチーム作りではセレクションがとても重要ですが、こういう話し合いによって選手を深く理解し、適材適所のセレクションが可能になるのです。

誰よりも先に将来を見据えて準備する

勝つための組織作りの最後のカギが「学ぶ環境を構築すること」です。自分たちも組織に対して学ぶ環境が必要ということです。

私はいまイングランド代表チームのヘッドコーチです。2015年11月に就任したときは世界ランキング8位でしたが、現在は2位です。次のワールドカップは2019年ですが、その時にイングランドが1位になることが私の仕事です。将来のラグビーの世界を見据えて、誰よりも先に見据えて準備していくことでワールドカップ優勝を収められるのです。

ビジネスの世界も同じことです。クラウドも進化していくでしょう。10年後にどんなスキル、どんな組織、どんな人材が必要になるかを見据えて準備していかねばなりません。そのために学ぶことが必要です。たまに失敗してもそこから前進すればいいのです。

いろいろと話してきましたが、リーダーは熱心でなくてはなりません。周りにいる人間に対し「やろうよ」と言うのではなく、態度で「この仕事を愛している」ことを見せていくのです。朝のミーティングで会話するときにも、熱心さを周りに示していくことが必要です。そのためには知識が必要です。学んで自分が進化していかねばなりません。

今日は「世界で勝つための組織作り」のために必要なポイントを話しました。「リーダーシップ」、「マネジメント」、「自分の強みを知ること」、「規律と文化を構築すること」、「学ぶ環境を構築すること」の5つです。

成功するためにはこのポイントをやり続けていくことが必要です。やり続けたことで、85対0で負けていたようなチームが、南アに勝つことができました。

本当に自分のやることを信じること、勝つ準備をすること、ずっとやり続けること。それができれば勝てるのです。今日お話したことが、みなさまのビジネスに少しでもお役に立てれば光栄です。