日本オラクル特集記事

ノーベル経済学賞「ナッジ理論」を実践。全国30万世帯にCO2削減への省エネ行動を奨励
オラクルが10カ国100以上の事業者との実践で培ったノウハウを提供

2017年11月、生活者の自発的な省エネ行動を促す日本初の「大規模ナッジ実証事業」の発表会が行われ、環境省や協力する全国エネルギー事業者5社に加え、この活動をリードする日本オラクルも参加した。この「ナッジ」とは何かについて詳しく解説していく。


日本は「パリ協定」に基いて2030年度までに温室効果ガスの排出量を、2013年度比で26%削減するという目標を掲げている

省エネを促す効果的なメッセージの内容とは

行動を強制したり金銭的なインセンティブに頼ったりせず、人々の行動を「ヒジで軽く相手をつつくように」変えるのが「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の理論だ。これを提唱したのは、2017年にノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー博士である。英国や米国では、公共政策などのためにナッジを活用する取り組みが実施されるなど、すでに幅広い分野で応用されている。

このナッジの活用が期待されている分野の1つに、CO2削減を目的とした取り組みがある。地球温暖化対策のためのCO2削減は社会的なテーマとなっているが、特に家庭における個人単位での取り組みは大きな成果に結びつけるのが難しい。実際、これまで電力使用量の削減につながるさまざまなハードウェアが開発されているが、これらの普及は思うように進まず、想定していたような成果が得られないといったケースは珍しくない。

そこでハードウェアに頼るだけでなく、ナッジを活用して人々の行動を変えることで電力使用量を削減しようという動きが欧米で広まっている。その端緒となったのが2000年に米国のカリフォルニア州で発生した大規模停電だ。このとき、省エネを促すための社会実験が行われた。「節約しましょう-エアコンを消し扇風機を」、「環境に優しく-エアコンを消し扇風機を」、「より良い未来のため-エアコンを消し扇風機を」と、各家庭に異なるメッセージを書いたカードをドアノブにかけ、その影響を調査するという内容だ。しかし、この3つのメッセージはどれも効果を生まなかった。もっとも効果があったのは「ご存じですか?ご近所さんはすでにエアコンから扇風機に変えています」という内容である。

人々はそれぞれコミュニティに属していて、そこからはみ出したくない、足を引っ張りたくないという思いがある。そうしたコミュニティへの帰属意識に訴えかける「ご存じですか?ご近所さんはすでにエアコンから扇風機に変えています」というメッセージは、人々の行動に直接的に作用したわけだ。

「得する」よりも「損する」情報が行動を促す

そして日本においても、初めての大規模ナッジ実証事業として環境省が「平成29年度低炭素型の行動変容を促す情報発信(ナッジ)による家庭等の自発的対策推進事業」を実施する。この事業では、北海道ガス株式会社、東北電力株式会社、北陸電力株式会社、関西電力株式会社、そして沖縄電力株式会社のエネルギー事業者5社の協力を得てナッジを実施し、それによって自発的なCO2削減アクションを促すことが目標となっている。


2017年11月に行われた「大規模ナッジ実証事業」に関する発表会。環境省、日本オラクル、住環境計画研究所、全国エネルギー事業者5社の代表者が参加した

この事業を受託し、実際にナッジに基づく省エネレポートの仕組みを提供するのが日本オラクルだ。オラクルが2016年に買収したOpower社は、ナッジの理論を活用したレポーティング技術を持ち、すでに10カ国100以上のエネルギー事業者でナッジの実践をサポートしている。日本における実証実験においても、このOpower社のノウハウが採り入れられた。

具体的なアプローチは、各家庭の電力の使用状況に応じて行動経済学に基づいた情報を今年度3月末までに毎月1回、計4回、レポートとして提供するというものだ。このレポートに含まれる情報には、さまざまな工夫が盛り込まれている。節電できている家庭と電力・ガス使用量を比較して、「あなたのご家庭は2万円も電気・ガス代を高く支払っています」というメッセージを掲示するのはその一例だ。行動経済学には「これだけ得しますよ」と伝えるよりも、「これだけ損していますよ」とメッセージする方が人はアクションを起こすという損失回避と呼ばれる考え方があるためだ。

また、節電のための方法は世の中にあふれているが、それらをまとめて見せるのではなく、「あなたに合った節電方法はこの3つです」と選択した上で提示した方が実際のアクションにつながりやすい。さらに提示する選択肢には、必ず投資が必要となる難易度が高いものを入れておく。多くの人には、あえて投資をしてまで節電する意欲はないが、選択肢の中に投資せずに節電できる方法があれば、そちらになびきやすいためである。このように、レポートの作成においてはさまざまな行動経済学の考え方が採り入れられている。


省エネレポートのサンプル。電気・ガス使用量を直感的に表現し、省エネのコツがわかるように工夫している

オラクルが支援したナッジによる省エネ事業で、CO2を合算1,200万トン削減

レポートでは日本に合わせた工夫も行われる。日本市場の特性の1つとして「キャラクター文化が根強い」ことがあることから、今回作成されるレポートには「そらたん」という空気の精をイメージしたキャラクターが組み込まれることになった。電力使用量に応じて、そらたんの表情が変わり、それを見て自身の電気・ガスの使い方を省みることができる。


ナッジ事業のイメージキャラクター「そらたん」。省エネ行動に応じて表情が12種類に変化する

この大規模ナッジ実証事業の発表会において、日本オラクル株式会社 取締役 執行役 最高経営責任者であるフランク・オーバーマイヤーは「これまでに私どもが携わってきたナッジによる省エネ事業をすべて合わせると、すでに1,200万トンのCO2削減を実現している」と実績を紹介した上で、「オラクルとしても、気候変動、そして地球温暖化に対応していく必要があると考えている。世界的に築き上げた技術やノウハウを日本の皆さまにもご利用いただき、日本におけるCO2削減に貢献していきたい」と述べた。

地球温暖化対策の国際ルールである「パリ協定」において、日本は「2030年までに2013年比で26%の削減」を目標としている。この数値は極めてハードルが高く、国として積極的に取り組むことが必要不可欠である。その実現においてナッジがどのような成果を生み出すのか、大いに注目されるのは間違いないだろう。

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