日本オラクル特集記事

インバウンドの“コト消費”に応える渋谷区、Airbnb

2017年11月の訪日観光客数は237 万 8,000人となり、11月として過去最高を記録した。1月からの累計は2,616 万 9,000人となり、2016年の年計2,404万人を超えた。

2017年のインバウンド市場全体の消費額は、1月から6月までの上半期で前年同期比+8.58%の2兆455億円 と堅調な伸びを見せる一方、訪日客一人あたり消費額は上半期平均で前年同期比マイナス7.57%の148,657円で低迷を続けている(以上、日本政府観光局調べ)。また、一時の「爆買い」に代表される「モノ消費」から、サービスを体験する「コト消費」への需要が高まっているとされる。


2017年の訪日客数が5年連続で過去最高を更新し、16年に比べ約2割増の2800万人強になった。

デジタルテクノロジーを活用し、訪日客の「コト消費」をいち早く取り込み、街・地域の活性化につなげる。2017年12月に開催した「Oracle CloudWorld Tokyo」のセッションに登壇した、IoTとビッグデータを駆使し”おもてなしソリューション”を整備する渋谷区と、宿泊を起点に訪日客の旅の体験や地域との交流をプロデュースするAirbnb日本法人の取り組みを紹介する。

外国人観光客への“おもてなし”をデジタルで実現

「国際観光都市SHIBUYAの『観光』への挑戦 - IoTとビッグデータを活用したおもてなしソリューション-」と題したセッションで、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 デロイト エクスポネンシャル マネジャーの平林知高氏、そして渋谷区観光協会 CXディレクターである岩本義樹氏が登壇した。

平林氏は、経済産業省が実証事業を進める「おもてなしプラットフォーム」について説明した。これはIoTを活用した新ビジネス創出推進事業の1つであり、訪日外国人観光客に対して、データを利活用した質の高いおもてなしサービスの提供を目指すというものだ。

具体的なシステムは、地域ごとに構築されるローカルプラットフォームと、それを集約するおもてなしプラットフォームの2つで構成される。ローカルプラットフォームで得たデータをおもてなしプラットフォーム側に送信し、その内容をほかの地域でも参照可能にすることで、地域を横断したデータ利活用基盤を実現する。

平林氏は従来の課題として「自分たちの地域に来ていない訪日外国人観光客に対して何らかの施策を実施しようと考えても、自分たちで情報が集められない以上、推測に基づいて施策を検討するしかありませんでした」と指摘する。その上で、「おもてなしプラットフォームに参画する地域のデータは基本的に共有されるため、自分たちの地域に来ていない訪日外国人観光客のデータも閲覧できます」と、おもてなしプラットフォームの利点を解説した。

具体的な活用例として挙げられたのは、ビーコンを活用したコミュニケーションだ。

「飲食店に訪日外国人観光客が来店した際、そのことをビーコンを使って検知し、データをおもてなしプラットフォームから取得します。そのデータによって牛肉が食べられないことが分かれば、そういった人のためのメニューを提示する。テクノロジーを活用することで、こういったコミュニケーションが図れるようになります」

デジタル技術を駆使して観光客の可視化を目指す渋谷区観光協会

このおもてなしプラットフォームの実証事業に参加している地域の1つが渋谷区である。一般財団法人渋谷区観光協会と株式会社博報堂を中心に、日本オラクルなども参画して行われる実証で、スマートフォンアプリである「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」とビーコンを活用し、渋谷区の観光客の動態データの集積とその見える化を目指している。

平林氏に続いて登壇した岩本氏は、現時点で800個、年度内には1,500個ほどのビーコンを渋谷駅近辺に設置すると説明し、その用途について次のように語った。

「ビーコンの事例というとスタンプラリーやクーポンが多いのですが、僕たちは観光協会の事業としてビーコンのプラットフォームを開放しようと思っています。すごくトラフィック量の多い渋谷という街に対して、ピンポイントで狭域の情報が発信できるシステムをプラットフォーム化して提供することで、多くのサードパーティにさまざまなアイデアを実現していただこうというのが大きな枠組みです」

一般的に観光目的のスマートフォンアプリというと、その地域の見どころや歴史を紹介するといった内容のものが多い。これに対し渋谷区観光協会が提供するスマートフォンアプリでは、渋谷区のさまざまな場所にメッセージを残すことができる機能に力点が置かれているという。


ビーコンで取得したデータを分析・可視化し、第三者への公開を図っていく(画像:渋谷区観光協会 提供)

「観光地に昔あった大学ノートのように、スクランブル交差点や明治神宮、あるいは各々のショップにメッセージを残せて、それがソーシャルグラフでつながる。友だちがメッセージを残していたら、すごく気になると思うんですよね。それでメッセージを見るために渋谷に足を運んでくれるというような仕組みを考えています」

さらに岩本氏は「ビーコンに反応したデータやアプリで取得できるプロファイル、GPSデータなどを取得し、いつ、誰がどこにいて、そこで何をしたのかを可視化したいと思っています。それで日本オラクルの協力を得て、データをビジュアライズする仕組みを今まさに作っているところです」と述べる。その上で「アプリやビーコンをベースにデータを取得・可視化し、それによって地域を活性化することを今後も進めていきたい」と展望を語った。

シェアリングエコノミーを具現化したAirbnbがもたらす“醍醐味”

「シェアリングエコノミーの最新事例を紹介『遊び方改革セミナー』」では、Airbnb Japanの代表取締役である田邊泰之氏が講演を行った。

Airbnbは宿泊施設を仲介するマーケットプレイスであり、シェアリングエコノミーを具現化した代表例の1つだ。登録されている宿泊施設は多種多様で、個人が空いている部屋を宿泊施設として提供するといったケースも多い。このような個人宅に宿泊するメリットとして、実際にAirbnbを使ってある個人宅に泊まったときの経験をもとに、田邊氏は次のように説明した。

「私が泊まったところはシャワーの水圧が弱くて、かなり頭を前に出さないと頭が洗えなかったんです。でも、それが決して嫌ではなく、『地元の人の生活って、普段はこういう感じなのだろうな』と思えたんです。このように、普段そこに住まわれている方のライフスタイルが垣間見られる、これがAirbnbの醍醐味だと感じています」

実際に部屋を借りたり、あるいは自分の部屋を貸し出したりする際に、きちんとお金を払ってもらえるのか、相手は信頼できる人なのかなど、シェアリングエコノミーならではの不安もつきまとう。こうした不安を解消するためにテクノロジーが活用できるのではないかと、これまでAirbnbではさまざまな機能を追加してきたと田邊氏は説明する。その1つとして紹介されたのが相互レビューだ。

「Airbnbではホストとゲストが対等の立場であり、レビューも相互に行われます。一般的にはゲストの方がどこかに泊まった際に『きれいだった』とか『水回りが汚かった』などと書くのですが、Airbnbはホストも対等な立場なので『このゲストは部屋を汚した』とか『ちょっとうるさかった』といったコメントを残すことができます。この相互レビューは世界中で共通して使われるので、どこにいってもちゃんとした形で、お互いがリスペクトしあってサービスを使う力がもたらされます」

また宿泊料は予約時にAirbnbが預かり、宿泊後24時間でゲストから問い合わせがなければ、宿泊施設を提供したホストに支払われる。逆に、実際の宿泊施設が掲載されていた写真とまったく異なるなどといった問題があれば、ゲストに料金が払い戻されてリブッキングを行う。このような仕組みを通し、安心して利用できる環境が整えられているわけだ。

”体験”も共有するAirbnbの新たな挑戦

Airbnb Japanが紹介する部屋数は5万8,000を越え、2016年のインバウンドの利用者数は370万となり前年の約3倍弱まで増加した。急成長するAirbnbの事業は宿泊だけに留まらない。田邊氏は、各種レッスンやガイド付きハイキングなど、さまざまな「体験」を仲介する新たなサービスも紹介した。


Airbnb創業者の一人であるジョー・ゲピア氏も来日した際に盆栽を体験(画像:Airbnb Japan 提供)

「去年の11月から、宿泊施設だけでなく体験も提供できるようにAirbnbのプラットフォームは進化しました。たとえばバルセロナで船上生活を営む方に船でいろんなところに連れて行ってもらう、あるいはフィレンツェでワイナリーを営んでいる方に、ワインのお話を伺ったり相性のよいお食事を教えてもらったりといった体験があります。特長はある領域に対して情熱や独自の視点を持っている方々がホストになっていて、その人にしか提供できない体験になっていることです」

田邊氏自身もAirbnbの創業者の一人であるジョー・ゲビア氏と一緒に盆栽の体験に参加したという。そのホストは海外で講演を行うなど精力的に活動している人で、盆栽だけでなく日本の文化や歴史を伝えることに情熱を抱いている人とのこと。そうしたホストと3時間触れ合うだけで、自分自身の情熱も高められたと田邊氏は話した。

このように、単に日本のモノを売るだけでなく、日本でしかできない体験を訪日外国人観光客に提供し、コト需要に応えられるようになれば、観光国としての日本の魅力は増していくだろう。

最後に田邊氏は「我々の目指すところはやはり人です。プラットフォーム上でテクノロジーを用い、人が活躍しやすい場を作っていく。それによって、人と人とがつながりやすいサービスになればいいかなと考えています」と述べ、セッションを締めくくった。

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