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ライフスタイルの変化や労働人口の減少、将来への不安による消費の抑制で、若年層を中心に車を持たない人が増えている。また、車を買わない理由に、自動車保険にかかる費用負担も挙げられる。損害保険各社は若年層の顧客を取り込もうと、比較的事故率が低い新しい車の保険料を割り引いたり、保障内容をシンプルにして料金を抑えたりする取り組みを進めている。
ITコンサルティング大手のアクセンチュアは、人口減により従来の自動車、生命保険が縮小する点を見据え、適切な医療・介護サービスから家や自動車のメンテナンスなどリスク予防やリスク管理といったサービスを実現するための「外部のパートナーシップを生かしたオープンイノベーション」を説く。
このような背景を踏まえ、東京海上グループの情報システムの企画・設計・開発を行う東京海上日動システムズでは、LINE、日本オラクルの協力を得て、顧客との接点が激変するスマホ時代の保険商品を開発するというハッカソンを社内のエンジニアを対象に実施した。その目的や背景について、東京海上日動システムズの山本将氏にお話いただいた。
東京海上日動火災保険を中心とした、東京海上グループのIT戦略を支えているのが東京海上日動システムズだ。東京海上グループの情報システムの企画から設計、開発、保守運用に至るまでを担っており、2018年4月1日時点で社員数は1,355名に上る。
この東京海上日動システムズにおいて、社内のエンジニア38名が集まってハッカソンが実施された。その意図について、同社の山本将氏は次のように語る。
「私たちの業務は基幹系システムの開発や運用保守がメインになります。そこではCOBOLで書かれたコードもまだ多数存在しているほか、裏ではアセンブラも動いているという状況です。ただ会社としてはオープン化に向けた取り組みを進めていて、社内のエンジニアにも新しい開発スタイルや方法論を知ってもらいたい。そのような考えから、ハッカソンを実施しようと思い立ちました」
APIでつながる世界を体験してほしい
エンジニアが1つの場所に集まり、与えられたテーマに沿って1日~数日間といった短い時間で集中的に開発を行うハッカソンは世界的に広まっており、日本でも多くの企業が実施している。このハッカソンにエンジニアとして参加するメリットとして挙げられるのは、普段の業務とは違ったテーマに沿って開発することで刺激を受けられることが挙げられる。山本氏が期待していたのもそうした点だった。
「今回テーマとしたのは、APIを使ってシステムやサービスをつなげてみようということでした。社内の人間にとっては、1からスクラッチで開発してシステムを構築するのが当たり前です。ただ、そうしたシステムはメンテナンスも大変ですし、数年後には古くなっている可能性もある。それなら、今あるものをうまく使い、APIでつながる世界を構築するということをテーマにしました」
エンジニアとしてのスキルアップも今回のハッカソンのテーマだったようだ。山本氏は「2004年から2010年頃まで大規模なシステム再構築プロジェクトがあったことから、そのときに入社した世代のエンジニアはいきなりプロジェクトをマネジメントする立場になり、あまり開発の経験がない」と話し、次のように続けた。
「会社として年間千件近い案件をこなしているため、プロジェクトマネジメントの業務が多い。それはもちろん大事なのですが、協力会社に丸投げするのではなく、自分たちも開発というところをしっかり理解した上でプロジェクトを進めてほしい。そうした期待もあり、ハッカソンの開催を決めた背景にありました」
完成度の高い作品が続々と登場
このハッカソンでは、コミュニケーションアプリとして広く使われている「LINE」と、保険業界に特化したシステムを模したモックアップのそれぞれのAPIを利用し、オリジナルのサービスを開発することが目的となった。前述したように38名の参加者が集まり、9チームに分かれて新サービスの開発に取り組んだ。
当日の様子について山本氏は「いざ始まってみるとみんな集中して開発に取り組んでいました。ときには1つの端末の周りにチームが集まり、ああじゃないか、いやこうじゃないかと議論していました。集中して、みんなで1つのことに取り組んでいる様子は久しぶりに見ました」と語った。
開発されたものの評価においては、意外性や独創性を重視したという。また「東京海上グループらしくない」(山本氏)か、どうかも評価のポイントとなった。
実際に開発されたものの1つとして、山本氏が「完成度がすごく高かった」と評価したのは旅行保険の仕組みだった。
「しっかりターゲットを絞り込みながら、ちょっと旅するといった場面で使える保険アプリ。このアプリはLINEだけで申し込むことができ、完成度は高かったのでサービスとして提供可能ではと思わせるデキでした。こういったものがパッと作ってポンと出せれば、新しい形での販売チャネルの開発にもつながる気がします」
そのほか、「ちょい入らない保険」や、「契約者をLINEでフォローするサービス」などが開発されたという。
山本氏は「東京海上日動システムズの強みは、ビジネスとITの両方を理解しているところです。それがきちんとハッカソンで開発した作品にも出ていました。そういった意味で、初めてのハッカソンとしては成功したと思っています」と述べた。
受け身から提案型へスタイルを変えていきたい
このハッカソンでは、全体の企画、そして保険業界で使われるシステムのモックアップおよびAPIの開発を日本オラクルで行っている。
「日本オラクルとはフラットな関係を築かせていただいていて、気軽に相談することができました。また契約管理や請求管理、損害管理など、さまざまなシステムでオラクルの製品を導入しているため、私たちの業務やシステムを理解していただいていることも大きなポイントでした。ハッカソンについて話したときは、日本オラクルから『こういった形で作ればいいですね』と提案をいただき、何も文句を言うことはなく、これでやりたいですという感じでした」(山本氏)
なおモックの構築では、オラクルのクラウドサービスが採用されている。その印象について「オラクルはPlatform as a Service (PaaS)に力を入れている印象があり、実際にデータベースからアプリケーションサーバーまでさまざまなPaaSを展開されています。単純なIaaSと異なり、OSやミドルウェアについて考える必要がないため、すばやく開発に進められる。そういった点はすごく評価しています」と山本氏は話した。
今後もハッカソンは継続的に実施したいという山本氏は、これによってビジネスのスタイルも変えていきたいと意気込む。
「現状の業務はどちらかというと受け身業務が中心。ただ今後は、何か作りたいと言われたときにアジャイル的にパッと作ってみて、イメージをすりあわせた上で要件を固めていく。そういったスタイルに変えていきたいと思っています。そうすれば認識の齟齬もなくしていけるでしょうし、開発も効率化するのではないでしょうか。さらにビジネスやシステムをより良くしていくために、我々からも提案する形にできればいいですね」
クラウドの普及にとどまらず、AIやIoTといった新たなテクノロジーが次々と登場し、さらにFinTechに代表される新たなトレンドも生まれている現在、企業が利用するシステムも大きな変革を求められている。その変化にどう対応していくかを考える上で、こうした東京海上日動システムズの取り組みは大いに参考になるのではないだろうか。