日本オラクル特集記事

IoTの時代だからこそ活躍するのは磁気テープだ

IoTが活用されるためには大量データを安全・安価に格納できなければならない

ITジャーナリスト
谷川 耕一

2016年3月10日、日本オラクルは同社の磁気テープを用いてデータを格納するストレージである「Oracle StorageTek」製品のユーザー・イベント「Large Tape User Group(LTUG) Japan」を開催した。ここで行われた特別講演で、国立情報学研究所 教授/所長補佐の佐藤一郎氏は、今後のInternet of Thongs(IoT:モノのインターネット)の進化によりテープストレージの重要性が増すと言う。ビッグデータを扱うための技術の進化、さらにはパーソナルデータを扱う上での法律の改正なども後押しして、今後は新たなテープストレージの需要が生まれると指摘した。

オラクルの磁気テープメディア。一巻あたり最大8.5テラバイトのデータを格納(非圧縮時)

「最古のビッグデータ」事例は1890年に

1890年に米国で実施された国勢調査の結果、それが「最古のビッグデータです」と佐藤氏は言う。1880年に実施された国勢調査の結果データを集計するのに7年の月日がかかった。当然ながらコンピュータなどまだ存在しない時代の話だ。その時点で10年後に実施される国勢調査は、人口増などを加味すると13年の時間がかかると予測された。つまりITシステムならば「バッチが突き抜けた状況です」と。このように、今ある仕組みでは対処仕切れない量のデータ、これを「ビッグデータ」と捉えるといいと佐藤氏は言う。

10年で集計が終わらない課題の解決のために登場したのが、パンチカードマシンだ。これを利用することで、1890年の国勢調査結果データの集計は、なんと1年で終了した。データが増えたことへの対処ニーズがあり、パンチカードマシンと言う新しいテクノロジーが生まれた。このパンチカードマシンは、後にIBMのメインフレームへと進化していくことになる。

ところで、昨今ではデジタル化が進んだからビッグデータが生まれたとの論調もある。しかし本来は「世の中の実需要があって、それに対応するためにテクノロジーは生まれます」と佐藤氏。今後もIoTの普及などで膨大となるビッグデータを扱うため、新たなテクノロジーが必要になるのだ。この時に重要度が増すテクノロジーの1つが、テープストレージだと佐藤氏は言う。

データ収集に必要なのは異常を示す部分

たとえばIoTの典型的な活用の1つに航空機のエンジンがある。今や航空機のエンジンにはさまざまなセンサーが搭載されており、飛行中にそれらからさまざまなデータを取得している。「1時間の飛行で10テラバイトのデータが生まれます」と佐藤氏。現状は、センサーから生まれてくるデータすべてを溜め込んで活用しているわけではない。航空機のエンジンであれば、安全に稼働することが目的だ。裏を返せば必要なのは異常を示す部分のデータだけで、それ以外、つまり正常なデータは捨てている。

しかし、IoTはこうしたデータの取り扱いを変えてしまう可能性がある。つまり「IoTは今まで捨てていたデータに価値を見つけようとする試み」と佐藤氏。前述のエンジンの例だけでなく、製造業などでは正常系データは異常系の10,000倍以上あるとも言われている。昨今流行のインダストリー4.0などで目的が変わり正常系データも必要となれば、工場などでは4桁も5桁も必要なデータが増えることになり、当然、そうした大量データの保存が求められるようになる。

今後普及が見込まれるクルマの自動運転なども、必要なデータは莫大になると佐藤氏は言う。まず、安全に自動運転するために車載の各種センサーやカメラの映像データを大量に収集する。一部はクルマのコンピュータで処理するが、大部分はクラウドに渡され機械学習のアルゴリズなどを使って処理される。この学習には大量なデータを必要とするのだ。そして得られた結果をクルマに戻し、安全な自動運転を実現することに。

得られるデータは、安全運転のためだけに利用すればいいのであれば捨ててしまってもいいかもしれない。しかし自動運転中には、なんらか事故やトラブルが発生するかもしれない。そうなればその原因を探るために、集められたすべてのデータを使って原因を追及することになる。必要なデータは、クルマそのものから得られるデータだけでなく、クルマの周りの天候など環境の情報も必要になるだろう。これらのデータは普段頻繁にアクセスするものではない。とはいえそれらは証拠となるものなので改ざんなきようにして保存し、何か起きたら必要な情報を検索してすぐに提供できなければならない。「これができるのは、テープストレージしかありません」と佐藤氏は言う。

注目を集めるNvRAM

このようにIoTを活用する世界がやってくれば、より大規模なビッグデータを利用するようになる。高速にそれらを処理できるだけでなく、処理した結果を検証したり監査したりするためには、きちんと保存もできなければならない。この用途には安価で低消費電力、さらには小さなスペースに保管できるストレージが必要だ。それはオンラインのハードディスクではないのは明らかだ。

佐藤氏はまた、ビッグデータを扱うための技術の進化からもテープストレージの可能性が高まると言う。ビッグデータは増え続け、極めて大きなビッグデータをコンピュータ上で高速にマッチング処理したいニーズはさらに高まるだろう。現状はそのための記憶領域にフラッシュストレージやSSDが注目を集めている。とはいえ、それらでも「処理性能は足りなくなる」と佐藤氏。そうなれば、よりCPUに近いところに置かれるメモリであるDRAMにデータを置きたくなるが、DRAMは高価であり大容量を確保するのは難しい。

そこで注目を集めるのが、NvRAM(不揮発性メモリー)だと佐藤氏は言う。NvRAMはDRAMに近い速度でアクセスでき、今後はサーバーに大容量で搭載できるようになるとのこと。そうなった際には、サーバーの中にはもはやフラッシュストレージもSSDも必要とされなくなるだろうと佐藤氏は予測する。これからは、ハードディスクがなくなり高速なフラッシュストレージと大容量を安価に格納できるテープストレージの組み合わせの時代がくるとの話もあるが、さらに次の時代にはより高速なNvRAMとテープストレージの組み合わせの時代が来ることになりそうだ。さらにNvRAMはアクセス性能がSSDやHDDよりも速い分、NvRAMには計算途中のデータも大量に格納されることになるが、こうしたデータは正規化されていないし、生データに近い。つまり、データサイズが大きくなりがち。その結果、NvRAM上のデータのバックアップは、SSDやHDD上のデータと比べて、その容量が格段に増えることが予想され、より高容量のテープストレージが求められると佐藤氏は話す。

テープストレージはまだまだ進化の余地がある

佐藤氏は、もう1つテープストレージ活用に追い風となるのが法制度だと言う。日本においてもパーソナルデータを有効活用する話題が増えている。そのためもあり個人情報保護法の改正案が2015年に閣議決定された。この改正の中に「開示等請求」があり、これへの対処がテープストレージなしでは難しいと佐藤氏は言う。開示等請求とは、個人から企業などのパーソナルデータを扱っている組織に直接開示請求できることで、企業などは請求に対し迅速に該当情報を提供できなければならない。そうなると、個人情報という極めて厳重に扱わなければならない情報を、長期にわたり安全に保管しなければならなくなるのだ。これを実現できるのもテープストレージしかないと佐藤氏は言うのだ。

大容量のデータを安全にかつ低コスト、低消費電力で保存できるストレージについては、佐藤氏の講演後に富士フイルム 記録メディア事業部 営業部 統括マネージャーの江尻清美氏が、テープストレージの優位性を解説した。これまでテープストレージの用途は主にデータのバックアップだった。今後は、ビッグデータの活用や法制度への対応などビジネスにプラスとなる使い方が求められる。このために必要となるのがコールドストレージだ。コールドストレージはアクセス頻度の少ないものを格納するストレージであり、それを低コストかつ低消費電力で保存できることが要件として重視される。

コールドストレージにはテープストレージ、低速のハードディスク、光ディスクなどが使われる。現状ではデータ容量的にテープとハードディスクに優位性がある。アクセススピードはハードディスクが速い。とはいえ、データ転送速度はテープが優れる。そしてテープと光ディスクの圧倒的な優位性が、消費電力量の少なさだ。「概ねハードディスクの1/10となります」と江尻氏。これは、コールドストレージとしては大きなメリットとなる。つまり大容量で転送速度が速く、低消費電力と3拍子揃っているのがテープストレージなのだ。

さらに江尻氏は、ハードディスクは今後の大容量化が頭打ち傾向にあるのに対し、テープにはまだまだ大容量化の余地があると言う。その余地を生み出しているのが新たな磁性体であるBaFe(バリウム・フェライト)だ。現状の磁性体であるメタル素材よりもさらに微細化が可能であり、酸化物なのでメタル素材のように錆びて劣化する心配もない。これを活用することで、さらなる記録密度の向上が可能となるのだ。

このようにテープストレージは、技術的にはまだまだ伸びている製品だ。ところが、それがなかなか世間には伝わっていないのではと佐藤氏は言う。「テープストレージはいいものです。そんなテープストレージがもっと活用されるようになるには、技術面だけでなく個人情報保護法の変化など社会的な面からのバックアップも必要でしょう」と。テープストレージの技術的な価値を伝えると共に、それを必要とする実世界のニーズの変化、さらには法制度の変更など社会的背景の情報を市場にきちんと伝える。それもオラクルのようなテープストレージをリードするベンダーには強く求められるところだろう。

谷川 耕一
フリーランス・ITジャーナリスト。有限会社タルク・アイティー 代表取締役社長、ブレインハーツ株式会社 取締役。IT業界を少し違った視点から俯瞰するブログ「むささびの視点」が好評。