全社的な収益管理プラットフォームに関する考慮事項

Oracle Financial Services、セールス・コンサルティング担当シニア・ディレクター、Sudhir Nikharge

銀行は、その構造上、部門ごとに製品が独立しています。テクノロジーが進歩し、銀行が顧客の期待に応える俊敏性と拡張性を獲得するためにコンポーネント化されたアーキテクチャへと移行するにつれて、これまで独立していた各製品部門は、相互に連携可能なサービスとコンポーネントに細分化されていきます。先進的な銀行は、自社の製品やサービスの枠を超え、提携企業やフィンテック企業のシステムとも円滑に連携することで、エコシステムを構築し、効果的な収益管理を進めています。

一方で、顧客はサービスプロバイダーに対し、より統合的なエクスペリエンスを求めています。統合的なカスタマー・エクスペリエンスを提供するため、銀行は様々な「コンポーネント」から製品やサービスを取り込み、顧客に統一された体験を提供するデジタル・テクノロジーとプラットフォームに多大な投資を行っています。

この構図は理想的に見えますが、唯一欠けている要素である価格設定が、統合的なカスタマー・エクスペリエンスに影響を及ぼす可能性があります。従来のアーキテクチャや、最新のコンポーネント化されたアーキテクチャにおいて、「価格設定」は製品の処理部分か、あるいは製品やサービスそのものの構成要素の一部となっています。そのため、顧客は個別の製品やサービスごとに料金を請求されることになります。より分かりやすく説明するために、顧客がセットメニューを注文する際を考えてみましょう。顧客はセット全体で一つの値段がつくことを期待し、個々の料理にそれぞれ価格が設定されているとは考えません。今日の銀行は、セットメニューを提供しつつも、個々の商品に対して顧客に料金を請求しているようなものです。

この問題のシンプルな解決策は、全社的な価格設定機能を提供する独立した価格設定コンポーネントを導入することです。ただし、価格設定は独立して行うべきではありません。価格設定は、収益管理戦略全体の構成要素として捉えるべきです。収益管理戦略は、「収益に対するコスト比率の最適化」、「ウォレット・シェアの増加、または顧客あたりの製品購入数の増加」、「収益漏れの防止」、「運用コストの削減」、あるいは「カスタマー・エクスペリエンスの向上」といったビジネス目標と一致している必要があります。

収益管理戦略を効果的に実施するには、価格設定の構想、価格の導入、価格の運用、実績の追跡、パートナーとの収益分配、そして収益の計上といった多様な段階を経る必要があります。これらの活動を支えるためには、顧客に統一されたカスタマー・エクスペリエンスを提供しつつ、銀行が収益を効率的に管理できるような、強固で拡張性の高い全社的な収益管理プラットフォームが不可欠です。

全社的な収益管理プラットフォームの主要な要素

コンセプト化

コーポレート・バンキングであれ、リテール・バンキングであれ、顧客にとって最適な価格設定を提供することは、収益管理において極めて重要です。

コーポレート・バンキングは、複雑な製品体系を扱います。これらの製品を組み合わせて法人からの提案依頼書(RFP)に対応したり、最も利益の上がる提案を作り上げたりすることは、簡単なことではありません。まず、リレーションシップ・マネージャーは、参照データ、シミュレーション用データ、顧客のコミットメントといった情報をもとに複数の選択肢や組み合わせをシミュレートし、最適な提案を決定する必要があります。次に、リレーションシップ・マネージャーは、さまざまな組み合わせを検討した上で提案を作成し、その提案は社内での承認手続きを経た後、最終的に顧客からの承諾を得る必要があります。ほとんどの場合、多くの組織では、この複雑なプロセスを、結果として効果的な収益管理に結びつかない手作業やExcelベースのテンプレートに頼っています。

リテール・バンキングの領域では、銀行はハイパー・パーソナライゼーションによって顧客を惹きつけようと試みています。顧客は自分で製品やサービスを選び、自分に合った提案や製品バンドルを作ることができます。ハイパー・パーソナライゼーションに対応するためには、銀行が製品バンドルを組成し、さらに動的な製品バンドルを提供し、適切に価格設定する能力を具備することが不可欠です

価格導入

法人契約の一部として、または個人顧客向けの製品/製品バンドル契約として価格が合意された場合、その価格は最適な形で導入される必要があります。たとえば、ある大手クレジットカード会社が、各カードを個別に管理した結果、わずかな違いしかない製品を12,000種類以上も作成したケースがありました。これは、非常に多くの製品の種類を管理する上での、運用上の深刻な課題を引き起こしました。

価格実行

最も重要なのは、多様な頻度、パラメーター、複雑な階層、そして統合ロジックに基づいて、価格を正確に計算することです。クロスプロダクト価格設定、関係ベース価格設定、動的パラメーターベース価格設定といった場合、価格を計算するには、他の製品やサービスの利用状況を一元的に把握し、追跡することが必要です。製品の利用状況の追跡、サブスクリプション管理、按分計算、価格調整、再価格設定、そして例外処理は、強固な価格設定エンジンが持つべき重要な機能です。

パフォーマンス追跡

コーポレート・バンキングでは、パフォーマンス・コミットメントは契約の一部として提供され、リテール・バンキングでは、それは商品サブスクリプションの一部となります。これらのパフォーマンス・コミットメントを追跡しないと、かなりの収益の逸失につながります。しかも、そうした収益の逸失は、多くの場合把握されていません。多くの銀行では、顧客のパフォーマンスを価格見直しのタイミングでしか確認しておらず、それでは手遅れになる可能性があります。このため、パフォーマンスを継続的に監視し、それに基づいて価格を調整し、目標未達の状況を関係者に通知する能力は、銀行が収益機会を確実に捉える上で極めて重要です。

複雑なエコシステムの管理

銀行業務は、ますます複雑なエコシステムへと変化しています。フィンテックの進化によって、銀行業務はエコシステムの一員としての役割を担うようになりました。銀行は、コルレス銀行といった従来の提携関係にとどまらず、統合POSベンダー、税務サービスプロバイダー、給与サービスなど、さまざまなサービスプロバイダーと提携し、顧客に統合的なサービスを提供する必要があります。パートナーとの価格設定、請求業務、収益分配の取り決めを管理することは、複雑な作業です。同時に、銀行の代理としてサービスを提供する下流のパートナー(代理店など)も存在し得ます。銀行は、これらの代理店が提供する競合するサービスの中で、ウォレット・シェアを最大化するため、これらのパートナーをより積極的に管理する必要があると感じています。

収益実現

価格が計算されて各事業体に請求された後は、売掛金と買掛金の両方を追跡することが重要です。請求されたすべての収益が確実に回収され、正しく会計処理されているかを確認することは、極めて重要です。多くの組織では、回収プロセスが非効率なために収益を失っています。同様に、すべての調整を考慮してパートナーへの支払いを管理することも、顧客に途切れることなくサービスを提供するために同じくらい重要です。