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GPSや準天頂衛星などの測位衛星や、iBeacon、Wi-Fiといった機器の進化により、屋内外のヒトやモノの正確な位置を測ることができるだけでなく、さらにはウェアラブルデバイスやスマートフォンによって、いつでも、どこでも位置情報サービスを実現できる世の中になりつつある。
このような状況を活かし、位置情報の活用に取り組むことで、すでにオペレーションの効率化や新たなサービスの提供を実現している先進的な企業も存在する。一方で、その実現のためには「言うは易し行うは難し」という声も聞かれる。では、その実現のためのポイントはどのようなものがあるのか。今回は、先進的な海外企業の成功事例をご紹介し、その成功の要因を探る。
Cotral社は、主にローマ市内および近郊でバスを運行しているイタリア企業で、1600台のバスと2500人の運転手を有し、運行路線は4,550路線と、イタリア国内で最大級のバス事業者である。1年あたりの乗客数は1億400万人にも上り、非常に重要な交通手段の一つになっている。
Cotralはイタリア政府の財政危機をきっかけに、オペレーションの効率化に取り組み始めた。もともとCotralはイタリア政府から資本提供を受けていたため、財政危機の際には当然、政府からの資本提供も削減され、オペレーションの効率化によるコスト削減の必要に迫られた。
そこで、Cotralはバスの運行状況を把握するため、バス車両にGPSを搭載し、各車両の運行状況を収集した。収集した大量の位置情報をAutomatic Vehicle Monitoring (AVM)というシステムに一元化し、各車両の運行状況を分析した。
Cotralはまず、バスの運行ルートの最適化に取り組んだ。このAVMシステムでは3分ごとにバスから位置情報を取得し、リアルタイムにバスの運行状況を監視している。取得したバスの位置情報と他データを突き合わせ、運行ルート近郊のイベントや時刻、季節等に起因する乗客数の増減、バスの遅延を定量的に分析する。
分析結果は遅延が起こりがちな交差点のルートの除外、特定の区間における特定時期の増便、バス停の統廃合など、運行ルートおよび運行スケジュールの最適化に活用した。その結果、バス運行の遅延を減らしただけでなく、車両の稼働率の向上も実現することができた。
以上のようなオペレーションの効率化、コスト削減だけでなく、Cotralはさらに新規サービスの開発と提供にも取り組んでいる。モバイル上での乗車券購入を可能にし、利用者のGPS情報から目的地までの運賃を割り出し乗車券の販売を行う、というサービスだ。
また、Cotral以外のバス事業者や鉄道会社とも運行履歴を共有し、各社の運行状況のリアルタイム監視や、運行履歴の横断的な分析も検討している。これにより、事故や遅延による他社への振替輸送の迅速化や重複路線の共同運行も実現可能となるであろう。
Garmin社は、自動車、モバイル、アウトドア、フィットネス、あるいは航空機器などに利用されるGPS機器や通信機器を製造、グローバルに販売展開する企業である。カンザス州に本社を持ち、アメリカと台湾に製造拠点、また世界各地に配送拠点を所有している。
Garminはそれら機器の製造販売だけでなく、それら機器から生成されるデータを活用した新サービスの提供に取り組んできた。例えばフィットネス向けの個人サービスとして、機器から取得した心拍数などの身体に関するデータや、走行距離、時間、走行経路などの位置情報を蓄積、分析可能とするサービスを提供してきた。
さらにGarminは、これら蓄積されたデータをさらに活用することで、顧客とのより親密な関係を構築することが可能となり、新たなビジネスの創出につながると考えた。
その一つの取り組みがGarmin Connectと呼ばれるサービスである。ユーザーはバイク、ランニングといったフィットネスを行った際に発生する様々なデータを、手持ちの機器からGarmin Connectのサービス基盤に蓄積することで、実際に行ったトレーニングのルート、時間や速度といったデータを蓄積することができ、分析や過去閲覧できるようなサービスを提供した。
このサービスの特徴は、個人の過去履歴の分析だけでなく、他のユーザーがアップロードした走行履歴に基づき、他のユーザーとのバーチャルなレース環境を提供している点である。ユーザーはあらかじめ決められたコースを走行することで、他ユーザーとのレースをバーチャルに実施することができる。走行途中では、ラップタイムでの順位も表示されるなど、まさにリアルタイムでのバーチャルレースを実現した。
新サービス提供によるユーザー登録数は年々50%のペースで増加し、今や蓄積されたデータは40億マイル分にまで相当している。さらには、20言語でのサービス提供やiPhoneやAndroidといったモバイルデバイス環境でのサービス提供をはじめ、TwitterやFacebookといったソーシャルとの連携サービスも提供している。
これにより、ユーザー同士のつながりや、位置情報や時間といったお互いのフィットネスの情報共有を促し、さらなるバーチャルレースの活性化を実現している。このように、フィトネスから発生する大量の位置情報やそれに付随するデータを活用することで、新たなサービスの提供を実現し、さらなるロイヤルカスタマー創出を実現することができた。
以上、先進的に位置情報を活用しているグローバル企業をご紹介した。これら先行した海外事例から共通する成功実現のポイントが浮かび上がる。そのポイントを最後にご紹介したい。
単に位置情報のデータを提供するだけでは、新たなビジネスを創出するのは難しい。その位置情報と付随したデータや、すでに企業内に存在するデータを組み合わせ、複合的なデータ活用を実現してこそ、新たな価値創出と差別化が実現可能となる。冒頭にご紹介したCotral社の事例では、他社のバス会社や鉄道会社の運行履歴を組み合わせて活用することで、振替輸送の迅速化や重複路線の共同運行による路線の効率化など、さらなる付加価値の創出を目指している。
位置情報を基とした"空間検索"も重要である。例えば、半径500メートル以内にいるユーザーのリストアップや、あるビルから近い順に○人のバイクを使うライダーをリストアップする、といった検索である。
また、位置情報以外の様々なデータも収集し、多様な分析軸で見える様にすることも満足度の高いサービスを提供するために不可欠であるといえる。Garmin社の事例では、ユーザーの各走行地点において、位置情報だけでなく、走行速度や心拍数なども収集している。このため、ユーザーは単に走行ルートを確認できるだけでなく、多様な分析軸で走行履歴の分析が可能となる。ユーザー満足度の高いサービスを実現可能とした最大の要因である。
様々な機器や蓄積された位置情報データだけでも当然大量のデータとなる。さらに、前述したように様々なデータと組み合わせることで、より膨大なデータ量となる。それら大量のデータを用いたサービスを、ユーザーがストレスなく活用できる環境を提供しなければならない。
多くの企業が大量に発生する位置データを活用し、新たなビジネス機会を創出したいと考えているであろう。だが、そのためには上記の3つの成功ポイントを実現するための、位置情報データを含めた様々なデータ蓄積基盤およびデータ分析基盤が極めて重要となる。
さらにこれらデータ基盤を早期に構築し、競合他社に先駆けていち早く新サービスを提供することもとても重要な要素となる。位置情報データを活用し新たな企業価値を創出するためには、新たなサービスの検討と同時に、それを実現できる最新テクノロジーについての検討も不可欠であると言えよう。